藤原ヒロシが「FRAGMENT UNIVERSITY」のオープンキャンパスで語ったこと
原宿と渋谷の歴史から、記録と記憶、AI時代における“人の声”の価値までを語る
藤原ヒロシが「FRAGMENT UNIVERSITY」のオープンキャンパスで語ったこと
原宿と渋谷の歴史から、記録と記憶、AI時代における“人の声”の価値までを語る
藤原ヒロシが監修する教育プログラム「FRAGMENT UNIVERSITY(フラグメント ユニバーシティ)」が、2026年11月より第2期を開講する。これに先駆け、9月18日(金)、東京大学 伊藤国際学術研究センターの伊藤謝恩ホールにてオープンキャンパスが開催された。
「FRAGMENT UNIVERSITY」は、一般的な大学や教育機関ではなく、藤原ヒロシが自身の経験や思考をもとに、ファッションや音楽、デザイン、街、旅などを横断して“ものの見方”を共有する教育プログラム。2023年10月から2024年3月にかけて実施された第1期では、“非言語マーケティング”をテーマに全8回の講義を行った。第2期では「一般教養(非一般教養)」を掲げ、各分野から客員教授を招き、全9回にわたって答えではなく“視点”を学んでいく。
オープンキャンパスの冒頭には、第1期卒業生である明石ガクト(ONE MEDIA inc. CEO)と小西利行(POOL inc. Founder & Creative Director)が登壇。「大事なのは違和感と奥行き」「小さなひねりで大きなうねり」といった、藤原の講義で印象に残った言葉や学びについて、約15分間にわたってトークを繰り広げた。そんな充実したトークの直後、藤原ヒロシがステージに現れると、「第1期のトップ2人であのレベル(笑)」と早速ジョークを飛ばし、会場を沸かせた。
ワシントンハイツから始まった原宿と渋谷のカルチャー
藤原が最初に提示したテーマは、“記録と記憶”。武井進一による著書『The History of Record Stores in Shibuya ~& Beyond 渋谷、レコード店の歴史、そして、それ以上の何か』の制作に携わった際に調べた、原宿と渋谷のファッション史を起点に話を進めた。
1927年に完成した同潤会青山アパートから、戦後の1946年に建設されたワシントンハイツへ。現在の代々木公園一帯には、かつてアメリカ軍関係者とその家族のための住宅街が広がっていた。そこから流出した洋服や家具、レコードなどを日本の若者たちが手にしたことが、渋谷・原宿における古着店やレコードショップ、ひいてはストリートカルチャーの起点のひとつになったのではないか。藤原は武井の見立てを紹介しながら、ワシントンハイツが東京のカルチャーに与えた影響をたどっていった。
続いて取り上げたのは、1957年に南平台に設立されたアドセンター。14歳で伊勢丹に入社し、現在も使用されている『BRUTUS』や『anan』のロゴを手掛けたアートディレクター 堀内誠一、写真家 立木義浩らが集ったクリエイティブの拠点だ。さらに、若者が自由に出入りしたコミューン“アップルハウス”、1960年に飯倉で誕生した日本最初期のセレクトショップとされる「BABY DOLL」、その地下に構えた伝説的レストラン「CHIANTI」、倉俣史朗が内装を手掛けた渋谷西武のショップ「CAPSULE」へと話題は広がっていく。
藤原がこれらの歴史を調べるなかで気づいたのは、検索しても当時の写真や資料が意外なほど残っていないということだった。現在ではスマートフォンを通して、あらゆる出来事が画像や映像として蓄積されていく。しかし、記録が豊富に存在することは、そのまま事実が残ることを意味するのだろうか。
藤原は、取材のために80歳を超える当事者たちを訪ね歩き、それぞれの記憶をたどった時間について、「記憶をたどっていったら、めちゃくちゃ面白かった」と振り返った。たとえ本人が信じている記憶にも、思い違いや時間による変化が含まれる。それでも、異なる人物の記憶を重ねていくことで、検索だけでは見えてこない時代の輪郭が立ち上がってくる。
記録は、本当に信用できるのか
トークの後半には、ラッパー/クリエイティブディレクターのTaiTan、同校の准教授を務める編集者/制作プロダクション「MANUSKRIPT」代表の小澤匡行、クリエイティブディレクターの皆川壮一郎が登場。藤原を交えた4人で、写真の編集史から生成AIまでをめぐる議論を展開した。
発端となったのは、藤原がTaiTanから言われたという「記録なんて、まったく信じられないじゃないですか」というひと言だった。写真はシャッターを切る以前に、撮影者が何をフレームに収め、何を排除するかによって編集されている。戦時中のプロパガンダ写真、1994年に『Newsweek』と『TIME』が掲載したO・J・シンプソンのマグショット、ジョン・ハートフィールドや横尾忠則らのフォトモンタージュ、Photoshop、プリクラと、写真を“切る・貼る・意味を変える”技術は時代とともに権力者やメディアだけのものではなくなり、個人へと開放されてきた。
そして現在、生成AIは既存の記録を加工するだけでなく、何もないところから、もっともらしい画像や文章を作り出す。事実ではない情報を正しいもののように提示する“ハルシネーション”や、低品質なAI生成物を指す“AIスロップ”にも触れながら、Tai TanはAIがもたらした変化を「怪しさより、規模と速度」と表現。情報の改ざんそのものは昔から存在してきたが、今では誰もが簡単にそれを行え、その量と拡散速度が桁違いになったと指摘した。
議論では、食品メーカーの公式SNSに掲載された画像の一部がAIによって誤って生成され、わずかな違和感をユーザーに発見されて炎上した事例も紹介された。発信者が情報を一方的に加工できた時代から、受け手側が常にAIの使用を疑い、検証する時代へ。“AIポリス”とも呼べる視線が、企業やメディアの発信を監視している。
画像も映像も疑われる時代に残る“人の声”
では、画像も映像も文章も容易に生成・改変できる時代に、何を信じればよいのか。そこで浮かび上がったのが、“人の声”だった。
TaiTanは、ビジュアル情報の信頼性が大きく揺らいだ現在、人が同じ物理空間に存在し、どのような声や態度で話しているのかという一次情報の価値が高まっていると説明する。話し手が挙動不審なのか、尊大なのか、それとも誠実なのか。対面すれば、言葉だけでは捉えきれないものも感じ取れる。
これを受け、藤原も、同じ出来事を複数の人物に聞いたり、異なる角度から質問したりすることの重要性を語った。人の記憶も変化し、言葉にも嘘は入り込む。それでも、SNSに流れてくる画像だけを見るのではなく、実際に人と会い、その声を聞くことが、これまで以上に重要になるのではないかという。
前半で紹介された原宿と渋谷の歴史も、まさに藤原が当事者を訪ね、その声に耳を傾けることで掘り起こされたものだった。“記録か記憶か”という二者択一ではなく、記録を疑いながら、複数の記憶と照合し、自分の目と耳で確かめる。今回のオープンキャンパスは、AI時代を生きるうえで必要な姿勢を示す、いわば第2期の序論となった。
FRAGMENT UNIVERSITY 第2期 教授陣/カリキュラム
第2期は2026年11月13日(金)に開講。Day1と最終講義のDay9を藤原ヒロシが担当し、Day2〜8では各界の客員教授が講義を務める。なお、客員教授の回にも藤原は登壇し、それぞれの教授との対話を行う予定だ。
FRAGMENT UNIVERSITY 第2期 カリキュラム
DAY1|一般教養論
教授:藤原ヒロシ
日時:2026年11月13日(金)19:00〜20:30DAY2|部外者論
教授:上出遼平(ディレクター/作家)
日時:2026年12月11日(金)19:00〜20:30DAY3|反体制論
教授:中川悠介(アソビシステム株式会社 代表取締役)
日時:2027年1月22日(金)19:00〜20:30DAY4|占有論
教授:中村圭佑(DAIKEI MILLS代表)
日時:2027年2月5日(金)19:00〜20:30DAY5|人間論
教授:古市憲寿(社会学者)
日時:2027年2月26日(金)19:00〜20:30DAY6|現代音楽論
教授:Bose(スチャダラパー/ラッパーなど)
日時:2027年3月19日(金)19:00〜20:30DAY7|言語化「異」論
教授:ジェーン・スー(コラムニスト/ラジオパーソナリティー)
日時:2027年4月9日(金)19:00〜20:30DAY8|共創論
教授:松沼礼(HUMAN MADE株式会社 代表取締役CEO)
日時:2027年4月23日(金)19:00〜20:30DAY9|第2期 最終講義
教授:藤原ヒロシ
日時:2027年5月14日(金)19:00〜20:30
Day1の「一般教養論」では、価格は何を基準に決まり、二次流通による高騰はどこまで許容されるのかを考察。以降も、人や世界との距離を考える上出遼平の「部外者論」、芸能やアイドルを取り巻く常識を問い直す中川悠介の「反体制論」、亀有の巨大空間「SKWAT」を実例とする中村圭佑の「占有論」、AI時代における人間のあり方を考える古市憲寿の「人間論」など、多角的な講義が予定されている。
さらに、Boseはヒップホップを通じて引用と編集の境界を探る「現代音楽論」、ジェーン・スーは言葉と身体、感情、コミュニケーションを考える「言語化『異』論」、松沼礼は〈HUMAN MADE®️(ヒューマンメイド)〉の歩みから個と集団、ビジネスとカルチャーの両立を考える「共創論」を展開する。
「FRAGMENT UNIVERSITY」第2期の定員は70名程度で、事前選考制。受講費は22万円(税込)となり、応募は9月28日(月)23:59まで公式サイトにて受け付けている。
※日程、会場および講義タイトルは変更となる可能性があります。