DEFENDER TROPHY 試乗記 ── 奄美大島でオフ&オンロードを走行
冒険のための装備を纏った特別仕様車。奄美大島の舗装路とオフロードで考える、DEFENDERを“見た目で選ぶ”ことの、その先。
いま、日本国内のみならず世界中で爆発的な支持を集め、売れに売れ続けている英国発のアイコン「DEFENDER(ディフェンダー)」が、豊かな自然と太古の原生林が息づく奄美大島で試乗会を開催した。現地で紹介された資料によれば、日本での累計小売台数は1万8,000台を突破し、日本は世界でもトップ5に入る市場だという。街で見かける機会が増えた気がする、というだけではなく、実際にこの国で存在感を増しているのである。
まず、いまの「DEFENDER」の立ち位置について、少しだけ。英国のジャガー・ランドローバー(JLR)は現在、モダンラグジュアリーを推進する戦略のもと、「RANGE ROVER」、「DEFENDER」、「DISCOVERY」、「JAGUAR」、それぞれの個性を前面に出す「ハウス・オブ・ブランズ」という体制を進めている。かつてランドローバーの車種として覚えた「DEFENDER」を、いまはひとつのブランドとして捉えると、わかりやすい。ランドローバーの名前や歴史を受け継ぎながら、「DEFENDER」ならではの世界観を、より明確に打ち出しているわけだ。
その世界観を支えるのが、冒険、人道支援・自然保護、音楽、ラグビーという4つの柱である。自然保護は、英語でいう“conservation”。冒険のために自然へ入ることと、その自然を守ることを、同じブランドのなかで考えている。音楽やラグビーまで含まれると一見幅広く感じるが、クルマの性能だけでなく、それに乗ってどんな場所へ行き、何に参加するのかまでを提案している、と考えれば腑に落ちる。
ファミリーも広がっている。基本となるのは、短いボディに3ドアを組み合わせた“90”、5ドアで日常の使い勝手と積載性を両立する“110”、そして110と同じホイールベースのまま後方を延ばし、3列・最大8人乗りを用意する“130”。数字は、ひとまずボディの違いを示すもの、と覚えておけばいい。
その110をベースに、4.4リッターV8ツインターボと専用の足まわりを与え、635PSという出力まで引き上げたのが“OCTA”だ。そして今回乗った“TROPHY EDITION”も、同じく110が出発点。ただし、こちらは冒険のための装備とデザインをまとめた特別仕様車になる。90、110、130というボディの選択肢に対し、OCTAとTROPHYは、その先でどんな個性を選ぶかという話だ。
正式名称は、“DEFENDER TROPHY EDITION CURATED FOR JAPAN”。新しいアドベンチャー・コンペティション「DEFENDER TROPHY」の開催を記念したモデルに、日本向けの装備を追加した、2026年モデルの特別仕様車である。全国限定100台で、車両本体価格は1,300万円。今回は、そのうちのディープサンドグローイエローに試乗した。
今回試乗したのは、“DEFENDER TROPHY EDITION CURATED FOR JAPAN”。新しいアドベンチャー・コンペティション「DEFENDER TROPHY」の開催を記念したモデルに、日本向けの装備を追加した、2026年モデルの特別仕様車である。全国限定100台、発売時の車両本体価格は1,300万円で、こちらはすでに完売。今回は、そのうちのディープサンドグローイエローに試乗した。(なお、現在販売されているのは、第2弾となる“DEFENDER TROPHY EDITION 2027”。全国限定150台で、価格は仕様により1,340万〜1,400万円(税込)。ディープサンドグローイエローに加え、サントリーニブラックをラインアップする。)
ベージュのようにも見える、この色がいい。砂の色にも、少しくすんだ黄色にも見えて、黒いボンネットやホイールとの組み合わせには、いかにも道具らしい格好よさがある。過去のオフロードチャレンジを象徴する黄色を、現代的に解釈したカラーだという。泥がついたら汚れて見える、というより、泥まで似合いそうな色なのである。
では、通常の「DEFENDER」とは何が違うのか。ベースは“110 X-DYNAMIC SE D350”。3.0リッター直列6気筒ディーゼルターボに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせ、最高出力350PS、最大トルク700Nmを発生する。TROPHY専用にエンジン出力を上げた仕様ではなく、このD350の力強さを土台に、装備と意匠を足している。
たとえば、屋根には荷物を積むためのルーフラック。その屋根へ上がるラダーがあり、車体側面には収納用のギアキャリアが付く。ボンネットやサイドウィンドウのデカール、専用バッジもTROPHYならではだ。通常モデルで選べる装備やアクセサリーも含めて、冒険へ向かう一台として、最初から組み合わせてある。服にたとえれば、ジャケットだけでなく、バッグやブーツまで揃えた状態に近い。
一方、車内には黒のウィンザーレザーシートを採用している。外側にラダーやラックが付いたからといって、内側まで競技車両になるわけではない。2026年モデルで大型化した13.1インチのタッチスクリーンも備える。旅の道具らしい外観と、日々の移動を快適にする装備。その両方があるのが、いまの「DEFENDER」らしいところだ。
オンロードの走りは、もう皆さんが想像する通り。スムーズである。いかにもタフな外観から、乗る側にもそれなりの覚悟が要りそうに見えるが、舗装路での身のこなしは、ずいぶん現代的だ。昔ながらのオフローダーに抱く、乗り心地や扱いやすさは多少我慢するもの、というイメージからは遠い。
そもそも、エンジンは3.0リッターの直列6気筒ディーゼルターボで、48Vマイルドハイブリッドと8速ATを組み合わせる。最大トルクの700Nmは、1,500rpmから発生する。トルクとは、ざっくりいえばクルマを押し出す力のこと。車重2,460kgの大きな車体を動かすにも、低い回転から力を取り出せる。そこに電子制御エアサスペンションも備わるのだから、冒険のための外観と、普段の移動の快適さが同居しているのも納得がいく。
もちろん、全幅は2,005mmある。走りがスムーズだからといって、東京の細い道や駐車場まで広くなるわけではない。この大きさを日常に収められるかは、また別の話だ。ただ、乗り味のために身構える必要はない。見た目は冒険に出かける気満々でも、こちらはいつもの調子で運転できる。
ところが、オフロードへ入ると、クルマの印象が変わった。イキイキしているのである。舗装路でも十分によくできているのに、道が荒れたところで、ようやく得意な話題になった人のような感じがする。ああ、こっちが本来の居場所なのか、と。
そこで、とくにありがたかったのが、タイヤ周辺の路面を画面で確認できるカメラだった。大きなボディに乗っていると、運転席からは見えない足元が気になる。いまタイヤがどこにあって、道の端までどれぐらい余裕があるのか。その見えない部分を、映像で確かめられる。これがあるだけで、安心感がずいぶん違う。道の端との距離が気になる場面でも、漠然と怖がるのではなく、足元を確認しながら進めるのだ。
機能としては、周囲の映像を表示する「3Dサラウンドカメラ」があり、その一部である「ClearSightグラウンドビュー」は、ボンネットを透かしたように前方の路面を映し出す。オフロードの能力というと、エンジンや四輪駆動の仕組みに目が向きがちだが、実際にハンドルを握る側には、見えなかった場所が見えることも大きい。
さらに、路面に応じて駆動系などの制御を調整する「テレインレスポンス2」や、悪路で設定した低い速度を保つのを助ける「オールテレインプログレスコントロール」も備える。クルマの能力を、運転する人が使いやすくする。そのための技術まで含めて、現代の「DEFENDER」なのだと思う。
ここで、少し時計の話をしたい。ラグジュアリースポーツウォッチやクロノグラフが好きな人は多い。では、その防水性能が必要になる場所へ、実際に潜っているだろうか。クロノグラフで何かを計測しているだろうか。僕自身、ほとんど使っていない。それでも、そうした機能を備えた時計に惹かれる。使うかどうかとは別に、その能力を持っていることが、格好よさの一部なのである。
「DEFENDER」も、同じだと思っていた。もし自分が所有することになっても、ほとんどオフロードへは行かないかもしれない。街で乗って、たまに遠出をして、それでも十分に満足できるだろう、と。
でも、奄美大島で走ってみると、その考えは少し変わった。あんなにイキイキしている姿を知ってしまうと、街だけで付き合うのは、もったいない。舗装路の快適さは十分に魅力的だけれど、このクルマがひときわ輝く場所は、やはりオフロードなのだ。
なかでもTROPHYは、屋根のラックにラダー、側面のギアキャリアまで、旅支度が整っている。その姿で駐車場に収まっているだけでは、クルマのほうから「で、いつ出かけるの?」と聞かれそうだ。
こういうクルマを所有したら、なおのことキャンプやアウトドアへ行かねばならぬ。別に、毎回険しい道へ挑む必要はない。ただ、いつもの生活から少し外へ出て、この装備が似合う場所まで走ってみる。使わない機能に惹かれて選んだはずが、その機能を使うために、自分の行き先が変わっていく。TROPHYの面白さは、そこにある。
DEFENDER TROPHY EDITION CURATED FOR JAPAN(2026年モデル)
エンジン:2,993cc 直列6気筒ディーゼルターボ+48Vマイルドハイブリッド
最高出力:350PS
最大トルク:700Nm/1,500〜3,000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
乗車定員:5名
車両本体価格:13,000,000円(税込/2026年モデル発売時、販売終了)〜