BEAMSのものづくりはなぜ面白いのか? ── SSZ と the A 、2つのブランドから紐解く魅力
10周年を迎えた〈SSZ〉と2025年に始動した〈the A〉。同じ『BEAMS』から生まれながら、まったく異なるアプローチをとる2つのブランドの背景に迫る
セレクトショップとして、国内外のさまざまなブランドやカルチャーを日本に紹介してきた『BEAMS(ビームス)』。1976年の創業以来、独自のスタイルを提案し続けてきた同社だが、その魅力はセレクトだけにとどまらない。長年培ってきた知識や経験、そしてスタッフ一人ひとりの感性を反映したオリジナルのものづくりもまた、『BEAMS』を語るうえで欠かせない要素だ。
その象徴的な存在が、2026年に10周年を迎えた〈SSZ(エスエスズィー)〉だろう。手掛けるのは、2003年頃から『BEAMS』でサーフ&スケートカテゴリーのバイイングを担ってきた加藤忠幸。毎シーズン独自のテーマを掲げてセレクトするなかで、既存のブランドだけでは表現しきれないアイデアをコラボレーションで形にしてきた。やがて、自身が思い描く服を一つのコレクションとして表現したいと考えるようになり、『BEAMS』の40周年を契機に企画を提案。こうして2016年に誕生したのが、“SURF & SK8 & ZINE”を意味する〈SSZ〉だ。
根底にあるのはサーフィンやスケートボードのカルチャーだが、その服づくりはストリートウェアの枠に収まらない。「サーフ&スケートと言いながら、僕はメゾンブランドも含めて、本当に洋服が好きなんです」と語る加藤。〈SSZ〉の服には、一見ベーシックでありながら、着て初めて気づく工夫が随所に盛り込まれている。複数のポケットを備えたパンツや、通常はない場所に配したドローコードは、装飾ではなく、日常のちょっとした不便を解消するためのディテールだ。「普通なんだけど、その普通の良さをもっともっと高めていく」。この言葉が、〈SSZ〉の姿勢を端的に表している。その一方で、思わず誰かに話したくなるようなユーモアも忘れない。友人から「これSSZだよね」と言われたり、ディテールについて会話が生まれたり。そんなコミュニケーションのきっかけになる服を作りたいという。
10周年を迎えた現在も、〈SSZ〉には公式ウェブサイトもInstagramアカウントもない。理由を尋ねると、「よくわからないブランドにしたい」と意外な答えが返ってきた。情報が簡単に手に入る時代だからこそ、気になった人が自ら調べ、発見する。そんな余白を残しておきたいのだという。
一方、2025年春夏シーズンに始動したのが〈the A(ジ エー)〉だ。『BEAMS』メンズカジュアルのディレクターを務める吉川基希を中心に、アメリカンカジュアルをベースとしながら、素材や縫製、工場の選定に至るまで徹底的にこだわる。ウール100%のTシャツや、ヴィンテージを研究し尽くしたデニムはその好例だ。〈SSZ〉が加藤個人の感性やカルチャーを色濃く反映したブランドであるのに対し、〈the A〉は『BEAMS』が培ってきた知識と技術を、より深く掘り下げるプロジェクトといえるだろう。
アプローチは異なるものの、両者の根底には『BEAMS』が掲げる“BASIC & EXCITING”というフィロソフィーが流れている。ベーシックなものに、いかに新しい価値や驚きを加えるか。その答えは一つではない。
そんな2つのブランドのディレクターが顔をそろえたのが、10月12日(月)に『ビームス 名古屋』で開催された、ラシックの21周年を記念するトークイベントだ。(昨年の20周年イベントの大盛況を受け、今年も特別企画として開催された。)加藤と吉川、そして両ブランドの企画・生産に携わるスタッフが登壇し、それぞれの服づくりへの考え方やプロダクトの制作背景について語り合った。会場では『ビームス 名古屋』限定アイテムも発売。〈SSZ〉は1990年代のストリートカルチャーにおけるパロディやサンプリングの手法を取り入れたグラフィックTシャツを、〈the A〉は1947年頃のヴィンテージデニムをベースに独自の加工やシルエットを加えたスペシャルモデルを用意。両者のスタンスの違いが、プロダクトにも明確に表れたラインアップとなった。
では、〈the A〉はどのような背景から生まれたのか。そして、『BEAMS』が考えるプレミアムなものづくりとは何なのか。ディレクターの吉川に話を聞いた。
吉川基希が語る、the Aのものづくり
Hypebeast:まず、the Aが誕生した経緯について教えてください。
吉川:スタートは2025年の春夏シーズンですが、2024年頃からチームで構想を練っていました。きっかけは、会社としてオリジナル商品のプレミアム化を進めていこうという方針があったことです。ただ、僕らが作っているのはカジュアルな服が中心なので、単純に価格を上げるだけでプレミアムになるのかという疑問があった。それまでの『BEAMS』のオリジナル商品は、ある程度、市場の適正価格を意識して作っていました。だから、すごくいい生地があっても、価格が合わなければ諦めることもあったんです。だったら最初から、自分たちが本当に使いたい生地や工場に徹底的にこだわる別のラインを作ろうと。これまで使えなかった素材を使ったり、通常のオリジナル商品ではお願いできなかった工場に生産を依頼したり。そういうところから考えていくのが、僕らにとってのプレミアムという考え方でした。とはいえ、お客さまに着てもらわなければ意味がないので、価格とのバランスは常に意識しています。
実際のプロダクトでは、どのような部分にこだわっているのでしょうか?
わかりやすい例が、ウール100%のTシャツです。ウールというと冬のニットのイメージが強いと思いますが、実は吸放湿性に優れていて乾きも早く、天然の抗菌防臭性もある。夏場でも快適に着られる素材なんです。アウトドアブランドにはウールのベースレイヤーが以前からありますが、身体にフィットするシルエットが多く、一枚で街着として着るには少し物足りない。だったら、普段着として着られるシルエットで素材の機能性を生かせたら面白いんじゃないかと。僕らは“リアルクロージング”という言葉を大切にしていて、コレクションで見せるためだけの服ではなく、着てみて「すごくよかったからもう一枚買おう」と思ってもらえるものを作りたい。そのためにも、まずは自分たちが着たいかどうかが大事なんです。実際、僕も夏場はこのTシャツをかなりの頻度で着ました。
the Aを象徴するアイテムの一つがデニムですね。
デニムは特に力を入れています。1947年頃のヴィンテージデニムを参考に生地から開発していますが、目指しているのは単なる復刻ではありません。僕たちは古着やヴィンテージ、ミリタリーの服をすごく研究しています。特にミリタリーウェアには、その時代の最先端の技術が使われていることが多い。なぜこの素材なのか、なぜこういう仕様なのかを掘り下げていくと、すごく面白いんです。ただ、それをそのまま再現するだけでは、時代が更新されていないことになる。だから、生地や縫製は徹底的に研究しながら、シルエットは今の感覚に合わせて調整しています。『BEAMS』には“BASIC & EXCITING”というフィロソフィーがありますが、僕らにとってのエキサイティングは、今のシルエットや最新の素材、縫製技術。それをベーシックなものに掛け合わせることが大事だと思っています。
そうした仕様を実現するには、工場とのやりとりも簡単ではなさそうです。
例えばデニムでは、ウエストに対してヒップ周りにゆとりを持たせるために、通常よりも大きな身頃をウエストベルトにいせ込んでいます。こういう仕様は工場にとっても簡単ではなく、今までやったことがないと断られることもある。そこを企画生産のスタッフが丁寧に説明して粘り強く交渉し、少しずつ形にしてくれています。〈the A〉には企画生産のスペシャリストがいて、どの素材を使い、どこの工場にお願いするのが最適なのかを考えてくれる。ニットなら中国の工場が優れた設備や技術を持っている場合もあるし、レザーならイタリアの素材のほうが発色がいいこともある。すべて日本製にこだわるのではなく、そのアイテムにとってのベストを選んでいます。アイデアを形にしてくれるチームがいて初めて、僕らのものづくりは実現できるんです。
同じ『BEAMS』のなかには、加藤さんが手掛けるSSZのようなブランドもあります。こうした個性的なブランドが生まれる背景には、どのような環境があると思いますか?
やっぱり、みんな本当に服が好きなんですよね。加藤もそうですけど、カルチャーが好きで、いろいろなことを掘り下げていく人が多い。「これって何なんだろう」「なんでこういう仕様になっているんだろう」と考えて、調べていく。その知識や経験を、今の感覚でどう表現するか。そういうことを考えている人たちが『BEAMS』にはたくさんいるんだと思います。
the Aというブランド名にはどのような意味が込められているのでしょうか?
『BEAMS』のメンズカジュアルは、社内では「Bセク(ビームスセクションの略)」と呼ばれています。そこから、B面に対するA面、つまり通常のオリジナル商品よりも一段上のものづくりを目指すという意味で、Aという発想が生まれました。ただ、Aだけだと少し物足りないという話になって。実は僕の息子の名前が「ジゲン」なんですが、チームでブランド名を考えているときに、その名前も候補に挙がって、“ジゲン”と“ジ エー”で響きが似ているなと。だから、ブランド名にはB面に対するA面という意味と、個人的なストーリーの両方が込められています。
ブランドカラーのブルーにも理由はあるんですか?
吉川:『BEAMS』といえばオレンジのイメージが強いと思いますが、昔はブルーがセカンドカラーとして使われていました。そのセカンドカラーをメインに持ってくるという発想と、デニムのインディゴブルーが重なって、今のブランドカラーになっています。
今後、the Aをどのようなブランドに育てていきたいですか?
いつか小さくてもいいので、〈the A〉だけを扱う路面店ができたら面白いなと思っています。そこに僕や企画生産のスタッフなど、実際にものづくりに携わっている人間が立って、お客さまに直接商品の魅力を伝えられたらいいですよね。例えば、デニムの生地をどうやって作ったのか、なぜこの工場を選んだのか、どういう技術が使われているのか。そういうことは、作り手だからこそ伝えられる部分もあると思うんです。それを聞いて、お客さまが「なるほど、だからこの価格なんだ」と納得して買ってくれる。そういう体験まで含めたものが、僕たちが考えるプレミアムです。
SSZ(エスエスズィー)/バイヤー 加藤忠幸
2016年にスタートした、BEAMSのサーフ&スケートカテゴリーを担当するバイヤー 加藤忠幸が手掛けるブランド。サーフィンやスケートボードのカルチャーを軸に、ヴィンテージやメゾンブランドから得た着想、日常の視点、独自のユーモアを服づくりに落とし込む。実用性を追求したギミックや、既成概念にとらわれないディテールを通じて、ベーシックなウェアに新たな価値を提案している。
the A(ジ エー)/ディレクター 吉川基希
2025年春夏シーズンに始動した、BEAMSのメンズカジュアルディレクター・吉川基希を中心に展開するプロジェクト。アメリカンカジュアルをベースに、素材選びから縫製、工場の選定に至るまで徹底してこだわり、従来のオリジナルウェアの枠を超えたものづくりを追求する。ヴィンテージの研究を現代的なシルエットや技術と掛け合わせ、長く着続けられるベーシックウェアに新たな価値を与えている。

