既存の枠にとらわれず新たな表現を追求する映画監督 大野キャンディス真奈 | On The Rise

現役で東京藝術大学に通う謎に包まれた若手アーティストの全貌に迫る

アート 
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次代を切り拓くデザイナーやアーティスト、ミュージシャンといった若きクリエイターたちにスポットライトを当てる連載企画 “On The Rise”。第7回目となる今回は、さまざまなクリエイションを手掛ける新進気鋭のアーティスト兼映画監督 大野キャンディス真奈に迫る。

東京藝術大学油画科に在学中のアーティスト兼映画監督である大野キャンディス真奈は、2018年に処女作『歴史から消えた小野小町』を発表。彼女はこの作品で監督/脚本/カメラを担当するだけでなく、自身1人で11役を演じたことが話題となり、数々の映画祭で入賞を果たす。その後、本稿でもフォーカスしている作品『愛ちゃん物語』を2020年から撮り始めたものの、編集作業や公開に向けての準備が難航し、作業に集中するため大学を休学。映画を制作している期間も創作を辞めることなく絵の個展を開催するなど、アーティストとしての活動も精力的に行なっていた。そして今年7月より、同作が晴れて渋谷や新宿、下北沢など都心の劇場を中心に公開され、今後も愛知・名古屋にある劇場『シネマスコーレ』での上映が決定するなど、その勢いは止まる所を知らない。

今回のインタビューでは、アトリエが併設する彼女の自宅で、最新作『愛ちゃん物語』制作過程についてはもちろん、多才な彼女のカルチャー的ルーツや、驚きの私生活、これからの展望についてを余す事なく語ってもらった。


Hypebeast:まずお聞きしたいのですが、大野キャンディス真奈というお名前は本名でご活動されているのでしょうか。

大野キャンディス真奈:いえ、本名ではなくて。本名は大野真奈なんですが、それだとめっちゃ平凡な名前だなって。検索すると色んな人が出てくるから、ちょっと違う名前の方が検索でも引っかかりやすいかなと思い、ミドルネームにも憧れていたので、1日くらいかけて調べて“キャンディス”っていうのを見つけました。意味を調べたらピュアとかホワイトって出てきたので、そこからクリエイトしたら面白いじゃんと思ってこの名前を付けました。

映像はいつ頃からやられているんですか?

映像は藝大に入った時なので、18歳くらいから作り始めているんですが、それまでずっと絵を描いていて。絵のルールがつまんなくなっちゃったから、そこからは映像を。やり始めた時は映像のルールを知らなかったから楽しくなって、その延長で映画も作るようになりました。

長いですね。今大学では油画専攻だと思うのですが、油絵を専攻しつつも映像をやろうと思ったきっかけはありますか?

映像を元々作りたかったからと、油画科は入ったら本当になんでもやっていいよと聞いていたからっていうのがあって。だから最初は、絵を制作していました。だけど、ずっと絵が受験勉強になっちゃって嫌だったから、一旦辞めて。それで、ひたすら脳みそをぶっ壊すような映像を作ったりしてました(笑)。

では、最初に映画を作ろうと思った時は、映像楽しいかもと思って?

そう。映像表現の方が楽しそうだなと思って。自分の知らないことをやりたかったから。

現在公開されている映画『愛ちゃん物語』についてもお聞きしたいのですが。拝見させていただいて、劇中の音楽だったり、登場人物の衣装のバリエーションが豊富だと感じて。その点について意識していることや、イメージされているものはありますか?

観ていただいてありがとうございます。アニメ表現が好きなので、音楽の繰り返す感じはアニメから引っ張ってきていています。洋服は、映像の中で派手に見えてわかりやすい変化の仕方、表し方だなと思っていたから、後半にいくにつれて服がどんどんと変わっていくのを意識していて。コーディネートは劇中で被らないようにしたり、キーパーソンとなる聖子さんという登場人物がいるんですが、その人から愛ちゃんが服を貰っている設定をきちんと裏付けしたり。変化や繋がりを意識して演出を組んでいました。

ということは、衣装やコーディネートはキャンディスさんが全部ご自身で?

そこはスタイリストさんを付けて、彼女と話しながら古着を買いに行ったり、あとはリースしたりしていました。

古着も使っていらっしゃるんですね。

そうです。ほぼ古着かもしれない。アクセサリーとかは新品が多いけれど、あとは古着がほとんどです。

映画の中に出てくるファッション以外に、普段好きなスタイルなどがあれば教えてください。

映画の出てくるファッションと普段は、全く違うスタイルですね。好きなブランドは、LAのレディースブランド unif(ユニフ)とか。最近は結構古着も買ってます。前までは古着を買わなかったんですが、今着ているのも古着だし、好きなブランドの服をメルカリでゲットしたりもします。スタイルで言うと、ストリートっていうか、Y2Kっぽいファッションですかね。それのナチュラル版みたいなのが好きかも。

ファッションアイコンにされている方などはいらっしゃいますか?

『クルーレス』という映画に出てくるファッションが好きです。自分は着ないけど、好き。普段はInstagramとかもあまり見ないから、人というよりは作品の中で良いなと思うことが多いです。

それで言うと、愛ちゃんの人物像は誰かを参考にされているんでしょうか?

いつも最初に物語の起承転結を作っちゃうんですけど、そこからキャラクターが生まれることが多くて。勝手に出来ていた感じかも。起承転結を作ったら、こういう感じの女の子でこうやって成長していくんだなとなり、そのあとに肉付けで愛ちゃんが出来て。特にモデルはいないけど、登場人物とか脚本の中に書いている感情は、自分が経験したことしか書けないので。だから経験はベースになっていると思います。

では、人物像は1から作っているということなんですね。

そうそう、1から作っています。でも、ところどころ自分も入っているところがあると思います。だから、聖子さんも自分だし、愛ちゃんも自分だし、そういう感じで自分が結構入ってると思います。

お話全体の着想源も、自分で1から考えたのでしょうか?

そうです。すごく大変だったんですが、脚本と編集、監督、プロデューサー、企画、構成など、全部自分でやって。脚本は1カ月で200ページくらい書いて、書きながら仲間集めして、映画を作って……みたいな。前作で初めて『歴史から消えた小野小町』という映画を作ったんですけど、その時は監督、脚本、カメラ、演出を全部自分で担当して、1人11役もやりました。なので今回、初めて人と関わって制作するとなって、映画作りのことを知らなくて、現場がやばかったです。助監督もいないから、誰が時間の割り振りするのかも知らずに進めていて。制作が進行するにつれて、どんどん成長していった感じですね。

映画の最後のクレジットで、スタッフ名が多いなと感じたのですが。あれだけの人数をどのようにして集めたのかが気になります。

あれは自分で連絡しまくったり、学校に行って集めたり、友達の友達を面白そうだったら来てよって呼んだりして集めました。学生だから出来ることというか、その時しか出来ないものが作品なので。自分は学生だったから、学生集めて作りたいなと思って。そしたら学生って夏休みの間は参加できるけど、バイトとか学校行事で忙しくなると抜けていっちゃったりするので。その分またスタッフ呼んで……っていうことを繰り返していたら、めちゃめちゃ人数が増えて。結果、50人くらいのスタッフが集まってました。あとはクラウドファンティングもしたので、その人たちの名前も入っていたり。東京・原宿のキャットストリートにあるCasselini(キャセリーニ)ってブランドのお店とかは、すごくいい人達でした。協力してくれた場所の名前も沢山入っています。

スタッフはお友達が多いんですね。出演しているキャストの皆さんは、オーディションで決めたんでしょうか?

聖子さん役の人は、自分で映画祭を見に行った時にすごく良い演技をする人がいるなと思い、連絡をして、スカウトしました。聖子さん以外の方は、オーディションで。2次審査くらいまでやって演技を見て、いいなと思った方に出演していただきました。

先ほども前作『歴史から消えた小野小町』のお話をされていたと思うのですが、キャンディスさん自身が俳優としてご出演していたことについてお伺いしたいです。演技は、これから何か目標があってやっているのか、表現方法の一部として他と同じようにやっているのか、どちらかの感覚が強いのでしょうか。

演技に対してのこれからの展望は全然ないです。『歴史から消えた小野小町』の時も、秋田に遊びに行って、楽しかったなと思って帰ってきて。そしたらやっぱり、小野小町のことをもっとディグリたい!と思って、そのままチケットを取って一週間滞在して、何も考えずに行っちゃったから。人がいなくて、俳優さんを集めようと思っても誰もいなくて(笑)。だから、その時は1人で全部やったって感じです。

すごい……。では、今回『愛ちゃん物語』の回想シーンにも出演していたのは、人が足りなくて?

そう、今回も、細かなシーンで人が増えてしまうと大変だなと思ったので。そういう時は、自分が出たり、足りないところだったりで、少しだけ出たりしました。

では、これから演技もやっていきたいということは、特に考えてはいないんでしょうか?

足りなかったら出るよ、くらいの感じ(笑)。以前、映画『とんかつDJアゲ太郎』公開記念特番に少しだけ出演させていただたいことがあり、15分くらいの短編で主役をやらせてもらって。そういうのは、女優さんの気持ちとか、どういう演技したらいいんだろうとかを知る上でやったというのがあるので、経験はしてもいいかなと思います。

なるほど。今回の作品は、キャンディスさん自身がセールスをして、上映館が決まったとお伺いしたのですが。そのエピソードについて、聞かせていただきたいです。

そうなんです。映画館で上映するって、特に道がなくて。大きい商業映画とかだったら、最初から配給会社がついて、すぐに大きい映画館などで上映できるんですが。自主映画だったりツテがなかったりすると、配給会社もいなくて、そもそも映画館でかけれるかどうかも分からない。とりあえず、色々な人にここの映画館で上映したいって言ったりとか、映画監督、プロデューサー、配給会社の方とご飯を食べて、並行して映画祭にも徐々に入選していって。そこで少しづつ目をつけてもらって、やっと配給会社さんと会えましたね。人と会うってことを、結構大事にしていたのかも。

制作の2年間の間に人と会うことを、映画を作りながら同時並行していたんですか?

いや、本格的に動いたのは作り終わった後です。企画書を作って、色んな人にご飯ついでに渡したりして。良ければ紹介してください、みたいな。渋谷のCINE QUINTO(シネ クイント)で上映したいって自分の中で決まっていたので、その周りの人たちのお話を聞いたりして、資料持っていってどうですか、っていうのをやっていました。結局、繋げてくれたのは元々知っていた友達だったんですけど(笑)。

下北沢のK2や、新宿シネマートもそうですか?

最初にCINE QUINTOで上映が決まったときは配給会社さんがついてたので、そこからのツテで映画館を広げてくれたって形ですね。担当の方もいい人で、沢山の映画館とお仕事している会社だったので。そういうところを、ちゃんと見ていかないと駄目なんだなと思いました。

そうなんですね。あと、すごく気になっていたのが、CINE QUINTOのトークショーで野村訓市さんやMANONさんらが登壇されていましたよね。そういったカルチャーに親和性がある方達とは、元々お友達だったんでしょうか?

MANONちゃんは、アートのイベントに顔を出していたりして、可愛いと思ったので声を掛けて、そしたら友達になってました(笑)。訓市さんは今インターンをしている会社の社長さんが知り合いで、会って最初の3回くらいは何してる人か知らなくて。よく聞いてみたら、すごく面白いことをしている方なんだなと分かって。そんな感じで、今回登壇してもらいました。私は遊ぶのがめっちゃ好きなんですけど、踊りに行ったりとか。そうやって普段から外に出ることが多いから、その所々でヤッホーって感じでみんなと仲良くなっていって。会う人たちのことをよく知っていったら、みんな何か作っていたり、凄いと思う人たちが多かったんですよね。

いい繋がり方ですね。先ほど踊りに行くって言っていたのは、音楽を聞きに行くことが多いですか?

そうです。踊りに行ったり、イベントに顔を出したり。絵と並行して、元々ダンスもやっていたんです。だけど、ダンスは集団でやるものだから、やっぱり個人プレーが好きだなとなって。絵と映像となってからは、そっちのクリエイトを辞めて、趣味の踊りに専念してるって感じです。

キャンディスさんがやっていたのは、いわゆるコンテンポラリーダンスとは違うんでしょうか。

コンテンポラリーの概念があまり分からないですけど、似てるとは思います。コンテンポラリーをみんなで同じ動きをしたり、チームとして、集団にいる感じ。中高ずっとやっていて、全国1位とかまでいったかな。

その時からアートとか映画とかそういうのも好きだったんでしょうか?

好きでしたね。その頃からちょっと病み期に入ってしまって。それで絵を描き出したり、小説を机とかノートに書いたり。

病み期っていうのは学校とかに関する?

いえ、学校が唯一の楽しい場所でしたね。家庭がちょっとゴタゴタして、それが嫌でした。その時期をきっかけに絵や映像、ダンスといった創作を始めました。

もしかしたらその体験は『愛ちゃん物語』にも繋がっている感じなんでしょうか。

そうです。そこから抜け出して『愛ちゃん物語』を作ったという流れです。家族ってこういうことかなって、自分なりに考えて。

絵を書き始めるのって、きっかけはどういう感じですか?思い立って、何かを書いてみようといったような?

そうですね。“あっ、これやろう”で、とにかくバーって描く。全部、衝動的。でもその時の感情のまま動くから、フレッシュなまま書けるみたいな。

ということは、絵に比べると映画は個人プレーでもあり、集団プレーでもあると。

そうですね、大変でした。初めての経験で、調子いい時もあるけど、疲れる時もあって。でも編集は本当に1人だから、それはすごく寂しかったです。1年くらい編集していたので、ゲシュタルト崩壊が起きて、何やってるんだろうみたいな。映画は人と作って、専門の人たちがちゃんと映像の中で意識して見てくれるから、1つのものを作り上げてる感があって楽しかったです。

そうなんですね。先ほど、アニメがお好きで、アニメから着想を得ているというお話があったんですが、回想シーンでアニメ『ドラえもん』のネタが出てきたりとか、ビート武さんのネタが出てきたりもしていて。幼少期から今までで、キャンディスさんが影響を受けたカルチャーはありますか?

カルチャーで言うと、カートゥーン系のアニメが好きです。『スポンジ・ボブ』をずっと見ていて、あとは『ザ・シンプソンズ』とかそっち系かな。だから、絵はそこにインスピレーションを受けて、アニメみたいな絵を描いちゃう。アメリカのアニメとカルチャーに出てくるような、シュールでカラフルな感じが好きですね。『ディズニー・チャンネル』はめっちゃ見てます(笑)。

面白いですよね。では、あの『ドラえもん』とかを出しているのは?

『ドラえもん』はかなり身近じゃないですか。だから、そういう身近な日本アニメとか、80年代の映画とかも好きで良く見るんですが、そういう好きなものを全面的に出すことを意識しました。

80年代の映画がお好きなんですね。よく見るものは、洋画が多いですか?

洋画が多いです。『グーニーズ』と『グレムリン』とか。ちょっとチープな感じと、手作りな雰囲気が好きです。

なるほど。『愛ちゃん物語』とは少し離れるのですが、キャンディスさん自身が好きな監督や、映画だけに限らず、好きな作品などについてお伺いしたいです。

映画監督だと、Tim Burton(ティム・バートン)が好きで。最初は絵本から始まって、ハリウッドで有名な映画監督になって、自分の色も忘れずに持っていて。そういう形で商業の映画を出来ることを本当にリスペクトしていて。絵もすごく好きだし、世界観が壊れないであのまま持っていけるのはすごいなと思っています。いつか一緒にご飯食べたいな(笑)。

一緒に映画を作るとかではないんですね。

そう、ご飯ですね。映画は彼の色があるから。

では、キャンディスさん自身はこれから自分の色を出した作品を主に撮っていきたいといった感じでしょうか?

自分の色、そうですね。今回の『愛ちゃん物語』もよく見たら色があるけど、商業の映画監督になった時に自分の色を出せた方が面白いじゃないですか。映画監督っていうよりも、アーティストみたいな感じでずっと活動していたから、絵が映画になったり、自分の思ってることが形になって色がつくのが楽しいなと思っていて。まだ商業の世界に入ってないから分からない部分はあるけど、そっちに行ったときに崩れないようにしたいです。

映画監督はTim Burtonが好きと仰っていたのですが、絵は何かインスパイアされているものや人はいますか?

最初は洋画家の絹谷幸二さんを参考にしていました。壁画もやっていて、カラフルな絵を描かれるので、そこからインスピレーションを受けることは多かったです。最近はNANZUKA田名網敬一さんがめっちゃ好きです。アメリカ・ニューヨークにも見に行ったし、面白い絵を描く方で。サイケデリックって調べたら、田名網敬一さんの名前が出てくるのが凄いなって。私自身の絵も意識はしていないんですが、サイケデリックって言われることが多くて。

絵だけで個展もしたことがあると仰ってましたよね。

そうです。少し前も、絵だけで個展をやりました。14点ぐらい出して、10点くらい売れたかな。

今後もそういう個展は、近いスケジュールで決まっているんでしょうか?

ちょっと今停滞していて、声をかけたらいけるのかもしれないですけど。映画をやり切って、落ち着いたら次は卒業制作があるから、その間に頑張って出来たらいいなという感じです。下には大きい絵があるんですが、小さい絵もあって。(1つの絵を指して)この時期は量子力学ハマっていて、それについて書きました。

キャンパスの形が三角になっているんですね。

これは、このままの形で売っていて。可愛いキャンバスですよね。絵は面白いです。こことここの次元が違う、とか考えながら描いたり。人に何か伝えようとしても、意味が分からないようなことを描いてます。

キャンディスさんのInstagramで、アルバイトを忘れていたというテーマもありましたよね。

ありますね(笑)。売れちゃったけど、あれは本当にバイトを忘れてしまったときに書いた絵です。

今並んでいる絵は、時期は同じぐらいに描いたのでしょうか?

そうです、これは時期が同じ。これ(その中の1つ)とかは、蜂とフラワー犬が出てくる。そして蜂が脳みその汁を吸って、バックの中に入れて、ばら撒くといっぱいクリエイチャーが生まれてくるみたいなことを書きました。私はアニミズムが好きで、雲が生きてるって感じる時があるじゃないですか。そういうのとか、絵で描きやすいですね。だから、私の絵に出てくるみんなは生きてる。自分の思考を自由に描いちゃってる感じ。

毎回、大体のストーリーがあるんですか?

下にある絵は、割と違うかもしれないです。下のやつは都市について考えた絵なんですが、都市が丸々命で、そこで戦争が起きちゃって、戦争から逃げてきた子たちがまた集まってきているといったイメージの絵を描きました。

絵は書こうと思って頭が動くのか、それとも普段生活している中でイメージが出てきたから書くのかどっちなんでしょう。

普段こうやって話してる時って、みんな色々考えたりするじゃないですか。そういうのが、私はキャンバスに向かって、何を描こうかなってなった時に出てくるんですよ。日常を書いていたら、そういうことが出てくるから、それが全部繋がると絵の中で1枚話が出来てきて。書いてるときは分かんなかったけど、客観的に見たときにこれはこういう絵で、こういうストーリーなんだなって世界が構築されていくんです。何も浮かばなくても、音楽を聞きながら線で書いたりして。そうすると、暇だから沸々と色んな日常が湧いてくる、という感じです。

描きながら聴いてる音楽も入っていくんですか?

そうだと思います。だから、こうやって話しながらも結構描けたりします。音とか、みんなのことも。その場で話している内容を適当に描いていくと、絵もみんなになるみたいな。

言葉を自分の中で視覚的に変換する、ということでしょうか?

そうなのかな。よく考えてみたら、そうかもしれないです。人といるときに絵を描くのが好きで、iPadを持って遊びに行きます。そうやって描いていたら、これはそのときの思い出だなーとか思い出したり、1ページになったり。遊びに行くとか、飲むとき以外は、友達の家にいることが多いので。

では、このお家のリビングの壁などに描いてある絵もキャンディスさん自身で?

いえ、これはここで藝大の卒業パーティーを開いたんです。卒業しないんですけど(笑)。その時にみんなに書いてもらって、今でもたまに友達が来るとサインとかを残してくれたりして。shoyくんっていうグラフィックを描く子のものや、ヒップホップ系のミュージックビデオやアニメーションを撮ってる藝大生のZECINくんが、いつの間にか来て描いていました。ここにある絵は、そういうのが多いですね。

ポスターや劇中にもイラストが出てきていたと思うのですが、絵は映画と並行してこれからもやっていくんでしょうか?

絵は、そうですね。これからもやっていくつもりです。今ちょっと忙しくて、iPadでしかかけてないんですが。映画を作っているときは、朝か夜にドローイングしたり、個展もやっていました。映画は期間が長いから、『愛ちゃん物語』も3年かかって、前作も1年かかったので、その間のクリエイティブが難しい。でも、自分の頭の中でこれがやりたいって思ったら、何の表現方法使うかどうかって感じで。頭は同じだから、全部意図は同じなので。映画は人に伝えやすくて、その場で感情を動かせるものだから、人にちゃんと伝わってほしい時は映画を作るのかな。

絵はどういう時の表現方法なんでしょうか?

絵は、自分とキャンバスの中の作品で1対1として向き合う。ちょっと瞑想みたいなんですよね。すごく集中できる環境なので、一人でコツコツしたいなって時に。でも、なんだろう。描きたいものを描いてるんですけどね。映画はとりあえず伝えたいもの作る方法で、絵は毎日頭の中にあったことだったり、あと軽い遊びだったり。

今絵と映画といった2軸があって、これから先、他に挑戦したいことはあれば教えてください。

ミュージックビデオを撮ったことが無くて。ミュージックビデオを撮ったら、何かもう少し表現広がりそうだと思っていて、やってみたいなと思っています。あとは、絵と映画がきっと繋がるから、それをやっていく。後は、これ(絵によく出てくるキャラクター)が誰なのかまだ分かっていなくて。この子は最初に描いたキャラクターで、4年くらい前に普通に描いちゃったから名前が無い。絵の中で自分を探しつつ、そういうのを解明していきたいです。キャラクターも増えてきているので。

どういうジャンルのミュージックビデオかは、イメージなどありますか?

TOWA TEI(テイ・トウワ)さんのDee-Lite(ディー・ライト)みたいな、少しフィルムっぽくて、レトロ感もありつつ、サイケデリックな感じで、テクノが流れてて、っていうイメージはあリます。フューチャー観をそれに入れても楽しそう。今Y2K流行ってるので。色々あるけど、Dee-Liteの感じは好きです。

好きな音楽のジャンルも、テクノが一番ですか?

今はテクノを聴いてますね。最近はちょっと映画が忙しくて聴けてないけど、ヒップホップのミュージックビデオも見たりします。

音楽を聴いたり、ミュージックビデオを見ることも、映画や制作に繋がったりするのでしょうか。

うーん、『愛ちゃん物語』で言えば違うかもしれない。3年前にいきなり撮り始めて、映像の知識も全く無かった時だったので。勢いで作る、みたいな感じでした。でも、今は音楽もそうだけど、その時からさまざまなものを見たり、色々な事を感じて。次作るときはそういうことを繋げて、もっと良いものが作れそうだなと思っています。フィーリングで作ってしまったっていうのがあって、もっとこうしたいとか、ああすれば良かったって、最近は毎日編集をしていてので、ずっとそういうことの繰り返しですね。それを次に生かしていきたい。こういうものをきちっと作るっていうイメージがあったり、もう少しみんなとアイデアを共有して、良いもの作りたいなと。

映像は人に伝えるために考えながら作っているけど、絵は自分の中の表現ということなんですね。

そうです。さっき話した量子力学とかで例えれば、(一般的には)誰も興味ないじゃないですか。絵は、キャンバスの中で話がどんどん出来ていくのが楽しいんですよね。映画もそうなのかもしれないけど。でも多分、絵と映画がいつか繋がる時があって。だからずっとその時のために作っていて。もしかしたら繋がるかもなと思っています。

映像と絵で被る部分はあるのでしょうか?

あります。全部ポップな感じではあるけど、絵は多様性みたいなものも入っているし、カラフルなものも入っているし、日々の色々がブワーって入った結果、出来たりしますけど。映像はなんだろう。でも、色彩とかも結構似ていたり、考えていることも似ていたり。毎日考えていることも絵の中に入ったり、映像がそれから繋がって、派生して出ているってところでは、似ているかも。カラフルなものだとか。

今も模索して、模索してみたいのがまだ続いている?

ずっと。絵もずっと模索してるし、映画も模索していますね。ずっと新しいことやりたいなって。最近文化について考えるんです。海外がアニメの表現、漫画表現を規制するみたいなのあるじゃないですか。でも文化を規制したら多分、経済も衰退しちゃうんですよね。日本の昔からの文化が海外で止まることによって、そのカルチャーはもう発展しなくなっていく。そういう文化は強いから、みんなそれを見に来たりとか、そのお陰で豊かになっているけど。だからクリエイターはもっと新しい文化を生み出していくべきなんですが、まだまだそういうところが弱いなっていつも考えています。だからきっとね、こうやって私たちがクリエイションしていくことは、良い方向に繋がるかなあと思って。それで絵を描いてます。

最後に、『愛ちゃん物語』をこれから観る方に何かあればお願いします。

家族の形態について考えたり、普通について考えたりしたんですけど、それを観て感じてもらえればいいなと思っていて。映画の中で1人1人のキャラクターに愛を入れて、作品に愛を詰め込んだので。みんなハッピーになって帰って欲しいです。あとは、LGBTQのことについて言われることが多くあるんですが、自分もこの映画作ってるときはそんな知識がないままに作ってしまったというのがありました。だけど、この映画をきっかけに自分も勉強し始めて、今も勉強していて。当初から思っているんですけど、映画製作を通して、改めて人を人として見ることがすごく大切だなと感じていて、聖子さんを1人の人として見てもらえたら嬉しいなと思っています。なので、LGBTQの映画では無いです。普通って何か、家族って何かっていうことを考えて作りました。

愛ちゃん物語
次回上映劇場:シネマスコーレ
住所:愛知県名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F
上映期間:10月22日(土)〜28日(金)
公式サイト:https://aichan.atemo.co.jp/

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テキスト
インタビュアー
Rina Sugo / Hypebeast
フォトグラファー
Toshiyuki Togashi / Hypebeast
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