Interviews: ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンに訊く Zara Home とのコラボプロジェクトの成り立ち
どんな空間/インテリアにも馴染むというヴァン・ドゥイセン氏のデザインDNAを落とし込んだプロダクトの背景を紐解く
Interviews: ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンに訊く Zara Home とのコラボプロジェクトの成り立ち
どんな空間/インテリアにも馴染むというヴァン・ドゥイセン氏のデザインDNAを落とし込んだプロダクトの背景を紐解く
6月30日にローンチを迎える〈Zara Home(ザラ ホーム)〉とベルギー人建築家兼デザイナー Vincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセン)がタッグを組んだコレクション “Zara Home + by Vincent Van Duysen”。
数々のアワード受賞歴を持つVan Duysen氏と〈Zara Home〉が二人三脚で作り上げた今回のコレクション。コラボレーションにあたって、Van Duysen氏が再考したという自身のデザインDNAがプロダクト1つ1つに落とし込まれ、過去20年の間に世界中のメディアで賞賛されてきた自らの住居の世界観の反映に成功している。年2回発表される今コレクションの第1弾では、アームチェア、ラブシート、2人/3人掛けソファ、コーヒーテーブル、サイドテーブル、デスク、チェア、ラグ、テーブルランプなどが揃うリビングルームシリーズを展開。これらのプロダクトは、“どんなインテリアや居住スペースにも溶け込む”とVincentは自信を持って説明している。
今回『HYPEBEAST』編集部では、2023年春夏シーズンのパリ・ファッションウィーク期間中に開催された“Zara Home + by Vincent Van Duysen”を祝した特別ディナー会に出席。〈Zara Home〉チームと共にゲストを暖かく迎えてくれたVan Duysen氏に独占インタビューを実施する機会に恵まれた。“Zara Home + by Vincent Van Duysen”が現在〈Zara Home〉の公式オンラインストアにて現在販売中となるので、気になる方は早めに押さえておこう。ちなみに、コレクションの実物をチェックさせてもらったが、筆者は上質なレザーを使用したスツールがおすすめだ。
HYPEBEAST:コラボの経緯について教えてください。
Marta Ortega(マルタ・オルテガ)※が、私を訪ねてアントワープに来てくれたのが始まりでした。私という人間を知りたいと言って。自宅を案内して、家を見てとても感心してくれていたし、彼女がわざわざ遠出してくれたことにとても嬉しくて。とてもカジュアルな訪問だったので、落ち着いて本音で話をすることができました。既に私の作品を知っていて、店にも私の本を置いてくれていて、ファンでいてくれたのは以前から知っていました。その時は本当に気楽に話をして終わりました。そしたら2週間後に、「今後のコラボレーションの可能性についての打合せ書類を送りたい」と連絡があって。多分、家や店舗など、建築系のプロジェクトに関するコラボのお話だと思っていたんですけど、届いたものはホームグッズと家具のプロダクトコレクションについての内容だったんです。※Zaraを展開するInditex(インディテックス)の現会長
それは何年のことですか?
確かそのミーティングが2020の年10月頃で、2021年の末にはコレクションの最初のピースのデザイン作業が始まり、2022年1月にはコレクションを披露しました。ごく最近の話なんですよ。そして1月から今まで、とても短い期間で全てのプロダクトができあがりました。最初のアイディアを渡してから1カ月もしない間、3週間ほどで全ての商品が具現化されて!ものすごいスピード感ですよね。大変驚きました。たしかプロトタイプのレビューを4回ほど重ねて完成しました。そして直ぐに撮影に入り、3つのロケーション ー 私のポルトガルとパリの自宅、そしてミラノで行いました。
Zara Homeと協業した感想は?良かった点、驚いた点などありますか?
今回のコラボレーションはとてもスムーズでした。それは相性が良くないと決して起きないこと。仕事の中で私がとても大事にしている、前向きなエネルギー、意気投合すること、情熱と献身、そして最も大切なプロ意識と効率性。さらに、目指すところは量産ではなく、高品質で、1つ1つ美しく丁寧に作られた作品を世界中の皆様に届けること – ZARAがその各レベルで全ての期待に応えてくれたことには正直驚きました。
最もチャレンジングだった点は?
それは先程少し話したように、私が35年間、自分の作品を通じて伝えてきた完璧主義という高いレベルに、Zara Homeがついて来れるのか、という不安があったことです。でも、何ひとつ妥協する必要はありませんでした。私がお願いしたことは何でもやってくれました。たとえば、採用したレザーは本当に美しいサドルレザーで、オーク材は無垢のフレンチオークを使い、化粧板は不使用。プラケージもなし。ソファはマドリッドにある1945年創業のソファメーカーのアトリエで作られていて、工業化されていない本物の職人技が感じられます。ドライコットン、美しいドライリネン、ビュクレールなど、本当に最高級のものばかりです。それが一番驚いたことでした。「Vincent、言ってくれれば実現させるよ」といつも言ってくれて。それこそが成功の秘訣なんですよね。「願いはすべて叶えるよ」と言ってくれる信頼関係。それにとても驚き、またとても感動しました。なぜなら、ここに座っていると、これが私や私の家にどれほどの影響力を持つものなのか、信じられないほどわかるから。高品質が感じられるでしょう? 思わず触れたくなったり、匂いを嗅いでみたくなるのも、全てクオリティが上等だからです。クッションも押さえたときに硬くなく、本当にきれいで、そういった細かい点も全てとても重要なんです。どうです、美しいでしょう?
ご自身のアーカイブに焦点を当てた理由は?
私にとって60歳というのは、内省の瞬間でした。世界に刺激を与えるVincent Van Duysenのシグネチャーとは実際何なのか、それに対し人々はどう共感しているのか、私のことを何として受け入れているのか、人々は“Vincent Van Duysen”をスタイルとしてどう見ているのか、それを知りたかった。美しい自然な素材を通して表現する私の柔らかく、ミニマルで、暖かく、時を超越したスタイル – それは知られていると思いますが、その奥を理解するためには自分の過去のアーカイブや、以前住んでいた空間、今の全てに飛び込む必要があったんです。このスタイルの空間とそこにある作品たちは私のDNAとシグネチャースタイルを直接反映しているものばかりです。私の以前のリビングルームはつい2年前にもTマガジンやNew York Timesの“世界で最も美しい部屋25選”や“世界で最も感動的な部屋”に選ばれていますし、80年代末に私がキャリアをスタートさせた場所でもあります。現在のリビングルームからも、基本的に私が共感できる最も象徴的な作品を選び、スケッチと3Dレンダリングですべてを視覚化しました。そして、その中から作品を取り出して、寸法、技術、仕上げの点で再検討し、新たにデザインした作品を両方のインテリアに戻し、どうなるか確かめました。既に私のリビングにあるクラシックな家具とは別に、建築のパイオニアであるAlvar Aalto(アルヴァ・アールト)、Luis Barragan(ルイス・バラガン)、Jean-Michel Frank(ジャン=ミシェル・フランク)や、その他北欧の作品など、私が本当に好きな作品を、自分なりに再解釈したさり気ない作品も取り入れたんです。
カルチャーフレンドリーという表現が印象的です。日本の住居は狭く、実際に家具を買う際は、他の家具とのバランスを考えることが多いのですが、デザインする上で調和させるための秘訣や心がけていることはなんですか?
空間に合わせてサイズとスキルを使いこなすことがポイントになります。今ここには1番大きいサイズのソファ、センターテーブルがありますが、このように小さいサイズもあります。これはモジュールなので2つ揃えなくても1つでも使えるようになっています。このソファも複数のサイズ展開があります。カーペットは、標準的なもので、これは大きなものですが、小さなものもあります。狭い部屋でも全てのパターンを試してみましたし、それはつまり、小さなスペースにこれ(大きなサイズ)を持ち込むということではなくて、コレクションの内のたった1つの作品、小さなソファや小さなテーブルを部屋に置いてもらえたら、それで私はもう十分に幸せ – 作品の意味がそこで成就するという意味です。もちろんスペースに余裕があるのならば大胆に飾ってもいいかもしれませんが、そういうことを押し付ける気は全くなくて、狭い部屋にひとつ置くでもよし、ミニチュア版で揃えるもよし、ということです。小さなソファひとつとテーブル、ローテーブルひとつで、小さなカーペットでまとめるということも簡単にできるということです。
複数のサイズがあるんですね、小・中・大と。
そうです。服を選ぶのと同じくらいの自由度があるんです。
Zara homeを通じて、これまであなたのプロダクトを手にしたことのない人にも手に取ってもらえる良い機会ですね、その点についてはいかがお考えですか?
そうです。先程もお話ししたように、60歳を迎えた今年、心の底から民主主義者である私にとって、今回のコラボレーションを通して自分のスタイルと作品を全世界に向けて非常に手に取りやすい価格設定で発信する、これは究極のチャンスだったんです。私は自分のデザインを、価格的にも、作品としても、世界中のすべての人が手に入れられるようにすることに献身的に取り組みました。
そういった初めてのカスタマーにはどのような点に注目してほしい/楽しんでもらいたいですか?
Zara Homeのお客様には、私の作品を知っている人もいれば、私が何者かも知らない人もいると思います。Zara Homeの顧客層は世界中で幅広いので、まずは新しい発見を楽しんでもらいたいですね。服でも男女問わずZaraのアイテムをハイブランドと一緒に取り入れたりしますよね、それはリーズナブルな価格帯でかつ綺麗だからですよね。今回のコレクションはまさにそのような企画です。これらの家具たちはどんな場面にも合わせることができますが、決してその取り入れ方を押し付けるつもりはなく、ビビッとくる物があれば触れてみてもらいたいです。美しく、時代を超えた作品を非常に手の届きやすい価格帯で、人々がその一部を取って自分の環境に置くことができることが狙いです。最終的には、家に飾られた作品を見て、その美しさ、もちろん作り方や素材を見れば、長い間共にできる作品であること、そして、流行などとは無縁であることを理解してもらえると思います。世界中の人々のために作られた、美しい工芸品なのです。そして、このような作品がインテリアにあることで、より幸せになれるのです。このリビングルームにある家具は、その汎用性の高さが特徴です。このテーブルをキッチンやダイニング、ベッドルームに置いてもいいし、サイドテーブルやチェアも同じように置くことができます。例えば、このサイドテーブルのように、小型のものもありますが、これをスツールとして座って話をしたり、こちらに来て向こうにいるあなたとお話をしたりすることができます。私の作品は一般的に非常にソリッドで、このブレないスタイルが私のDNAの一部であり、それを皆様にも伝えたいという思いで作りました。
最後に日本のファンやHYPEBEAST読者にメッセージをください。
真っ先に私の作品の全体的な雰囲気を見てもらえばわかる通り、私は日本が大好きなんです。人々、食べ物、文化、建築、その純粋さ、自然との関係、これらがとても重要だと思います。個人的に、必ず心のどこかで日本からインスピレーションを受けています。もちろん、ヨーロッパの北部、ベルギーから来た私の視点からの解釈になりますが。今回のコレクションやこれからのコレクションでは、私の一部を作品に残し、さまざまな異文化、そしてあらゆる生活様式を共有し、その一部になれることを目標としていますつまり日本の家庭にほんの少しのVincentが入り込んで行くことができたらいいなと、思っているわけです。ありがとうございました。HYPEBEASTはいつも読んでいるので、本当に楽しみにしています。