“Jordan Design Studio” 東京ファイナリストに選ばれた Yuji Wada を直撃 | Interviews
「自分へのラブレター」── 新宿から着想した“記号に頼らない”Air Jordan 1
“Jordan Design Studio” 東京ファイナリストに選ばれた Yuji Wada を直撃 | Interviews
「自分へのラブレター」── 新宿から着想した“記号に頼らない”Air Jordan 1
東京を含む世界8都市で展開される、次世代のクリエイティブな先駆者たちを世に送り出す〈Jordan Brand(ジョーダン ブランド)〉のグローバル インキュベーター “Jordan Design Studio”。東京では、〈KOWGA(コウガ)〉デザイナーの甲賀加純をメンターに迎え、異なる分野で活動する6人のクリエイターがAir Jordan 1(エア ジョーダン 1)というアイコンを独⾃の視点で再解釈することに挑んだ。
次世代を担うクリエイターにフォーカスしたこのプロジェクトについて、甲賀は「クリエイティブの本質を突く企画をやっていることがすごくいいなと思った」と振り返る。参加者たちが作品の背景にある信念やアイデンティティといった内面的な部分まで踏み込んで語り合っていたことも、彼女にとって印象的だったという。その中から東京代表のファイナリストに選ばれたのが、グラフィックデザイナー/アートディレクターのYuji Wadaだ。
1998年神奈川県藤沢市生まれ。文化学園大学を卒業後、幅広いデザイン領域で活動しながら、新宿のセレクトショップ『jackpot』のチームメンバーとしても働く。彼が提示したのは、自身が10年を過ごしてきた新宿の街から着想を得た1足。ウォッシュド加工を施したホースレザーの1枚革でアッパー全体を包み、新宿の高層ビル群を思わせる“スーパーハイカット”に仕立て、ドレスシューズのソールをあわせる。スウッシュ以外のロゴやマークをすべて排し、AJ1のディテールは直径1〜2mmのピンホールのみで再現するという、グラフィックデザイナーがあえて“記号”を捨てた引き算のデザインだ。ソールは交換可能で、長期的な着用を想定。ブリーフケースから着想したシューズボックスや風呂敷式の包装など、開封体験から流通戦略までを含め、1足をデザインした。
甲賀はこの完成形について、「的確でシンプル、理由もコンセプトもデザインも一致していて、パッと見た瞬間に良い意味でショックを受けた」と評する。「Air Jordan 1なのに、全然違うレザーシューズとしての解釈になっているのがすごくいい」。
まだ実感が湧かない様子で照れくさそうにカメラの前に座った彼に、コンセプトの背景、メンター甲賀からの言葉、そしてAir Jordan 1 “Love Letter”にちなんで、⾃⾝にとっての“Love Letter”とは何かを訊いた。
Hypebeast:まずは、おめでとうございます。ファイナリストに選ばれた率直な感想を聞かせてください。
Yuji Wada:ありがとうございます。いきなり状況が変わった感じで、まだあんまり実感が湧かないんですけど……でも、すごく嬉しいです。自分のやりたいことを最初からずっと信じていましたし、いろんな思いをかけてここに参加したので。それに、他の参加者のみんなが本当にかっこいい人ばかりで。それがあったからこそ気合が入って、自分が心からかっこいいと思えるものを生み出せたなと思います。
新宿という街から着想を得たコンセプト
今回制作したAJ1は、新宿の街並みから着想を得たとのことですが、改めてコンセプトを教えてください。
新宿という街にはすごく影響を受けました。多様なカルチャーや人々が交わる街で、それを落とし込みたいというのは最初からずっと思っていました。ただ、“THE新宿”みたいなテーマをそのまま出すデザインはやりたくなくて。僕が理想としているのは、パッと見で「純粋にかっこいい」ということ。もちろん意味も絶対に大事なんですけど、大前提として「かっこいいから欲しい、履きたい」があって、その奥に意味合いが見えてくる。そういうものを大事にしています。
あえて“分かりやすくしない”ということですね。
分かりにくい方が面白いですよね。人によって見え方が違うというのが、まさにそういうことだと思います。履く人次第で全く別の形に見えたり、全く違う感情で履けたり。音楽やアートもそうだと思うんですけど、言われてやっと分かるくらいの表現の方が僕は好きで、「何なんだろう?」という方がワクワクするんです。パンチングによって表現したJordanのパーツのディテールは、新宿の夜空に淡く浮かぶ星空をモチーフとしています。都市の光の中でも静かに存在する星々を重ね合わせ、繊細な表情を持たせました。
素材やソールには革靴の要素を取り入れていますよね。新宿と革靴はどのように結びついたのでしょうか。
もともと革靴がすごく好きで、AJ1と同じくらい好きだったんです。ただ、最初から革靴にしようと思っていたというよりは、「普通じゃないデザインをしたい」というのが第一でした。そこから自分の好きなものをいろいろ見て、シンプルで合わせやすいデザインに落とし込んでいきました。
新宿の高層ビル群を表現して、ハイカットをさらに伸ばした“スーパーハイカット”という呼び方も面白かったです。Wadaさんにとって、新宿はどんな街ですか?
昔はあんまり好きじゃなかったんです(笑)。文化学園大学に通っていたこともあり、気付けば10年近く新宿で過ごしていますが、地元が湘南の藤沢なので、その環境とのギャップがとても大きくて。地元も、そこにあるカルチャーも大好きですが、自分が表現する場所はそこじゃない気がして、東京で暮らし始めてからは、意識的に新宿の街を歩くようになりました。そうしたら面白い部分もたくさんあったし、逆にネガティブな部分もすごく面白く見えてきて。そういうものも全部、僕にとってのインスピレーションになっています。僕はもともと、東京のシーンをちょっと俯瞰して、一歩引いてみてしまうところがあって。それは湘南育ちの自分にとって、よくない部分なのかなとも思っていたんです。でも今回はむしろ、その「一歩引いて全体を見て、何が面白いのかを考える」という視点そのものを表現できた気がします。
その「全体を見る」感覚は、普段のグラフィックデザイナー/アートディレクターとしての活動が生きていると感じますか?
絶対そうだと思います。グラフィックの仕事をするときも、ブランディングのアイデアまで提案することが多い。「このグラフィックを使うなら、こういう見せ方をした方がいい」とか、いつも全体を見ちゃうんですよね。
プレゼンではデザインだけでなく、流通や価格設定、販売チャネルまで提案されていたのが印象的でした。
履く人も街の風景も、その靴を取り巻くすべてがデザインだと思っています。普段はjackpotで働いているので、普段からさまざまなブランドを近くで見ていて、「このブランドはもっとこう動けばいいのに」「こういう見せ方をすればいいのに」と自分の中で勝手に考えるのが癖になっているんです。だから自然とそこまで考えていましたね。
メンター・甲賀加純との対話
ワークショップでは、甲賀さんからどのようなアドバイスがありましたか?
最初のプレゼンの後に「Yujiはもっと変わったことをやった方がいいよ」と言われました。それで「そうだよな」と。最初は自分が履きたい靴をデザインしていたんですけど、それだけだとつまらないのかなと思って、もっと掘り下げて、変な靴を作りました(笑)。
ワークショップを通して、最も苦労したことは何でしたか?
基本的にずっと面白かったんですけど、一番葛藤したのは、グラフィックアーティストとして参加している以上、グラフィックを載せないといけないのかな、もっといろんな色を使ってポップなデザインにするべきなのかな、というところでした。でも「別にそれは作りたくないな」と思って、自分を信じてやってみようと。もちろん選ばれるつもりでいましたけど、自分がかっこいいと思うアイデアを出したかった、それだけです。
結果的に、グラフィックをあえて用いないグラフィックデザイナーの作品になったわけですね。他の参加者から受けた刺激はありましたか?
僕は、視覚的に分かりやすいアイデアを出すのが結構苦手なんです。だからみんなの、見ていて面白いアイデアの多さとか、細部まで練り込まれたコンセプトはすごく刺激になりました。正直、誰が選ばれてもおかしくないと思っていましたし、誰が選ばれても悔いはなかった。それが本音です。
AJ1という完成された存在、そして自分へのラブレター
改めて、AJ1はWadaさんにとってどんな存在なのでしょうか?
本当に完成されているんですよ。だから変に触れない。……変に触っちゃったんですけど(笑)。正直、このままでいてほしいという気持ちがあって、やるんだったら180度違うものを作りたかった。だからこそ、Jordan Brandからは出てこないだろうなというアイデアを、自分なりに信じて作ったんです。Jordan Brandや今のスニーカー業界に対して、反骨心を持って挑みたいという気持ちがありました。
その“反骨心”について、もう少し教えてください。
スニーカーって、履かない人もいるじゃないですか。コレクションしたり。もったいないな、履いた方がいいのにってめちゃくちゃ思うんです。今回の1足は革なので、履けば履くほど味が出る。ソールも交換できるので、半永久的に履ける設計にしました。加水分解で履けなくなるのも、それはそれでかっこいいんですけど、死ぬまで履いて、下の世代に語り継がれるようなAir Jordan 1になってほしいなって。
最後に、今回のテーマである“Love Letter”をどう解釈しましたか?
制作中はそこまで意識していなかったんですけど、自分に対してラブレターを送った気がします。僕は普段、割と周りに合わせるタイプで、「周りがいいなら僕もいい」って、周りを優先してしまうんです。だから今回は「もっと自分が普段からかっこいいと思っているものを表現していいんだよ」と、自分に言い聞かせながら作りました。
Yuji Wadaは今後、世界8都市から選出されたファイナリストの1人として、最終選考に臨む。8人の中からただひとり、〈Jordan Brand〉のデザイン史にその名を刻むのは、果たして誰なのか。続報に期待しよう。



















