0歳児用 LEVI'S® 503XXA / 503AXX の"A"の謎に迫る | Vintage Denim Club
連載「Vintage Denim Club」第3回。今回深掘りするのは、ヴィンテージ〈LEVI’S®〉の中でも希少な1940年代の「0歳児用サイズ(W18)」だ。ロットナンバーに付く「A」は何を意味するのか。その謎を紐解いていく。
ヴィンテージ市場で時折見かける〈LEVI’S®(リーバイス)〉503BXXは、ウエスト(以下W)27〜29インチを中心とした小さめサイズとして知られている。一方、それよりもさらに小さいキッズサイズとして503AXXが存在し、1940年代のW18〜26インチの個体にはロットナンバーに「B」ではなく「A」が付く。(1950年頃にキッズサイズは503ZXXへと移行する)
このキッズサイズの503AXXは、かつては、ヴィンテージ市場でも珍品扱いされる存在だったと思う。実際、原宿の有名店を訪れた際、503AXX(革パッチ)のキッズサイズを買取相談に持ち込んでいた人がいたが、「あぁ、キッズは売れないんですよ」と、委託販売を断られている場面を目にしたことがある。一方で、501XXのデッドストックは貴重すぎて生地を解体できないが、当時は比較的リーズナブルだった503AXXや503BXXのデッドストックであれば構わない、とばかりに、1940-50年代の個体を実際に解体し、生地の番手や織りを解析していたデニムブランドも存在した。
しかし、近年は状況が一変。ヴィンテージジーンズ市場が急騰し、希少な個体は気軽に穿ける価格帯ではなくなりつつある。その結果、実際に着用するのではなく、アートピースのようにコレクションとして所有・鑑賞する愛好家も増えてきた。サイズこそ極小ながら、501XXと同じ生地やパーツ、革パッチ、赤タブを備える503AXXは、501XXのディテールをそのまま凝縮したような存在。その希少性と資料的価値から、いまではコアなヴィンテージコレクターの間で人気を集めるコレクターズピースとなっている。
中でも別格なのが、Aレンジ最小サイズとなるW18インチだ。現在の子ども服のサイズ感に置き換えると、「0歳児向き」と考えて差し支えないサイズであり、この最小サイズが特に高い人気を誇る(※後の503ZにはW18インチに「0 AGE」の布タグが付く)。一方、W19は1歳児向き、W20は2歳児向きというように、1インチごとに対象年齢が1歳ずつ上がるという整理も、近年では徐々に定着しつつある。実際、市場でもW19インチは「1歳児サイズ」として取引されることが多く、W18よりは流通量がある。
もちろん、この「0歳児向き」より小さなセールスマンサンプルも存在する。しかし、503AXXは、生地や糸、パーツ、革パッチ、赤タブに至るまで501XXと完全に同一仕様であり、〈LEVI’S®〉が正式なLOTナンバーを与えた最小サイズのヴィンテージジーンズなのである。実際に子どもへ穿かせることを前提に作られたという事実に、“萌え”るコレクターも少なくない。
では、この503AXXの「A」とは、何を意味するのだろうか。
片面期の503AXXの革パッチ
結論から言えば、この「A」は何かの頭文字ではなく、サイズ区分を示すためのアルファベットだったと考えられる。そうした視点に立つと、503BXXの「B」も、決して「Boys」の頭文字ではないことが見えてくる。
直感的には、B=Boys、A=BabyやAgeと考えたくなる。しかし、当時の公式カタログや資料には、そのような意味づけを裏付ける記述は確認できていない。むしろ、製造ラインや在庫管理、パッチ表記を整理するための、便宜的なサイズレンジの分類と捉えるのが自然だ。
実際、1949年頃の資料には、503Bも503Aも「Boys」と表記されていた
で、調査を進めるなかで、ひとつ興味深い事実が見つかった。それは、503AXXとは別に、ロットナンバーの末尾へ「A」が付く503XXAという個体の存在だ。
あれれ、”A”が“XX”の後について503XXAになっている!
今回はさらに、この「Aの位置」が何を意味するのをか調べてみることにした。そこで、長年にわたりキッズサイズの〈LEVI’S®〉を調査・研究してきたヴィンテージデニム研究家 青木孝則氏の考察も交えながら、その謎を紐解いていく。
青木氏によれば、0歳児用サイズの存在自体は1920年代初頭のモデルから確認されており、現存が確認されている最古の例は1922年モデルだという。今回確認した2本も、その後の1937年モデル、大戦期モデルを経て製造された系譜に連なるものと考えられている。
興味深いのは、「A」の表記位置が年代によって異なる点だ。1922年モデルではロットナンバーの上に「A」が入り、1937年モデルから1942〜45年頃の0歳児用サイズまでは、「503XXA」のようにロットナンバーの末尾へと移る。つまり、「Aの位置」は年代を見分ける重要な手がかりになっているのである。
一方で、今回確認できた2本はいずれも、極太ベルトループやドーム状リベット直後の仕様を備えた片面タブ初期(1947年頃)の個体だ。しかし、そのディテールにはわずかな違いが見られた。そこで、この2本を比較することで、「503XXA」から「503AXX」へとロットナンバー表記が切り替わったタイミングを、より詳しく考察できるのではないかと考えた。
まずは、503XXAのディテールをチェック! 大戦期の余韻多し!
503XXA(AがXXの後につく)の最大の特徴は、やや歪んだ形状の尻ポケット。赤タブは大きく飛び出し、隠しリベット周辺のステッチも立体感があり、縫製にはどこかラフさが残るなど、大戦期の空気感を色濃く感じさせるディテールが随所に見られる。
片面初期モデルといえば、オールイエローステッチが基本と思われがちだ。しかし、この503XXAには、アーキュエイトステッチにオレンジ糸が使われている。これは、戦時中の物資不足の影響で、1937年頃の糸やミシン、パーツをそのまま使い続けていた名残と考えられる。戦後になって資材の制約が解かれたことで、新旧の資材が混在して使われていた、まさに過渡期ならではの1本と言えるだろう。レングスはL16インチ。
続いて、503AXX。オールイエローの綿糸がたまらない。
一方、503AXX(AがXXの前につく)は、片面期初期らしいオールイエローステッチ。ベルトループも太く、全体の印象もより完成された片面初期モデルらしい雰囲気をまとっている。レングスはL18インチで、XXAより2インチ長い。なお、1948年以降に確認されている503AXXは、L18インチしか確認されていない。
こうして見比べると、一見、「503XXA」の方が古く、「503XXA」から「503AXX」へと1947年頃に移行したようにも思える。ところが、この仮説に対して青木氏は、少し異なる見解を示した。
「確かに、どちらも1947年頃の片面モデルですが、503AXXの方が、より大戦期に近い生地を使っており、古いディテールも見受けられます。どちらも1947年モデルの中でも前期にあたる個体ですが、ステッチの色やポケット形状、ベルトループの仕様を見ると、(503XXAより新しいはずの)503AXXの方が古いディテールを採用している部分もあります。まさに過渡期ならではの混在ですね」
また、「B」レンジにおいては、1945年ごろの個体にも関わらず、503BXXと「B」がXXの前につく仕様も確認されているという。そのため、「503XXAから503AXXへ表記が切り替わった時期は、1947年だ!」と、この2本だけで完全に断定することはできなかった。しかし少なくとも、1947年頃が、大戦期の仕様と新しい仕様、さらにはロットナンバーの表記までもが入り混じる「混在期」だったことは間違いなさそうだ。(ちなみに、今回確認した2本はいずれも裏リベットがドーム型ではないので1946年モデルではない)
そして、大戦期のディテールが姿を消した1948年以降には、ロットナンバーは503AXXへと統一されたものと思われる。さらに1949〜50年頃になると、この503AXXは「503ZXX」へとモデルチェンジし、「A」は「Z」へと置き換えられていく。同時期に506XXEも506EXXへと変更されていることから、このロット表記の変更も、その流れと連動していた可能性もある。
最後に、現在の市場価値についても青木氏に尋ねてみた。
「市場に出た前例がないので断定はできませんが、2024年時点で、W19の1歳児用・ワンウォッシュ個体が100万円で販売されていました。それを踏まえると、さらに希少なW18で、しかもデッドストックとなれば、1本300万円が付いてもおかしくないと思います」
ちなみに、503AXXの0歳児サイズの片面期の“ユーズド”が、新潟の名店『Mushroom Vintage』で販売されたことがある。1940年代のアメリカ人は、実際にこれを0歳児へ穿かせていたのだろうか。503AXXを穿いた赤ん坊が、泣いて、笑って、這い回っていたのかもしれない。そう想像すると、この小さなジーンズが急に愛おしく思えてくる。そんな光景を思い浮かべながら、今夜は眠りにつこうと思う。
Vintage LEVI’S® 503XXA 片面初期(0歳児サイズ)
●ウエスト18インチ。実使用を前提としたものとしては現存最小クラスの0歳児サイズ
●レングス16インチ。1948年以降に確認される0歳児サイズ(L18)とは異なる、より古い年代の仕様
●アーキュエイトステッチには1937年期のオレンジ糸が混在し、戦後直後の過渡期らしい仕様を備える
●生地は、いわゆる大戦寄りのデニム(〜1948年頃までに使用されたタイプ)
●ベルトループは太く、大戦期の特徴を色濃く残す仕様
●ポケット形状はいびつさの残る、大戦期を踏襲したフォルム
●ボタンフライ仕様。基本構成は同年代の501XXと共通
〈考察〉
● 同年代と考えられる503AXX(片面期)との比較から、503XXA表記最終期に属する可能性が高い。※考察中
Vintage LEVI’S® 503AXX 片面初期(0歳児サイズ)
●ウエスト18インチ。実使用を前提としたものとしては現存最小クラスの0歳児サイズ
●レングス18インチ。1948年以降に確認される0歳児サイズと共通する仕様。
●パッチ表記:503AXX(503とXXの間にAが入る後期型表記)
●生地は、いわゆる大戦寄りのデニム(〜1948年頃までに使用されたタイプ)
●ステッチはオールイエロー主体で、片面初期らしい仕様
●ベルトループは503XXAに比べ、やや整理された形状
●ポケットは大戦期の流れを残しつつ、より整ったフォルム。
●ボタンフライ仕様。基本構成は同年代の501XXと共通。
〈考察〉
● 同年代と考えられる503XXA(片面期)との比較から、503AXX表記初期に属する可能性が高い。※考察中






















