ジェイソン・ディル ── 絵画を通して見つめる人間らしさと日常の風景|Interviews

東京で開催される個展 “LOOKING AT WHAT I’M SAYING: WORKS FROM 2016 TO 2026”を機に、創作のプロセスや旅と読書から得るインスピレーション、そしてアナログな表現にこだわる理由について話を訊いた

アート
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スケートボードの世界で長年にわたり存在感を示してきたジェイソン・ディル。現在、彼の表現活動の中心にあるのは絵画だ。油彩やドローイングを通じて描かれるのは、旅先で目にした風景や想像上の人物、動物、そしてどこか物語を感じさせる情景。そこには、特定の場所や出来事を再現するというよりも、長い時間をかけて蓄積されてきた記憶や日々の感覚が自然と滲み出ている。

『The Last Gallery』プロデュースのもと、2016年から2026年までの作品を紹介する今回の個展 “LOOKING AT WHAT I’M SAYING: WORKS FROM 2016 TO 2026”では、東京のために制作された新作も展示される。タイトルには言葉遊びが込められている一方、過去の作品と現在の作品を並べることには、作家自身にとっても特別な意味があるという。

旅先ではあえて観光地を離れ、地図にも頼らず山道を歩く。日常では少ない荷物で移動し、古本を読み、キャンバスに向かう。デジタル技術があらゆる表現を可能にする時代に、ディルが大切にしているのは、自分の手を動かし、実際に世界を見て、そこから何かを感じ取ることだ。

スケートボードのキャリアと絵画を安易に結びつけることを望まない彼にとって、創作とはどのような営みなのか。東京という街との長い関係性から、制作における葛藤、そして作品に宿る人間らしさまで、その言葉を通して紐解いていく。


自分の手で絵の具を使い、キャンバスに向かい、実際に世界を見て感じる。それが自分にとっての現実なんだよ

Hypebeast:今回の個展 “LOOKING AT WHAT I’M SAYING: WORKS FROM 2016 TO 2026”には、どのような思いを込めましたか?

ジェイソン・ディル:ちょっとした言葉遊びなんだ。“Looking at what I’m saying”、つまり「自分が言っていることを見つめる」という表現自体が、少しおかしいじゃない? 人の口から出てくる言葉を実際に目で見ることなんてできないからね。そういう、ちょっとしたユーモアを込めているんだ。

あとは、自分が表現しようとしているものを、見てくれた人たちに気に入ってもらえたらうれしい。それだけだよ。自分の絵を好きになってくれる人がいるのは、やっぱりうれしいからね。

この個展では、2016年から2026年までの作品を並べているとのことですが、作品を通して自身の変化や成長を感じることはありますか?

もちろん。13年前に描いていた絵と比べれば、今の作品の方がずっとよくなっていると思う。自分自身も年齢を重ねたし、鏡を見れば以前より年を取ったことがわかる。でも、それがいいんだ。今の年齢でいることが好きだし、これまでのキャリアや、そこで得てきた機会にも感謝している。スケートボードはもうやっていないけれど、今は今の自分の人生を楽しんでいるよ。

今回は東京の個展のために制作された新作も展示されますが、ディルさんにとって、東京で個展を開催することにはどのような意味がありますか?

長い時間を過ごしてきた場所で展覧会を開けるのは、本当にうれしいことなんだ。東京には何度も来ているし、自分にとっては第二の故郷のような場所だからね。東京には友人がたくさんいるし、普段から通っている店もある。自分のことをよく知ってくれている人たちがいて、ある種の拡大家族のような感覚があるんだ。そんな場所で自分の作品を見てもらえることには、大きな意味があるよ。

絵画制作には、どのようなきっかけで本格的に取り組むようになったのでしょうか?

子どもの頃から絵を描くこと自体はずっと好きだったよ。紙と絵の具を使ったり、クレヨンで絵を描いたりね。ただ、キャンバスに向かい、ひとつの作品として完成させることを意識して描き始めたのは、13年ほど前のことなんだ。

そこからすぐに展覧会を開いたわけではない。自分の絵が、ある程度納得できるものになるまで長い時間をかけた。もっと早い段階で展覧会を開いていたら、当時の自分はまだ準備ができていなかったと思う。

作品を制作するうえで、プレッシャーや不安を感じることはありますか?

あるよ。ただ、自分のペースで描いているときと、展覧会に向けて締め切りがあるときでは、感覚がまったく違う。自分のペースで描けるなら、ひとつの作品に2年かけることだってできる。何度も戻ってきて、少しずつ手を加えていけばいいからね。変わったことを試す余裕もあるし、最初から完成形を明確に決める必要もない。

一方で、展覧会の締め切りがあると、「あと30日で、この3枚を仕上げなければいけない」という状況になる。そうなると、絵の描き方も変わるんだ。例えば、まず空と風景を描いて、その手前に何を置くのかを考える。作品を完成させ、送り出す以上、自分の中でどこまで仕上げるのかを決めなければならないからね。どちらのプロセスも楽しいけれど、締め切りがある方が、より速く進めていく必要がある。

制作を進めるなかで、思い描いたように作品が仕上がらないこともありますか?

もちろん。キャンバスを自分で張って、最初の段階から制作しているんだけど、描き始めたときに「これは全部間違っている。自分は絵を描くのが下手だし、こんな作品は嫌だ」と思うこともある。でも、ある瞬間に空の色や風景がうまく決まると、ふと立ち止まって、「今回もちゃんとできた。自分は本当に幸運だな」と感じるんだ。

空や丘、水辺といった作品の土台ができれば、雲や細部はあとから何度でも描き込める。そこまでたどり着けると、今度は子どもや動物を描き加えていくのが楽しくなる。そうして少しずつ全体がまとまり、人間らしい感覚が生まれてくるんだと思う。最終的に人が作品に求めているのも、そういう人間らしさなのかもしれないね。

ディルさんの作品には、旅先を思わせる風景や人物がたびたび登場します。日々の生活や旅で目にしたものは、どのように絵に反映されるのでしょうか?

自分は本当に少ない荷物で旅をするんだ。小さなバッグひとつで移動して、服は洗面台で洗うし、靴下はファミリーマートで買うこともある。日本では、友達が「一緒に来なよ」と言って、地元の人しか行かないような小さな居酒屋に連れていってくれることもある。観光客がほとんどいない場所で、その土地の日常に触れられるのはすごく幸運なことだと思う。

京都に行ったときも、有名な観光地を巡るのではなく、山の方へ歩いていったことがある。観光客が集まる場所を通り過ぎて、さらに上へ上へと進んでいったら、滝を見つけたんだ。あとで京都の友達に写真を見せたら、「ここはどこ?」と聞かれた。地元の人たちも知らない場所だったんだよ。そういう経験が、今の自分の生活を形づくっている。そして、今の自分の生活が、そのまま現在の絵に反映されているんだと思う。

絵画を通して伝えたいことや、作品制作において大切にしている価値観はありますか?

自分はテクノロジーに対して、かなり懐疑的なんだ。AIも好きではないし、インターネットも必要最低限しか使わない。みんなテクノロジーに夢中になりすぎて、現実とのつながりを失いつつあるように感じる。だからこそ、自分にとって絵を描くことや、歩きながら何かを見つけることは、本当にリアルな経験なんだ。自分の手で絵の具を使い、キャンバスに向かい、実際に世界を見て感じる。それが自分にとっての現実なんだよ。

制作において、紙や絵の具の使い方にも独自の工夫があるそうですね。

ドローイングでは、古い本のページを使うこともある。ページを切り取って、その上に描くんだ。紙を古びたように見せたいときには、醤油やコーラ、お茶などを使って染みをつけることもあるよ。ただ、古い本のページを使っている場合は、もともとの紙の風合いがあるから、必ずしも加工する必要はない。紙そのものが持っている質感も大切なんだ。

本を読むことも、あなたの日常に欠かせない習慣のひとつだと聞きました。

兄の影響が大きいね。子どもの頃、兄と同じ部屋で育ったんだけど、兄が本を読むことの楽しさを教えてくれた。それ以来、ずっと本を読んでいるんだ。もうすぐ50歳になるけれど、今でもできるだけたくさん本を読みたいと思っている。今は太宰治の『人間失格』を読んでいるところだよ。日本の作家の本を読むのは初めてなんだけど、気に入っているんだ。

日本で活動するクリエイターや、あなたの創作に刺激を与える存在はいますか?

友人のWANTO(ワント)だね。彼はグラフィティ・ライターで、グラフィックアーティストでもある。自分がアメリカにいてもヨーロッパにいても、お互いに制作したものを見せ合っているんだ。彼が何かをつくれば自分も見るし、自分が何かをつくれば彼にも見せる。そういう関係がずっと続いている。友達であり、家族のような存在だよ。

ただインスピレーションについて聞かれると、いつも少し困ってしまうんだ。もう50年近く生きてきて、いろいろな国を旅し、アフリカにも住んだことがある。たくさんの人に出会い、いろいろなものを見てきたからね。自分の夢や読んできた本、日々の生活で目にするもの。そういうものが自分のなかに蓄積されている。だから、何かひとつのものをインスピレーションとして挙げるのは難しいんだ。

今回の個展では、2016年から2026年までの作品を並べることで、10年間の変化を見せています。これからの10年間について、考えていることはありますか?

今回の展示では、少し前に描いた作品や、大きな彫刻作品も一緒に展示している。自分としては、古い作品と新しい作品を並べて、どれくらい変化したのかを確かめたかったんだ。自分のなかで、その変化を祝いたいという気持ちもあった。

これからの10年間については、とにかく生きていたいね。そして、平和と愛を願っている。今は不穏な時代だけれど、どんな形であれ、それを見つけられることを願っているよ。

ジェイソン・ディル
アメリカ出身のプロスケートボーダーであり、ペインターとしても活動するアーティスト。幼少期から絵を描くことに親しみ、約13年前から本格的に絵画制作を開始。旅先で出会う風景や人々、日常の経験を作品に取り入れながら、手仕事によるアナログな表現を追求している。

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