waname デザイナー 加藤瑞貴 ── 着物の伝統を受け継ぎ、未来へ再構築する | Interviews

伝統として受け継ぐだけではなく、現代のファッションとして新たな形へ。着物との出会いからwanameを立ち上げた加藤瑞貴が語る、文化とクリエイションの現在地

ファッション
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日本を代表する伝統文化のひとつである着物。約1,200年にも及ぶ歴史と伝統を持つ一方で、その壮大な文化に対して、私たち日本人はどこかその価値を見過ごしているのではないだろうか。

日本に古くから受け継がれてきた着物を、現代のファッションとして再構築する〈waname(ワナメ)〉。デザイナーの加藤瑞貴が着物と出会ったのは、約5年前のこと。これまで下高井戸の古着屋『Seeds(シーズ)』などを手がけ、洋服やヴィンテージを通してものづくりと向き合ってきた彼にとって、着物との出会いは単なる新たな素材との邂逅ではなかった。そこにあったのは、いまでは再現することが難しくなった織りや染めの技術、職人の手仕事、そして一人のためにつくられた一点物ならではの美しさだった。

「こんなにすごいものが、ずっと自分の足元にあったんだ」。実際の着物に触れることで、加藤はこれまで当たり前のように見過ごしていた日本文化に、改めて目を向けることになる。だからこそ〈waname〉が目指すのは、着物をそのまま保存することでも、単純に“着物を使った服”をつくることでもない。失われゆくものを別の形へと再構築しながら、その価値を次の時代へと渡していくことだ。

そんな〈waname〉による1st Launch Eventの舞台に選ばれたのは、京都・光明院。変わることのない大きな石と、雨や風、季節によって表情を変える苔や砂利。その庭園に宿る“変わらないもの”と“変わりゆくもの”の共存は、着物が持つ普遍的な美しさを現代へと移し替えようとする〈waname〉の姿勢とも重なる。

着物を“文化”として語るだけではなく、ひとつの“素材”として向き合い、ファッション、音楽、アートへとその可能性を広げていく。なぜいま、着物なのか。そして、伝統を未来へ残すとはどういうことなのか。「和をなめるな」という自身への戒めから始まった〈waname〉。その背景にある加藤瑞貴のものづくりと、日本文化への眼差しを訊いた。


着物に限らず、職人の技術や、失われつつある文化について「なくなっていくよね」と語ることはできる。でも、実際にそれを自分自身が体感したことって、意外とないんじゃないかと思っていて

wanameというブランドについて、改めて立ち上げの背景から教えてください。

加藤:ブランドを始めようと思った一番のきっかけは、5年ほど前に着物と出会ったことですね。それ以前から、新しいものを生み出すことへの興味はずっとあって、「muddler」という会社を立ち上げてからも、自分なりに何ができるのかをずっと考えていました。僕自身、もともとは古着から入ってきた人間なので、そこからさらに、「自分はこの世の中に対して何ができるんだろう」と考えていたんです。そんなタイミングで出会ったのが着物でした。もちろん、もともと着物に詳しかったわけではありません。むしろ、そこからの5年間で着物について知っていく中で、少しずつ自分の中で考えが形になっていった感覚があります。着物と出会ってからの5年間、自分が良いと思う洋服やデザインと、着物というプロダクトをどう掛け合わせられるのかを模索してきました。そして今回、ようやくその2つが自分の中でつながったというか。「今ならできる」というタイミングが来たんだと思います。5年間ずっと考えていたことを、ようやく一つの形にできた。それが、wanameを始めたという感覚に近いですね。

wanameというブランド名の由来についても教えていただけますか?

すごく言いづらいんですけど、「和をなめないでいきましょう」という意味です。ただ、これは誰かに対して言っている言葉ではなくて、自分自身に向けたものなんです。着物に触れて、「うわ、俺、今までなめてたわ」って気づかされた瞬間があって。その感覚が、まず一つの意味としてあります。もう一つは、「和の目」という意味。日本人がものを見る目って、すごく繊細で、独自の美意識があると思うんです。洋服って、まず見た瞬間に何かを感じるものじゃないですか。だからこそ、日本人が培ってきた「見る」という感覚や美意識も、wanameという名前に込めています。

ちなみに着物はどういった形で出会ったんですか?

もともと、今やっている『SIVA STUDIO』につながる活動の中で、着物に触れる機会があったんです。「muddler」を立ち上げた頃から着物に触れたり、着付けを勉強したりしていました。もともと洋服をやってきた人間として、日本の着物という文化そのものにも興味があったので、そこから少しずつ学んでいきました。その中で、古美術にも出会って。いろいろな着物や、その背景にあるものを見ていくうちに、自分の中で着物に対する捉え方が変わっていったんです。僕自身、毎日着物を着るわけではないですし、「着物文化そのものを残していく」という役割が自分にあるとも思っていません。ただ、実際にさまざまな着物を見ていくと、今ではもう同じものを作ることが難しい技術や、失われつつある職人の仕事が本当にたくさんあることに気づきました。そこで、残したいと思ったのが“着物”という形だけではなく、そこに使われている織物や染め物、そして1人のために職人が時間をかけて作り上げた技術そのものだったんです。今の自分にとって、着物はある意味で“素材”として見ています。その素材の中に、当時の織りや染め、職人の技術が詰まっている。それをどうすれば、若い世代に限らず、次の世代へファッションという形で残していけるのか。そこをすごく考えるようになったことが、今のwanameにつながっています。

実際に着物を扱うようになってから、改めて気づいた魅力や、それまでの印象から変わった部分があれば教えてください。

わかりやすく言うと、「こんなにすごいものが、ずっと自分の足元にあったんだ」という感覚ですね。僕はどちらかというと、知識から入るというより、感覚的にものを捉えるタイプなので。着物について「何百年前の織物だからすごい」と頭で理解したというより、実際に自分で着物に興味を持って、触れた瞬間に「うわ、すごいな」と感じたんです。その感覚を持つまで、着物のリメイク自体はもちろん知っていました。リメイクされているものを見て「すごいな」と思うこともありましたが、それだけでは自分の中で決定的な体感にはならなかった。でも、実際に素材として着物を見たときに、「こんなものを自分たちは持っていたんだ」と思った瞬間があって。それが、自分にとって着物のすごさを初めて実感した瞬間でした。面白いのは、そのときに“上を向いた”というより、むしろ“めちゃくちゃ下を向いた感覚”があったことです。「なんで今まで、こんなものに気づかなかったんだろう」って。自分のイメージでは、これまでその着物自体を踏みつけていたような感覚に近いんです。着物に限らず、職人の技術や、失われつつある文化について「なくなっていくよね」と語ることはできる。でも、実際にそれを自分自身が体感したことって、意外とないんじゃないかと思っていて。ファッションは経済と切り離せないものですし、文化が経済の中で置き去りにされてしまうこともある。でも、よく考えてみたら、その価値ってものすごく身近なところにあった。だからこそ、単純に「着物をリメイクする」ということだけではなくて、自分自身が感じたその価値を、ブランドという形で、もっと広く届けていきたいと思いました。着物を特別なものとして遠くから眺めるのではなく、今のファッションとしてもう一度触れてもらう。そうすることで、自分が感じた「こんなものが足元にあったんだ」という感覚を、次の世代にも体験してもらえるんじゃないかと思っています。

着物が使われなくなったり、廃棄されたりしていく背景については、どのように捉えていますか?

新しいものを生み出していく以上、どうしてもその一方で、なくなっていくものも出てくると思うんです。もちろん、できるだけ多くの人がそこに少しでも目を向けてくれたら嬉しいけど、現実として、全員がそうできるわけではない。だからこそ、自分自身は「新しいものを生み出す」ということと、「再構築する」ということを、すごく強く意識しています。単純に古いものを扱いたい、という感覚に近いのかもしれないですね。なくなってしまうものがあるなら、それを自分は扱いたかった。着物だからというよりも、そこにあるものが失われていく前に、もう一度別の形で生かしたかったんだと思います。

そうした感覚は、古着を扱ってきた経験や、これまでの活動ともリンクしていますか?

もちろん、かなりつながっていると思います。結局、最後は「人」なんじゃないかなと思っていて。自分のセンスも、これまで出会ってきた人たちに磨いてもらったものだと思うし、それは音楽でもファッションでも同じです。もちろん、これまで自分がやってきたことが今の表現につながっていることは間違いない。アパレルをやって、古着をやって、そこからまた新しい服をつくる。そうやって経験を重ねていくなかで、自分自身も少しずつ変わっていくと思うんです。だから、wanameというブランドではあるけれど、結局は自分自身の表現なんじゃないかなと思っています。これまで出会ってきた人や、音楽、ファッション、古着、そして今まで自分がやってきたこと。その全部がつながった先に、今のwanameがあるんだと思います。

特に着物の素材やディテールにフォーカスしたときに、「着物だからこそ使いたい」と感じるものはありますか?

もう、シルクは半端ないですね。今って、シルクを縫うこと自体がすごく難しいんですよ。どの尺度で見るかにもよると思うけど、すごく薄くて柔らかい生地だから、ミシンで縫っていてもよれてしまう。扱うだけでもかなり難しい素材なんです。でも、そういう素材だからこそ、実際に着たときの柔らかさや軽さが全然違う。さらに、日本ならではの刺繍が生地に織り込まれていたりして、そういうものが一つの素材の中に共存している。自分で初めてつくったジャケットを実際に着たときに、「あ、これはすごいな」ってハッとしたんですよね。本当に言葉にしづらい感覚だったんですけど、着た瞬間に自然と背筋が伸びるような感覚があった。単純に素材として優れているというだけじゃなくて、長い時間をかけてつくられてきたものだからこそ、着たときに身体で感じるものがあるんだと思います。

制作背景の部分で、着物を再構築して現在のガーメントへと変換する際に、意識していることはありますか? 特に素材について、大切にしている部分があれば教えてください。

少し話が逸れるかもしれないんですけど、今年の着物のジャケットは、あえて一つの形に絞っています。なぜ一つの形なのかというと、そこには自分なりに「平和」という意味を込めているんです。同じ形であること。そこには、少なくとも自分が考える平和や、差別のない状態があると思っていて。だからまず大前提として、一着の着物からどれだけS、M、L、XLと、同じ形のサイズ展開をつくれるかということを考えています。その上で、素材については、まだまだ研究の途中です。自分でも完璧だとは全然思っていなくて、着物を扱っていると「こんなものがまだ出てくるんだ」と、常に新しい発見がある。着物そのものが、自分自身をアップデートしてくれる存在なんですよね。今年は“平和”というテーマを込めながら、同じ形の中で、どれだけ新しい発見ができるのかを見せたいと思っています。例えば、同じシルクでも、柔らかくてきめの細かいものもあれば、少しハリや緩さのあるものもある。それだけで、同じパターンなのにシルエットや着たときの表情が全然変わるんです。それは麻でも、ウールでも、当時の雨用につくられたポリエステルでも同じ。だから、まずはデザインをどんどん増やしていくというより、1年に一つの形を決めて、それを着物という存在を使って究極のところまで突き詰めてみたい。今年はこの形を研究して、来年はまた別の形を、着物という“輪廻”のプロジェクトの一つとして出していく。そんなふうに考えています。着物について、まだ自分がすべてを知っているわけではないし、一生かけても知り尽くせないと思う。でも、もし自分が一つのことを突き詰めるとしたら、同じ形、同じパターンなのに、素材が変わるだけで「なぜこんなに違うんだろう」というところなんです。今は、そこを研究していきたいと思っています。

単純な質問ですが、着物ならではの制作の面白さや、難しさについて教えてください。

普通のブランドって、生地を用意して、そこからパターンを引いて裁断していくじゃないですか。でも自分の場合は、まず着物をばらすところから始まる。そこから「このパーツとこのパーツをどう合わせるか」を考えていくんです。そこが、一着一着に対する自分のデザインだと思っています。

一度ばらしたものを、そこから新しい形にしていくとなると、かなり難しそうですね。

そうですね。これは実際に見てもらわないと伝わらない部分がすごく多いと思います。着物って基本的に30センチ幅くらいの生地でできているので、それをどう配置して、例えばジッパーの部分でどうつなぎ合わせるか。今はそこにかなりフォーカスしています。結局、その着物が持っている生地の良さを、自分が生かせるのか、それとも殺してしまうのか。そこはすごく意識しています。しかも、一度ばらした時点で、着物本来のシルエットと、自分がつくりたいガーメントのサイズが合っているとは限らない。だから、どう解体して、どう構築し直すのか。その素材をどう生かすのかを、一着ごとに本当に考えています。それに加えて、古い着物を扱っているので、メンテナンスも必要です。最終的にはクリーニングをして、もちろん新品の素材ではないんですけど、ブランドとして「新品」として出す以上、最低限の清潔感は担保したいと思っています。だから、単純に着物をリメイクしているというより、着物を一度解体して、その一着が持っている素材の特性を見ながら、もう一度どう形にするかを考えていく。そこに、wanameのものづくりの面白さがあると思います。

“リメイク”という部分はwanameの軸の一つだと思いますが、そこをあえて「リメイクです」と打ち出したいわけではない、ということでしょうか?

そうですね。別に「リメイクだから」ということを言いたいわけではないんです。単純に、目の前にある着物を自分がどう生かせるか。そこに100%注いでいる感じです。普通なら新しいデザインを考えていくところを、自分はまず「この形、この素材をどう生かすか」ということを考えている。着物のプロジェクトに関しては、そこが一番大きいですね。もちろん、違う形をつくりたいという思いもありますし、実際に来年に向けて新しいシャツのデザインも考えています。でも、そこに進む前に、まず自分自身が着物という素材の素晴らしさをもっと知らないといけないと思っている。そのためには、ただ新しいデザインを次々とつくって、着物を切っていくのではなくて、「どう切れば、どういう形になるのか」を一つひとつ考える必要がある。そこには、感覚的ではあるけど、自分の中でかなり細かい計算があります。

そう考えると、着物という背景を感じさせながらも、純粋に1着の洋服としてかっこいいものにする。その両立はかなり難しそうですね。

本当に難しいです。まさにその通りだと思います。「着物だからいい」と思われたいわけではないんです。一つの洋服として見たときに、「なんでこの柄なんだろう」「なんでこのデザインなんだろう」と自然に興味を持ってもらえるものがいい。着物って、一人ひとりのために作られていたものじゃないですか。例えば、お相撲さんの着物なら当然特注になる。それくらい、当時はその人の身体に合わせてつくられていた。だからこそ、自分は「どうしたらもっといろんな人が着物に触れて、実際に着ることができるのか」ということをかなり意識しています。例えば、身幅の取り方だったり、襟をあえて主張しすぎないようにしたり、異なる素材を組み合わせて、意図的に少しずらしてみたり。そうやって、着物の背景を残しながら、現代の洋服として着られる形を探しています。見た瞬間にわかるものもあれば、実際に触れてみて初めてわかるものもある。その両方を一着の中にどうつくるか、ということも意識しています。だから、着物一着に対して1カ月くらいかけることもあれば、逆に感覚的に「これだ」と決まって、2日くらいで仕上がるものもある。結局、一着一着、その着物と向き合いながら決めていくしかないんですよね。

現代のカルチャー/ファッションシーンで存在感のある方々をビジュアルに起用されていますが、彼らを通して、どのようなwanameの姿を見せたいと考えていますか?

特定の誰かを通して、wanameをこう見せたいというよりも、まずは「これ、着物なの?」と思ってもらえたらいいなと思っています。実際に彼らに見せてみて一番多かった感想が、「これ、着物?」だったんですよね。自分自身も最初に見たときに、「これって着物として見えないよな」と思ったくらいで。以前、パリに持っていった、団扇型の麻の着物をジャケットにしたものがあって。今は売れてしまったので手元にはないんですけど、それを着て写真を撮ろうとしていたときに、イギリス系のレゲエマンのような人に「それ、アフリカの生地だろ?」って話しかけられたんです。「日本の生地だよ」と答えたら、「マジか」って。そのときに、すごく面白いなと思って。僕らは着物を見ると、どうしても「日本のもの」というフィルターを通して見てしまう。でも、当時の日本人も、今の僕らがヨーロッパや西洋の文化からインスピレーションを受けるように、いろんなものから影響を受けていたはずなんですよね。ただ、今の僕らがそれを知らないだけで。だからこそ、現代のカルチャーやファッションの中にいる人たちが着ることで、「日本の着物」という既存の見え方だけではなく、もっとフラットな一つの洋服として見てもらえたらと思っています。

 

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そう考えると、彼ら自身を通して特定のイメージをつくりたいというより、着る人によってwanameの見え方が変わること自体を見せたい、ということでしょうか?

そうですね。もちろん、これまでファッションを見てきた人や、ずっとそのシーンにいる人たちへのリスペクトはあります。だからこそ、実際に着てもらって「どう思う?」という感想を聞きたい。実際に試着してもらうと、「これ、着物だと思わなかった」という反応がまずあって。その上でいろいろ着てもらって、写真を撮って後から見返すと、「デザインもパターンもこれ、本当に一緒?」って言われることもある。でも、それがこの着物のプロジェクトの面白さだと思っています。例えばモトーラさんにも、実際にいろいろ着てもらうなかで「これが自分に合う」という一着が見つかって、その一着を持ってもらっている。結局、同じ形でも、着る人によって見え方が全然違うんですよね。だから、誰かを使ってwanameをこう見せたいというより、その人自身が着ることで、その人に合った1着が生まれる。そのプロセス自体を見せたいんだと思います。

wanameの服をきっかけに、着物を知らない人が「この生地は何だろう?」「これはどんな技法で作られているんだろう?」と、日本文化に興味を持つ。そうした入口になることも、ブランドが目指していることの一つでしょうか?

そうですね。ただ、そこを「若い世代」と限定しているわけではないです。僕自身、18歳のときに着物に気づいたわけでもなければ、30歳になって初めて気づいたわけでもない。何かに興味を持つタイミングって、人それぞれだと思うので。僕自身も、決して着物について博識だったわけではないので。それでも実際に触れてみて、心から感動した。だから、同じように「こんなものが日本にあったんだ」と感じてくれる人が出てきたら嬉しい。もちろん、それが若い人でもいいし、50歳の人でもいい。wanameをきっかけに、誰かが着物に興味を持って、そこから自分なりに何かを始めてくれる。それくらい、自由に広がっていってくれたら嬉しいですね。

wanameとして、日本の伝統文化を背景に持ちながら、海外の方にも見てもらう中で、世界へ届けたいものはありますか?

願いを言っていいのであれば、まずは日本人に一番知ってほしいですね。さっき話したように、若い世代に限らず、もっと日本の人たちに着物のことを知ってもらえたら嬉しい。ただ、僕が勝負しているのはあくまでファッションなので。ニューヨークやパリ、あるいはアジアを含めて、ファッションの本場で勝負しないということではないです。むしろ、そこでも当然勝負したい。日本であろうが、パリであろうが、アメリカであろうが、ファッションとしては世界に対して平等に勝負するつもりです。一方で、“着物”というものを伝えるという意味では、やっぱり日本かなと思っています。どこの国で売りたいとか、どこの市場がいいという考え方は、僕自身の思いとは少し違うんですよね。海外の人のほうが、日本人より着物を好きなんじゃないかと感じることもあります。でも、それは単純に、知らないからこそ新鮮に見えている部分もあると思うんです。僕らは“着物”という言葉がずっと身近にあって、少し昔の写真を探せば着物を着ている人が出てくる。それくらい文化として深く根付いているからこそ、逆にそのすごさに気づきにくい。海外の人は、ある意味で何も知らない状態から着物を見る。だからこそ、「着物ってすごいな」と、僕ら日本人以上に強く感じることもあるんじゃないかなと思います。

今回、1st Launch Eventの場所として京都・光明院を選んだ理由を教えてください。

まず、着物を扱う以上、最初の場所は京都でやりたいという思いがありました。僕自身も京都に行く機会が多かったですし、メンバーにも京都とのつながりがあったので、最初から「京都でやろう」というのは決まっていたんです。その中で光明院を選んだのは、庭園を見たときのフィーリングが、今回のwanameで大切にしたいこととすごく重なったからです。庭園を見ていると、大きな石のように変わらないものがある一方で、苔や砂利の表情は、雨や風、季節によって少しずつ変わっていく。変わらないものを大切にしながら、同時に変化していくものの美しさも受け入れている。その感覚が、今回の着物のジャケットとすごく合っていると思ったんです。着物そのものが持っている素材の美しさや、そこに込められた技術は、僕にとって「変わらないもの」だと思っています。でも、それを現代に持ってきたときに、形や見え方は変わっていく。晴れの日が続けば苔の表情も変わるし、雨が続けばまた違った景色になる。そういう「変わっていく美しさ」と一緒に、時代を歩んでいきたいという自分の考えを、この庭園を見て改めて感じさせてもらいました。今って、AIをはじめ、いろんなものがどんどん変化している時代じゃないですか。そういう変化を「大変だな」とか「嫌だな」と捉えるのではなくて、その中にある美しさに目を向けられるような生き方をしたいと思っているんです。だから、ここでやろうと決めました。庭園を見た瞬間に感じたことと、wanameがこれからやっていきたいことが、すごく自然につながったんですよね。

 

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日本文化を体験する場として、今回のイベントをつくられていると思います。洋服をつくることと、そうした体験に落とし込むことは、どのようにつながっているのでしょうか?

たぶん、wanameの世界観と光明院が持っている世界観が、すごく自然につながっているんだと思います。だからこそ、今回ここでやらせてもらえるんじゃないかなと。着物を扱っている以上、昔の生活の中に着物を持っていくように、着物と日本文化が感じられる場所でやるのが一番自然だと思ったんです。僕は、ファッションって“自由”であることが大前提だと思っています。でも同時に、その自由の中に、その人なりの礼儀もあると思うんですよね。例えば、ものすごく高価なドレスを着ているからといって、どんな場所にも同じ格好で行くわけではない。焼肉屋に何億円もするドレスを着ていくかと言われたら、たぶん着ないですよね。だから、一点物の服を「あなたに合うものを自由に着てください」ということと、その服をどんな場所で、どんな文化の中で着るのかということは、セットなんだと思います。アートや音楽、場所も同じで、ファッションの自由の中に、その人自身が考える「どう着るか」「どう過ごすか」という自由がある。今回の光明院での体験も、そういう考え方の延長にあるんだと思います。

今後、ジャケットだけでなくシューズやバッグなどへと展開していく中で、wanameの世界観をどのように広げていきたいですか? 今後の展望について教えてください。

これまで僕は、音楽やアート、もちろん洋服やファッションについてずっと考えて、行動してきたつもりです。今の自分があるのも、これまで出会ってきた人たちからいろんなものを吸収してきたからだと思う。今の着物ジャケットがつくれているのも、出会った人たちから受け取ったエッセンスがあるからです。だからwanameも、いろんな人やものと一緒に何かをつくっていく中で、自分たちが吸収したものをwanameというフィルターを通して消化していくブランドにしたい。そう考えると、洋服だけに限定する必要はないと思っています。

これまでのお話を聞いていると、形として現れているものが洋服というだけで、本当に伝えたいものは別にあるようにも感じます。

そうですね。僕は「ファッションは自由だ」と思っているけど、実際には誰にでも、自由じゃないと感じる場面ってあると思う。それでも、僕は諦めずに、みんなに自由だと思ってほしいんです。だから、一般的にイメージされる「ファッションブランド」の定義を、僕はあまり持っていない。展示会はこうあるべき、オーダーシートはこう、展覧会やメディアリリースはこうあるべき、みたいな常識も、自分の中にはあまりないんですよね。それが良いことなのかは分からないけど、だからこそ、ファッションに対する感性の枠を少しずつ外していくようなことができたらいい。ファッションでも、音楽でも、アートでも、自分たちが本当にいいと思ったものに対して取り組めるブランドにしたいです。ただ、それが社会に対して何かを裏切るようなことにはしたくない。そこは大事にしながら、wanameというフィルターを通して、まだ形になっていないものにも挑戦していきたいと思っています。

wanameを通して、将来的に実現したいことはありますか?

もちろん、ブランドとしてパリでコレクションをやってみたいという気持ちはあります。パリという場所や、そこでコレクションを発表すること自体には、すごくリスペクトがあります。でも、最後の最後まで掘り下げて考えると、そこが僕の夢というわけではないんです。今一番やりたいのは、手間暇をかけて、ちゃんと愛情を注いで何かをつくっている人たちに対して、自分がこのブランドを通して何かを還元すること。日本の音楽やアートのシーンで、僕が何かをしたいと言うのはおこがましいかもしれないけど、「好きこそ物の上手なれ」という気持ちで、本当に好きなことに向き合っている人たちに対して、wanameが何かを返せるブランドになりたいんです。それがアーティストでも、音楽家でも、洋服をつくることが本当に好きな人でもいい。そういう人たちにとって、一つの指標になれたらと思っています。だから、ファッションからwanameを知る人がいてもいいし、音楽から入ってくる人がいてもいい。例えば、みんなでミックスCDをつくって、「あのミックス、やばかったよね」って話していて、それが「wanameのミックスだったんだ」ってなってもいい。今も10人くらいのアーティストと一緒に、僕がつくった無地の着物ジャケットにそれぞれの表現を描いてもらっています。

そこで、そのアーティストが好きだからwanameを知った、という入口が生まれてもいいと思っている。結局、僕が本当に伝えたいのは、「好きこそ物の上手なれでやっている人たちは、それでいいんだ」ということなんですよね。そういう人たちの背中を押せるようなブランドにしたいです。

waname
2026年にデザイナー 加藤瑞貴が立ち上げたブランド。日本の伝統文化である着物を起点に、織りや染め、職人の手仕事によって生まれた一点物の生地を現代のファッションへと再構築する。着物を単に保存すべき文化として捉えるのではなく、ひとつの素材として見つめ直し、その背景にある技術や美意識を次の時代へとつなぐことを目指す。ジャケットを中心に、今後はシューズやバッグなどへも展開。ファッションにとどまらず、音楽やアートなどさまざまなカルチャーとの接点をつくりながら、日本に根付く美意識を現代の視点から発信していく。

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