『COBRA』x 河村康輔 ── サイコガンの宇宙海賊が、350万円の現代アートになった
「東映ビデオ」と「TANGLE」が立ち上げた『ReVIBES Project』。眠っていた日本の名作IPを、現代アートとして市場に提示する試みが動き出した
『COBRA』x 河村康輔 ── サイコガンの宇宙海賊が、350万円の現代アートになった
「東映ビデオ」と「TANGLE」が立ち上げた『ReVIBES Project』。眠っていた日本の名作IPを、現代アートとして市場に提示する試みが動き出した
「東映ビデオ」と「TANGLE」による共同プロジェクト『ReVIBES Project(リヴァイブス プロジェクト)』が始動した。
左腕にサイコガンを構える宇宙海賊がコラージュとシュレッダーによって断裁され、再構成されたアートとして蘇った。そしてその2作品は、6月4日(木)に東京で開かれたオークションで合計350万円で落札された。仕掛けたのは、「東映ビデオ」と「TANGLE」による新プロジェクト『ReVIBES Project(リヴァイブス プロジェクト)』だ。
『ReVIBES Project』は、漫画、アニメ、ゲームといった日本の名作IPを現代アーティストの視点で再解釈し、現代アートの文脈へ接続するプロジェクト。狙いは復刻でもコラボでもなく、連載や放送を終えてアーカイブに眠ったままの作品を“消費されるコンテンツ”から“継承される文化資産”へと捉え直し、国や文化を超えて新しいオーディエンスへ届けることにある。
本プロジェクトの企画と構想を手がける「TANGLE」代表の宗像洋斗は、こう言い切る。「IPの復刻ではなく、価値の再構築である。懐かしさを売るのではなく、名作がいまの時代にどう更新されるかを見せたい」。世界的に支持される日本の漫画やアニメも、その多くは展開を終えた後、十分に活かされないまま眠っている。そこに現代アートという表現で新たな文脈を与えるのが、このプロジェクトの肝だ。
なぜ『COBRA』なのか
第1弾に選ばれたのは、故・寺沢武一によるSFコミックの金字塔『COBRA(コブラ)』。1978年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった同作は、左腕のサイコガンを武器にする宇宙海賊コブラを主人公に、ハードボイルド、SF、アクション、ユーモアを1つに溶かした唯一無二の世界観で知られる。単行本は十数カ国で翻訳され、いまも世界中のファンに読み継がれている。
寺沢はコンピューターを漫画制作に持ち込んだ先駆者であり、「デジタルマンガ」という言葉の生みの親でもある。その革新性を現代のアーティストが解釈し直すこと自体が、“名作IPの再構築”というコンセプトを象徴していた。
プロジェクト全体の版権管理をする「東映ビデオ」にとっても、これはアーカイブとビジュアル資産に新しい文脈を与える試みだ。同社の島谷麟太郎は「どれだけよいものでも、時がたつほど、知る人だけが知る存在として埋もれてしまう。『ReVIBES Project』を通じて、これまで届かなかった人にも届けられると感じています」と語る。
『COBRA』の著作権管理を担う「アールテクニカ」の古瀬学も、「違うチャンネルには違う才能がある。預けることで、違う形で違う人へ届けられる」と意義を語る。
河村康輔が解体し、組み直した『COBRA』
再解釈を託されたのは、コラージュアーティスト/グラフィックデザイナー/アートディレクターの河村康輔。アート、ファッション、音楽、広告とジャンルを横断し、国内外のブランドやクリエイターとのコラボでも知られる。今回は『COBRA』の原画データをもとに、コラージュとシュレッダーアートの2作品を手がけた。
河村にとって『COBRA』との最初の出会いは幼少期に見たアニメだったという。当時は『怖い作品』という印象が強かったが、中学生になってコミックを手に取ったことで、“かっこいい”という印象に大きく変わった。制作にあたっては、寺沢作品の完成度の高さが同時に難しさにもなったという。「キャラクターだけじゃなく背景の一部分や細かなディテールまで全部かっこよくて、どこを使って、どこを諦めるかという取捨選択がすごく難しかった」
「別のアプローチから入ることで、まったく違う人に届く可能性がある」と河村は言う。「漫画しか興味がなかった人がアートに興味を持つかもしれないし、その逆もある。新しい入口を作れるのが面白い」
“No.001 COLLAGE”は、作中の多様なキャラクターとビジュアル要素を組み合わせたコラージュ。髪の部分にはメタルキャンバスによるミラー加工が施され、見る角度によって表情と見え方が変わる。対する“No.002 SHREDDER”は、河村の代名詞であるシュレッダーアート。原作の強烈な線と構図を一度断ち切り、別のビジュアルとして組み直した。
河村は「別のアプローチから入ることで、まったく違う人に届く可能性がある。漫画しか興味がなかった人がアートに興味を持つかもしれないし、その逆もある。新しい入口を作れるのが面白い」と語る。
市場はどう反応したか
6月4日(木)、東京の『INSPIRATION CULT BAR & GALLERY』で、「SBIアートオークション」協力のもとオークションが開催された。会場では寺沢武一の単行本やフィギュア、河村作品の展示に加え、関係者によるトークセッションも実施。会場参加者に加え、オンラインで国内外からも入札者が集まった。
Edition 1/3として出品された“No.001 COLLAGE”は140万円、“No.002 SHREDDER”は210万円で落札。2作品の合計は350万円に達した。これは単なる作品販売ではなく、日本の名作IPを現代アートとして提示したとき市場がどう動くかを示した、最初のケースでもある。
「懐かしさを売る」のではない
『ReVIBES Project』が売ろうとしているのは、ノスタルジーではない。過去の名作を現代の視点で再編集し、アーティストの手で新たな価値をまとわせる。そうして漫画ファン、アニメファン、アートコレクター、そして海外のカルチャー層を横断する入口をつくる。『COBRA』x 河村康輔は、その第一歩だ。
すでに第2弾となるIP x アーティストの企画が進行中で、今後は国内外のアートイベント、ギャラリー展示、オークション、海外販路との連携へと発表の場を段階的に広げていく構想だという。島谷は「世代や国境を超えて、1人でも多くの方に届けたい」と先を見据える。
名作IPを現代アートとして組み直し、新しい市場と受け手へつなぐ『ReVIBES Project』。『COBRA』x 河村康輔から始まったこの試みが、日本のポップカルチャーを次のフェーズへどう運んでいくのか──その先を見届けたい。






















