アーカイブを愛するふたりが NO MAINTENANCE を通して未来へ紡ぐ過去の遺産 | Interviews

2025年春夏コレクションより本格的に日本へ進出を果たす〈NO MAINTENANCE〉の魅力を存分にお届け

ファッション 
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ハリウッド俳優から、スーパーモデル、レジェンドアーティストまで、名だたるセレブが住まう街──アメリカ・ロサンゼルス。世界中でも有数の都市となるこの街では、毎年数多くのセンスあるファッションブランドが生まれる。かくいう〈NO MAINTENANCE(ノーメンテナンス)〉も、そのひとつだ。アーカイブキュレーターとしてそれぞれ活動していたセバスチャン・モラガ(Sebastian Moraga)とロー・ホジソン(Roe Hodgson)のふたりによる本ブランドは、彼らが持つ共通の視点を活かし、ヴィンテージビジネスとして2020年にスタート。翌年には早くもロサンゼルス・グレンデールにストア兼ショールームをオープンし、徐々に現地でのコミュニティを形成していった。

2021年には、ヴィンテージビジネスからオリジナルブランドとして形態を移行し再出発。ブランドとしてスタートして間もない頃まで彼らの『Instagram(インスタグラム)』を遡ると、驚くことにケンダル・ジェンナー(Kendal Jenner)が同ブランドのカーディガンを着用する姿も公開されていた。その後、新鋭ブランドとして着々とアメリカ中にその名を馳せ、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)や、NFL選手のオデル・ベッカム(Odell Beckham)、R&Bシンガーのブレント・ファイヤズ(Brent Faiyaz)らなど、米国の著名人からも支持されるようになった。

そんな〈NO MAINTENANCE〉が、2025年春夏コレクションより本格的に日本に上陸することを発表。なにを隠そう、彼らは大の日本好きであり、これまでにも東京都内で撮影したキャンペーンの発表やポップアップの開催をしてきた。また、日本国内の卸先には、『Hypebeast』馴染みの『GR8』や『PULP』『CANNABIS』なども名を連ねている。本稿では、日本上陸に際して来日した、セバスチャンとローのふたりへ独占インタビューを実施。まだ謎の多い彼らのブランド設立の背景から、アーカイブキュレーターとしての活動、日本での展開についてまで、さまざまな話を聞くことができた。


Hypebeast:まずは、NO MAINTENANCEというブランド名の由来について教えてください。

Sebastian(以下、S):私たちは、もともと別々でヴィンテージピースのキュレーションをしていました。また、同時にアーカイブショップやジュエリーブランドも運営していて、当時はすごく忙しかったんです。そんなときに、「自分達のブランド名をどうするか?」という話になり、制限されず、自由でありたかったことから”NO MAINTENANCE”という名前がぴったりだと思いました。

Roe(以下、R):“NO MAINTENANCE”には、ブランドのアイテムを持つ人にとって気軽かつ長く着続けられる──メンテナンスのいらない服でありたいという願いも込められています。

ブランド発足の背景について教えていただけますか?

S:私たちは、幼い頃からそれぞれで日本やヨーロッパのランウェイブランドのアーカイブに興味を持っており、それらを集めていました。その後、興味はLevi’sのデニムやアメリカのヴィンテージまで広がり、趣味をビジネスにするまでにいたりました。やがてローと出会い、ふたりでブランドを始めることになったんです。

R:私たちのインスピレーション源は、1990年代から2000年代のデザイナーたち。彼らはコレクションを作る際、参考にするアーカイブピースをたくさん持っています。私たちもそのことに触発されて、アーカイブやヴィンテージを沢山集めるようになりました。しばらくはそれらをキュレーションしていましたが、やがて“オリジナルの洋服を作るしかない”という気持ちになったんです。

S:自分たちが今まで集めてきたものを掘り起こし、どのアイテムがブランドのキーピースとなるのかを吟味して。そこからいくつかのアイテムをセレクトし、ようやく方向性を決めることができました。それが、ふたりの根底にあるアメリカーナのフィルターを通しつつも、ヴィンテージ要素を取り入れ、なおかつ洗練されたアイテムを提案することだったんです。

R:初めは、ブランドのオリジナルアイテムをアーカイブと一緒にロサンゼルスのストアで販売する形でスタートしました。製作したのは、ボーリングシャツなど手軽に購入できるものや、キャップなどの小物類です。そうしたところ、オリジナルのアイテムに対して、予想外にも売り切れたアイテムを再販してほしいとの声や、もっと新作を作ってほしいという声を多くいただいて。そこから徐々に、現在のような運営の形にシフトしていったんです。

そもそも、おふたりが出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

S:偶然にも、私の幼馴染とローが同じ大学に通っていました。その幼馴染が、私たちそれぞれが日本のヴィンテージを集めていることに気付き、紹介してくれたことがきっかけです。

R:初めて会ったのは、2019年の秋頃。会ってから間もなく週末を一緒に過ごし、その直後には、「一緒に1カ月間日本に行こう」という話をしていました。

S:日本では、毎日原宿や高円寺、吉祥寺などを巡りました。東京以外の街にも行きましたね。この旅を通じて私たちは沢山のことを語り合い、多くの共通点を見つけることができました。

おふたりで日本に遊びに行き、そこで意気投合してブランドを始めようとなったのですか?

S:ブランドを始めようとなったのは、もう少し後ですね。そのときは、NO MAINTENANCEではなく、お互いにそれぞれのプロジェクトを進行していたんです。一緒になにかしたいと思いつつも、私はロサンゼルス、ローはワシントンD.C.に住んでいたため、物理的な距離の問題もありました。しかし、日本への旅行から帰ってきた4カ月後に、なんとローがロサンゼルスに引っ越すことを決めたんです。

Roeさんはおふたりでブランドを始めるためにロサンゼルスに引っ越しを?

R:彼となにか仕事をしたいと思ったんです。セバスチャンとは出会ったときに運命を感じたし、お互いすぐに信頼関係を築き上げることができたので。そのときは本当に形になるかどうかは分からなかったのですが、その思いからロサンゼルスへの引っ越しを決めました。

先ほどから話に上がっている、おふたりの原点となったアーカイブのキュレーターとしての活動についてもう少し詳しく教えていただきたいです。そもそもアーカイブには、いつ頃から興味を持ち始めましたか?

S:幼い頃からです。私の両親は、ISSEY MIYAKEやYohji Yamamotoといった日本のブランドが大好きで、1980年代にはたびたび日本にアーカイブピースを買い付けに行っていました。また、父の友人は当時ISSEY MIYAKEの生地工場で働いており、その友人たちからもたくさんのことを教えてもらいました。そこから徐々に日本のブランドを知り、アーカイブピースにも興味を持つようになったんです。

R:私も、同じように子供の頃から日本の文化が身近にありました。私は、父親が建築士で、アートや建築を通して日本のことを知ったんです。実家のお風呂場には、イサム・ノグチさんのポスターが貼ってあったりもしましたね。実際にアーカイブに興味を持ったのは、大学時代。当時、自分にあうスタイルを模索していたところ、UNDERCOVERやNUMBER (N)INEといった日本の裏原カルチャーを体現しているブランドに出会ったんです。また、私が大学で専攻していたコースも、アジアについての哲学や歴史を学ぶもので。それらの授業と日本のお気に入りのブランドの歴史をリンクして考えるようになり、気付けばアーカイブを集め始めていました。掘り下げていくことが、とにかく楽しかったんです。

趣味で集めていたアーカイブを、なぜビジネスにしようと思ったのですか?

S:その頃ちょうど、アメリカでもECサイトやオンラインのブログで、日本のブランドやアーカイブを紹介しあう文化が発達し始めていて。なので、これをビジネスにすればうまくいくのではないかと考えたんです。

R:当時アメリカで流行っていたファストファッションの、“すぐに捨ててまた買う”というサイクルに疑問を感じたことがきっかけです。また、同時期に、オンラインを通してアーカイブピースに興味を持ち始めました。当時はその文化がアメリカでは広まっておらず、“僕らだけしか知らない世界だ”というワクワク感が好きだったんです。

アーカイブキュレーターの経験は、現在のブランドのクリエイションにどう繋がっていますか?

S:アーカイブピースは、ヴィンテージクローズを参考にして作られているものが多いんです。なので、私たちを含めたアーカイブキュレーターは、アーカイブピースを探す際、まずはそのアイテムの着想源となるヴィンテージクローズを参考にします。その習慣があったからこそ、今も納得するまで徹底的にリサーチをすることを怠らずにいれるのだと思います。

R:アーカイブのものを探すには、常にアンテナを張り、ハントし続けるのがポイントです。ブランドを運営する際も、同じようにアンテナを張り動き続けることが重要なため、その経験が役に立っていますね。

次に、日本での展開についてお聞きしたいです。数あるファッション都市がある中で、なぜロサンゼルスに次いで日本で展開することに決めたのでしょうか?

R:日本のカルチャーは、NO MAINTENANCEのアイデンティティにぴったりだと思ったからです。日本のストリートカルチャーやスタイルは本当に独特で、私たちはそこに憧れと強い信頼感を持っています。また、日本の皆さんはとてもウェルカムなマインドを持っていて、家に帰ってきたような感覚にもなれることも理由のひとつです。

S:最近では、趣味としてではなくビジネスのために日本に来ることが多いですが、毎回来るたび、新しいことを多く学びます。また、なにがとは正確に言えないのですが、日本にいる時の感覚がとにかく好きなんです。

日本のセレクトショップではCANNABISなどでの取り扱いがありますが、どのような経緯で取り扱うこととなったのかを教えてください。

S:2023年に、東京でキャンペーンの撮影を行なったことがきっかけですね。その際にお願いしたヘアメイクさん経由で、CANNABISで働くRyotaさんと知り合ったんです。彼は、出会ったときすでにNO MAINTENANCEのことを知ってくれていたので、取り扱っていただくことになるまでスムーズに話が進みました。

ロサンゼルスのこれまでの活動と比較して、日本ではどういう風にブランド展開をしていきたいですか?

R:日本でも、ロサンゼルスと同じく、ほかのファッションブランドがしていることと正反対のことをしていきたいと思っています。一方で日本では、ロサンゼルスでは控えていた幅広いジャンルとのコラボレーションを行なっていきたいです。特に、日本のクラフトマンシップや素材の繊細さ、細かいディテールなど、私たちだけでは再現できないものを積極的に取り入れていきたいと思っています。

S:NO MAINTENANCEは、アメリカでは名の馳せているブランドです。ですが、日本では私たちはまだそれほど有名なブランドではありません。なので、まずはロサンゼルスの空気感や、ブランドの世界観を伝えていきたいです。

今度は、これまでリリースされたアイテムについてお伺いさせてください。最近日本でも発売されたJapanese Baggy Denimについて、デザインの着想源やデザインプロセスを教えていただけますか。

R:まず、工場などから生地のサンプルをもらい、その後アーカイブをリサーチします。そこでどのようなものを作りたいのかを固め、どうしたら新しい生地で再現できるかを考えて作っていくというプロセスです。ちなみに、このパンツは岡山の生地を使っています。

S:私たちは、お互いヴィンテージキュレーターからキャリアをスタートし、アメリカ製のLeviʼs®だけでも何万着ものデニムコレクションがあります。この経験もあり、私たちはどんなデニムスタイルが好きで、どういったデニムをつくりたいのかという共通認識を持っているんです。なので、その共通認識に基づいて、最も私たちらしいシルエットとデザインを再現したものを完成させました。

なぜ岡山のデニムを選んだのですか?

R:Japanese Baggy Denimを作る際、各所からさまざまな種類のデニムのサンプルをいただいて、どの厚さや重さの生地なら最も私たちがやりたいデザインを再現できるかを試しました。その中で、一番良かったのが岡山デニムだったんです。

おふたりが特に気に入っているアイテムはありますか?

R:こちらのレザーのトラッカージャケットですね。これは、1.2mmの牛革を使っていて、ヴィンテージのような傷っぽいテクスチャーを加えています。スリーブは、モトジャケットのようなシルエットで。NO MAINTENANCEのアイテムは、ニュートラルなデザインが多く、一見どのブランドのものかわからないようになっています。ですが、後から見たとき、ヨーク(服の切り替え部分)やバックポケットに特徴的なV字型のディテールを加えることで、NO MAITENANCEの洋服だとわかるようにしているんです。これが、私たちのシグネチャーのディテールです。

S:このレザージャケットと前述のデニムの共通点は、どちらも異なるデザインのアイテムを着想源にしているところです。このジャケットは、もともとはテーラリングのジャケットからインスピレーションを得ています。また、デニムも同様に、トラウザーパンツを少しづつ変形し、最終的にこのデニムの形になったんです。

NO MAINTENANCEというブランドを通して、どういった人に着てもらうかなど、イメージしている人物像があれば教えてください。

R:私たちと同じように、ヴィンテージが好きな方から洗練されたスタイルの方まで、幅広い方に着ていただけるのがNO MAINTENANCEの洋服です。したがって、NO MAINTENANCEのお客さまは特にこういった人だと決め込んでいるイメージ像はありません。ですが、基本的には自分らしく生きている方が多いと感じています。“格好つけている”というよりは、ナチュラルに自分自身を表現していきたいというマインドをもった方です。洋服を作っている際にも、着る方をイメージするというよりは、自分が着たい服を作るというのが一番にありますね。ですので、自然と私たちと似たような方がお客様になってくれているのだと思います。──どこの国に行っても、どこに住んでいても、NO MAINTENANCEの服を着ているときには、自分らしくいられる。そんな洋服を作っていきたいです。

最後に、これからの展望を教えていだけますか?

R:私たちと、日本およびロサンゼルスとの繋がりを強めていくことが目標です。まずは本格的にローンチを迎えた日本にフォーカスし、関係性を強めていきたいですね。また、それ以外にも、ポップアップを行なったことのあるロンドンなど、親しい友人や支持してくれるお客さまがいるところで活動の幅を広げたいと思っています。それと、私たちは人との関係性を最も大事にしているので、ファッションに限らずコーヒーショップでイベントを開催するなど、少人数規模の催しでコミュニティの輪を広げていきたいです。

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