2023年春夏シーズンのパリ・ファッションウィーク・メンズを HYPEBEAST 的視点から総括
ヴァージル亡き後の〈Louis Vuitton〉やNIGO®️の2ndシーズンとなる〈KENZO〉など注目コレクションをレポート

6月21日から26日(現地時間)にかけて、2023年春夏シーズンのパリ・ファッションウィーク・メンズが開催された。日本の多くのファッション関係者と同じく、2年半ぶりに私『HYPEBEAST Japan』阿部も渡仏。本稿では、コロナ禍によって、デジタルへの移行を余儀なくされ、その後再びフィジカルへと本格的に舞台を戻し始めたファッションの祭典を『HYPEBEAST』的視点から総括する。
上記のような理由から、現場の雰囲気や熱量を肌で感じるべく、ファッションウィークの公式カレンダーに載っている/載っていないに関わらず、スケジュールの許す限り多くのショー、プレゼンテーション、イベント、ショールームに足を運んだ。ランウェイ/プレゼンテーションに絞れば、初日は〈KIDILL(キディル)〉〈John Elliott(ジョン エリオット)〉〈TAAKK(ターク)〉、2日目は〈Givenchy(ジバンシィ)〉、3日目は〈HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)〉〈Rick Owens(リック・オウエンス)〉〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉〈AMIRI(アミリ)〉〈sulvam(サルバム)〉、4日目は〈Junya Watanabe MAN(ジュンヤ ワタナベ マン)〉〈Maison MIHARA YASUHIRO(メゾン ミハラヤスヒロ)〉〈DIOR(ディオール)〉〈COMME des GARÇONS Homme Plus(コム デ ギャルソン・オム プリュス)〉、5日目は〈AURALEE(オーラリー)〉〈Hermès(エルメス)〉〈kolor(カラー)〉〈Casablanca©(カサブランカ)〉〈Marine Serre(マリーン セル)〉、最終日は〈KENZO(ケンゾー)〉〈doublet(ダブレット)〉〈Kiko Kostadinov(キコ・コスタディノフ)〉〈THOM BROWNE(トム ブラウン)〉〈CELINE(セリーヌ)〉に出席した。多くのブランドが既にフィジカルでショーを発表しているが、日本勢を中心に今回初めてパリに戻っきてたブランドも少なくない。
デジタル or フィジカルとの相性は、それぞれだと思うが、2020年以降は手の込んだ映像作品が多数発表されてきた。ゆえに自ら上げたハードルを越えられるかが、フィジカル回帰における重要なポイントだと考えられる。それを物語るように、今回のファッションウィーク全体を通して、以前にも増してショー全体の演出に工夫を凝らしているブランドが多い印象を受けた。その代表例は、Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)亡き後、デザインチーム “Studio Prêt-à-Porter Homme”による初のコレクションとなった〈Louis Vuitton〉だろう。Mos Def(モス・デフ)ことYasiin Bey(ヤシーン・ベイ)、Saul Williams(ソウル・ウィリアムズ)、GZA、Goldie(ゴールディ)、Lupe Fiasco(ルーペ・フィアスコ)を起用した2021年秋冬コレクションや2022年春夏メンズコレクションなど、筆者も当時「Virgil、あんた最高だよ!」と画面越しに呟いてしまったぐらい、素晴らしい世界観をデジタルでも作り上げていた。『ルーヴル美術館』の中庭『クール・カレ』を会場とした〈Louis Vuitton〉の2023年春夏を一言で表せば、感動的。フロリダA&M大学のマーチングバンドが〈Louis Vuitton〉製のユニフォームやシューズなどを身に纏い、ショーの冒頭と最後で渾身の演奏を行なった。また、来場した多くのセレブリティの1人であるKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)が着席した状態で自席からサプライズパフォーマンスを披露。そして、フィナーレでは、デザインチームのメンバーが、それぞれの健闘を称え合うように抱き合う姿が印象的だった。彼らにとっては、Virgil Ablohという偉大なリーダーを失い、相当な不安やプレッシャーを抱えながらのショーだったのでは推測する。しかし、Virgilの築いた世界観を崩さずに製作されたであろう今季のコレクションで、デザインチームは全てを出し切った感も強く、来シーズン以降に向けて、次なるアーティスティックディレクターの採用に期待したい。余談にはなるが〈Louis Vuitton〉のあった3日目は会期中最も暑く、炎天下でせっせと動画を撮っていた筆者のiPhoneが高温のため、一時使えなくなるというファッションショーではレアなトラブルに見舞われた……。
いち早くフィジカルに戻っていたKim Jones(キム・ジョーンズ)の〈DIOR〉は、他ブランドと比較しても、やはり抜群の安定感を誇る。贅沢さと実用性、フォーマルとインフォーマルの要素をミックスした最新コレクションでは、イギリス人の画家 Duncan Grant(ダンカン・グラント)が大々的にフィーチャーされ、1913年頃に発表された作品 “Lilypond Screen”やスケッチが複数のアイテムで採用された。メゾンのアイコンの1つである“カナージュ”は、キルティング素材のコートとして登場。カラーパレットは、グレー、ピンク、パステルのグラデーション、グリーンやブルーなど〈DIOR〉の十八番とも言える美しいものに。Christian Dior(クリスチャン・ディオール)とDuncan Grantのクリエイティビティに大きな影響を与えた彼の住まいや庭園にオマージュを捧げるようなセットも、ショーとコレクションテーマの一体感を生み出していた。
日本勢は意外と直球勝負のブランドが多く、京急線を貸し切った〈kolor〉や浅草の商店街でショーを敢行した〈Maison MIHARA YASUHIRO〉は、しっかりと服を見せるという点で良い意味で程よい演出だったと言える。そんな中でも井野将之の〈doublet〉は、真夏のパリに擬似の雪を降らせ、コレクションピースとともにブランドのアイデンティティを貫いた。また〈COMME des GARÇONS Homme Plus〉と〈Junya Watanabe MAN〉がパリに戻ってきたのも今季の大きなトピックだろう。一切媚びない〈CdG〉スタイルはもちろん健在で、会場の雰囲気も含めて、コロナ中に東京の本社で行っていたショーをそのままパリに持ってきたようだった。〈Junya Watanabe MAN〉は「Coca-Cola(コカ・コーラ)」『Netflix(ネットフリックス)』や「Honda(ホンダ)」などの飛び道具から、Jean-Michel Basquiat(ジャン=ミシェル・バスキア)やKeith Heringまで、豊富なコラボを展開し、“Another Kind of Punk”と題された〈Homme Plus〉の最新コレクションは、中世の道化師をモチーフにブランドの持つパンク精神を体現したような内容に。
そして、最終日はパリコレを締め括るに相応しい1日だった。朝イチは筆者が個人的にも1番楽しみにしていた〈KENZO〉。NIGO®️(ニゴー)の2ndコレクションということもあり、いやがおうにも期待が高まる。1stコレクションは、Pharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)やKanye West(カニエ・ウェスト)が来場し、ショーの楽曲も発表前だった自身のアルバムからセレクトするなど、かなりHYPEな内容だったが、今季はそういったわかりやすい話題作りを避けたのか、髙田賢三とメゾンに対するNIGO®️の深いリスペクトを改めて感じさせるものだった。前コレクションのアプローチに磨きをかけ、湾曲したストライプ柄、セーラー襟や帽子などの航海モチーフ、1980年代のフラッグをデザインソースとした〈KENZO〉グラフィック、ピクセル化された花柄がキー要素として挙げられるが、これらの多くが〈KENZO〉のアーカイブとその当時の時代背景をオマージュしたものである。ショーからは話が逸れるが『HYPEBEAST』読者にとっては、NIGO®️氏の履いていた〈adidas(アディダス)〉Adimaticが何なのか気になるところだろう……。
そして、大トリを務めた〈CELINE〉には、ご存知の方もいると思うが、グローバル アンバサダーを務めるBLACKPINK(ブラックピンク)のLISA(リサ)とBTSのVが観客として来場。今や世界一のビッグネームとなった彼らを一目見ようと、怖いぐらいの数のファンが、会場の『パレドトーキョー』外に押し寄せ、周囲を取り囲んだ。我々日本のメディア席は、LISAとVの向かいだったこともあり、ショーが始まっても、その異様な空気感から、やや集中できなかったのも本音ではあるが、カリスマ Hedi Slimane(エディ・スリマン)の打ち出すピースは、どれを取っても圧倒的に華があるものだったし、ショーの音楽を担当したアメリカ・ニューヨークの新鋭ポストパンク・バンド Gustaf(グスタフ)と、豪華来場者などによって押し上げられたメインストリームなムードとのミックス具合が、Hediならではといったところか。
複数ブランドで見られた要素としては、透け感のある素材使い、アニマル柄、淡い色合い、ワントーンの原色系のカラフルなアイテム、パッチワーク調のデザイン、ダメージ加工されたテーラードアイテムあたりが目に留まった。フットウェアは、Matthew M. Williams(マシュー・ウィリアムズ)就任後初となるメンズの単独ショーとなった〈Givenchy(ジバンシィ)〉に登場したTKシリーズや〈Louis Vuitton〉の一部フットウェアに見られたような、丸みを帯びた分厚いソールが今後のトレンドの鍵となるかもしれない。
〈sacai(サカイ)〉〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉〈Off-White™️(オフホワイト)〉〈Heron Preston(ヘロン・プレストン)〉といったブランドが、今回のメンズコレクションに不参加だったため、カレンダー的にいささか物足りない感もあったが、蓋を開けてみれば、コロナ前と同じように、ショー以外でも連日連夜イベントやパーティーが開催され、ファッションウィークに活気が戻っているのを十分に実感できた。例を挙げると、Samuel Ross(サミュエル・ロス)の〈A-COLD-WALL*(ア・コールド・ウォール)〉x〈Converse(コンバース)〉、Salehe Bembury(サレヘ・ベンバリー)x〈Crocs(クロックス)〉、〈Reese Cooper(リース クーパー)〉x〈Levi’s®(リーバイス®)〉、Tremaine Emory(トレマイン・エモリー)による〈Supreme(シュプリーム)〉『SLAM JAM(スラムジャム)』〈Babylon LA(バビロン LA)〉〈KAR / L’Art De L’Automobile(カー / ラート ド ロートモービル)〉、小木“Poggy”基史の““POGGY’S BOX(ポギーズボックス)”など。少し気は早いが、来季はこういった細かいイベントもレポートできるように幅広く追っていきたい。