韓国発の実験的プロダクトレーベル PLASTICPRODUCT について ── 生産背景とブランド哲学から読み解く | Interviews
日本初となるプロジェクト MPA PLASTICPRODUCTに際してインタビューを実施
韓国発の実験的プロダクトレーベル PLASTICPRODUCT について ── 生産背景とブランド哲学から読み解く | Interviews
日本初となるプロジェクト MPA PLASTICPRODUCTに際してインタビューを実施
トレンドの更新速度が加速し続ける現代のファッションシーンにおいて、韓国は今や単なるムーブメントの発信地ではなく、独自の価値観と生産背景を備えた新たなクリエイティブハブとして存在感を強めている。音楽、アート、ポップカルチャーが複雑に交差する土壌からは、既存のファッションの枠組みに収まらない数多くのブランドが誕生してきた。その多くは、鋭利なビジュアル感覚と確かなプロダクトメイクを兼ね備えながら、世界規模で独自のポジションを確立し始めている。
そうした韓国ブランドの潮流の中にありながらも、〈PLASTICPRODUCT(プラスティックプロダクト)〉はどこか異質な存在感を放つ。ブランド名にも掲げられている“プラスティック”という言葉を起点に、大量生産や工業化、あるいは近代的革新の象徴として扱われてきた素材や概念を、独自の視点から再解釈。私たちが日常の中で無意識に受け入れている既成概念に対し、ほんの少し角度を変えることで、新たな機能や意味、価値を浮かび上がらせていく。
そのアプローチは単なるファッションデザインに留まらない。衣服をプロダクトとして捉えるだけでなく、オブジェやインスタレーション、さらには体験そのものへと接続しながら、ブランドの輪郭を拡張し続けている点にこそ、〈PLASTICPRODUCT〉の本質がある。そこには、“韓国ブランド”という一括りの文脈では語り切れない、実験性と批評性、そしてユースカルチャーに対する鋭い感覚が宿っている。
そんな〈PLASTICPRODUCT〉が、5月10日(日)に日本初となるプロジェクト MPA PLASTICPRODUCTを開催。本プロジェクトでは、実験的なサウンドアプローチとファッションを横断的に結びつけながら、“音の伝達”そのものを再定義する試みを展開する。Tシャツを単なる衣服ではなく、音を発する楽器/装置として機能させる今回の取り組みは、同ブランドが掲げる思想を、極めて直接的かつ体感的に提示するものになるだろう。
今回『Hypebeast』では、クリエイティブディレクターのミンチョル・ソ(Mincheol Seo)に、日本初プロジェクトに込めた意図とともに、ブランド設立の背景からプロダクト哲学、そして〈PLASTICPRODUCT〉が見据える未来像について話を訊いた。
見慣れたものを少し違う角度から見て、そこに新しい感覚や視点を見つけることが好きでした
Hypebeast:PLASTICPRODUCTを立ち上げた背景について教えてください。
ミンチョル・ソ:最初のきっかけは、“生産者”という存在そのものへの興味でした。世界に直接的、あるいは間接的に影響を与える立場として、何かを生み出す人には責任や重みが伴うと思っていました。例えば建築家は、世の中の一定の空間を使って人の感覚や行動に影響を与える場所を作りますよね。それと同じように、プロダクトを作って世の中に送り出す人にも、社会へ作用する役割があると感じています。そうした考えを持つ中で、「自分は何を作るべきなのか」を考えるようになりました。そして、アイデアを実際に形にして世の中へ提示する行為そのものに強い好奇心を抱いたことが、PLASTICPRODUCTを始めるきっかけになりました。
PLASTICPRODUCTというブランド名の由来を教えてください。
PLASTICPRODUCTは、普段日常でよく見られる“プラスチック”を少し違う視点から見た感覚から始まりました。素材としての性質や一般的なイメージとは、あまり関係のないアプローチです。僕自身、プラスチックで作られた物体に対して、不思議なほど“存在感の軽さ”を感じていて。その軽さが、むしろ魅力的に映りました。かつては大量生産や革新の象徴だったプラスチックが、今ではあまりにも身近な存在になり、人々にとって軽やかに消費されるものになっている。その感覚にも興味を惹かれていました。そういった感覚は、結局「対象を違う視点から見ること」によって発見されたものだと思っています。昔から、見慣れたものを少し違う角度から見て、そこに新しい感覚や視点を見つけることが好きでした。だからこそ、これからも既存のものを別の方法で見つめ直し、その中で見つけた魅力的な視点を共有していきたいと思っています。そう考えていた時に、ふと「プラスチックみたいなものを作ろう」と思い、PLASTICPRODUCTという名前を付けました。この背景を知らない方には環境問題やプラスチック素材そのものに関心のあるブランドだと思われることも多いですが、実際には、そういった文脈というより、自分自身の視点や感覚から始まったネーミングに近いです。
PLASTICPRODUCTにおいて韓国のカルチャーや環境は、ブランドの思想にどのような影響を与えていますか?
そのテーマについては普段からよく考えていますし、今もずっと追い続けている問いのひとつです。自分が韓国という環境で育ったことによって、どのような影響を受けているのかも頻繁に考えます。ただ、ブランドの哲学そのものというより、PLASTICPRODUCTを始める原動力には、韓国の人々から受けた影響が確実にあると思っています。例えば韓国には、実際にプロダクトを作ることのできる生産インフラが整っていて、その環境があったからこそ、比較的早い段階でブランドをスタートすることができました。一方で、自分の視点やブランドの思想が、韓国特有のカルチャーや社会環境からどれほど影響を受けているのかについては、まだ簡単には答えを出せない感覚があります。むしろ、それはこれからも長い時間をかけて考え続けていくテーマなのだと思っています。
PLASTICPRODUCTから展開しているPLASTICPRODUCT ZINEについても教えてください。
先ほどお話ししたように、PLASTICPRODUCTという名前には自分が目指していた方向性が込められている一方で、とても伝わりにくいネーミングでもあると感じていました。だからこそ、ブランドの思想をより説得力を持って伝えられる、別のメディアが必要だと思ったんです。単なるルックブックや映像ではなく、もっと立体的にコミュニケーションできる方法を考える中で、自然と紙媒体に興味を持つようになりました。ブランドを説明する“本”のようなものがあればいいと思ったのですが、同時に、ブランドを直接的に解説するものにはしたくなかった。むしろ、雑誌よりもシンプルな構造を持ちながら、継続して発信できる“ZINE”という形式に魅力を感じました。また、PLASTICPRODUCT ZINEは、ブランドとは切り離しても独立した価値を持つ存在であってほしいとも考えています。たとえブランドを間接的に説明していたとしても、PLASTICPRODUCTを知らない人にとって、一冊の出版物として成立しているべきだと思ったんです。そこで、毎号“プラスチックと似た感覚を持つ対象”をひとつ選び、テキストを一切使わず、約1000枚の写真のみで構成されたZINEを制作しています。記録写真のような視点で撮影されたイメージだけでコミュニケーションすること。このルールを軸に、継続していきたいと思っています。5冊、10冊と積み重なっていけば、ブランドを言葉で直接説明しなくても、自然と理解してもらえるようになるのではないかとも考えています。同時に、“対象を違う視点から見ることで発見した感覚”を共有し続けるメディアそのものにも価値があると思っています。
今回ファッションとサウンドがリンクした、MPA プラスチックプロダクトを立ち上げた経緯について教えてください。
本プロジェクトに関しては、PLASTICPRODUCTのDNAを維持しながらもう少し直感的にコミュニケーションできるプロジェクトをやってみたいと思いました。PLASTICPRODUCTに属する形ではありますが、「対象を違う視点から見る」という同じDNAを共有しています。そして、大量生産品やワークウェアを新しい視点で解釈しています。
なぜ今回“サウンド”という領域へ拡張したのでしょうか?
これまでPLASTICPRODUCTは、“服”というメディアを通してブランドを説明してきた部分が大きかったと思います。先ほどの話にも通じますが、自分の中では以前から、必ずしもファッションだけに限定する必要はないという感覚がありました。僕にとって重要なのは、どんなメディアを使うかよりも、それによって何が、どのように伝わるかだと考えています。だからこそ今回、サウンドという領域にも自然に興味が向かいました。
本プロジェクトにおける、「音の伝達方法を再定義する」というアイデアはどのように生まれましたか?
僕たちは普段、音を再生するために最適化されたスピーカーを通して音楽を聴くことを当たり前だと感じています。でも、自分の中では、それだけが唯一の方法ではないと思っていました。状況によっては、クリアで立体的に聴こえる音だけが“良い音”とは限らないとも感じていたんです。だからこそ、従来とは異なる方法で音を伝えるサウンドシステムを提案してみたいと思いました。今回ライブアーティストとして参加する日本のアーティスト VQの存在も、その発想に繋がっています。彼は日常的に使われているiPhoneを“楽器”として扱っていて、そのアプローチに、僕が考える“別の視点から見たユーティリティウェア”の感覚と近いものを感じました。普段見慣れているものを異なる用途や視点で捉え直すという意味で、共通する感覚があったと思います。
なぜ既存のオーディオ機器やスピーカーに依存しないのでしょうか?
先ほどの話とも少し重なりますが、僕たちは常に「対象を別の視点から見る」という感覚を大切にしています。音に関しても、完成されたスピーカーを通して届けることだけが正解ではないと思っています。既存のフォーマットや機能性に依存するのではなく、音の伝わり方そのものに別の可能性があることを提示したい。そうした視点を共有すること自体が、今回のプロジェクトにおける重要なテーマのひとつになっています。
Tシャツを“音を出す楽器”として実装しているとのことですが、このプロジェクトにおいて最も重要だった要素は何ですか?
先ほどお話しした内容とも重なるのですが、今回のプロジェクトではVQの存在が非常に大きかったです。彼が持つ感覚と、PLASTICPRODUCTが掲げる“別の視点から見たユーティリティウェア”という思想が、どこで共鳴できるのかを探るところから始まりました。その中でも、最も重要視していたのは「魅力的な音が鳴ること」でした。単なるコンセプトとして成立するだけではなく、実際に音として面白いかどうかを大切にしていたんです。また、“服を楽器として使う”というアイデア自体は、今回ディレクションで参加しているソンミン(Sunmin Yuk)から提案されたものでした。子どもが服のジッパーを鳴らして遊ぶように、本来の「機能」を別の視点から再解釈する感覚に、とても面白さを感じました。“楽器”や“服”という既存の役割を、もう一度違う視点で定義し直すこと。そのアプローチ自体が、僕たちのブランドアイデンティティとも強く重なっていると思います。
Tシャツへのアプローチにも通じると思いますが、こうした“物事を再解釈する”という姿勢をどのように定義していますか?
僕たちはユーティリティウェアというものを、従来とは少し違う視点で捉えようとしています。というのも、伝統的なブルーカラーワーカーのための機能服は、すでに十分存在していると思っているからです。だからこそ、“既存の機能”をそのまま追求するのではなく、“機能そのものを別の視点で解釈すること”によって、新しいユーティリティウェアを提案したいと考えています。例えば、ネックピロージャケットや腰サポータージャケットは、その考え方を象徴するプロダクトです。従来の機能服という観点から見ると少し特殊に映るかもしれませんが、“現代人の生活”という視点で見ると、不思議と説得力があるとも感じています。僕たちは、こうしたアプローチを“別の視点から見たユーティリティウェア”と定義しています。また、その考え方は衣服だけに限りません。例えば、記録はできるけれど簡単には読めない“黒い紙のノート”や、単に時間を確認するためではなく、周囲を見回すきっかけを生む時計、さらにはモバイルバッテリーを単なる電子機器ではなく“Transfusion Pack”として再解釈する試みも、その延長線上にあります。そうした形で、僕たちはさまざまな機能や日常的な物事を、常に別の視点から捉え直しながら制作を続けています。
制作過程で直面した課題と、その解決方法を教えてください。
今回のプロジェクトにおいて、最も重要だったのは“楽器として成立する音”を生み出せるジッパーを見つけ出すことでした。ただ単に音が鳴るだけではなく、実際に身体の動きと連動した際にどのような響きやノイズが生まれるのか、その質感まで細かく検証する必要がありました。ジッパーの配置や組み合わせについては、何度もサンプルを制作しながら試行錯誤を重ねています。今回制作を担当したデザイナーのイ・インウ(Inwoo Lee)のアトリエには、長年収集してきたヴィンテージジッパーや工業資材が数多く保管されており、そのアーカイブの中から素材を選定していきました。メインには、無骨でインダストリアルな空気感を持つIDEAL製のジッパーを採用しながら、YKKの止水ジッパーやナイロンジッパーなど異なる特性を持つパーツを組み合わせています。それぞれの素材が持つ音の違いや質感を活かしながら、視覚と機能の両面でバランスを探っていきました。
今回が日本での初プロジェクトですが、日本で発表する意義をどう捉えていますか?
日本と韓国は地理的には近い存在でありながら、カルチャーや価値観、ファッションに対する感覚には明確な違いがあると感じています。だからこそ、日本は以前から個人的にも非常に興味深い場所でしたし、自分たちのプロジェクトを実際に持ち込み、直接コミュニケーションを取ってみたいと思っていました。特に日本のファッションシーンには、単純なトレンドや消費とは異なる独自の空気感があり、プロダクトの背景や思想に対して深く向き合う文化が根付いている印象があります。PLASTICPRODUCTとしても、そうした環境の中で自分たちの価値観やアプローチがどのように受け取られるのかに強い関心を持っています。そのため、今は短期的な売上や商業的な成果を急ぐことよりも、日本という環境やカルチャーに対してしっかり歩調を合わせながら、まずはブランドの思想やプロジェクトの本質を丁寧に伝えていくことが重要だと考えています。
今後、日本で継続的な展開やコラボレーションの予定はありますか?
現在、日本では『softs(ソフツ)』というショップと継続的にコミュニケーションを取りながら、一緒にプロジェクトを進めています。吉祥寺のビル4階屋上に構えられた小さなスペースなのですが、初めて訪れた時から強く印象に残っていました。現在も『softs』と共同でプロダクト制作を進めていますが、今後もプロダクトに限らず、イベントやインスタレーションなど、さまざまな形で継続的に協業していければと思っています。
最終的にPLASTICPRODUCTが提示したい価値やビジョンを教えてください。
今の時代は、あらゆる情報やプロダクトが瞬時に消費されていく一方で、まだ見方を変えることで新しい価値や意味を見出せる対象が数多く残されていると思っています。PLASTICPRODUCTとしては、そうした“別の視点”の存在を、プロダクトやプロジェクトを通して提示し続けていきたいと考えています。そのためにも、単に新しいものを作ることを目的にするのではなく、自分たちなりの視点や疑問を起点にしながら、継続的に魅力的なプロダクトや実験的なプロジェクトを発表し続け、その過程の中で自分たち自身も予想していなかった新たな解釈や反応、あるいは別のカルチャーとの接点が自然と生まれていくことに大きな面白さを感じています。ブランドとして何か明確な答えを提示したいというよりも、むしろ既存の見方や価値観に対して小さな違和感や余白を残し続けること。その積み重ねによって、新しいコミュニケーションや表現が自然に派生していく状態こそが、PLASTICPRODUCTにとって理想的な在り方なのかもしれません。
PLASTICPRODUCT
2020年、ソウルを拠点にミンチョル・ソによって設立されたPLASTICPRODUCT(プラスチックプロダクト)は、日常に溢れる“プラスチック”という存在を起点に、既存のプロダクトや価値観を再解釈する韓国発のファッションレーベル。ワークウェアや工業製品から着想を得た無機質かつ構造的なデザインを特徴とし、曲線的なカッティングやインダストリアルなディテールを取り入れながら、衣服を単なるファッションとしてではなく、一種のプロダクト/オブジェとして捉えている。また、ファッションの領域に留まらず、インスタレーションやサウンド、ZINE制作など多角的なアプローチを通してブランド表現を拡張。MPA PLASTICPRODUCTでは、“大量生産品”という概念を新たな視点から再定義しながら、実験的なプロジェクトを展開している。



















