時代を超えるデザインとは何か? ナリ&ケンタが聞く、Rolls-Royce デザインディレクター ドマゴイ・デュケクの美学 | Interviews
「永遠のデザインとは何か」「流行と本質をどう見分けるのか」「EVになってもクルマに魂は残るのか」「豊かな時間をデザインするとはどういうことか」── 4つの問いから、「Rolls-Royce」が考える“ラグジュアリーの本質”を紐解いていく。
「ミシュランの星付きレストランのシェフが、何百万人ものために機械的に料理をつくらないのと同じです。大量生産では、製品を手にするお客様の笑顔を直接見ることができない。年間、極めて限られた台数しか生み出されないロールス・ロイスだからこそ、デザイナーは“感情”や“感動”を、ダイレクトにお客様へ届けることができるのです」
そう語るのは、「Rolls-Royce(ロールス・ロイス)」のデザイン・ディレクター ドマゴイ・デュケク(Domagoj Dukec)。クロアチアにルーツを持ち、ドイツで育ったデュケクは、自動車業界で25年以上のキャリアを持つ。バルセロナではフォルクスワーゲン・グループに所属し、その後パリで約10年間にわたりフランスの自動車メーカーで経験を積んだのち、2010年に「BMW」へ加入。エクステリア・デザイン責任者、BMW iおよびBMW Mのデザイン責任者などを歴任し、2019年には「BMW」デザイン責任者に就任。2024年10月からは、ビスポークやコーチビルドを含む「Rolls-Royce」のデザイン全般を率いている。
数多くの自動車ブランドと向き合い、マスプロダクションの世界でひとつの到達点を迎えた彼が次に選んだのは、より多くのクルマを生み出すことではなく、顧客一人ひとりと極めて密接に向き合う“ラグジュアリーの世界”だった。実際、「Rolls-Royce」が年間に生産するクルマは数千台。デュケクはプレゼンテーションの中で、年間約100万本を生産する〈Rolex(ロレックス)〉や、5万本規模とされる〈Audemars Piguet〉や〈Patek Philippe(パテック フィリップ)〉といった高級時計ブランドを引き合いに出しながら、「Rolls-Royce」がいかに限られた顧客のためにつくられる存在であるかを説明した。
その思想の中心にあるのが、「Rolls-Royce」が掲げる「Inspiring Greatness(偉大さを呼び起こす)」という理念だ。単に美しいクルマを生み出すのではなく、クラフツマンシップや体験を通じて人々の創造性や挑戦を刺激し、時代を超えて残る価値をつくること。その姿勢は、現在ブランドが力を入れるコーチビルドを含むビスポークにも色濃く表れている。
そこで今回『Hypebeast Japan』では、東京のファッションとカーカルチャーを横断する〈Tokyo Drive Car Club(トーキョードライブカークラブ)〉のL.A. Kentaと、「Rolls-Royce」Cullinanのオーナーであり、ストリートブランド〈GOD SELECTION XXX(ゴッド セレクション トリプルエックス)〉を率いる宮崎泰成(通称Nari)の2人にインタビュアーを依頼。いわば“ナリ&ケンタ”が、「Rolls-Royce」のデザイン哲学の核心に迫った。
永遠のデザインとは?
L.A. Kenta:ファッションの世界では毎シーズン新しいデザインやトレンドが求められますよね。一方で、ロールス・ロイスのクルマは20年、30年、あるいは半世紀が経っても変わらず美しくあり続けます。このように「時代を超越するデザイン(永遠のデザイン)」を実現するために、ドマゴイさんが最も大切にされていることは何でしょうか?
ドマゴイ・デュケク(以下、デュケク): 非常に重要な質問ですね。世の中の多くのビジネスは「より多く消費させるため」に流行を作り出し、次々と新しいものを買わせようとします。しかし、私たちが目指しているのは消費量を増やすことではなく、「より深い意味や価値」を創造することです。
ロールス・ロイスのデザインは、一時のトレンドを追うものではありません。私たちが大切にしているのは、「完璧なプロポーション(比率)」「無駄を削ぎ落とした洗練(エレガンス)」「そして圧倒的な存在感と調和(ハーモニー)」です。
例えば、彫刻や建築、あるいは古典音楽やオペラを思い浮かべてみてください。これらは何十年、何百年経っても価値が褪せることはありませんし、誰もその存在を批判しません。ロールス・ロイスも同じです。派手な装飾や一時の流行に頼るのではなく、本質的な美しさと調和を追求しているからこそ、20年後も30年後も「永遠の美しさ」として輝き続けるのです。
流行との距離
宮崎泰成(Nari): 僕自身もクリエイションに携わる中で感じるんですが、今はSNSの普及もあって流行の移り変わりが本当に速いですよね。誰もがその波に乗ろうとする中で、ロールス・ロイスは一貫して流行と距離を置いているように見えます。ドマゴイさんはデザイナーとして、膨大な情報やトレンドの中で「これは残る本質的なもの」「これは一時の流行で終わるもの」をどのような基準で見極め、判断されているんでしょうか?
デュケク:Nariさん、素晴らしい視点ですね。現代は確かに情報が溢れ、トレンドが瞬く間に消費されていく時代です。私が「残るもの」と「消えるもの」を判断する基準は、「それが表面的な装飾(ノイズ)なのか、それとも物語や感情に根ざした本質(ストーリー)なのか」という点にあります。ファッションのトレンドには重要な役割がある一方で、私たちが作るコーチビルドやビスポークは「オートクチュール」のようにお客様一人ひとりの人生や価値観と深く結びついています。
表面的なデザインのノイズを取り除き、シンプルで力強い幾何学構造やエレガントなラインに到達したとき、そこには時代を超越する「本質」だけが残ります。SNSのトレンドという浅い波に揺さぶられることなく、ブランドの歴史的ルーツと未来へのビジョンを見つめ続けることこそが、私たちの判断基準なのです。
クルマ好き視点でのEV
L.A. Kenta:僕は本当にクルマが好きで、ピュアなスポーツカーやエンジンの鼓動が大好きなんです。だから正直、クルマ好きの間では「EVになるとエンジン音がなくなって、車としての“魂”や情緒が薄れてしまうんじゃないか」と懸念する声もあります。ロールス・ロイスが完全電動化(EV)を進める中で、「EVだからこそ実現できるロールス・ロイスならではの魅力や魂」をどのように捉えていますか?
デュケク:クルマ好きとしてのKentaさんの懸念もよく分かります。ハイパーカーやレースカーの世界では、爆音や振動などのパフォーマンスが価値になりますよね。
しかし、ロールス・ロイスにとって「完全な静寂」と「エフォートレス(力みのない滑らかな加速)」こそが、創業当時からの理想だったのです。共同創業者のひとりヘンリー・ロイスが目指したのは、まるで幽霊(ファントムやゴースト)のように、一切の雑音なく滑らかに空を飛ぶような走りでした。昔のガソリンエンジンはうるさく、振動もありました。彼らはそれを必死に抑え込もうとしていたのです。つまり、EV(電気モーター)の「無音でスムーズなパワー伝達」は、ロールス・ロイスにとって妥協ではなく、100年以上前から予言した自動車が電動化される未来がテクノロジーによってついに完璧に結実した形と言えます。
さらに、排気管や複雑な吸気機構が不要になることで、デザインの自由度が飛躍的に高まりました。例えば「コーチビルド・コレクション」の第1弾として今年発表した「プロジェクト・ナイチンゲール」のように、エンジンに縛られない全く新しいフロントグリルや、ヨットのような美しい流線型のプロポーション、そして車内で「鳥のさえずり」すら聞こえるほどの静けさと光の演出(スターライト・ブリーズ・スイート)が可能になりました。EVだからこそ、よりエモーショナルで特別な世界観を表現できるのです。
速さではなく“豊かさ”をデザインする
宮崎泰成(Nari): 実は僕、普段カリナン(Cullinan)に乗っているんです。実際にオーナーとして毎日ハンドルを握っていて感じるのは、ロールス・ロイスというクルマは、他社のように「いかに速く走るか」を競っているのではなく、乗っている時間そのものの「豊かさ」や「空間の心地よさ」をデザインしているクルマだなということです。ドマゴイさんが新しいモデルやビスポークモデルをデザインするときも、スペックや形より先に、ドライバーや同乗者が感じる「感情(エモーション)」を一番最初に考えて作られているのでしょうか?
デュケク:カリナンのオーナーであるNariさんにそう言っていただけて、本当に嬉しいです。まさに私たちが意図している本質を体感されていますね。答えは「イエス」です。私たちは形やスペックからデザインを始めることはありません。「どのような感情や体験を生み出したいか」が全ての出発点です。世の中にはスピードや馬力を競う素晴らしいハイパーカーがたくさんあります。しかし、それはサーキットや「速さ」のためのテクノロジーです。一方で、私たちがデザインしているのは「移動するプライベートな聖域(サンクチュアリ)」であり、「時間と心の豊かさ」です。
カリナンもそうですが、高い視点から優雅に街を見下ろし、極上の素材に包まれ、静けさの中で目的地へ向かう。そこにあるのはストレスからの解放と、満ち足りた感情です。私たちが提示しているのは他者と競うための道具ではなく、人生の成功を祝福し、自分自身の時間を慈しむための「ラグジュアリーな体験」そのものなのです。
インタビュアー:“ナリ&ケンタ”プロフィール
宮崎泰成 / Nari(左)
東京のストリートシーンを代表するブランド〈GOD SELECTION XXX〉のオーナー兼ディレクター。グラフィックやプロダクトを通じて独自の美学を提示し続ける一方、日常のパートナーとして「Rolls-Royce」Cullinanを駆るリアルオーナーでもある。L.A. Kenta(右)
東京のカーカルチャーとストリートシーンをグローバルに接続するコミュニティ/ブランド〈Tokyo Drive Car Club〉主宰。スポーツカーやクラシックカーをはじめ、モータースポーツ全般に深い造詣を持つ。




















