anrealage homme を立ち上げた森永邦彦が捉え直す過去とは? | Interviews
ザ・ブルーハーツがときに優しくパンクを再解釈したように、このブランドは過去の原風景を蘇らせる
「ビジネスまでデザインしなさい」
10年ほど前だろうか。かつて〈ANREALAGE(アンリアレイジ)〉のデザイナー 森永邦彦に取材をしたとき。あるレジェンドデザイナーのこの言葉を森永は人伝に聞いたと語っていた──。
2024年、〈ANREALAGE〉は20周年を迎え、森永は新たにメンズブランド〈anrealage homme(アンリアレイジ オム)〉を立ち上げた。ロゴが小文字になったのは〈ANREALAGE〉と対極にあることを示している。〈ANREALAGE〉は、実験的な試みや最新テクノロジーを積極的に取り入れ“未来”的な服の在り方を提案してきたが、〈anrealage homme〉が描くのは、“過去”。2000年代の原宿の原風景だったり、そのもっと前の森永自身が少年の頃に見ていた景色だったりする“過去”を、未熟ゆえにすべてがピュアに見えていた世界と捉え表現する。
つまり“過去”といっても、いわゆる名作ヴィンテージの復刻やアレンジではない。かつてのヴィンテージ服が持つ時代の匂いを、エレガントに、カラフルに、調和を取りつつ、歪みを加えて、これでもかと言わんばかりにミックスして昇華する。森永の創り出す服は、いつだって超がつくほどにコンセプチュアルだが、それは〈anrealage homme〉に至っても健在だ。
また日本市場でのデザイナー服の限界(分母の小ささ)にも早くから気づき、世界にフィールドを広げ、そして世界に評価されることで、しっかりとビジネスをデザインしてきた森永。そんな孤高の天才 森永邦彦に、改めて迫った。
Hypebeast:アンリアレイジ オムは、ロゴがピンク。新たに原宿にオープンしたSHOPの内外装もピンク。2024年3月16日に行われた2024年秋冬コレクションのファーストルックもピンクでした。ピンクをキーカラーにしたその理由は?
森永:ピンクという色は世界には存在しない色だと言われているんです。色には固有の波長があるのですが、ピンクは固有の波長を持っていない。つまり、赤と紫を人が見たときに、頭の中でピンク(赤紫)を作り出しているんです。実際、ピンク色のものを見ていると存在しているように思えるんですが、それは頭の中でしかない色であるという点が、アンリアレイジ オムでやりたいことと一致している。それは、過去の原風景であったり記憶であったり。過去に確実に存在しているけれども、いまとなっては頭の中で見ている景色ということで、ピンクをキーカラーにしています。
あえて女性的なピンクをアンリアレイジ オムのメインにすることで、それは悪しき男性性へのカウンターだったり、ジェンダーを問わないというメッセージとも捉えたのですが?
どちらかというと、ピンクに関しては先ほど申し上げた想いが強いです。ただ、そのメンズの王道であったり、当たり前のところをどんどんずらしていくということではそうともいえなくないですね。
服づくりの手法もレディスとは違うアプローチです。そのプロセスを教えてください。
レディスは過去の前例のないことをブランドの軸にしています。オムに関しては、それとは真逆。時代を生き抜いてきたウェアや自分たちが過去に作り出したアーカイブなどが、モノづくりの起点になっています。
元ネタがない服もあるのでしょうか?
たくさんあります。
2024年9月7日に東京で行われたアンリアレイジ オムの2025年春夏コレクションの最後。森永さんとともにスタイリストのTEPPEIさんも登場して手を振っていました。TEPPEIさんはどれぐらいコミットしているのでしょう?
TEPPIくんは日本で一番洋服を持っているスタイリストだと思います。あらゆる時代の洋服をカルチャーごとに、フラットに垣根なく、数えきれないぐらい持っています。かねてから交流もあり、もともと彼がヴィンテージの50-70年代のアイテムを引っ張ってきて、これを起点にオムらしさを作っていけないか? という提案がアンリアレイジ オムのきっかけになっています。なので、ショーのスタイリングだけでなく、服づくりの段階からTEPPEIくんとは二人三脚で動いているんです。
ファーストシーズンでは、あのヴィンテージ服をソースに作っているのかな、と想像できるものはありました。ただ、そのソースはヴィンテージリーバイスなどではなく、美術家のピーターマックスとコラボした70年代のラングラーだったりとカルチャーが背景にあるものが見え隠れします。ソースにするものの選びの基準などはあるのでしょうか?
TEPPEIくんとふたりでヴィンテージウェアを並べて、ふたりで決めています。選びの基準はとてもフラット。様々なカルチャーミックスであるべきだとも思っています。何かに偏らず、ロカビリー、ロック、モッズ、パンクがあって、さらに民族的なヴィンテージもある。さらにさらに、80年代のスポーティなウェアもある。多種多様の時代・カルチャーを混在させることも狙っています。
レディスは“かわいい”という感性だけで完成することも多いですよね。いっぽうでメンズの世界は、服の歴史的背景が重要だったりもします。服作りにおいて心がけの違いはありますか?
ご存知のように、メンズの世界は蘊蓄好きの人も多い。なので、ヴィンテージウェアへのリスペクトは残しています。ただ、その流儀やここはこうあるべきというあれこれは、アンリアレイジ オムでは超えていくことがテーマです。「このウェアでこのディテールはないよね」はあえて差し込む場合もある。そういう側面があります。
いま、世界の多くのデザイナーがムードボードにしたがっている90年代の原宿カルチャーは、アメリカンカルチャーの服をDJっぽい感覚で再エディットしながらの服作りがメインでした。ただ、森永さんの“過去服”の料理の仕方は全然違う。もっとエレガントで、そしてK点ギリギリのリアルクローズです。
エレガンスとポップさを大事にしています。そして、メンズウェアの中心ではなかった色を積極的に使っています。泥臭い加工ようなアプローチもあるかもしれませんが、品よくまとめることにしています。パンクなテイストも、エレガントな文脈で変換したいという想いが強い。例えば、それは、ザ・ブルーハーツがパンクをエレガントというか、優しく作り変えていくような感覚に近いんですよ。何かを壊したり汚したりするようなアジの出し方ではなくて、もっと優しく包み込んでいくような、柔らかい着地点を常に目指しています。
だからこその、セカンドシーズンのBGMは、ザ・ブルーハーツだったんですね。
セカンドシーズンのきっかけとなった手編みのニットを見ている時に、ちょうどブルーハーツを聴いていて。今回アンリアレイジ オムのコレクションで、その世界観をもっとも表現する音楽としてブルーハーツの『青空』と『TOO MUCH PAIN』の2曲をShow 音楽にしました。ただそのまま使うのではなく、曲はピアノで弾いて、少年たちの合唱を加えてカバーを作り、それをショーミュージックとして使いました。
そのメンズの2シーズン目に臨むにあたり、より気をつけたことなどはありますでしょうか?
少年が作るように、みたいなところは少し意識しました。
2024年秋から、アンリアレイジ オムのファーストシーズンが立ち上がりました。バイヤーやお客さんの反応は?
いままでのアンリアレイジの印象が変わったという声が多いですね。アンリアレイジのショーはすごいという声。いっぽうで、アンリアレイジ オムは“着たい” “欲しい”がリアクションのど真ん中にあった。新しい試みとして、ショー直後に販売会もやったのですが、そこでも非常に評判が良かったです。
20周年を迎え、ブランドとして成人したアンリアレイジと、新たに生まれたアンリアレイジ オムがどのように成長していくか非常に楽しみです。で、「A(a)」と「Z(z)」を重ねたアンリアレイジのロゴを見ていて閃いたのですが、このデザイナーインタビューシリーズを数珠繋ぎ企画にしたいと思いました。つまり、友達の輪のような、デザイナーの輪。仲の良いデザイナーを一人紹介してくれませんか?
ん〜。ダブレットの井野さんかな。一緒にサウナに行くような仲でもあります(笑)。
森永邦彦 〈ANREALAGE〉〈anrealage homme〉デザイナー
1980年東京都国立市生まれ。2003年早稲田大学社会科学部卒、大学時代からバンタンデザイン研究所に通い、卒業と同時に〈ANREALAGE〉を設立。 継ぎ接ぎの手縫いの服作りから始まり、今までにないファッションを生み出そうと最先端のテクノロジーを取り入れ、光の反射する素材使いや球体・立方体などの近未来的デザインを手掛ける。日常と非日常をテーマに様々な異分野とのコラボレーションを行い、国内外の美術館での展覧会にも多数参加。