SPACE AVAILABLE ダニエル・ミッチェル ── 汚れた海から、美しき世界を夢見て | Interviews

『DSMG』でのイベントのために来日した『SPACE AVAILABLE』クリエイティブ・ディレクターが語るペギー・グーとのコラボレーション、地球環境への想いについて

ファッション 
1.3K

近年の社会潮流を受け、何かと“サステナビリティ”や“SDGs”を謳うブランドは多いものの、それに伴う行動を起こし、真摯に向き合いながら、モノづくりのフィロソフィーと高いデザイン性の共存を成功させている例は、世界でも数えるほどしかないだろう。2020年にインドネシアはバリ島で設立されたクリエイティブ・プラットフォーム『SPACE AVAILABLE(スペース アベイラブル)』は、その1つだとはっきり言い切れる。

発起人は、イングランド・ロンドンの気鋭セレクトショップ『LN-CC®︎(エルエヌシーシー)』の共同創設者であり、バリ島の人気ビーチクラブ『Poteto Head Beach Club(ポテトヘッド ビーチクラブ)』のクリエイティブ・ディレクターを務めるダニエル・ミッチェル(Daniel Mitchell)だ。彼は、コロナ禍をバリ島で過ごす中、同島の観光地化と比例して深刻化する環境問題にいち早く着目。海洋プラスチックゴミ由来のリサイクルプラスチックを使用した洋服やアクセサリーを制作するだけでなく、ワークショップを開くなどしてバリ島における自然破壊の現状を訴え、一人一人の消費者の意識改革を目指している。そんな彼と『SPACE AVAILABLE』の姿勢に賛同するものは多く、これまでに〈Nike(ナイキ)〉や〈Goldwin(ゴールドウイン)〉、アレックス・オルソン(Alex Olson)らとコンビネーションワークを見せてきた。

そして、日本が世界に誇るセレクトショップ『DOVER STREET MARKET GINZA(ドーバーストリート マーケット ギンザ)』と、現行ダンスミュージック・シーンのトップを走るフィメールDJ ペギー・グー(Peggy Gou)もまた彼らの理解者であり、早くからコラボを行っていたのだが、去る7月にその最新作となるチェアが発売された。

発売当日にはペギーとダニエルが『DSMG』を訪れ、限定Tシャツの販売会やファンを交えたワークショップを行い、その直後に『Hypebeast Japan』による記念対談を予定していたのだが、残念ながらペギーは翌日に出番を控えていた「FUJI ROCK FESTIVAL ‘24(フジロックフェスティバル ‘24)」のため離席(*編集部によるFUJI ROCK FESTIVAL ‘24のレポートはこちら)。そこで急遽ダニエルの単独インタビューに切り替え、ペギーとの出会いやチェアの制作秘話を聞きつつ、『SPACE AVAILABLE』についてのアレコレを語ってもらった。


Hypebeast:本来はペギーとの対談予定でしたが、単独インタビューになってしまいましたね。

彼女は世界トップクラスの人気DJだから忙しく、明日はFUJI ROCK FESTIVAL ‘24のステージがあるから仕方ないですね(笑)。

まずは、彼女との出会いから教えていただけますか?

私がクリエイティブ・ディレクターを務めているバリ島のビーチクラブ Potato Head Beach Clubに、彼女をブッキングしたことが全ての始まりです。しかし、ロンドンには僕が友人とオープンしたセレクトショップ LN-CC®︎があるのですが、ペギーは僕と知り合うはるか前から訪れていたと。なので不思議と縁はあったものの、実際に交友がスタートしたのはバリ島からになります。

それはいつ頃の話ですか?

おそらく2017年だった気がします。その時から才能溢れるDJでしたが、今では信じられないほどビッグなアーティストになりましたよね。

では、何をきっかけにコラボレーションをすることに?

そもそもSPACE AVAILABLEは、長年バリ島が海やビーチの廃棄プラスチック問題に直面している中、2020年のパンデミック時に未来への可能性を試すプラットフォームとして始めました。すると、それを知ったペギーから「何か一緒にやりたい」と声をかけてくれたんです。そこで、一緒に椅子を作ることを提案すると彼女は気に入ってくれて、デザイン的に美しいだけでなくメッセージ性も高いプロダクトを作ることができました。

彼女は無類のインテリア好きですもんね。

そうですね。SPACE AVAILABLEで作っていた椅子を「より機能的なものにしたい」と、座面の下にレコードが収納できるセクションを設けました。コラボは、自分たちだけでは発想し得ないアイディアが生まれるから大好きで、ペギーらしい視点が加わった音楽的な造形になっていますよね。デザイン自体は前回のコラボレーションと同様で、私たちがもともと素材として持っているカラーバリエーションから、新たに好きなカラーを彼女に選んでもらいました。ですがそれ以上に、私たちは世間の消費に対する根本的な考え方を変えたくて、“大量消費社会で生きるうえで何ができるか”というメッセージを込めているのです。

任意のカラーは作り出せるものなんですね。

私たちは大量の廃棄プラスチックを集めているので、ある程度の調整が可能なんです。例えば、レッドのプロダクトを作りたかったらCoca-Cola(コカコーラ)のキャップをベースにするとか。逆を言えば、廃棄プラスチックにある色でしかプロダクトは作れないので色味は限られてきます。今回のオレンジは、1,500個のFanta Orange(ファンタ オレンジ)のキャップを使用しましたが、日本には別のオレンジキャップがあることを知りました(*伊藤園の“ホットPET おーいお茶”)。

カラーというと、SPACE AVAILABLEはブルーベースのホワイト&ブラックのマーブルがアイコンパターンですが、あれは何が原料なのでしょうか?

バリ島があるインドネシアの人口は、日本の約2倍に当たる2億7,000万人なのですが、ほとんどの地域で水道水が飲めないため、自宅にウォーターサーバーを設置していることが一般的です。要するに、“毎日、信じられない量のガロンボトルが廃棄されている”ということ。その大半が、Danone(ダノン)というメーカーの薄いブルーボトルなので、自然とSPACE AVAILABLEのアイテムはブルーベースになります。マーブルパターンは、その時にリサイクルしたHDPE(高密度ポリエチレン)とLDPE(低密度ポリエチレン)の割合によって生み出されるものですね。

謎が解けてスッキリしました。というのも以前、日本のREADYMADE(レディメイド)というブランドがペットボトルのキャップをリサイクルした椅子を製作していたんですが、グリーンベースだったんですよ。

日本では、緑茶のペットボトルがよく飲まれていますもんね。地域によって何がどれくらい消費されるか違うので、主となる廃棄プラスチックも異なってくるんです。

では、ダニエルさんの地元イングランド・ニューカッスルはどんなカラーに?

考えてみたことがなかったですが、イングランドは何でもかんでも捨てられているので、何色になるのか分からないですね。

今回の来日をはじめ、東京で過ごして「道行く人の多くがペットボトルを持っているな」や「古着の着用者が少ないな」など、気になる環境問題はありましたか?

確かにペットボトル飲料は目に付きますが、それは日本に限らず世界的なことですし、現代社会でプラスチックは必要なものだから仕方がないことです。問題は、それをただ廃棄するのではなく、どう循環させるか。時代が進むにつれて企業が新しいテクノロジーを生み出し、国によってはプラスチックの使用を制限し始めているので、とてもいい流れだと思っています。日本はとにかく街が綺麗で、15年くらい前に初めて東京を訪れた時ですら、今のイングランドより全然綺麗だったことに驚いた覚えがありますよ。

話がガラリと変わるのですが、多岐にわたって活動する中でクリエイティビティを刺激する存在はいますか?

デザイン面では、インテリアデザイナーのマックス・ラム(Max Lamb)です。「Potato Head Beach Club」関係の家具やプロダクト作りなどで密に仕事をしてきたのですが、とても才能があり、デザインアプローチや効率的な進め方など学ぶことが多かったですね。音楽面は、DJ ハーヴィー(DJ Harvey)になります。聴く人を旅に連れ出していくようなサウンドアプローチから、イベントのオーガナイズ、クラブデザインまで、メンターのような存在です。実は、一緒にバリ島で『KLYMAX(クライマックス)』というナイトクラブを手掛けていて、彼にクリエイティブ・ディレクター的な役割をお願いしているんですよ。

最後に、今後の展望があれば教えてください。

バリ島からは離れてしまうんですが、リサイクルやアップサイクルに関する巨大なデザインセンターをジャカルタにオープンしたいと思っています。ワークショップなどを行いながらローカルコミュニティーともつながることで、インドネシアの次世代のデザイナーを育成できればと考えていて、ぜひSPACE AVAILABLEのInstagramをフォローして続報を待っていてください。

Read Full Article

次の記事を読む

KOHEI が挑む俳優の世界 | Interviews
ファッション 

KOHEI が挑む俳優の世界 | Interviews

ショー出演ランキング世界1位だった男がモデルからアクターへ華麗なる転身

山根敏史が描く SAVE THE DUCK のプレミアムライン Pro-Tech シリーズのビジョン | Interviews
ファッション 

山根敏史が描く SAVE THE DUCK のプレミアムライン Pro-Tech シリーズのビジョン | Interviews

Presented by SAVE THE DUCK
“世界で最もサステナブルなアウターウェア”を作るブランドに〈F/CE.®〉のデザイナー 山根氏が携わる理由

Goldwin がインドネシア・バリ島発の SPACE AVAILABLE とのポップアップストアをオープン
ファッション

Goldwin がインドネシア・バリ島発の SPACE AVAILABLE とのポップアップストアをオープン

今回のオープンを記念してコラボレーションアイテムも展開


ダニエル・アーシャムとコーラーがバスルーム家具を発表
アート

ダニエル・アーシャムとコーラーがバスルーム家具を発表

ミシガン湖畔を臨む『アーシャム・キャビン』でデビュー

気鋭のコラージュアーティスト Yabiku Henrique Yudi が YUKIKOMIZUTANI にて個展を開催
アート

気鋭のコラージュアーティスト Yabiku Henrique Yudi が YUKIKOMIZUTANI にて個展を開催

創作の原点であるスケートボードカルチャーというルーツに立ち返り、DIY、即興性、反体制的な精神、無秩序性といった要素と、近年彼が試みている建築的な要素の両方を取り入れたコラージュアートを展示

ラフ・シモンズが自身の収集していたインテリアをオークションに出品
デザイン

ラフ・シモンズが自身の収集していたインテリアをオークションに出品

パブロ・ピカソやジャン・ロワイエール、ジャン・ロワイエールらの作品を含む合計131点がラインアップ

Back To Film : 次世代のキーパーソン hyori が捉えた BEATCHILD の熱気
ミュージック 

Back To Film : 次世代のキーパーソン hyori が捉えた BEATCHILD の熱気

大勢のリスナーがステージを囲うほど盛り上がるシーンや、思わず笑みが溢れる舞台裏のチャーミングなアーティストたち、カメラマンを交代し捉えてもらったhyoriの姿までをネガフィルムの写真でお届け

Mリーグと藤原ヒロシ主宰の fragment design が第2弾となるコラボレーションを発表
デザイン

Mリーグと藤原ヒロシ主宰の fragment design が第2弾となるコラボレーションを発表

Mリーグ公式全自動麻雀卓 AMOS REXX Ⅲをベースとしたブラックの雀卓がお目見え

ファット・ジョーが Off-White™ x Nike Air Force 1 Low のサンプルモデルを公開
フットウエア

ファット・ジョーが Off-White™ x Nike Air Force 1 Low のサンプルモデルを公開

アッパーサイドのアラビア語が特徴的


WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO が PYRENEX との初となるコラボレーションを発表
ファッション

WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO が PYRENEX との初となるコラボレーションを発表

最もクラシックなSTENをベースに採用したダウンジャケット、ビーニーが揃う

Nike Air SNDR Max からオールブラック仕様の新色がスタンバイ
フットウエア

Nike Air SNDR Max からオールブラック仕様の新色がスタンバイ

スクエアパネルはブルーに近いグレーを採用してコントラストを演出(UPDATE:国内発売情報が解禁)

PALACE SKATEBOARD が PORTER と2度目のコラボレーション
ファッション

PALACE SKATEBOARD が PORTER と2度目のコラボレーション

9月21日(土)に国内ローンチ

Jordan Brand にジェイソン・テイタムの3代目シグネチャーシューズ Jordan Tatum 3 がスタンバイ
フットウエア

Jordan Brand にジェイソン・テイタムの3代目シグネチャーシューズ Jordan Tatum 3 がスタンバイ

2024-25年シーズン用

Thom Browne がスペシャルディナーとともに2025年春コレクションを発表
ファッション

Thom Browne がスペシャルディナーとともに2025年春コレクションを発表

ニューヨークのウェストビレッジにある100年以上の歴史を持つレストラン『コマース・イン』で豪華セレブをゲストに招き最新デザインを公開した

More ▾
 
ニュースレターに登録して、“最新情報”を見逃さないようにしよう。