次の90年を見据えた Jaguar “TYPE 00”を解き明かす5つのポイント
アーティスト Yoshirottenとともに、マイアミへ
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去る2024年12月3日、マイアミ・アートウィークでセンセーショナルなデビューを果たした「ジャガー(Jaguar)」のデザイン・ビジョン・コンセプト“TYPE 00”。長いボンネット、流れるようなルーフライン、ファストバックのプロファイル、23 インチのアロイホイール──その、他にまったく例のない独創的なデザインを巡って自動車ファンの間では賛否両論が巻き起こっているが、「ジャガー」自身はどんな意図を持ってこのデザインコンセプトを作り上げたのだろうか?
ここでは、マイアミ・アートウィークで、このまったく新しい「ジャガー」電気自動車“TYPE 00”のアンベイルに立ち会ったアーティスト YOSHIROTTEN(ヨシロットン)のコメントを交えつつ、5つの視点から“TYPE 00”の意義と意味を考えてみることにした。
1.「ジャガー」が目指す「Exuberant Modernism」とは?
いきなり耳馴染みの薄い言葉が出てきたが、「Exuberant(イグジュービラント)」とは「豊富な、元気ではち切れそうな」のほかに「華麗な、色彩豊かな」などの意味を持つ形容詞。その現代的解釈が「Exuberant Modernism(イグジュービラント・モダニズム)」で、これを「ジャガー」は「活気あふれるモダニズム」と翻訳している。
では、この「活気あふれるモダニズム」が“TYPE 00”でどのように表現されているかといえば、全体的にメリハリあるプロポーションとしながら、装飾的なデザイン要素を極力、廃してシンプルにした「リダクションイズム(reductionism)」を採り入れている点だ。そこでYOSHIROTTENに「リダクションイズム」が現代の工業デザインにもたらす価値を説明してもらった。
「現代の技術で極限までシンプルにすることで新しいデザインに行き着くことができると思います」
しかも、YOSHIROTTENは“TYPE 00”のデザインがただ進歩的なだけでなく、アートの観点からいっても価値があるという。
「“TYPE 00”はどの角度から見ても美しいフォルムになっているほか、ジャガーのロゴとストライプを真鍮のパネル上で組み合わせたメーカーズ・マークからは、こだわり抜いたクラフトマンシップを感じ取りました」
「リダクションイズム」をアートのレベルまで昇華させた美しさ。それが「Exuberant Modernism」の重要な要素と捉えてよさそうだ。
2.“Device Mark”が提案した新たな価値とは?
「ジャガー」が“Device Mark”と呼ぶ新たなロゴは、JAGUARのなかでJとGのみを大文字とした特異なデザイン。そして、柔らかな曲線で描かれたその文字のひとつひとつが、シンプルでありながらも深い味わいを備えているように思える。「そもそもロゴを一新したとはいわず“Device Mark”という呼び方をしている点が新鮮ですね」とYOSHIROTTEN。
「これにより、ジャガーというブランドが製品の開発に新しい思想を抱いていることがうかがえました。しかも、プレゼンテーションに参加した僕たちは“TYPE 00”の車両よりも先に“Device Mark”を見せられたので『ワオッ! 新しいデザインだ!』という印象を強く抱き、これに続いてどんなデザインコンセプトが登場するのか、より楽しみになりました」
「ジャガー」のデザイン陣によると“Device Mark”は視覚的なバランスを整えるために大文字と小文字を混在させたという。
「大文字、小文字という、それぞれの文字の特性から丸みを帯びた独自のタイポグラフィーが生み出され、大文字と小文字を共存させつつ、これをブランドコンセプトにもうまくつなげたデザインという印象を受けました」
つまり、YOSHIROTTENは“Device Mark”にも「ジャガー」というブランドの新しいコンセプトが表現されていると捉えたのである。
3.マイアミピンクとロンドンブルーというボディカラーについて
新しい「ジャガー」において色彩は重要な意味を持っている。そのことは、新しいブランドアイデンティティの発表と同時に公開されたイメージ映像にビビッドなカラーが数多く採り入れられていたことからもわかる。マイアミで発表された“TYPE 00”もマイアミピンクとロンドンブルーと呼ばれる鮮やかなボディカラーでペイントされていたが、この色合いにYOSHIROTTENはどんな印象を抱いたのか?
「僕自身は『この色が好き』とか『この色が嫌い』ということは特になくて、場面や内容にあわせていちばんいいと思う色を使うことがデザインとしては重要だと考えています。その点、今回マイアミで発表された2色のカラーリングはよく理解できるし、プレゼンテーションの内容にも納得がいきました」
そしてなによりも、YOSHIROTTENはその色合いに心を奪われたという。
「マイアミで見て、とてもキレイな色でビックリしました。それも、ただ派手なだけではなく、ピンクにもブルーにも上品さがあって、風景に馴染むような色合いでした」
「ジャガー」がカラフルな色彩を用いるのは、そこに社会の多様性を表現するという意味も込められているようにも思える。
4.ゆったりとした時間が流れる“TYPE 00”のキャビン
“TYPE 00”でキーの役割を果たすのはTOTEMと呼ばれるアイテム。石から切り出されたように思えるスティック状のTOTEMを、センターコンソール内のPRISMと呼ばれる部分にセットすると、カバーが閉まり、目の前のメーターパネルにはウェルカム・アニメーションが表示される。
ただし、それらの動作はきわめてゆっくりとしたもので、ドライビングへの期待感を高めてくれると同時に、ドライバーの心を静める効果があるようにも思える。それはまた、喧噪溢れる都会から隔絶された“TYPE 00”のキャビンには、穏やかな時が流れていることを象徴するものでもある。
「“TYPE 00”のキャビンは贅沢な2シーターに仕上げられていて、ゆったりとしたひとときを過ごしたくなるクルマだと感じました」とYOSHIROTTEN。
「そもそも、こういうクルマに乗る人が無闇に焦りながら移動しているシーンは想像もつきません(笑)。きっと、優雅にマイアミの夕陽を眺めながらドライブするんでしょうね。現代においては、そういう時間を持つことがいちばんの贅沢なのだと思います」
5.マイアミ・アートウィークで“TYPE 00”が発表された理由とは?
最後に、ジャガーがマイアミ・アートウィークで“TYPE 00”を公開した意味について、YOSHIROTTENに語ってもらった。
「アート・バーゼルを始めとして、NADA(The New Art Dealers Alliance)、アンタイトルド・アート、そして今回のマイアミ・アートウィークなどでは、世界中からアーティストやデザイナーが集結してプレゼンテーションを行い、同じく世界中から集まったアートやデザインのファンがそれを楽しみます。そうした姿は、ある意味で現代を象徴する鏡といえるでしょう。とりわけマイアミは若い富裕層が多く訪れるので、まったく新しいデザインコンセプトを紹介することで大きなインパクトを与えられたのではないでしょうか。アートとともに“TYPE 00”を発表することで、従来のジャガー・ファンとは異なる層に新たな価値観やイメージを提供することが重要だったのだと思いました」
そこには、“TYPE 00”をひとつのアートとして作り上げた「ジャガー」の思いも込められていたはずだ。
YOSHIROTTEN アーティスト
1983年生まれ。ファインアートと商業美術、デジタルと身体性、サイエンスフィクションと自然世界など、複数の領域を往来するアーティスト。2021年に「SUN」シリーズの制作を開始。主な個展に「FUTURE NATURE」(TOLOT heuristic SHINONOME 2018年)、「SUN INSTALLATION BY YOSHIROTTEN」(国立競技場・大型車駐車場 2023年)、「FUTURE NATURE II In Kagoshima」(鹿児島県霧島アートの森 2024年)、その他、国内外での個展やグループ展など。代表を務めるデザイン・スタジオ「YAR」では、広告・ロゴタイプ・空間デザイン・映像など、商業に於いて視覚芸術が関わるほぼ全ての範囲での仕事を手掛けている。 www.yoshirotten.com