ダンスミュージックの可能性を拡張する overmono の自由な精神 | Interviews

UKアンダーグランドシーンの新世代デュオが語る音楽、コミュニティ、コラボレーションについて

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2020年に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降数年間続いた規制が緩和され、今年の夏は世界各地で大規模なフェスやパーティが数多く行われた。コロナ禍での抑圧への反動からか、ダンスフロアではジャングルやドラムンベース、UKガラージ、2ステップ、ブレイクビーツなど英国発のレイヴサウンドが通奏低音のように鳴り響き、世界的なムーブメントとなっている。そのシーンの最前線に立つのが、エド・ラッセル(Ed Russel)とトム・ラッセル(Tom Russell)の兄弟デュオ overmono(オーヴァーモノ)だ。

彼らが2021年に発表したシングル曲 “So U Kno”は享楽的なサウンドを求めるパーティフリークを熱狂させ、アンダーグラウンドなダンスミュージックシーンにおけるアンセムとなった。また、今年3月に行われた〈Givenchy(ジバンシィ)〉2023年秋冬コレクションのランウェイショーのサウンド・トラックも担当するなど、その活躍の場を拡げている。そして今年5月、待望のデビューアルバム『Good Lies』を名門「XL Recordings」からリリース。このアルバムには先述の“So U Kno”をはじめ、彼らのシグネチャーであるアイコニックなボーカル・カットを織り込んだマルチジャンルの楽曲群が収録されている。2人のこれまでの音楽キャリアが集約されたこの1枚は、近年のレイヴシーンの熱気も封じ込められた、コロナ禍時代におけるダンスフロアのドキュメントと呼べるかもしれない。

このたび『Hypebeast』では、「FUJI ROCK FESTIVAL ’23(フジロック フェスティバル ’23)」への出演のために来日したOvermonoへのインタビューを敢行。ジャンルを超えてダンスミュージックの可能性を拡張し続けている2人が、自身のキャリアや音楽、ファッション業界との関わり、現地のローカルシーンについて語ってくれた。


Hypebeast:まず2人の音楽遍歴やキャリアについて教えてもらえますか?

トム・ラッセル(以下、T):子供の頃から、音楽はいつも俺らの家族の生活の一部だったんだ。だから2人とも、幼い頃から楽器を弾くように勧められていた。それから、俺は中学3年くらいの時に初めてUKハードコアにハマったんだ。それが、自分が今まで聴いたことのない音楽と出会った最初の経験だったと思う。すごく反復的な音楽で、最初に聴いた時は度肝を抜かれたよ。そこからテープを集め始めて、そのあとターンテーブルとレコードを手に入れた。で、そのあと自分たちでも音楽を作るようになったんだ。シリアルの箱の中にオマケで入っていた、タダのソフトウェアを使ってね。

エド・ラッセル(以下、E):コンピューターの前で何時間も過ごしてたよな。

T:そうそう。DJを始めたのもその頃。あと、小さなドラム・シーケンサーみたいなものを持っていたから、実際に自分でビートをプログラムしたりできたんだ。それから、俺は音楽テクノロジーの大学に行った。そこでサンプラーの使い方とか、そういったことを学んだよ。あと、自分の誕生日にソフトウェアの『Reason』を買った時があってさ。

E:15歳くらいの時だよな。

T:そう。そこから音楽をたくさん作り始めたんだ。それまではバンドにいたんだけど、『Reason』を手に入れてからもうバンドにいなくてもいいやって思って、バンドを辞めてさ(笑)俺もエドもそれぞれ自分で音楽を作るようになって、最終的には一緒に音楽を作ることにしたんだ。

今の音楽スタイルが出来上がり始めたのはいつ頃だと思いますか?

E:大学の時じゃないかな。俺らは車のトランクに入るだけの機材を持ってウェールズまでドライブすることにしたんだ。俺らが育った場所から結構近い、人里離れたところにあるコテージを借りて、5日間、ただひたすら曲作りに没頭した。それで何をやろうっていうアイディアが特にあったわけでもなく、本当にただ笑って曲を作っただけだったんだ。そしたら、あっという間に10曲くらい出来上がって。そしてそれが、俺らがこれまで作ったことのないような、まとまりのあるサウンドに仕上がっていたんだ。今までと全然違うサウンドだったし、すごく興味深かった。しかも、すごく自然に起こったことだったしね。

それが何年だったかは覚えていますか? それまでは、お互いソロ活動をしていたんですよね?

T:2016年とか2015年くらいかな。

E:でも、ソロプロジェクトをやめようとか、そう言うことを計画していたわけじゃないんだ。ただ、楽しそうだから5日間くらいどこかに行ってみよう、みたいなノリだった。バケーションみたいな感覚だね。で、実際にやってみたら、2人でも音楽が作れるんだってことがわかった。だから、もっとやってみようっていう気になったんだ。で、そこからもっと書きたくなって、遠く離れた場所を借りて、そこに機材を持っていって、その期間でたくさん曲を作るというやり方をしばらく続けたんだよ。

T:しかもそのやり方だと、一晩中起きてられるからいいんだよね。疲れたタイミングで好きな時に寝れるから。俺らって、あんまり寝ないんだよ。ただひたすら曲を書いて、料理して食べて、それからまた曲を書く。そんな感じで、人里離れた場所を見つけて、そこで集中して作業するというやり方で曲を作っていたんだ。

E:携帯の電波もないような場所だから、かなり集中できるんだよ。

数年前に3部作(*EP『Aria Ⅰ〜Ⅲ』、2016〜1017年)をリリースしていますが、それと比べると、ニュー・アルバムのサウンドはよりオープンで、すごく新鮮だと思います。その変化はどのようにして起きたのでしょうか?

T:俺たちは常に、自分たちの音楽を前進させたいと思っているんだ。同じアイディアを繰り返したくないんだよ。『Aria』シリーズは、プロジェクトの基盤を固めるのにはとてもいい方法だったと思う。今でも、俺らは時々あの作品を参照するしね。だから、他のみんなにはわからないかもしれないけど、少なくとも自分にとっては、今回のアルバムにはあのシリーズにリンクする参照点がいくつかある。でも俺たちは、その音楽を前進させ、新しいことに挑戦し、常に少し違った存在でありたいと思っているから、サウンドも変化し続けるんだ。

E:あと、制作のプロセスも大きく変わったと思う。あの3部作を作っていた頃は、サンプル・ベースが多かったんだ。でも時が経つにつれ、スタジオも進化して、もっと自分たちのサウンドをレコーディングするようになった。それもサウンドの変化につながっているんじゃないかな。

ここ5年ほどで、素晴らしいミュージシャンや DJたちが沢山登場してきたり、UKの音楽シーンは大きく変化していますよね?

T:UKの音楽シーンは常に変化し続けていると思うよ。

今回のアルバムはそういった潮流を意識して制作したんでしょうか?

E:いや、俺たちはある意味かなり閉鎖的なんだよね。自分の周りにあるものを意識しすぎると、自分が何をしたいのかを理解するのが難しくなってしまうから。でも、UKには本当に良い音楽が溢れているのは確か。シーンが変化しても、素晴らしい音楽が常に何かしら存在しているのは変わらないと思う。

交流の深かったり、共感するUKのアーティスト/DJ/プロデューサーがいたら教えてください。

T & E:(声を合わせて)ジョイ・オービソン(Joy Orbison)!

T:彼とはこれまで沢山一緒に仕事をしてきたんだ。ピート(*ジョイの本名)は素晴らしいプロデューサーで、信じられないほどの才能を持ったDJでもある。だから、一番に名前をあげるとすればやっぱり彼だね。

なるほど。ジョイ・オービソンといえば、あなたたちと彼のコラボ名義であるJoy Overmonoの新曲 “Freedom 2”が発表されたばかりですね。

E:俺たちは、ピートのことをいつも尊敬している。彼のプロダクションはまるで別次元だからね。ピートと一緒にスタジオに入れるのは本当に嬉しい。彼と作業するときは、いつも多くの事を学ばせてもらえるんだ。彼は、俺らとは全く違う角度から音楽を作っているから。他の人がどのようにアプローチしているのかを見るのは、すごく刺激的だよ。

今年の3月に行われたGivenchyのショーに2人の楽曲が使用されていましたが、ファッションシーンとの関わりはありますか? また、今日はC.E(シー・イー)の服を着てますが、好きなファッションブランドがあれば教えてください。

T:もちろん、C.Eは好きだよ。さっきの質問の答えに付け加えると、(*C.Eとも深い関係にある)ウィル・バンクヘッド(Will Bankhead、The Trilogy Tapes主宰)もベストなDJだね。でも、俺らに関してはお洒落とはかけ離れていると思う(笑)いつかもっと(ファッションシーンと)関われたらいいけどね。

E:ありがたいことに、いくつかのファッション・ブランドのために俺たちの音楽が使われるようになった。一番最近のものは、3月のパリ・ファッション・ウィークのGivenchyのショー。マシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)との仕事は本当に素晴らしかった。マシューは人としても素晴らしいから、彼とは直接一緒に仕事がしたかったんだ。俺らがやりたいことをやらせてくれて、マシュー自身も好きなことができて、すごく良いプロセスだった。そして、彼が持っていたショーの見せ方やビジョンといった全てがミニマリスト的で、服と音楽が主役になれたというのも最高だったと思うね。

マシューとは元々繋がりがあったんですか?

E:いや、知り合いではなかったんだけど、マシューの方から連絡が来たんだ。

どんなプロセスで曲を作っていったのでしょう?

T:基本的には、彼が俺らの曲の中で特に気に入ったものを挙げてくれたんだ。で、俺たちがそれを編集したりして手を加えた。

E:彼が選んだ曲の別ヴァージョンをいくつか作ったんだよ。

ショーの音楽にはフランスのプロデューサー Surkinの名前もクレジットされていましたが、彼も制作に関わっていたんですか?

T:そうそう。彼も関わっていた。

E:俺らがSurkinに色々と提供して、彼がそれを繋ぎ合わせた感じ。全てがすごくスムーズだったね。

今回のアルバム『Good Lies』の収録曲の一つ “Is U”には、あなたたちとはちょっと畑が違うシーンから来ていると思われるティルザ(Tirzah)の楽曲のサンプルが使われていたりもします。あなたたちはそういった違うシーンのアーティストとも親しかったり、関わりがあったりするのでしょうか?

E:交流もありはするけど、あのトラックはそれが理由ではなく、単に俺たちがティルザの大ファンだから、あのサンプルを使ったんだ。彼女のレコードはもう何回も聴いているんだけど、同じものを何度も聴いていると、ある日突然、全く違うものに聴こえる時がある。その現象があの時も起こって、ボーカルがいきなり飛び出してきて聴こえた時があってさ。で、それを使って何かやろうと思ったんだ。それ以外は、人と出会ってそれが実現したものももちろんあるけどね。数枚のレコードで同じ人たちのサンプルを使って、それによって彼らとの関係を築き始めることができたのも良かった。そうやって関係が築ければ、その人たちに特別に魅力的なものを書いて欲しいとお願いすることもできるしね。

T:そうだね。最近は、新しい曲を作るときに、すでに作られているものをサンプリングするんじゃなくて、過去にサンプリングした人たちにオリジナルのものを俺たちのために書いてもらうように頼むようになってきたんだ。そのやり方は、これからもっともっと探求していきたいと思ってる。

日本のクラブでは、あなたたちのトラック “So U Kno”が大ヒットしました。どのパーティに行ってもあの曲が聴こえてくるくらいです。日本ではここ数年でレイヴシーンが発展していて、若い世代がパーティやクラブに行って、こういった音楽で踊るのを好む傾向にあります。UKでの反応はどんな感じですか?

T:UKでの反応も良かったよ。素晴らしかった。

E:パンデミックが落ち着いて初めての夏で、全てのパーティが再開し始めた時だったから、俺らも経験したことのないようなエネルギーを感じることができて、どのショーも大盛り上がりだった。特にあのトラックは、1つのシーンだけでなく、いつくかの異なるシーンを交差して受け入れられたと思うね。

T:自分が予想もしなかった場であのトラックがプレイされるのはクールだった。より広い範囲にアピールできる何かを作ることができたのは嬉しいよ。

いま英国で面白いクラブやイベント、おすすめのパーティなどがあればおしえてください。

E:ブリストルやロンドンには良い場所やイベントが沢山あるよ。特にブリストル。ブリストルに『Strange Brew』っていうベニューがあるんだけど、その周りにはすごく良いコミュニティが存在しているし、『Mickey Zoggs』っていう場所もおすすめ。ブリストルのシーンは小さいけど、そのシーンは本当に素晴らしい人たちによって作られているんだ。だからすごくカジュアルだし、みんなが友達って感じですごく良いんだよね。移り変わりが激しい場所や、もっと規模が大きな場所でそういう小さなシーンを作るのはかなり難しいと思う。あの小さなシーンの良さは、ブリストルならではだと思うね。

T:あと、数カ月前にピザパーティをやったんだ。アルバムのリリースパーティで『Fabric(ファブリック)』でやったんだけど、『Fabric』の中でも最高の部屋ですごく良かった。

『Fabric』は一度閉鎖しましたよね?

T:そう。でも何とか続いているんだよ。でも、すごく難しいと思う。『Fabric』があるロンドンの中心部は、最初にオープンした時とは大きく変わってしまっているからね。あのエリアでアンダーグラウンドなクラブを続けていくのはとても難しいと思う。今、ロンドンではクラブが減っているんだ。

E:そういう場所がどんどん外に押し出されていってる感じ。色んなクラブが潰れてしまったよ。でも、また新しいクラブもいくつかオープンしているけどね。あと、押し出されるほど大きなベニューになる。大きなウェアハウスみたいな場所にクラブができるから。あと、『Printworks(プリントワークス)』っていうベニューは大成功したと思うね。あそこはライセンスの関係で夜中の12時までには閉めないといけなくて、デイ・パーティをやっていたんだ。そのおかげで、子供がいる人たちや夜遅くに出歩くのが嫌な人たちなんかが集まって、沢山の人たちが昼間のパーティを楽しめるシーンが出来あがった。あれは良かったと思う。

最後に、今後のプランをおしえてください。

T:この夏は、とにかくツアーで沢山のショーをやるんだ。そのあとも、UKとヨーロッパとアメリカで単独公演が控えてるよ。

E:あと、音楽も常に作り続けているから、また近々新しい作品をリリースできるんじゃないかな。


Overmono『Good Lies』
発売元:XL Recordings / Beat Records
リリース日:2023年5月12日
フォーマット:
国内盤CD(解説・歌詞対訳付/ボーナス・トラック追加収録/特典ステッカー)2,420円(税込)
輸入盤CD 2,035円(税込)
限定輸入盤LP(通常盤 クリスタル・クリア・ヴァイナル)3,135円(税込)
輸入盤LP(通常盤 ブラック・ヴァイナル)3,135円(税込)
公式サイト
トラックリスト:
1. Feelings Plain
2. Arla Fearn
3. Good Lies
4. Walk Thru Water
5. Cold Blooded
6. Skulled
7. Sugarrushhh
8. Calon
9. Is U
10. Vermonly
11. So U Kno
12. Calling Out
13. Dampha(*Bonus Track For Japan)

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