西本将悠希 — アートを通して原宿の“まちづくり”に邁進した男の生涯
41歳という若さで逝去した「en one tokyo」代表・西本将悠希の足跡を振り返る

去る2024年8月、東京・原宿を拠点とする「en one tokyo(エンワントウキョウ)」の代表・西本将悠希が41歳という若さで逝去した。2010年に発足した「en one tokyo」は、神宮前5〜6丁目の『The Mass』『Stand By』『Gallery Common』『BA-TSU ART GALLERY』『The Plug』『SO1』『B1_Storage』『TOKYO BURNSIDE』『麺散』『NEW AUCTION』、渋谷エリアの『SAI』『Music Bar Lion』などを運営する多角的なクリエイティブ・エージェンシー。『Hypebeast』読者であれば、お分かりになる方も多いと思うが、これらのスペースでは、毎週のように大小問わずさまざまなイベントが実施され、近年における東京ストリートのシーンを形作る上で、重要なモーメントを多数生み出してきた。故・西本氏の掲げた理念は、“ユース(原宿)”と“ラグジュアリー(表参道)”が交差するキャットストリートという特殊なエリアにおいて、アートを軸に据えた“まちづくり”。本稿では、そんな西本氏と「en one tokyo」の足跡を振り返る。
西本氏らは、2000年代にグラフィティアーティストをサポートするプロジェクトに従事していた。これが「en one tokyo」の前身となる。その後、より包括的なアーティスト支援の形を求めて、2010年に『Gallery Common』と『BA-TSU ART GALLERY』をオープン。「en one tokyo」の創業メンバーは、多くの同世代(40代〜)と同じように裏原宿のカルチャーに多大な影響を受けたという。彼らが創業した2010年は、現在や90年代と比較すると、原宿の低迷期とも呼べる“空白”の期間だった。自分たちを育ててくれた原宿への恩返しかのように、街の輝きを取り戻すべく動き出す。西本氏の“まちづくり”のコンセプトは、ギャラリーやイベントスペースを通して、先述の原宿と表参道という“近くて遠い”両者のカルチャーを繋ぐというもの。わずか1km弱の徒歩圏内にひしめく「en one」スペースにて、ハイブランドからストリート勢までが、ポップアップやエキシビションを同時期(2010年代後半〜)に開催してきた。例を挙げると、『BA-TSU』では、2017年の〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉x〈fragment design(フラグメント デザイン)〉をはじめ、〈Tiffany & Co.(ティファニー)〉〈CHANEL(シャネル)〉〈DIOR(ディオール)〉〈CELINE(セリーヌ)〉などの高級ブランドが、マスへのアプローチを考慮した話題性の高いイベントを実施。「en one」の中で最もストリート色の強い『The Plug』は、当時、スターダムを駆け上り出したVERDY(ヴェルディ)や〈BlackEyePatch(ブラックアイパッチ)〉、さらにはカリ・デウィット(Cali DeWitt)、YouthQuake(ユースクエイク)、Chito(チト)ら国内外を代表するストリートのヒーローたちにスポットライトを当て、新生『Gallery Common』では、河村康輔を皮切りに、森山大道、フェリペ・パントン(Felipe Pantone)、マシュー・ストーン(Matthew Stone)らが作品を発表してきた。また、渋谷『Miyashita Park』内の『SAI』においても、西本氏主導のもと、エリック・ヘイズ(Eric Haze)やKYNE(キネ)などレジェンドや若手アーティストの個展を精力的に開催。コロナ禍を挟みつつも、東京のアートシーンの活性化に大きく貢献した。各スペースごとのオーディエンスはリンクしないこともあるが、全て「en one」という傘の下で行われている点で、まさに架け橋と言えるだろう。
中でも西本氏の最高傑作と呼べるのは、2017年に建築家の荒木信雄と共に作り上げたアートギャラリー『The Mass』だ。『BA-TSU』に隣接し、キャットストリートから表参道へと続く一画に建てられている。打ちっぱなしの重厚感溢れる外観が特徴的な『The Mass』は、世界的アーティストを招聘するためのギャラリーであり、その他のスペースと比較すると、良い意味で敷居が高い。2018年にはニック・ナイト(Nick Knight)、2019年にはフューチュラ(Futura)といったレジェンドのエキシビションが行われ、2021年にはダン・フレイヴィン(Dan Flavin)、スターリング・ルビー(Sterling Ruby)、レイモンド・ペティボン(Raymond Pettibon)を含むグループショーが、2023年にはジョン・ポーソン(John Pawson)を迎えた展覧会が開催されている。荒木氏との協業の中で、アートだけでなく、建築にも興味を持つようになったという西本氏は、2020年に『The Mass』と併設する形で同コンセプトの『Stand By』をスタートしている。
そんな『The Mass』で9月に開催された西本氏のお別れ会には、彼の人望の厚さを物語るように、さまざまな業界から多数の人々が駆けつけた。「en one tokyo」創設から、10年強の間に数多のプロジェクトを成し遂げ、まだまだこれからというタイミングでの訃報。道半ばであったことは想像に容易いが、彼の志は「en one tokyo」内にしっかりと息付いているはずだ。創設メンバーであり『Gallery Common』ディレクターの新井暁を筆頭に「en one tokyo」一丸となって、雲の上の西本将悠希が誇りに思うであろう“まちづくり”を今後も押し進めていくに違いない。
最後に、西本氏と親交が深かったアーティストらによる追悼ポストをご紹介。決して自らが表に立つことを好まない西本氏であったが、多くの人に愛され、慕われていたかがわかる内容だろう。『Hypebeast』編集部一同、あらためてご冥福をお祈り申し上げます。