Nike Air Max Design Process ── 『blue room』Hatsuki が考える次世代 Air Max のデザイン | Interviews

1人のスニーカーヘッズが描く、Air Maxの新たなかたち

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Nike(ナイキ)〉が展開するリサーチ・開発・デザインプログラム Air Works。40年以上にわたり進化を続けてきた“Air”のイノベーションを基盤に、東京、ムンバイ、上海、北京、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、パリの8都市からアーティストやデザイナーを招聘し、それぞれの都市に根付くカルチャーやコミュニティの視点を取り入れた、新たなAir Maxの可能性を探求した本プログラム。今回東京からは、『blue room』創設者であるMotoi Hatsukiが選出された。

スニーカーカルチャーをルーツに持つHatsukiは、文化服装学院のシューズデザイン科で専門的にシューズデザインを学んだ後、現在は古着ショップ『blue room』を営んでいる。一見すると、スニーカーと古着は異なる領域に位置するようにも思える。しかし、店内に並ぶアイテムや独自のキュレーションからは、彼の審美眼を形成してきたスニーカーへの深い造詣と、そこから広がる豊かなインプットを垣間見ることができる。

本記事では、今回Hatsukiが手がけたAir Maxを起点に、〈Nike〉本社のあるオレゴン州ビーバートンでの経験から、デザインに至るまでの思考とプロセス、そして彼自身が抱くAir Maxへの想いを紐解く。ひとりのスニーカーヘッズが、世界的なスポーツブランドのプロダクトをデザインするに至った、その背景を追った。


Air Maxを通して、国や言葉を越えたコミュニティのようなものが生まれていった感覚がありました

Hypebeast:Hatsukiさんにとって、Air Maxはどのような存在ですか?

Hatsuki:Air Maxは、僕にとってひとつの“共通言語”のようなものだと思っています。それを強く実感したのが、3年ほど前にNike By YouでAir Max 95を作ったときでした。自分のために作ったものだったんですが、スタッフも気に入ってくれて、みんなの分も作って、お店のユニフォームのような感覚で履いていたんです。そんなとき、たまたまお店に来てくれた〈Corteiz(コーテイズ)〉のClint419(クリント419)がそのAir Max 95に興味を持ってくれて。ちょうど彼も〈Nike〉とのコラボレーションでAir Max 95を制作していたタイミングだったので、お互いのモデルを交換することになりました。それをきっかけに、いろいろな人とAir Maxを交換するようになって。僕は英語を全然話せないんですけど、Air Maxを通して、国や言葉を越えたコミュニティのようなものが生まれていった感覚がありました。

お店にいても、その人がどんな靴を履いているか、どう履いているかを見るだけで、どんなカルチャーやファッションが好きなのかが伝わってくることがあります。僕にとってAir Maxは、自分自身を表現するひとつの自己紹介でもある。言葉の壁があっても、Air Maxを履いているだけで会話が始まる。そうやって人と人をつないでくれる“共通言語”として機能してくれるところが、僕にとってAir Maxの好きなところですね。

Air Max 95はサイドパネルやビジブルAirなど、非常に強いデザイン言語があります。今回の制作では、そういったアイコニックな要素をどのように捉えましたか?

今回の制作においてAir Max 95から直接的な影響を受けているわけではないんですが、特徴のひとつとして、スウッシュが小さいことはすごく印象に残っています。当時の〈Nike〉のプロダクトを考えても、あれだけスウッシュが小さいというのは、かなり異例だったんじゃないかなと思っていて。僕自身、もともとスウッシュが小さく入っているモデルが好きなので、今回の制作でも、そこはひとつ意識していました。

今回Air Maxをデザインするうえで、最初に浮かんだアイデアやイメージはどのようなものでしたか?

僕自身、古着屋をやっていることもあって、昔の〈Nike〉がすごく好きで。今回特に意識したのは、1998年から2003年頃の〈Nike〉のプロダクトでした。この時期はAlpha Projectが登場したり、フューチャリスティックでクリエイティブなモデルが数多く生まれたりと、〈Nike〉が未来に向かってさまざまな挑戦をしていた時代だと思っています。特に2000年代を迎える前後は、21世紀という新しい時代に向けて、プロダクトを通して未来を描こうとしていたことが感じられるんですよね。今回は、そんな時代のプロダクトから自分が好きな要素をいくつか抽出して、それらをひとつのモデルに落とし込むことを意識しました。過去のデザインをそのまま引用するのではなく、一度編集して、自分なりの新しいものへと作り変える。そこが今回のデザインで特に意識した部分です。

制作のプロセスにおいて、最初のアイデアから完成したモデルに至るまで、どのような試行錯誤がありましたか?

事前にムードボードを作っていたんですが、制作では各デザイナーに〈Nike〉のデザイナーの方が一人ずつついて、二人三脚でデザインを仕上げていくような進め方でした。僕の場合は、臼井大貴さんについていただきました。僕が話したことをすごく丁寧に汲み取ってくれましたね。もちろん事前にある程度考えていたことはあったんですが、実際に手を動かしながら「ここにこれを入れたい」とか、どんどん新しいアイデアが浮かんできて。割とフリースタイルに近い感覚でデザインを進めていきました。制作中に行き詰まるような瞬間もあまりなくて、すごくスムーズに形にしていくことができたので、純粋に楽しかったですね。最初から自分が理想としているものがある程度明確だったこともあって、デザインの段階でかなりイメージを固めることができたのは、すごく良かったと思っています。

普段からシューズをデザインしているわけではないなかで、自分の頭の中にあるイメージをデザイナーに伝えるというのは、かなり難しそうですね。

そうですね。僕自身、デザイナーや絵描きが本職というわけではないので、自分の頭の中にあるイメージをどう伝えるかという部分は、最初からすごく意識していました。だからこそ、ムードボードを使って自分の好きなものやイメージをできるだけ具体的に共有するようにしました。今回一緒に制作した臼井さんとは、日本で一度お会いしていて、その際に自分の好きなものについてお話しする機会もありました。そういったコミュニケーションがあったので、実際にアメリカで一緒に制作する際も、自分の考えていることやイメージをスムーズに共有できたと思います。実際にアメリカで制作が始まってからも、臼井さんとはすごくスムーズに作業を進めることができました。自分だけでは形にするのが難しい部分をすべてカバーしてもらえたので、本当にありがたかったですね。

今回3Dプリントという技術を使うことで、従来のシューズデザインとは異なる発想や表現が可能になった部分はありますか?

そもそもシューズをひとつリリースするまでには、デザインの企画から実際に市場に出るまで、かなりの時間がかかると思うんです。そう考えると、今回5月にデザインしたものを、7月には実物として手に取ることができたというスピード感には、すごく驚きました。通常のシューズ開発では、実際に市場に出る頃には、自分がそのときに考えていたことや好きだったものが、果たして世間の気分やトレンドと合っているのか、実際に履いてもらえるのかというのは、どうしても分からない部分がありますよね。一方で、3Dプリントなら、自分がその時点で考えていることや「好き」という感覚を、すぐに実体化できる。それはすごく新しいことだと思いましたし、いろいろな可能性を秘めていると感じました。今回、実際にそのスピードを体験できたことには、すごく感動しましたね。もちろん、3Dプリントならではのテクスチャーなど、従来のシューズとは異なる表現ができるのも魅力だと思います。まだデザイン上の制約もありますが、これからテクノロジーが進化して、使える色が増えたり、素材を切り替えたりと、さらに自由度が高まっていくと思うので。まだまだこれからが楽しみな分野だと思っています。

2026年5月にはNike本社で、世界各都市から集まったクリエイターとともに制作を行ったと伺いました。そこでの経験は、今回のデザインにどのような影響を与えましたか?

8都市から集まった8人が、それぞれAir Maxに対してまったく違う捉え方をしていたのが、すごく面白かったです。普段からシューズに関わる仕事をしている人もいれば、3Dプリンターを扱っている人、エアブラシのアーティストもいたりして、本当にさまざまなバックグラウンドを持った人たちが集まっていました。僕はどちらかというと、昔の〈Nike〉が好きで、Air Maxも大好きという立ち位置だったと思います。でも、集まった全員がそういうわけではなくて。同じAir Maxというテーマに向き合っているのに、それぞれがまったく違うものを作り上げていたのがすごく印象的でした。その経験を通して、改めて「Air Maxとは何なのか」ということを考えさせられましたし、ひとつのモデルや概念の中にも、まだまだたくさんの可能性があるんだなと感じました。そこは自分にとってもすごく刺激になりましたね。

8都市から集まったクリエイターのなかで、特に印象に残っているデザインや、刺激を受けた表現はありましたか?

特に印象に残ったのは、ニューヨークのOmiさんですね。エアブラシを使っているアーティストの方なんですが、彼のデザインは、ほかのチームとはまた違ったアプローチで、通常のシューズではなかなか表現できないようなことをやっていて。今回の「Air Works」という企画だからこそ生まれた表現という感じがして、かなり度肝を抜かれました。自分が持っていたAir Maxの概念を、いい意味でひっくり返されそうになったというか。まだ完成したものを見ていないので、彼のモデルがこれからどう仕上がるのか、すごく楽しみです。もちろん、ほかのデザイナーも本当にそれぞれのアプローチがあって、すごく刺激的でしたね。

他の方々の完成品も楽しみですね。

そうですね。実は僕自身も、実物を見るまではどういう仕上がりになっているのか、ほとんど分からなかったんです。〈Nike〉本社で自分が見てきたものが、最終的にどんな形になっているのか。それは自分のモデルだけじゃなく、ほかのチームについても同じで、完成するまで分からない部分もありました。なので、実際にそれぞれのモデルが発表されるタイミングで、僕自身も初めて細かなディテールまで知ることになると思います。そこも含めて、すごく楽しみにしています。

今回、Air Worksで制作したモデルを、Hatsukiさん自身の活動拠点である『blue room』で展示することは、どのように捉えていますか?

もともと〈Nike〉がきっかけでスニーカーが好きになって、専門学校でも3年間、シューズデザインを学んでいたくらい靴が好きだったんです。でも、途中から古着が好きになって、靴の道に進むことを一度諦めて、今こうして自分の古着屋をやっています。だからこそ、今回〈Nike〉の企画に参加できたことを考えると、一見遠回りをしているようで、実はすごく近道だったんじゃないかなと思っています。もし古着屋をやっていなかったら、今回ポートランドに行くこともなかったでしょうし、過去のものを自分なりに編集して、新しいものとして見せるという感覚も、古着屋を続けてきたからこそ培えたものだと思うので。そういう意味では、今回のシューズは『blue room』という場所から生まれたものと言っても過言ではないと思っています。だからこそ、そのシューズを自分の店で見せられることにはすごく意味がありますし、“ここから生まれたAir Max”として見てもらえるのは、僕にとってもすごく重要なことですね。

今回の展示では、完成したシューズだけでなく、インスピレーションや制作過程も感じられる空間になっていますが、来場者にはどのような部分に注目してほしいですか?

もちろん、まずは僕が作ったシューズをしっかり見てもらえたら嬉しいです。でも、それだけではなくて、今回のデザインに影響を与えたシューズや資料も展示しているので、「Nikeって、こんなものも作っていたんだ」と、ブランドの歴史やプロダクトを知るきっかけにもなってくれたらと思っています。僕自身、〈Nike〉の素晴らしいレガシーがたくさんあるところが好きなので、今回の展示を通して、そういった過去のプロダクトにも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。それと、僕みたいに古着を扱っている人間でも、ずっと好きなものを追い続けていることで、こうして〈Nike〉と一緒に取り組みができるんだ、ということも感じてもらえたらと思っています。自分が好きなものを大切にして、ずっと掘り続けていくことの先に、こういう機会があるんだということを、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。そして、この展示をきっかけに、また〈Nike〉を好きになってもらえたら、それが一番嬉しいですね。

Air Worksへの参加を経て、Hatsukiさん自身のデザインに対する考え方や、今後取り組みたいことに変化はありましたか?

まず、〈Nike〉との今回の取り組みが、これが最初で最後にならないようにしたいですね。ここを始まりにして、今後もいろいろなことに挑戦していけたらと思っています。まだ〈Nike〉とやってみたいこともありますし、もう一度見てみたい、復刻してほしいモデルもたくさんあるので。それと、今回の制作を通して改めて感じたのが、まだ歴史の中に埋もれてしまっているモデルがたくさんあるということ。ほとんど復刻されていないものや、知られていないモデルが本当にたくさんあります。そういうものをこれからも掘り起こして、〈Nike〉にも、今の人たちにも、もう一度知ってもらいたいですね。今見ても新鮮に感じるものばかりで、古くならないデザインだと思うので。僕自身はデザイナーというわけではないですが、これからも自分の中からいろいろなアイデアは出てくると思うので、またこういう機会があれば、次もかっこいいものを作れるように準備しておきたいです。今回は3Dプリントという新しい方法でシューズを作りましたが、また違ったかたちでもシューズづくりに挑戦できたらいいなと思います。

Hatsuki
東京・渋谷の古着ショップ『blue room』オーナー。スニーカーカルチャーをルーツに持ち、文化服装学院のシューズデザイン科で3年間、シューズデザインを専門的に学ぶ。1990年代後半から2000年代初頭の〈Nike〉プロダクトをはじめとするヴィンテージスニーカーへの造詣が深く、過去のデザインやカルチャーを独自の視点でキュレーションし、現代へと再編集するスタイルを得意とする。2026年、〈Nike〉が世界8都市のクリエイターとともにAir Maxの新たな可能性を探求するグローバルデザインプログラム「Air Works」に東京代表として参加。〈Nike〉本社のあるオレゴン州ビーバートンで、3Dプリント技術を用いたAir Maxを制作した。自身のスニーカーカルチャーへの知識と、古着を通して培ってきたアーカイブへの眼差しを掛け合わせ、過去の〈Nike〉から得たインスピレーションを新たなデザインへと昇華させている。

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