なぜ、このデニムは特別なのか? Lee x Nigel Cabourn OX’ed Silver を徹底解剖
28カ月をかけて開発された新素材“BRURRY DENIM”の誕生背景を、企画チーフ ZUKI氏に聞く
なぜ、このデニムは特別なのか? Lee x Nigel Cabourn OX’ed Silver を徹底解剖
28カ月をかけて開発された新素材“BRURRY DENIM”の誕生背景を、企画チーフ ZUKI氏に聞く
今年6月、英国を代表するデザイナー ナイジェル・ケーボン(Nigel Cabourn)が逝去したという訃報は、ファッション業界で言葉にできないほど大きな喪失感をもたらせた。ただナイジェル・ケーボンの美学や意思は、優秀なデザインチームへ引き継がれ、より結束感を高めている。
そんなことを強く感じられたのが、9月12日(土)に世界同時発売される〈Lee(リー)〉と、〈Nigel Cabourn(ナイジェル・ケーボン)〉のワークウェア・スーチングレーベル〈Nigel Cabourn OX’ed Silver(ナイジェル・ケーボン オックスドシルバー)〉によるコラボレーションだ。〈Lee〉を代表する“101”の誕生101周年を記念した本プロジェクトでは、アメリカンワークウェアの歴史を築いてきた〈Lee〉と、ヴィンテージクロージングを独自の視点で再解釈してきた〈Nigel Cabourn〉、そして日本の職人技術を生かす〈Nigel Cabourn OX’ed Silver〉の知見を融合。両者のアーカイブとクラフトマンシップを反映したデニムコレクションが完成した。
本コレクションは、「101が誕生した1925年にヨーロッパで生産されていたなら」という仮定の元、〈Lee〉のアーカイブに独自のディテールや素材を落とし込み再構築。その象徴となるのが、28カ月もの時間を掛けて開発されたメイドインジャパンの生地“BRURRY DENIM(ブラーリー デニム)”だ。なかでもLot.2600は、1920年代にフランスで生産されたアンダーウェアを着想源に、“偶発”“不均一”“不安定”な糸の表情を意図的に再現。太さと撚りがそれぞれ異なる3種類の経糸を設計し、旧式の力織機で織り上げたセルビッジデニムに仕上げている。
コレクションでは、染色方法や綾目の異なるLot.2600、Lot.2601、Lot.2602という3種類の“BRURRY DENIM”を採用。1925〜1939年の鉄道員をイメージした“Railwayman”にはLot.2600を、1940〜1944年の牧場労働者に着想した“Ranch Worker”と、1943〜1946年のロデオクラウンをモチーフとする“Clown”にはLot.2601およびLot.2602を使用している。ここからは、3つのシリーズの背景と特徴をそれぞれ見ていこう。
Railwayman 1925〜1939
1920〜30年代、鉄道は産業の発展を支える重要なインフラとして欠かせない存在だった。“Railwayman”では、〈Lee〉がアメリカの鉄道員に向けて展開していたワークウェアをベースに、同時代のヨーロッパのワークウェアに見られるディテールを融合。ロコジャケットやオーバーオール、デニムパンツには、ハンク染めにタンニンと鉄媒染を重ねた“BRURRY DENIM”のLot.2600を採用し、奥行きのある色合いと荒々しい凹凸感を引き出している。
「RAILWAY MAN LOCO JK」ジャケット 90,200円、「RAILWAY MAN OVERALLS」オーバーオール 99,000円、「RAILWAY MAN 101」パンツ 63,800円<すべてLee x Nigel Cabourn OX’ed Silver/OUTER LIMITS press@outerlimits.co.jp>
Ranch Worker 1940〜1944
ワークウェアメーカーとして成長した〈Lee〉は、1925年にロットナンバー“101”を発表し、カウボーイ市場へと進出した。“Ranch Worker”では、1940年代に牧場で働いていたランチワーカーをテーマに、第二次世界大戦下の物資不足から着想。メイン素材には、右綾のLot.2601と左綾のLot.2602という2種類の“BRURRY DENIM”を採用している。インディゴにはロープ染色、グリーンには英国軍のデニムを着想源としたチーズ染色を施し、英国の物資統制規格“CC41”や英軍のバトルジャケットに見られるディテールも取り入れた。
「Ranch Worker 101-J」ジャケット 79,200円、「Ranch Worker 101」パンツ 49,500円<ともにLee x Nigel Cabourn OX’ed Silver/OUTER LIMITS>
Clown 1943〜1946
ロデオ会場で観客を楽しませながら、競技者の安全も守る道化役“ロデオクラウン”。ロデオが競技として発展するなか、ロデオクラウンは観客を楽しませる一方、危険な場面では倒れたライダーを雄牛から守る重要な役割を担っていた。“Clown”では、〈Lee〉のプロモーションウェアと“COWBOY 101”、ヨーロッパのワークパンツを融合。ロデオクラウンが着用していたジーンズを、“BRURRY DENIM”のLot.2601とLot.2602によって現代的に再構築している。
「Clown 101」パンツ 52,800円<Lee x Nigel Cabourn OX’ed Silver/OUTER LIMITS>
こうした3つのシリーズと、その核となる“BRURRY DENIM”を形にしたキーパーソンが、〈Nigel Cabourn〉の企画チーフを務めるZUKI氏だ。ナイジェル・ケーボンの右腕として知られ、20年以上にわたって本人と二人三脚でブランドのものづくりを支えてきた同氏に、“BRURRY DENIM”の開発背景と本コラボレーションの制作秘話を聞いた。
Hypebeast:まずZUKIさんのこれまでの経歴と、ブランドでの役割について教えていただけますか?
ZUKI: 90年代後半まではパリコレなどを展開するコレクションブランドで服作りをしていました。そこから魅せるための服作りよりも、素材そのものを突き詰めたいと思うようになって。それから10年ほど素材作りに没頭し、自分の立ち位置を模索していた30代半ばの時、偶然ナイジェルと出会ったんです。2006年シーズンから正式に加わり、それ以来20年間、彼と二人三脚でプロダクトを作ってきました。ナイジェルの右腕であり、“影武者”のようなポジションですね。
今回の「BLURRY DENIM」は、一般的なデニムの作り方とは根本的に異なると伺いました。具体的にどのようなアプローチをとったのでしょうか?
特に異なるのがLot.2600なので、その話をしましょう。今回のプロジェクトは、ロットナンバー101が生まれた1925年に、ヨーロッパで作られていたらという仮定の元に始まりました。そこでヒントになったのが、1920年代に生産されたフランスのアンダーウエア。不均一なストライプの出方に興味を持ち、その切れ端を調査に出したところ、1メートル間で約50%もの撚糸係数のズレがあることが判明したんですよ。そこでアメリカとヨーロッパでは、糸の紡績に大きな差があったと気付いたんです。当時の欧州は第一次世界大戦の影響もあって疲弊していました。電気の供給量が安定せず、水力や蒸気力などの不安定な動力を使っていたことが、当時の機械の技術不足も手伝い、このような不均等なムラ糸ができたのだろうと推測したんです。この不安定な紡績を取り入れたデニムを作ったら、“存在し得なかったヴィンテージ”を生み出すことができるのではないかと思ったんです。
なるほど、今回のデニムのコンセプトになった「偶発」、「不均一」、「不安定」というワードに繋がるわけですね。
例えばデニムでもよく使われる7番手の糸なら撚糸係数は、インチ間11〜12が一般的です。技術の発展した今の日本では、安定させる方が簡単なんですよ。ですが今回は、太さも撚りも異なる3種類の糸を新たに開発し、それをランダムに縦糸に組み合わせて織り上げました。工場からは「物理的に可能か分からない」と言われ、試作だけでとんでもない長さになりました(笑)。だから開発には実に28ヶ月もかかり、これは前代未聞でしたね。ただ不完全なもの、少し足りないものの中にこそ美が宿るという日本人の持つ『侘び寂び』の美学を、デニムに落とし込めたと思います。
デニムの染めにおいても特殊な手法を用いたそうですね。
Lot.2600においては、これまでに誰もやっていないアプローチをしました。ヨーロッパでも、当時は使い古したデニムなどを家屋の断熱材として使われるケースがありました。一緒に入り込んだ釘や金具、枯葉とともに長い年月を経て、壁の中でエイジングしたという仮定を立てました。それを逆説的に作るために、白く精錬していない生成りの糸にピュアインディゴのハンクダイイングを施し、枯葉起因のタンニンオーバーダイイングを重ね、最後に釘・金具起因の鉄媒染を行う流れで染色し、「偶発」、「不均一」、「不安定」を表現した壁中デッドストックのようなデニムを実現させました。この時代はアメリカと違ってヨーロッパではロープ染色が一般的ではなかったため、日本では綛染めと呼ばれるハンクダイイングを採用しました。ロープ染色とは違い、芯まで染める上にタンニンや鉄分も入るので、エイジングに関しては未知数ですね(笑)。
デザインにおいてもLeeのアーカイブに敬意を払いながらも独自のディテールを取り入れていますね。
Leeの偉大なデザインやディテールをオフィシャルで使えるというのは、作り手としてはなんとも贅沢でした。100年前にヨーロッパ企画があれば、当時のワーカーに求められたディテールを駆使すると思ったんです。例えば、カバーオールの襟をヨーロッパのフィッシャーマンウェアに見られる「ホリゾンタルカラー」にしたり、補強の仕様をドイツやイギリスのミリタリーワークウェアに見られる独特のステッチワークに変えています。アメリカ的なワークウェアの骨格に、ヨーロッパの伝統的なディテールがブレンドされている。これがナイジェル・ケーボンだからこそ表現できたハイブリッドな「違和感と美しさ」です。
今回、お披露目されたBRURRY DENIMはどれも個性的です。Leeとのコラボ以外でも使われるんでしょうか?
はい、Nigel Cabournでも展開していきます。実は納期がギリギリ間に合ったという事情もあって、BRURRY DENIMの穿き込みサンプルを作る時間がなかったんです。特にLot.2600は未知数。穿き込むことでインディゴが落ちていく一方で、タンニンと鉄分はより濃く変化していく。そこに紫外線や摩擦、湿気が加わることで、従来のロープ染色デニムとは全く異なるエイジングになるはずです。また今回作ったデニムは、5年、10年と着込んで、自分だけの味を出していけるプロダクトです。また「偶発」、「不均一」、「不安定」をテーマにしているので、生産時期でも表情が変わると思います。だから5年、10年後に「2025年ロット」「2026年ロット」というように、年式ごとの表情の違いを楽しんでもらえるような存在になれば嬉しいですね。
ありがとうございました!




















