“ファレル”ウィークに見る時代の潮流

右も左もストリートだったフェーズは終わり、右肩上がりだったヒップホップ文脈での成長にも陰りが見え始めた昨今、ファレル・ウィリアムスが再び勢力地図を塗り替えるのか

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6月20日〜25日(現地時間)で開催された2024年春夏シーズンのパリ・ファッションウィーク・メンズ。今季の目玉は、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)のデビュー戦となった〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉で異論の余地はないだろう。SNSなどを通じて、ご存じの方も多いと思うが、リアーナ(Rihanna)を起用したキャンペーンのビルボードや、ショー開催当日に“LVovers”が『The New York Times』の1面を飾るなど、街中が〈Louis Vuitton〉一色になったと言っても過言ではないぐらい期待を煽りに煽った。これまでも壮大なスケールでショーを開催してきた〈Louis Vuitton〉だが、今回は完全に別次元。内容については後述するが、ショー発表後も、盟友 NIGO®️(ニゴー)の〈KENZO(ケンゾー)〉をはじめ〈DIOR(ディオール)〉〈Loewe(ロエベ)〉〈Junya Watanabe MAN(ジュンヤ ワタナベ マン)〉など、他ブランドにも積極的に出席したファレル。パリコレ前日の19日(現地時間)には、自身の設立した「Joopiter(ジュピター)」が主催する、サラ・アンデルマン(Sarah Andelman)キュレーションのオークション「Just Phriends(ジャスト フレンズ)」もキックオフしたため、ファッションウィークはもはや“ファレル”ウィーク状態に。

直近のパリ・ファッションウィークでは、相次ぐK-POPスターのアンバサダー就任の煽りを受け、やや影の薄かったアメリカ勢だったが、今季はファレルの〈Louis Vuitton〉目当てに多くのセレブリティが渡仏。レブロン・ジェームズ(LeBron James)、ジェイ・Z(JAY-Z)、ビヨンセ(Beyoncé)、リアーナ、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)、Quavo(クエヴォ)、Offset(オフセット)、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)、ジェイデン・スミス(Jaden Smith)らがフロントローに陣取った。肝心のショーでは、ファレルと長年の友人であるプシャ・T(Pusha T)とノーマリス(No Malice)がクリプス(Clipse)としてランウェイを歩き、さらには13年ぶりに新曲が披露されるという胸アツ演出や、アフターパーティでのジェイ・Z+ファレルのパフォーマンスなど、ショー全体を通してヒップホップ/ブラックカルチャー勢の圧倒的な底力を見せつけた。

コレクション自体は、先述の『The New York Times』のインタビューにて「私は消費者の視点に立ったクリエイティブなデザイナーです。セントラル・セント・マーチンズは出てませんが、ストアに足を運び、実際に購入してきたので、自分の好みは分かっている」と述べられているが、まさにファレルのクローゼットを再現したかのような彼の審美眼と類稀なるセンス溢れる内容であり「売れるだろうな」というのが正直な感想だ(詳細についてはこちらから)。しかし、明確なトレンドセッターが不在の今、ファレルによる〈Louis Vuitton〉が、2010年代後半のゲームチェンジャーとなったデムナ(Demna)やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のように、大きな流れを生み出すかと問われると疑問符が残る。ある種の反則技を巧みに用い、炎上商法に近い形で業界を席巻した両者と比較すると、良くも悪くも期待を裏切らない“ザ・ファレル”的な予定調和感は否めない。また、彼らカニエ・ウェスト(Kanye West)周りは、当時それぞれキャリアを積んでいたものの、大枠で見るとまだまだアップカミングな存在で、それゆえの面白さと「何が変わる」という期待感があったと考える。また、カニエとは対照的に、この10年ぐらいで見れば、ファレル起因でヒットしたアイテムやスタイルが少ないことにも触れておこう。

このファレル・ウィリアムスのキャリアパスは、さまざま面で大きな意味を持つが、タイラー・ザ・クリエイターやエイサップ・ロッキーなど、ファッションコンシャスな後輩たちに新たな可能性を示した点も重要な功績の1つだ。現にタイラーは『The New York Times』に「僕と彼は20も歳が離れているけど、その事実が今の年齢の僕に何をもたらすかっていうと、ああ、まだ天井はないのかって感じなんだ。彼の年齢で、素晴らしい功績や経歴を持つ人が、まだ新しい世界を求めて努力するだけでなく、好奇心を持ち続け、挑戦する新しい何かを探し、自身のクリエイティビティを音楽だけでなく、他の何かに生かしているのを見ることができる。彼は努力しただけでなく、実際にそれを成し遂げた。これは僕にとって大きな意味を持つ」とコメント。

右も左もストリートだったフェーズは終わり、右肩上がりだったヒップホップ文脈の成長にも陰りが見え始めた昨今。ヴァージル・アブローを失い、今なお多大な影響力を持つカニエの離脱により、以前までの求心力を失ったアメリカ勢。まだファーストコレクションを発表したばかりだが、ファレル・ウィリアムスが再び勢力地図を塗り替えるのか、その双肩には期待と重圧がのしかかる。

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