Yohji Yamamoto を纏い、北野武を愛する ── フランスが誇るスターピアニスト ソフィアン・パマールのルーツに迫る | Interviews
6月某日に『パークハイアット 東京』にて行われたプライベートショーケースにて彼をキャッチ
Yohji Yamamoto を纏い、北野武を愛する ── フランスが誇るスターピアニスト ソフィアン・パマールのルーツに迫る | Interviews
6月某日に『パークハイアット 東京』にて行われたプライベートショーケースにて彼をキャッチ
今フランスで最もビッグなピアニストにして、型破りな存在──フランス北部出身の36歳、ソフィアン・パマール(Sofiane Pamart)はそのように位置づけることができるだろう。名門『リール国立音楽院』でクラシックを学んだという経歴は正統派だが、ヒップホップもこよなく愛し、これまでに多数のラッパーたちとコラボ作品を発表。そのファッションはロックスターやラップスターのように華やかだ。もちろんピアニストとしての実力は折り紙付きであり、彼のエモーショナルでポエティックな演奏は多くの聴き手を魅了してやまない。その突出した人気は、「パリ2024オリンピック」開会式で演奏したこと、そして2027年4月にはフランス最大のスタジアム『スタッド・ド・フランス(Stade de France)』でコンサートを開催する史上初のピアニストになることからも明らかである。
そんな彼の最新作『Movie』は、ソロ名義の作品では初めて多数のゲストをフィーチャー。J.バルヴィン(J Balvin)、シーア(Sia)、ワイクリフ・ジョン(Wyclef Jean)、レマ(Rema)、FKJ、ネリー・ファータード(Nelly Furtado)など、ジャンルや国籍を超えた多数のビッグネームを迎え、そのタイトル通り映画のサウンドトラックの如く、ロマンティックで美しい1本のストーリーを描き出している。
先日、ソフィアンは『パークハイアット 東京』にてプライベートショーケースを開催。彼のフェイバリットである〈Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)〉の衣装に身を包み、繊細なタッチでロマンティックな演奏を聴かせた。そしてショーケースの翌日、『Hypebeast Japan』は、日本文化をこよなく愛しているというソフィアンに、その稀有な音楽的感性のルーツや『Movie』の話はもちろん、ファッションや日本のアニメから受けた影響などについて訊いた。
Hypebeast:昨晩の演奏、とても素晴らしかったです。親密な会場でのパフォーマンスでしたが、どんな思いで演奏していたのでしょうか?
ソフィアン・パマール:昨日もそうでしたが、ピアノの前に座るその瞬間まで、自分がなにを弾くか決めていないんです。私がやろうとしているのは、今この瞬間に自分自身を捧げることです。もちろん、曲が持つテーマは大事にしています。それでも、たとえば“Nara”という曲であれば、とても詩的に、ゆっくりと演奏することもあれば、もっとずっと楽しげに弾くこともあります。大切なのは、その瞬間に起こることのために余白を残しておくことなんです。
昨日はYohji Yamamotoの衣装に身を包んで演奏されていましたね。いつもあなたのファッションはとても印象的ですが、アーティストとしてファッションの重要性はどのように考えていますか?
私は皆さんに総合的な体験を提案したいのです。もちろん、音楽はとても重要です。でもそれと同じように、曲のタイトルも重要ですし、私が着る服も重要です。今回のインタビューのような発言の機会も、やはり重要な瞬間です。私は、自分の感情を伝え、物語を語ることを可能にするあらゆる手段について意識的なのです。
ヨウジとは、1年前、パリのファッションウィークで会う機会に恵まれました。彼はパリで本当に見事なショーを行っていましたが、そのショーのサウンドトラックも彼自身が手掛けていたんです。なので、私たちはそのことについて話し、すぐに意気投合しました。
彼が生み出す服には、エレガントでありながら、同時に反骨的な魅力があります。私は、そのふたつが混ざり合っているところが好きなんです。昨日着ていた衣装も、全体は黒なのですが、ネクタイにはとても強い赤のバラが描かれていました。私がピアノでやっていることも、それと同じです。ピアノはとてもエレガントな楽器ですが、私はそこに少し反抗的なもの、挑発的なものを加えたいんです。
あなたは日本のアニメにも影響を受けていると伺っています。どの作品の、どのようなところにインスパイアされたのでしょうか?
『ONE PIECE』は、私に仲間というものの意味を教えてくれました。私はアーティストとしての成功を掴むために力を貸してくれる仲間を探していて、マネージャーのギヨーム・エリティエにはその過程で出会いました。それはまるで私にとって、『ONE PIECE』でのナミにあたる人、フランキーにあたる人、そして海賊船に必要なあらゆる役割を担ってくれる人たちを探しているような感覚でした。
もちろん私にとっての海賊船とは、ピアノとともに今まさに進めている、この冒険全体のことです。『ONE PIECE』では、いつも新しい島にたどり着きますよね。私の人生でも、自分の冒険が進んでいくにつれて、いろいろな島を訪れているような感覚があるんです。
私はオーロラの下にピアノを置いて演奏したことがありますし、パリオリンピックの開会式でも演奏しました。そして来年はスタッド・ド・フランスでライブを行います。アニメのヒーローのように大きな物語を書くためには、大きな約束の場、大きな節目が必要だと感じています。
『Hypebeast』にはまだあなたに馴染みのない読者もいると思うので、音楽的バックグラウンドについても改めて訊かせてください。これまでのあなたの活動は、クラシックとヒップホップの間を自在に行き来するようなものでした。こうしたあなたの感性はどのように養われたのでしょうか?
それは育った環境が大きいですね。私のバックグラウンドは、ストリートの世界とクラシック音楽の世界が混ざり合ったものなんです。私は音楽院に通い、偉大な師たちから非常に伝統的でアカデミックな方法でピアノを学んでいました。
一方で、一歩学校から出ると、もっとアーバンな環境にいる友人たちに囲まれていました。彼らはラップを聴いていて、フランスのラップミュージックのビデオに出てくるようなことを実際にやっていたんです。もしそれがどんな世界だったのか知りたければ、NTMの“That&My People”やMafia K & Fryの“Pour ceux”のビデオを見てもらうといいかもしれません。私が育った1990年代のフランスはまさにこういう感じで、アフリカからの移民と、フランスの庶民的な環境にいる人々が混ざり合っていたんです。
そして、また別の文化的参照点として挙げたいのが、DJ Mehdiの“Signatune”のミュージックビデオです。エレクトロニック・ミュージックですが、このビデオは私の出身地であるフランス北部の文化をうまく物語っています。これも当時、私の身近にあった世界なんです。クラシック音楽と、これらのミュージックビデオで描かれている世界──その混ざり合いを想像してみてもらいたいですね。
若い頃からヒップホップに慣れ親しんできたことが、ピアニストとしての自分に影響を与えたところはあると思いますか?
もちろん、あります。私はラッパーのようにピアノを弾いていると思います。つまり、私にとってピアノとは、ラップと同じように自分の人生を語る方法であり、自分の夢を語る方法なのです。また、私はラッパーとのコラボレーションをたくさんしていますが、そこから受けた影響もあります。彼らと仕事をするとき、私がやっているのは、彼らが使えるようなループのフレーズを生み出すことです。そしてそのような作業は、私のピアノの演奏にも影響を与えました。彼らが私のピアノのフレーズの断片をサンプリングしてカット&ペーストしていたように、私も自分のメロディを切り分けることを学んだのです。
ただし私の場合は、それを(サンプラーに頼ることなく)自分の指で直接弾くことができます。私自身がサンプラーの役割を果たしているようなものですね。
最新作の『Movie』は、まさにそのタイトル通り、1本の映画を観ているようなストーリー性の高さを感じさせる作品です。1曲目が“Sunrise In Your Eyes(あなたの瞳に映る日の出)”で始まり、最後の曲が“Your Eyes On Sunset(あなたの瞳が見つめる夕暮れ)”で終わることからも、このアルバムはある1日の物語を描いたようであり、同時に人生の最初から最後までを描いているような印象も受けます。
その通りです。わかってもらえて、とても嬉しいです。まさにここで描いている1日が、まるで人生全体を映し出したものになるようにしたかったのです。日の出とはこの世に生を受けることであり、日没とは人生の終わりへと向かう新たな旅立ちなのです。
アートワークにはあなたの幼い頃の写真が使われていますが、私小説的な作品でもあるのでしょうか?
最初はとても個人的なものとして始まったんです。でも進めば進むほど、誰もが「自分の映画だ」と感じらえるような作品にしたいと思うようになりました。私が『Movie』を作ったとき、主人公は私でした。でも『Movie』を聴くときには、それを聴く人自身が主人公になってもらいたいんです。
ちなみに、あなたが好きな映画を挙げるとすると?
北野武監督の『HANA-BI』は本当に大好きです。『Brother』も好きですし、彼がその両方の映画に俳優として出演しているところも好きです。というのも、いくつかの映画を通して、ひとりの人物の人生が変化していくのを見ているような気がするので。ジョー・ライト監督の『つぐない』、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』も素晴らしい。スパイク・ジョーンズ監督の『her/世界でひとつの彼女』も好きでしたが、人工知能に恋をするという話が現実に近づきすぎてしまったので、この映画は悪夢みたいに感じられるようになってしまいました。だから、いまはもう好きではありません(笑)。
ソロ名義の作品にこんな多数のゲストを迎えたのは初めてですが、なぜ今回はコラボレーションをたくさんやろうと思ったのですか?
人生とは、出会いの物語でもあります。そしてそれぞれの出会いが、私たちを少しずつ違う人間にしていきます。なので、ここで描かれる1日の中には、とても多くの出会いが必要だったのです。このアルバムでアーティストたちは、私にとって俳優のような存在です。彼らに求めていたのは、それぞれの楽曲の中に感情的に深く入り込むこと。そのために私は、1人ひとりに適切な場面を用意する必要がありました。
本当に素晴らしいアーティストばかりですが、特に印象に残ったコラボレーションについて教えてください。
“Cinéma”という曲を一緒に作ったFKJは、このアルバムに参加しているアーティストの中でもっとも古い友人です。10年ぐらい前から知っているのですが、いままで私たちは1度も一緒に曲を作ったことがありませんでした。“Cinéma”は、このアルバムで唯一、2台のピアノを使った曲で、私たちは2台のピアノを向かい合わせに置いて演奏したんです。“Cinéma”のミュージックビデオでは、その様子を再現しています。
私たちは、ドビュッシーやラヴェルのような、印象派の演奏を試みました。それはつまり、音楽で自然を描き、風景を描くということです。ここで私は、ピアノで森を描いています。そして彼は、その森の中での鳥のさえずりを奏でているのです。あるいは、私がピアノで湖を描く。すると彼は、その湖の上に広がる波紋を奏でました。
ピアノを弾いているとき、何かの情景や場面を頭に思い描くことはよくあるのでしょうか?
ええ、とても具体的に思い描くこともありますね。ですから、私の想像の中では、自分が別の惑星にいることもありますし、丘の上にいることもあります。風のようなものが私の中を通り抜けていくのを感じることもあるんです。その一方で、ただ感情が変化していくだけのこともあります。それが形を変えて、音になっていく。その瞬間、私はもうなにもコントロールしていないんです。ただ、それが自分の中を通り抜けているだけなんです。そしてそのあと、私はハッと目を覚ます──そんな感じなのです。
今作には幅広いジャンルや世代、国籍のアーティストたちが多数参加しています。この幅広さは意識的な選択だったのでしょうか?
そこに注目してくれて嬉しいです。実際、多様性に富んでいるということ自体が重要でした。一体、人生とはなんでしょうか? 人生を生きるなかで、私たちは年齢の違う人たち、ルーツの違う人たち、そして異なる人生の道のりを歩んできた人たちと出会います。そして、そうした違う人たちに出会えば出会うほど、私たちは人間というものを理解できるようになるのです。私には、少しユートピア的な夢があるんです。もし私たち全員が出会うことができたなら、もう戦争をしたいとは思わなくなるのではないか、と。なぜなら、実際に出会い、人間として触れた相手と戦争をすることは、とても難しいからです。
今の世界はあらゆる局面で分断が進行し、戦争も起きていますが、そのような社会的背景はアルバムを作っているときに念頭に置いていましたか?
自身の芸術を通して政治的な戦いをするアーティストのことを、私はとても尊敬しています。ただ私自身はアーティストとして、人々にとって避難場所となるような世界を作りたいと考えています。その世界の中では、誰も“自分が裁かれている”と感じてほしくありません。私は誰も排除したくないのです。たとえ自分と意見が合わない相手であっても、その人が世界から受け入れられ、歓迎されていると感じられる必要があります。なぜなら、それこそが、想像力を通して平和を実現する唯一の方法だからです。
Sofiane Pamart『MOVIE』
リリース日:4⽉17⽇(金)
収録曲:
1. Sunrise In Your Eyes
2. There’ll Be A Day (feat. Wyclef Jean)
3. Watching You (feat. Celeste)
4. The Knight Ceremony
5. I Am What I Am (feat. Loreen)
6. Midnight in California (feat. Jimmy Butler)
7. Moviestar (feat. Rema)
8. Beauty
9. Piano Sonata (feat. J Balvin)
10. Director’s Cut
11. Your Inner World
12. Cinema (feat. FKJ)
13. You’ve Been Away (feat. Christine and the Queens)
14. Gimme Love Orchestra (feat. Sia)
15. How To Love (feat. Rimon & Rilès)
16. Come With Me Tonight
17. A Kiss A Kill (feat. Melody Gardot)
18. Butterfly Butterfly (feat. Oscar and the Wolf)
19. Like An Angel (feat. Nelly Furtado)
20. Your Eyes on Sunset






















