Fender CEO が語る ── 80年目のブランド拡張論 「すべてはギタープレイヤーから」 |Interviews
創設80周年を迎えたギターメーカーのFenderがアパレル、そしてライフスタイルと活動を広げるワケとは?ジョージ・ハリスン設立の「Dark Horse Records」や〈Paul Smith〉とのコラボの舞台裏から日本市場への思いまで
世界の音楽シーンをリードする楽器メーカー「Fender Musical Instruments Corporation(フェンダー ミュージカル インストゥルメンツ コーポレーション、以下Fender)」。StratocasterやTelecasterといった数々の名器を生み出し、世界中のミュージシャンに愛されてきた同ブランドは、2026年に創設80周年という節目を迎えた。
近年は、ギターやアンプといった楽器の製造にとどまらず、ライセンスビジネスを通じたアパレルブランド〈F IS FOR FENDER(エフ・イズ・フォー・フェンダー)〉の展開やカフェ事業など、ライフスタイル領域にもその世界観を拡張している。さらに2026年10月には、ジョージ・ハリスン(George Harrison)が設立したレコードレーベル「Dark Horse Records」との日本限定コレクションに加え、英国を代表するファッションブランド〈Paul Smith(ポール・スミス)〉とのコラボレーションを発表。音楽とファッションの垣根を越えた新たな取り組みが注目を集めている。
では、世界的な楽器メーカーである〈Fender〉は、なぜ今、ライフスタイル領域へと歩みを進めているのか。そして、80年にわたり築き上げてきたブランドの価値を、これからどのように発展させていくのだろうか。
今回『Hypebeast』では、東京・原宿の『Fender Flagship Tokyo』にて、「Fender」のCEOを務めるエドワード・“バド”・コール(Edward “Bud” Cole)にインタビューを実施。ブランドの哲学から、話題のコラボレーションの舞台裏、そして日本市場の重要性と今後の展望まで、話を聞いた。
Hypebeast:Fenderは創設から80年にわたり、音楽だけでなく、カルチャーにも大きな影響を与えてきました。これほど長く愛され続けている理由は何だと考えていますか?
エドワード・“バド”・コール:私たちが行うすべてのことは、「オーセンティシティ(本物であること)」に基づいています。〈Fender〉が常に大切にしてきたのは、プレイヤーの存在です。彼らが自分自身を表現し、音楽を生み出すための楽器を作ること。それを80年間、変わらず続けてきました。振り返ってみると、フェンダーのギターは、さまざまな時代の音楽シーンの中心にありました。ロック、ブルース、ジャズ、ポップス、そして新しい世代が生み出す音楽まで。世界中のアーティストが〈Fender〉の楽器を手に、自分だけのサウンドを追求し、時には音楽の常識さえ変えてきました。
そうした歴史と信頼関係が、私たちのブランドの根幹にあります。そして、このオーセンティシティがあるからこそ、音楽以外のさまざまな領域にも活動を広げることができるのだと思います。
近年はF IS FOR FENDERによるアパレルやカフェなど、ライフスタイル領域にも積極的に進出しています。こうした展開を進める背景を教えてください。
まず大前提として、〈Fender〉の中心にあるのは、今も昔もギター/ベースプレイヤーです。彼らがギターやベースを演奏し、音楽を作り、自己表現すること。それが私たちの原点であり、決して変わることはありません。一方で、ギターという楽器について考えてみると、単に音を奏でるための道具ではないことがわかります。ギターは身体にかけるものであり、そのデザイン自体が非常に美しいものでもあります。機能的な楽器であると同時に、時代を超えて人々を魅了する美しさがあります。そして、ギターを持つこと自体が、その人の個性やスタイルを表現することにもつながっています。つまり、〈Fender〉は、音楽だけでなく、自己表現やライフスタイルとも深く結びついてきたブランドそしてカルチャーに影響を与えてきたブランドなのです。そうした歴史や、ギターを演奏することへの愛情を、もっと幅広い形で表現できないかと考えました。その一つが〈F IS FOR FENDER〉です。ギターを演奏しているときだけでなく、演奏していないときにも、〈Fender〉やギターへの愛情を表現できる服を作りたいと思いました。付け加えると〈F IS FOR FENDER〉は、日本人デザイナーによって日本でデザインされ、国内で製造されていることも大きな特徴です。日本ならではの感性や品質へのこだわりが、フェンダーの持つ歴史やデザインと融合しています。
最後に、Fenderを今後どのようなブランドへと進化させていきたいと考えていますか? また、グローバル市場における日本の重要性についても教えてください。
これからも変わらないのは、すべてがプレイヤーから始まるということです。プレイヤーのために楽器を作る。それが私たちにとって最も重要なことです。もちろん、今後もイノベーションを続けていきます。80年の歴史を大切にしながら、ギターやベース、アンプなど、あらゆる製品で新しい挑戦を続けていきたいと考えています。アーティストたちが、より自由に、より創造的に音楽を生み出せるような道具を提供していくことが私たちの使命です。同時に、〈Fender〉というブランドが持つ可能性は、楽器の世界だけにとどまらないと考えています。音楽、ファッション、デザイン、そしてライフスタイル。これらは決して別々のものではありません。どれも、自分が何者であるかを表現するための大切な手段です。フェンダーは、そうした自己表現を支えるブランドとして、これからも進化していきたいと考えています。
そして、日本は〈Fender〉にとって極めて重要な市場です。日本のギター/ベースプレイヤーやファンの皆さんは、50〜60年以上にわたって私たちを支えてくれています。世界初の旗艦店を東京にオープンしたのも、日本市場をそれだけ重要視しているからです。3年前にオープンしたこの店舗には、すでに100万人以上のお客様が訪れています。私が思うに、日本は世界で最も洗練された小売市場です。消費者の知識が豊富で、品質やデザインに対する審美眼も非常に高い。だからこそ、日本の消費者に認めてもらえるような製品や体験を生み出すことができれば、それは世界でも通用すると信じています。〈Fender〉にとって日本は、単に重要な販売市場というだけではありません。ブランドの未来を考える上でも、非常に大切な場所なのです。
Edward “Bud” Cole(エドワード・“バド”・コール)
「Fender Musical Instruments Corporation」CEO。2015年に同社へ入社し、アジア太平洋地域の事業を統括。東京におけるアジア太平洋本社の設立や、原宿の『Fender Flagship Tokyo』の立ち上げなど、同地域におけるブランドの成長と展開を牽引してきた。Pernod Ricard、LVMH、QVC、Ralph Laurenなど、グローバル企業でのブランド開発や事業拡大の経験も持つ。2026年2月にCEOへ正式就任。80年にわたるブランドの歴史とプレイヤーを中心とした哲学を継承しながら、音楽を軸とするイノベーションとグローバル展開を推進している。