『UNDERGIRL』の舞台裏 ──「ちゃんと作って、壊す」UNDERCOVER PRODUCTION、初めての映画づくり | Interviews
一度はお蔵入りを覚悟──高橋盾、守本勝英、永戸鉄也、水谷太郎が暗中模索の末にたどり着いた、“戦わない戦い”
『UNDERGIRL』の舞台裏 ──「ちゃんと作って、壊す」UNDERCOVER PRODUCTION、初めての映画づくり | Interviews
一度はお蔵入りを覚悟──高橋盾、守本勝英、永戸鉄也、水谷太郎が暗中模索の末にたどり着いた、“戦わない戦い”
インタビューを終えた後、「もし映画の次回作を作るとしたら、次は『GRACE』ですかね?」と尋ねると、それまで以上に4人の会話が弾み始めた。
アートディレクターの永戸鉄也が「やるなら、完全なファンタジーかな」と口火を切れば、フォトグラファーの水谷太郎は「もう、どうにでもできちゃう」「時空も変えられるし、魔界も作れる」と想像を膨らませる。「主人公しか見えていないという存在は?」「『GRACE』の中から人がパラパラ出てきたりして(笑)」とアイデアが飛び交い、〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉デザイナーの高橋盾も「そう考えると、めちゃくちゃいろいろできるね。あえて『GRACE』が出てこないとか(笑)」と応じる。ついさっきまで約1時間にわたって映画づくりの苦労を振り返っていた4人の目が、再びキラッと輝いた。
もっとも、実際の映画づくりは、楽しいだけではなかった。
「今はまだ、撮影の苦労がない状態なんで(笑)」と永戸。それに守本勝英と永戸が「企画段階だから(笑)」と重ね、一同が笑う。
実際、「UNDERCOVER PRODUCTION(アンダーカバー プロダクション)」にとって初の映画となった『UNDERGIRL』の制作は、決して順風満帆ではなかった。撮影初日を終えても翌日の脚本が固まらず、最初に撮った映像の多くは完成版から姿を消した。映画としては成立していても、自分たちらしさがない。一時は本気でお蔵入りも考えたという。
それでも4人は、映画の作り方を一から学び、物語を「ちゃんと作り」、最後には自分たちらしく「壊す」ことで、作品を完成へと導いた。父と娘、世代交代、非暴力、そして“戦わないヒーロー”。約15年前に写真の中で誕生した「UNDERMAN」は、なぜ今、『UNDERGIRL』として動き始めたのか。
〈UNDERCOVER〉デザイナーの高橋盾、本作の監督を務めたフォトグラファーの守本勝英、アートディレクターの永戸鉄也、フォトグラファーの水谷太郎。「UNDERCOVER PRODUCTION」を構成する4人に、『UNDERGIRL』の舞台裏を聞いた。
大人であり、子どもでもある。
その間を行き来できることが、僕ら4人らしさなのかもしれません。
UNDERCOVER PRODUCTION結成と4人の関係性
Hypebeast:──まず、UNDERCOVER PRODUCTIONが結成された経緯と、4人の関係性について教えてください。普段はそれぞれどのような役割を担っているのでしょうか?
永戸鉄也(以下、永戸):ZINEの『SN』を作ったり、前野健太くんのMV(『夏が洗い流したらまた』)を撮ったり、その資金を集めるために名付けたのが始まりじゃなかった?
高橋盾(以下、高橋):まあ、レギュラーでずっと一緒にものを作っているこの4人で、正式なチーム名を作って色々やっていきましょうか、ってなったんだよね。VALENTINOとのコラボレーションの準備(2018年)あたりからこのチームで動くことが増えて、「プロダクションにしちゃいましょう」と。カメラマン同士だから普段は仕事が被らないし、元々ずっと遊んでいる友達だから、仕事をしつつ遊びつつ、それをまとめた形ですね。
今で言う「クリエイティブ・コレクティブ」の走りのような存在ですね。普段の制作では、どのように役割を分担しているのでしょうか?
守本勝英(以下、守本):案件ごとに、それぞれの得意分野や「誰がプロジェクトリーダー的に立つか」をザクッと決めながら進めます。全員が企画段階からアイデアを出せる人たちなので、4人で集まって、ひとつの企画に対して対等に意見を言い合っていく感じですね。
高橋:僕は少し引いたところから俯瞰して、ポイントごとに「こういう方がいいんじゃない?」と言う立場。実際の細かな部分は、特に太郎と鉄也くんが動いてくれています。
4人の映画観を形作った作品
『UNDERGIRL』の話に入る前に。皆さんの映像美や世界観の背景にある、好きな映画や影響を受けた作品を教えてください。
高橋:村川透監督、松田優作さん主演の『野獣死すべし』と、アニメだけど『ルパン三世 カリオストロの城』。映画は切り口が無限にあるから、その時のマインドや体勢でも見え方が変わるのが面白さですよね。
守本:僕は『ゴーストワールド』がすごく好きです。2人の女の子が出てくる映画で、あれは最高ですね。僕らの時代は単館上映の、エンターテインメントというより少しアート寄りの作品が身近にあった。思想的なことよりも、「ヌーヴェルヴァーグはおしゃれで格好いい」という入り方でしたけど、ゴダールも好きでした。ポール・トーマス・アンダーソンやキューブリックも、作品によりますけど好きですね。
永戸:僕は『2001年宇宙の旅』と、ポール・オースター原作・脚本の『スモーク』。最近観た作品では『Sirāt』が素晴らしかった。特に音が重要なので、ぜひ劇場で観てほしいです。レイヴを扱っていますが、いわゆるレイヴ映画ではなく、神話のような作品です。
水谷太郎(以下、水谷):僕は濱口竜介監督の映画です。写真をやっていることもありますが、最近の邦画を観る時は、同時代の日本で何が面白がられて、どのような表現が人に刺さるのか、という点にも興味がある。昔の好きな映画もたくさんありますが、「今、これが面白い」と感じることの方が多いかもしれません。濱口さんの作品には、「今、こんなことを映画にするんだ」という面白さがあります。
「UNDERMAN」から『UNDERGIRL』へ
『UNDERGIRL』の原点は、2011年春夏コレクションの「UNDERMAN」です。当時のヒーローと世界観は、どのように生まれたのでしょうか。
高橋:1970年代の日本の特撮ヒーローへのオマージュとしてキャラクターを作り、ファッションショーとは違うかたちで発表してみたいと思ったのが始まりです。守本と鉄也くんに「こういうことをやりたい」と話し、パリで写真を発表しました。
ただ、映像ではなく写真だったので、パリのファッション業界の人に世界観まで届けるのは、ほとんど無理なことでした。ショーをせず、展示会場に写真だけが並んでいても、「あれは何なんだ?」で終わってしまう。もちろん、そのなかでも、すごく食いついてくれるコアな人たちはいましたが。
守本:UNDERCOVERのショーには、もともと物語性があると思うんです。「UNDERMAN」はその実写版というか、たまたま主人公がアンダーマンという男性だっただけで、ショーの延長線上にあるものだと捉えています。
高橋:ですね。気持ちとしてはショーと同じです。テーマとストーリーがあり、それを写真で断片的に見せる。自分たちで物語を表現し、その題材がヒーローだった。
そこから約15年を経て、なぜ再びアンダーマンの物語を、今度は映画として描こうと思ったのでしょうか。
高橋:「UNDERMAN」にしても「GRACE」にしても、写真集や写真で表現しましたが、本来はストーリーがあるので、ずっと映像にしたいと思っていました。ショーとは違う方法で表現するターンが来て、ぜひ映像をやりたい、と。ただ、最初からアンダーマンに決めていたわけではありません。4人で話すなかで、「アンダーマンをやったら面白いんじゃないか」というところにたどり着きました。
「UNDERMAN」と『UNDERGIRL』は、続編なのでしょうか。それとも再解釈、あるいはまったく新しい物語ですか。
高橋:切り離してはいるけれど、続編でもある、という感じです。
永戸:キコが登場することも含めて、設定がつながっている部分があります。
「非暴力」と世代交代──父から娘へ受け継がれるもの
2011年には「愛と悲しみの戦士」だったアンダーマンが、今作では戦うのをやめ、娘・ユリの前に立ちはだかります。この変化にはどんな思いがあるのでしょうか?
守本:いろいろな見方ができると思います。アンダーマンは、ある意味では過去の存在です。過去のファッションやアーカイブに対して、新しい価値観としてそれを壊す物語でもある。
高橋:アンダーマンは悪と戦ってきたけれど、その途中で、自分にはできなかったことや諦めたこと、「なぜ戦わなければいけないのか」という疑問を抱えたまま失踪してしまった。娘は、その答えを探しに行くんです。
永戸:世代交代でもありますね。
水谷:そこには、時代に対する感覚もすごくあると思います。『UNDERMAN』を作った時と今とでは、社会の状況も、自分たちの置かれている状況も大きく変わった。戦争が起こり続け、暴力では何も変わらないという絶望感が社会に増しているなかで、『UNDERGIRL』の考え方が生まれたのだと思います。
高橋:『UNDERMAN』の時は、考え方や哲学を表すというより、ビジュアルを見せることが中心でした。でも映画を作るとなれば、ストーリーが必要になる。今の時代における戦い方や向き合い方、悪に対して自分たちはどのような解決を考えるのか。ビジュアルから物語へ踏み込んだ時に、僕らの思想や考え方が強く反映されました。それを父と娘の関係にも盛り込んでいった、という流れです。
本作は、完成されたヒーローの活躍ではなく、「ヒーローが生まれるまで」を描いています。なぜ、そこに焦点を当てたのでしょうか。
高橋:ビジュアルだけでいえば、戦いのシーンが一番の華だと思います。でも、この4人で何かを考える時、やりたいのはそこではない。もっと裏側にあるものを見せる方が、この4人には合っているんです。もちろん戦いをビジュアルとして見せたい気持ちはありますが、僕らが描きたいものの中心ではないと思います。
守本:『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』にも、怪獣が出てきて戦い、倒して終わるだけではない話があります。まったく戦わない回や、シュールで淡々とした回もあった。
高橋:特に『ウルトラセブン』には、勧善懲悪ではない物語がありました。敵の言い分と、こちら側の正義。その折り合いをどこにつけるのか。暴力だけで解決しない部分が描かれていて、僕はそれを見て育ちました。実相寺昭雄監督が手掛けた回など、子どもにはよく分からないような作品もある。でも、決して大人だけに向けていたわけではなく、子どもにも何かを投げかけていた。その絶妙なバランスは、子ども心にも衝撃的でした。
永戸:環境問題も扱っていましたよね。
高橋:核や公害などですね。悪役がなぜ悪になったのか、その悲しさまで描かれていた。僕は子どもの頃、そちら側のブルースに引かれていました。ジャミラなんて悲しすぎて、泣いていましたから。
守本:僕らが惹かれたのは、ヒーローの光と影だったんだと思います。
水谷:今はヒーローに、ものすごい潔癖さを求める時代です。純白なヒーローしか認められなくなっている。
アンダーマンはグレーなヒーローですか。
一同:そうですね。
守本:例えばマーベルとバットマンの違いにも近いかもしれない。マーベルが潔癖だとすれば、バットマンには影がある。時代性も含めて、闇のヒーローを描く時のコントラストが、今は強くなっているのでしょうね。
本作では、ヒーローであることが父から娘へ受け継がれる「宿命」のように描かれます。この設定には、どのような思いがあったのでしょうか。
守本:「宿命」を出発点にしたわけではありません。僕らは少し天邪鬼で、ひねくれているからこそ、王道をベースに考えた方がいいのではないか、と。「最大の敵は自分自身」という設定もそうですが、さらに最大の敵が自分の身内だった時、それを倒すのではなく、父である彼をどう癒やすのか。非暴力というベースのなかで考えた物語です。
高橋:父は「これだ」と信じて戦ってきたことに途中で疑問を抱き、失踪する。娘はそれを感じ取り、自分の言葉で父に伝え、非暴力に向き合わせようとする。親子は戦うことになるけれど、その戦いがあるからこそ分かち合い、最後は非暴力の方向へ向かっていける、という設定です。
水谷:ただ、あの後どうなるんでしょうね。話せば話すほど、あそこで終わられると、観る人は「どうなったの?」と困るだろうなと思います(笑)。
守本:時代性を意識して非暴力にしたわけではないんです。ただ、非暴力を主張したいわけでもない。
水谷:でも、時代は意識せざるを得ないと思います。その瞬間ごとに「今はこうじゃないか」と考える。その感覚が、僕らのベースにあるので。
守本:もともとは、暴力でも非暴力でもない「何か」を考えていました。その根元にあったのが、仏教用語の「空」です。実体がないもの、ひとつに決められないもの。暴力でも非暴力でもない、その間をどう縫っていくか。「戦わない戦い」という矛盾を解消するわけではないけれど、「空」は4人が納得できたキーワードでした。
高橋:それを娘から教えられる、というのが大きなポイントです。親に教わるのではなく、子どもに教えられる。親にとっては受け止め方がまったく違うし、重いですよね。
水谷:そこには、自分たちの生活のリアリティもある。自分たちが生きてきた時代、親が生きてきた時代、子どもが生きている時代は違います。親から教わったこと、子どもに教えようとしても教えられないこと、逆に子どもから教わること。そういうものを突きつけられる年齢になったんです。
高橋:親から感じることと、子どもから感じることの間に、自分たちはいる。4人で話すなかで、それが自然に入り込み、物語の骨組みになりました。
永戸:15年前は、僕らももっと「行け行け」という感じでした。今は子どもたちが大きくなり、親が亡くなったり、死を意識する年齢になった。人生を俯瞰して見られる時期というか、この年齢にならないと描けなかったことだと思います。
高橋:「空」や空海の考え方も、この年齢だから少し理解できる。今の自分たちでなければ描けない世界観だったと思います。4人で集まって、ただファッショナブルな映像を作って終わっていたら、「それは何なんだ」という話になる。ファッションブランドが作る、ただの映像にならず、この作品が生まれたことを誇りに思います。
JONIOさんは以前、『LAST ORGY 2.1』の連載で、『豪姫』『利休』『浮草』『心中天網島』『もう頰づえはつかない』などを挙げていました。そうした日本映画の映像美や作家性は、『UNDERGIRL』にも反映されていますか。
高橋:LAST ORGY 2.1は、民藝の話が多かったから、その視点から『豪姫』や『利休』などを選んだんです。今回は、そもそもアンダーマンや特撮ものが出発点だったので、日本の古い映画の美術や構図を意識的に持ち込んではいません。とはいえ、そういう要素が入っても、すごく面白いとは思いますけどね。次の題材にいいかも。
昭和のヒーローと、昔でも今でもある「Xゾーン」
JONIOさんは、NIGOさんから贈られた、『愛の戦士レインボーマン』の主人公・ヤマトタケシの「ヨガの眠り」のフィギュアを『Instagram』のストーリーに載せていました。昭和の実写ヒーロー作品は、本作にどのような影響を与えていますか。
高橋:『UNDERGIRL』と「UNDERMAN」のビジュアルには、『ウルトラセブン』や『レインボーマン』をかなり参考にしたところがあります。その『レインボーマン』に出てくる、ヤマトタケシがヨガをする場面では、全身が真っ白に塗られている。あのビジュアルも、今回の表現の着想源になっているかもですね。
ちなみに、ちょうどNIGOの事務所に行った時、「ヨガの眠り」のフィギュアが2体置いてあったんです。「ヤマトタケシじゃん」と言ったら、「JONIOくん、好きでしょ」と、帰りにひとつくれました。今は家に飾っています。
守本:あれほど思想の強い作品でも、子どもの頃は「思想が強い」とは思わずに観ていたんですよね。
水谷:今のヨガのイメージとは違いますからね。インドで修行してきたヒーローです。
永戸:そういう「コク」に惹かれていたんです。コクが強いものも、表面がさらっとしたものも両方観ていましたが、今も(頭に)残っているのはコクの部分。『仮面ライダーアマゾン』にもすごく惹かれました。ほとんどしゃべれなくて、「アマゾン!」と言う。名前からしてすごいですよね。
本作には昭和のヒーロー作品を思わせるノスタルジーがある一方、人物の葛藤や映像表現には現代性があります。その2つを、どう共存させたのでしょうか。
守本:共存させたいという思いはずっとありました。ただ、それができているのか、できていないのか、自分たちにも分からない状態だったかもしれません。
高橋:観た人から、昭和っぽさと、僕の好きな東欧の作家のような雰囲気が混ざっていると言われました。そういうものは、狙わなくても自然と出るんだと思います。
守本:物語を一直線に追うというより、コラージュやモンタージュに近い構成です。一つひとつのシーンや塊が、何かを象徴している。
水谷:全員に唯一はっきり見えていたのが、「昔っぽくもあり、今っぽくもある」という地点でした。でも、どうすればそこへ行けるのかは分からなかった。
高橋:その「Xゾーン」だけは見えているけれど、行き方が分からない、という感じでしたね。最初にドラマ仕立てのパートがあり、シュールな映像や戦いのシーンもある。いろいろなことを描こうとしてバランスを取った結果、コラージュのようになった。それが良いバランスになったと思います。
初めての映画づくり──「ちゃんと作る」から「壊す」まで
脚本には4人全員がクレジットされています。初めての映画『UNDERGIRL』は、実際どのように作られていったのでしょうか?
水谷:実は撮影初日が終わった後も、翌日撮る部分の脚本が煮詰まっていなくて、みんなで話し合って決めていました。「これでは暴力と非暴力の話になっていない」「確かに。では、どうすればいい?」「このシーンを足そう」と。その場で急に「雨を降らせよう」と言い始めたり(笑)。
高橋:やりながら、自分たちにも答えが分からない。発見を重ねながら、予算や時間も含めて、今どこまでできるかを考える。そのすべてがストーリーにつながっていきました。暗中模索のなか、即興的に生まれた物語です。そのピュアな感じが、作品にもきちんと出ていると思います。
守本:映画づくりの方法論は話として聞いていて、そこへ向かっているつもりでした。でも、現場に立った瞬間、想像していたものとはまったく違いました。
高橋:助監督に、カットのつながりなど映画の基本を教えてもらい、「そういうことなのか」と勉強しながら進めました。それをこなすので精一杯だけれど、自分たちにしかできない映像をどう詰め込むか、最後の最後でやっとひねり出せました。
水谷:教えられた通りに作ったら、普通の映画になるだけではないか、という変なプライドもありました。
高橋:それはかなりありました。7割ぐらい進んだ時点でも、「確かに映画にはなっているけれど、全然面白くない」と思っていた。「お蔵入りにしよう」と本気で考えました。物語にはなっていても、自分たちらしさがない。最後の土壇場で、それを何とか加えることができ、ようやく形になりました。
制作には、どれくらいの期間がかかりましたか。
永戸:1年半ぐらいですかね。撮影には大きく2つの山があり、最初の山で終わるはずでした。でも、完成版に使った最初の山の映像は、10〜20%ぐらいになりました。
高橋:撮影日自体は、前半3日後半3日で、合計で6日ほどです。前半の撮影(最初の山)では全員が大きな挫折を味わいました。お金も使い、たくさんのスタッフに動いてもらったのに、編集してみるとストーリーがつながらず、面白くもなっていない。「これはまずい」と。
翌日の脚本を前日に変えるとなると、俳優やスタッフへのディレクションも大変だったのではないでしょうか。
守本:当日に「え?」となることもありました(笑)。分単位でスケジュールを組んでいたのに、東京での撮影日に信じられないほどの大雨が降った。そういうことも含めて、その場で「では、どうしよう」と考えるしかない。「今この瞬間に、こういう橋を探してくれ」と、動き続けていました。
1回目(前半)の撮影は、とにかくスケジュールに合わせて、どうすれば予定したところまで終えられるかを考えた。2回目(後半)は、撮りながら脚本も変わっていきました。「ここはまだできていない」「これで本当にいけるのか」と話し、その場で「では、こうしよう」と決める進め方でした。
制作の途中では、「ちゃんと作る」ことと、自分たちらしく「壊す」ことのせめぎ合いもあった?
高橋:守本は監督として、「この物語をどう観客に理解させるか」というゾーンに一度入った。それはとても重要ですが、それだけで作ると普通の映画になってしまう。そこで僕らは、客観的に見て「自分たちらしさ」をどう作るか、どう壊すかを考えていました。一緒に作っているけれど、どこかを壊さなければならない。
永戸:「壊す」という段階にたどり着くまでが大変でした。そこから先は、僕らにとって割と得意な分野です。物語も映像も、どう壊すかを考えることで、やっと自分たちらしさが出てきた。
守本:僕自身も「壊さなければ」と思っているんですが、壊せないんです。
高橋:そこが面白かった。できていないものは、壊せないんですよ。守本が途中からがっちりとベースを作ってくれたから、僕らもやっと壊せた。
守本:ただ壊すだけでは深みがなくなります。監督補佐の清水さんにも入っていただき、「アンダーマンとは何か」「ユリとは何か」という背景や骨組みを作った上で壊していきました。
高橋:観客がどのキャラクターに感情移入するのか。映画として本来考えるべきことを、僕らは分かっていなかった。清水さんと守本がそこを突き詰め、形にしてくれた。でも脚本を読んだ時、僕は「分かるけれど、面白くない」と思った(笑)。そこが本当のスタートでした。
守本:最初の撮影では、いつものグラフィック制作の感覚で、「この絵にはこの意味があるから、この絵を撮ろう」と素材を集めていた。2回目で、ようやく映画としての作り方になりました。
守本さんは「UNDERMAN」のビジュアル制作にも携わり、本作で初めて映画監督を務められました。ファッション誌などで守本さんの写真を追いかけてきたファンにとっても非常に楽しみな作品ですが、静止画の世界を1本の映画として動かすうえで、どのようなことを大切にされたのでしょうか?
守本:意外と、スチールと映画はそれほど変わりませんでした。最終的に観た人に何が残るのか、ということは意識していました。スチールの仕事でも、ファッションをどう解釈するかは常に考えています。UNDERCOVERはいわゆるファッションブランドですが、それを観た結果、何が残るのか。
ただ映画では、「この映画を通して何を言いたかったのか」を、より明確に考えなければいけない。ファッションやスチールでは、そこが必ずしも明確でなくても成立する部分があると思います。
高橋:守本とはずっと一緒にルックや写真を作ってきましたが、彼の写真は、ほとんど「写真」ではないんです。映像と同じというか、一瞬を切り抜くだけではなく、その前後まで感じさせる。だから絵が動いても、やっていることはそれほど変わらないように見えました。実際に撮影している太郎は、ものすごく大変だったと思いますけど(笑)。
水谷:動くと厄介です(笑)。さらに物語が付くと、こんなにも大変なのかと思いました。
守本:写真には含みの良さがありますが、映画では、それをもう少し明確にしなければならない。そのことを、反省も含めて強く感じました。
大人であり、子どもでもある
4人は、それぞれの立場から『UNDERGIRL』にどのような視点を持ち込んだのでしょう?
高橋:4人全員が演出であり、監督なんです。
水谷:目の前のものに対して、全員で意見を言い合う。ベースはもちろん守本が作っていますが、「ここはもう少しこうじゃない?」「これが気になる」「そうだよね」というやり取りがずっと続く。監督を監督するような状態です。
高橋:その場で話し合い、瞬時に答えを出して行動する。普通の4人が集まったら、なかなかできないと思います。それがこのチームではできるんです。
最後に、それぞれの分野でキャリアを重ねてきた大人4人が集まり、ヒーローについて真剣に語り合いながら、ひとつの作品を作っていく。その時間は、皆さんにとってどのようなものでしたか?
水谷:それ自体が、ある種のドキュメンタリーであり、リアリティなんだと思います。親が年齢を重ね、子どもが育ち、その間にいる自分たちが、こういう話を真剣にしている。
永戸:僕らにとって、ヒーローは他の人よりも身近なのかもしれません。『ウルトラマン』や『仮面ライダー』が好きだから。人によっては「なぜ、いい大人が今もヒーローものを?」と思うかもしれないけれど、僕らにとっては日常なんです。今も普通にヒーローものを観たり、考えたりしている。
高橋:そういう話をきちんと物語にしようと、真剣に話せている今は、すごくいい時期だと思います。まだ遊んでいる部分もありながら、深い話をして、それを映像にしている。今の自分たちの立場や考え方も真面目に捉えつつ、大人であり、子どもでもある。その間を行き来できることが、僕ら4人らしさなのかもしれません。
『UNDERGIRL』
制作:UNDERCOVER PRODUCTION / her inc.
配給:UNDERCOVER
脚本:UNDERCOVER PRODUCTION(高橋盾/永戸鉄也/守本勝英/水谷太郎)
製作総指揮:高橋盾
監督:守本勝英
出演:中島セナ/松田龍平/水原希子/倍賞美津子
上映期間:2026年9月14日(月)〜9月20日(日)
会場:SPACE PART 3 by PARCO(渋谷)




















