Blue Note Records のボス、ドン・ウォズが語る自身の新しいバンド、そしてレーベルのヴィジョン | Interviews

「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025」への出演が決定したレーベルのボスにインタビュー

ミュージック
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“名門ジャズ・レーベル”といって誰もが真っ先に思い浮かべる「Blue Note Records(ブルーノート・レコード)」。昨年、創立85周年を迎えたこのレーベルを取り仕切るボスがドン・ウォズ(Don Was)だ。社長に就任する前はローリング・ストーンズやボブ・ディランなどの仕事に携わる名プロデューサーとして名を馳せていた氏のキャリアは、実は1970年代末に結成したフリーキーかつソウルフルなニューウェーヴ・バンド WAS (NOT WAS)(ウォズ (ノット・ウォズ))がスタートだということはいまとなってはあまり知られていないかもしれない。

そんな氏がひさかたぶりに自身のプロジェクト Don Was & The Pan-Detroit Ensemble(ドン・ウォズ アンド ザ・パン・デトロイト アンサンブル)をオーガナイズ、このバンドで来日公演を行うという。以下は、運よく来日中だった氏にどんな思いでバンドをスタートしたかや来日公演への意気込み、そしてもちろん「Blue Note Records」についてを伺ったインタビューである。柔和で誠実な語り口が実に印象的な1時間だった。


Hypebeast:9月にBlue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN(ブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン)でDon Was & The Pan-Detroit Ensembleのライブ・パフォーマンスが予定されています。ご自身のグループとしてはWAS (NOT WAS)以来、久しぶりのものになるわけですが、まずは結成の経緯をお聞かせください。

ドン・ウォズ:古くからの友人、テレンス・ブランチャード(7度のグラミー賞受賞歴を持つトランペット奏者)が地元のデトロイトで何日かにわたってショーをキュレーションするという企画があって、そのうちの一夜でなにかやってくれないかと相談がありました。2年前のことです。それで自分のバンドもないのに「いいよ」と答えたんですよ(笑)

(笑)ずいぶん勇足でしたね。

ショーの日にちが半年後に迫って、そろそろバンドのことを考えなくてはいけないときにふと「なんで自分なんかがやらなきゃいけないんだ。チャールズ・ロイドみたいな素晴らしいミュージシャンが世の中にはたくさんいるのに……ああ、彼にやらせればいいじゃないか」なんて思ってしまったんです。実は1990年代にプロデュース業をスタートした頃にも同じようなことを感じたことがあって。プロデューサーとしてブライアン・ウィルソン、ミック・ジャガーとキース・リチャーズ、レナード・コーエン、クリス・クリストファーソン、ウィリー・ネルソン、ボブ・ディランといった名だたるソングライターたちと仕事をして、彼らの曲をやったあとに、いざ自分の曲をと思ってピアノの前に座ってもなにも出てこない、そんな経験がありました。

曲を書けない状態は4、5年続くのですが、そこから抜け出したきっかけは「自分はウィリー・ネルソンにはなれないけど、ウィリー・ネルソンもわたしにはなれない」と気づいたことでした。他人になろうとせず自分らしくやればいいし、ほかの人と違っていてもそれが強みなんだと。このことを思い出して、改めてテレンスのオファーのためのバンドを考えたとき、デトロイトで音楽に囲まれて生まれ育ったわたしと同じような経験を持ったメンバーを集めてやればいいんだ、と閃きました。そんなわけで9名のデトロイト出身のミュージシャンによるバンドができあがったんです。

なるほど。

頭に浮かんだミュージシャン9人に連絡をして全員が快諾してくれました。メンバーの何人かとはもう45年くらいの付き合いになるんです。サックス奏者のデイヴ・マクマレイはWAS (NOT WAS)にも参加していて、いまはブルーノート所属のアーティスト。鍵盤奏者のルイス・レストは10代の頃からの友人で、彼はエミネムのコラボレーターとしても知られています。彼らを含む9人でテレンスのショーのために1回リハーサルをやってみたところ、もう何年も一緒にやってきたような感覚があって。「これを1回限りで終わらせるのはもったいない」と思い、ツアーに出ることにしたんです。実はこのリハでレコーディングしてしまった曲もありました。そんなことができるのはなかなかないことだし、デトロイト出身のわたしたちでなければ起こらないケミストリーがあったんだと思います。だから自分たちが出す音は、ほかのどんなバンドにも真似できないまさに「デトロイト・サウンド」なんですよね。

「デトロイト・サウンド」について、もう少し詳しくお聞きしたいです。

デトロイトはご存じのように自動車産業の街です。ひとつの産業が中心になっているので、工場で働く人が大量にレイオフ(解雇)されると、首を切られた人たちは家族を連れてほかの街へと移ってしまう。そうすると子どもの数が減るから学校の先生もレイオフされる。その影響でたとえばバーバー・ショップを営む人が職を失って……といった具合に、全員がひとつの船に乗っているようなところがありました。

結局はみんな同じ運命にあるというメンタリティですね。一蓮托生というか。

そうですね。変に張り合うというのでなく、お互いに対する誠実さがあるように思いますが、こうした誠実さはデトロイトの音楽からも感じられるところです。自分にとって「デトロイト音楽のゴッドファーザー」と呼べる存在はジョン・リー・フッカーなんですが、生々しくてソウルフルでクレイジーなグルーヴのある彼の音楽の影響は、ミッチ・ライダー、MC5、ストゥージズ、ホワイト・ストライプス、ジョージ・クリントン、それからデトロイト・テクノにまで続いていると思います。

MOTOWN(モータウン)やFortune Records(フォーチュン・レコード)といったレーベルはデトロイトのものですし、もちろんジャズの世界でもドナルド・バード、ケニー・バロン、ジョー・ヘンダーソン、ロン・カーター、エルヴィン・ジョーンズ、ユセフ・ラティーフ、ポール・チェンバースなどの素晴らしいアーティストがデトロイトにゆかりがあります。どの音楽も洗練されているわけではないかもしれないけれどシンプルで誠意があって。ポップ・ヒットをたくさん出したMOTOWNでさえ、ヘッドフォンで聴くとガレージっぽい音がする(笑)。そんなふうにいい意味でのローカルさ、田舎っぽさがあるのがデトロイトの音ですね。

今回のアンサンブルで「こういう音楽をやっていきたい」というイメージはありましたか?

30年近く自分の頭のなかにある音楽を追い続けているんです。WAS (NOT WAS)がもう少し長く続いていたらそれを見つけられていたのかもしれませんが、あのバンドはその前に解散してしまったので。その音楽がどんなテクスチャー、手触りなのかはなんとなくわかってはいたのだけれど、よりはっきりしてきたのが2018年でした。グレイトフル・デッドのボブ・ウェアと3時間近い即興演奏をやる機会があったのですが、やっていくうちに自意識がなくなって音楽が自分を通り越してオーディエンスに届き、それを聴いたオーディエンスからエネルギーをもらってという循環を体験することができたんです。このおかげで、それ以前よりも自分の音楽というのが一歩前に進んだかなという感触を得ました。今回のバンドは、やればやるだけ曲が変わってくる一種のアドヴェンチャー。でも怖さはなく、楽しさに満ちていますね。

来日公演への意気込みをお聞かせください。

自分が演奏する立場としては30年ほどぶりですが、その間にローリング・ストーンズのレコーディングやブルーノートの仕事で日本にはたびたび来ていました。そこで感じたのは、日本のみなさんは本当に音楽が好きで、音楽やミュージシャンに対してオープン・マインドだということ。そんな音楽ファンの前で演奏できるのはとてもスリリングだしエキサイティングです。

Blue Note Records のボスとして考えていること

昨年(2024年)がレーベル85周年でしたが、振り返ってみていかがでしたか?

去年のリリース・スケジュールを見返すと自分でも信じられないですね。クラシック・ヴァイナルのリイシュー『Tone Poetシリーズ』、それから新作が25作、合わせて75作近く出していますけれど、そのどれもがどんな時代にも誇れるクオリティと自負しています。スタッフ、レーベルと契約しているアーティストいずれをとっても、いまがブルーノート史上最高峰だと感じていますね。

これまでブルーノートからリリースされてきた作品は有機的につながっているように感じます。ブルーノートに遺されたアルバムに影響を受けたアーティストがまたここからリリースして、さらにまたそれに影響されたアーティストがいて、というように、あたかも大きな樹のような印象があって。こういうレーベルはほかに類をみないと思うんです。

そう感じていただけてとても嬉しいですし、実際その通りだと思います。どの時代においてもブルーノートが契約してきたアーティストは、自分たちよりも前に存在している先達の音楽を吸収しつつも、そこにとどまらず境界を超えてまったく新しいものを作り出すことができる人たちです。だからこそレーベルとして長い時間の試練に耐えることができたのだと思うんです。何十年も前に作られたアルバムであっても、いまだに生気を感じることができるのはそのせいでしょうね。やはり自分たちの会社が生み出す音楽はつねに変化、進化していかないとダメだと思います。もしもレーベルが博物館みたいになってしまったら、それは墓場ですよね(笑)

社長に就任して10年以上が経過しました。振り返ってみていかがですか?

レーベルの社長であれ、プロデューサーであれ、アーティストであれ、わたしはただ音楽を愛するいち音楽ファンでしかないので、「どんな音楽だったら自分が買いたいか、ワクワクできるか」と考えてレコードを作るしかない。それで、自分がワクワクするならほかの人もそう感じてくれるかな、と。だから自分がやっているのはそんなに難しいことではないのかもしれません。

それから『Tone Poetシリーズ』が成功を収めているのは誇りに感じています。レーベルの歴史とレガシーをアナログ盤のかたちで力を注いでリリースしていますから。そういえば新宿のとある中古レコード屋さんでアート・ペッパーのアルバムが53万8,000円で売られているのを昨日見たんですが、同じアルバムを『Tone Poetシリーズ』で出します。ここまで高くはありません(笑)。ともあれ、さまざまなフォーマットでお客様に音楽を届けるのは大切なことだと実感していますね。

今年のブルーノートを象徴するアーティストやアルバムを教えてください。

まずブランドン・ウッディ。レーベルには自分も大好きな『スピーク・ノー・イーヴル』(1964年)や『処女航海』(1965年)といった、いまや「クラシック」と呼ばれる作品がありますが、それを作った本人たちは当時20歳そこそこの若者だったわけです。そんな若者のエネルギーとかある種のナイーヴさがあったからこそ、それまでにない前代未聞のアルバムができたんだと思うんです。この重要な点がブランドン・ウッディにはあるんですよね。

あるいはジョエル・ロスイマニュエル・ウィルキンスメリッサ・アルダナ、それからガブリエル・カヴァッサポール・コーニッシュなどもそう。こういった若手の充実の一方で、87歳のチャールズ・ロイドがいて88歳のロン・カーターもリリースを予定している。彼らの存在はブルーノートが健全なレーベルだということを証明してくれています。彼らのようなマエストロから学べることはたくさんありますし、そうした価値観を尊重できるレーベルだと思うんですよね。そして若手と長老の中間にはブランフォード・マルサリスジョシュア・レッドマンらがいて、いろいろな意味でのクロス・セクション、交差点をレーベルのなかに持っているというのも重要ですね。

ブルーノートのこれからのヴィジョンを教えてください。

ジャズ・レーベルとして続けていけるのがいまの時代には奇跡に近いと思っていて、毎日「ああ、今日も乗り切れた……」と感じています。長いタームでいうと、新作が出たらAmazonで買ってもらうというのももちろんいいのだけれど、それだけじゃない音楽の届け方があるんじゃないかと考えているところです。今回、日本と韓国を訪れてアートとファッションと音楽、それらがひとつになったアプローチの例をいくつか体験したんです。こういう方法は少なくともアメリカにはまだないので、いろんなアイディアが浮かんでいますね。ファッションのコレクションのように、シーズンごとの『ブルーノート・コレクション』みたいなものを出す、というのもいいんじゃないかとか。音楽の届け方を少し“リ・イマジン”するのが大切なのかなと思っています。

(2025年5月23日 ユニバーサル ミュージック本社にて)

ドン・ウォズ(Don Was)
1952年デトロイト生まれ。WAS (NOT WAS)のベーシストとして81年デビュー。その後、ザ・ローリング・ストーンズ、ボブ・ディランほか数多くの大物ミュージシャンのプロデュースを手掛ける。2012年にBlue Note Recordsの社長に就任。ロバート・グラスパーなどの話題作を発表。


【公演情報】
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025
日程:2025年9⽉27⽇(⼟)・28⽇(⽇) 
開場12:00 開演13:00(両⽇共に)
会場:有明アリーナ
住所:東京都江東区有明1丁⽬11番1号
出演:
【DAY 1】Norah Jones, Don Was & The Pan-Detroit Ensemble, and more…
【DAY 2】Ne-Yo, Incognito, and more…
公式サイト
チケット料金(全て税込):
・VIP指定席:78,000円
(*アリーナセンターブロック指定席、VIP限定特典付き:後日発表)
・SS指定席:43,000円
(*アリーナ指定席、SS限定特典付き:後日発表)
・S指定席:26,000円
・A指定席:19,000円

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