Audi Q3 Sportback 試乗記 ── “少し気取れる SUV”のよさ
第3世代へと進化したプレミアムコンパクトSUVに感じた、程よく攻めて、程よく普通な「知的な塩梅」。
低く流れるルーフラインと、東京で持て余しにくいサイズ感。新型 Q3 Sportbackに乗って考えた、程よく攻めて、長く付き合えるSUVのこと。
「Audi(アウディ)」の“Q3”が、今年フルモデルチェンジした。日本では2020年以来、約6年ぶりとなる第3世代。写真を見た段階から、これはちょっと乗ってみたい、と思っていた。SUVとしての使い勝手はありそうなのに、見た目はずいぶんシャープ。なかでも、後ろに向かって屋根が低く流れる“Q3 Sportback”が気になった。
釈迦に説法かもしれないが、「Audi」におけるSUVラインアップを指すのが「Q」シリーズだ。2005年に世界初公開された“Q7”から始まり、“Q5”“Q3”“Q2”、そしてフラッグシップの“Q8”へとラインアップを広げてきた。数字はおおむねサイズや車格の目安で、登場順を表しているわけではない。そのなかで、都市生活にちょうどいいサイズと使い勝手を備えているのが、このQ3だ。
で、今回試乗したのが、そのなかでも自分にはちょうどよく感じられた“Q3 Sportback TFSI quattro 150kW advanced”。名前は少々長いが、2.0リッターのガソリンターボエンジンに、四輪駆動のquattroを組み合わせたモデルだ。試乗車には、内外装をスポーティに仕立てるS lineパッケージなどが装着されていた。
まず説明しておきたいのが、Sportbackという名前。「Audi」ではハッチバックなどにも使われる呼び名だが、Q3の場合は、通常のSUVよりもルーフを低く、後ろ姿をクーペ風に仕立てたボディを指す。ドアはちゃんと4枚あって、後ろには大きく開くテールゲートもある。そのうえで、横から見たシルエットには、普通のSUVとは違う色気がある。
SUVは便利。でも、便利そうというだけでクルマを選ぶのも、少しつまらない。駐車場で振り返ったときや、店の前に停めたときに、やっぱりこっちにしてよかったと思いたい。そういう、少し格好をつけたい気持ちに応えてくれるのが、このSportbackだ。とくに斜め後ろからの姿がいい。誰かを抜き去るよりも、走り去ったあとの印象を残すタイプ、といえばいいだろうか。
ドアを開けて最初に気になったのは、ハンドルだった。まん丸ではなく、上下が平らになっている。完全な四角ではないけれど、いつもの丸いハンドルとは明らかに違う。今回の試乗車ではS lineパッケージに含まれる装備で、Q3だけの専売特許ではないが、運転席の印象をずいぶん新しくしている。
実際に座ると、その奥にある画面も見やすい。ステアリングの形に目印があるようで、どれぐらい切っているかも感覚的につかみやすかった。もちろん、このあたりは慣れや好みもあるだろうが、自分にはすんなり馴染んだ。
そして、目の前にナビの地図を表示できるのが、やはり便利だ。中央の画面とメーターの間で視線が行ったり来たりせず、必要な情報が前方にまとまる。「Audi」の「バーチャルコックピット」が初めて採用されたのは、2014年に登場した3代目“TT”。当時も、目の前に地図があるだけで、こんなに便利になるのかと驚いた記憶がある。いまでは珍しくなくなったけれど、こういう使い勝手のよさを早くから提案してきたのは、「Audi」らしいところだ。
ただ、今回いちばんよかったのは、画面の新しさ以上に、クルマそのもののサイズ感である。
関越道に乗る前の、センターラインのないあの抜け道。代々木上原に雑貨を買いに行くときの、あの細い道。銀座の裏道。“運転のプロ”ではない自分にとって、行きたい場所までの最後の数百メートルが、意外と気になる。対向車が来たらどうしようとか、ここを曲がって大丈夫かとか。目的地に着く前から、少しだけ身構えてしまうのである。
その点、このQ3 Sportbackには、必要以上に大きなクルマを動かしている感覚がなかった。全長は4,530mm。5m近いSUVが珍しくなくなったいま、この長さは日常に収めやすい。ただし、全幅は1,860mmあるので、どんな路地でも気楽に入れる小型車、というわけではない。それでも、自分の行動範囲に置き換えたときに、これぐらいなら付き合いやすそうだと思えた。その安心感は、スペック表の数字以上に大切だ。
走りを支える中身にも、ちゃんと余裕がある。2.0リッター直列4気筒ターボの最高出力は204PS、最大トルクは320Nm。7速Sトロニックを介して、quattroが四輪へ駆動力を伝える。最大トルクを1,500rpmから発生する設定で、日常的に使う低い回転域から力を取り出せるのがポイントだ。コンパクトなほうのQシリーズだからといって、エンジンまで控えめなわけではない。
足まわりには、路面や走行状況に応じてショックアブソーバーの働きを調整する、2バルブ式の電子制御ダンピングコントロールを採用している。縮むときと伸びるときを別々に制御し、乗り心地と車体の落ち着きを両立させる仕組みだ。さらに、ドライブモードによって走りの性格も変えられる。見た目をスポーティにしただけで終わらず、普段の移動から少し運転を楽しみたい場面までを考えた構成になっている。
あらためて外から眺めると、このSportbackは、現行「Audi」のなかでもかなりスタイリッシュだと思う。初めて“Range Rover Evoque”を見たときのような衝撃とは少し違うが、見慣れたSUVという形を、うまく引き締めている。試乗車のデイトナグレーに、黒でまとめられたディテールもよく似合っていた。
一方で、内装は程よく普通である。もちろん画面は大きいし、ハンドルの形も新しい。ただ、乗るたびに未来のクルマへ乗り込むような気構えは要らない。外では少し格好をつけて、運転席では普段どおりでいられる。この温度差がいい。
大きなSUVを選ぶ理由は、いくらでもある。家族や荷物のために、その広さが必要な人もいるだろう。ただ、毎日走る道や、よく行く店の駐車場を思い浮かべると、大きければ大きいほどいい、とは思えない。街で付き合いやすいサイズで、見た目にも少しこだわりたい。Q3 Sportbackは、その両方をうまく満たしてくれる。
そして、そこに「Audi」というブランドが乗るのも大きい。クルマで格好をつけたい気持ちはある。でも、いかにも成功しています、という顔はしたくない場合も多い。「Audi」には、そんな少々面倒な気分を受け止めてくれるところがある。新しい技術や端正なデザインに惹かれて選んだように見えて、乗る人まで程よく知的に映る。もちろん、これはかなり個人的なブランド観なのだけれど、クルマ選びでは、そういう印象も案外大切だと思う。
Q3 Sportbackは、その「Audi」らしい知的な印象に、少しの色気を足している。大きさで押し出すより、シルエットで格好をつける。内装は馴染みやすく、毎日の行き先にも持ち出しやすい。程よく攻めて、程よく普通。その塩梅まで含めて、“少し気取れるSUV”として、よくできている。
Audi Q3 Sportback TFSI quattro 150kW advanced
全長x全幅x全高:4,530×1,860×1,570mm
エンジン:1,984cc 直列4気筒ガソリンターボ
最高出力:150kW(204PS)/4,500〜6,000rpm
最大トルク:320Nm/1,500〜4,400rpm
トランスミッション:7速Sトロニック
駆動方式:四輪駆動(quattro)
車両本体価格:6,280,000円(税込)〜
