Interviews: Coldplay のベーシスト ガイ・ベリーマン が手がける APPLIED ART FORMS の感性を紐解く

“インダストリアルデザインを学んだ私はヴィンテージのミリタリーウエアがインスピレーションの源になっている”

ファッション 
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音楽の都とも呼ばれる英国ロンドンで産声を上げた4人組ロックバンド Coldplay(コールドプレイ)がデビューして22年。絶大な人気を誇るバンドのベーシスト Guy Berryman(ガイ・ベリーマン)が世界中のステージで繰り広げるミュージシャンとしての活動とは裏腹に、自身によるプロジェクトは音楽ではなく洋服作りだった。 

音楽活動に専念する前は、プロダクトデザインの分野で働くために勉強していたというGuy。当時、彼の頭の中は車やテーブル、椅子、建物、インテリアなどで占め、インダストリアル・デザインに没頭していた。しかし趣味としていた音楽での“ラッキーでハッピーな偶然”によりミュージシャンとしての活動が主となり、プロダクトデザインへの情熱は何処かへ置いてきたままだったという。そんな忘れかけていた“デザインの仕事”に彼を向かわせたのは、ツアーを廻りながら訪れた各都市のヴィンテージショップで、気に入った服を収集することだった。Guyは集めていた服を基に自分が納得する服のブランドを立ち上げることを決断。約2年前に自身のブランド〈APPLIED ART FORMS(アプライド アート フォームズ)〉をスタートさせた。

〈APPLIED ART FORMS〉のコレクションは、Guyが特に惹かれていったというミリタリーウエアが軸となっている。しかし単なるコピーではなく、ディテールを精査し、それに最高品質の素材を組み合わせ構築されている。ラインナップはコート、ライナーコート、ライナーベスト、フード付きデッキジャケット、キルトジャケット、フィールドジャケット、カーゴパンツ、スカルプチャーパンツ、セーター、オーバーサイズフーディ、Tシャツ、ビーニーキャップなど幅広く展開する。単体アイテムとしてはもちろん、レイヤードによりルックを完成させる楽しみ方も出来るよう工夫され、どれも長く愛用できるようクリーンなデザインに仕上げられている。

日本には2017年にバンドのジャパンツアーで来日した時以来と言うGuyは『DOVER STREET MARKET GINZA』でのローンチイベントのため5年ぶりに東京へ。そんな彼に話を伺う時間を作ってもらい〈APPLIED ART FORMS〉の秘密を探ってみた。

Hypebeast : ようこそ東京へ。今回の滞在期間はどのくらいですか? 他の都市へ行ったりは?

滞在は5〜6日の予定で、ずっと東京にいます。東京はやることがたくさんありますから。でも、大阪もいいところだから、またぜひ行ってみたい。仙台にも行きたかったのですが、今回の旅行では行けそうもないですね。

まず最初に、あなたが始めた APPLIED ART FORMSの始まりについてお聞きしたいのですが、ご自身のブランドを立ち上げるというアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

私は25年間ミュージシャンとして活動してきました。プロのミュージシャンになる前は、建築やエンジニアリングを勉強していました。私は音楽にもとても情熱的だったので、ミュージシャンになることは偶然とはいえとてもラッキーでハッピーなことだったのですが、ミュージシャンになる前は、デザインや物作りの分野で働きたくて、私の頭の中は音楽よりも車やテーブル、椅子、建物、インテリアなど、そういったデザイン関係の方向を目指していました。

インダストリアルデザインを専攻していた?

その通りです。それで数年前に、音楽活動を長くやってきたけれどデザインや物作りへの興味を完全に捨ててしまったのか、と頭の中で自問自答の選択を迫られた気がして、デザインの分野で何かやりたいと思うようになったんです。でも、それが服になったのは自分でも意外でした。大学で勉強していた頃は、服を作るという発想は全くなかったからです。

この20年間、ミュージシャンとして様々な都市をツアーしているうちに、見つけた服をコレクションするようになりました。ヴィンテージやミリタリー、デニムなどのワークウェアを集め、大きなアーカイブを構築してきました。そして何かを作りたいと思ったときに、自分の服のアーカイブをすべて見て、それら歴史的遺産とも言える古着のコレクションが服をデザインするためのアイデアの基礎になると思ったのです。

立ち上げからこれまで何シーズン目になりますか?

もう2年ですから4シーズン目になりますね。でも私たちの仕事の進め方は、通常のファッションカレンダーとはあまり関係がないんです。なぜなら、例えば自分が美しいと思えるジャケットをデザインしたとして、私にとってはそれはひとつの美しいジャケットであり、いつ見ても良いものです。そしてそれは翌シーズンもその次のシーズンでも同じように見えるはずです。私はデザインの観点から、時代を超越した感覚を取り入れるよう心がけています。ただもちろん、毎シーズン新しいアイデアも取り入れていますし、春夏物、秋冬物でシーズナルな商品も追加していますが、コレクションの変化は少しづつです。

なるほど、基本は変えず少しずつ、進化していくようにデザインを考えていくんですね。

そうなんです。私にとっては、その方がより健康的な服作りの方法だと思うんです。1年に2回コレクションを行い、数ヶ月間すべての商品がセールに出され、その後すべての商品が値引きされ、それを処分しなければならないというのは、本当にストレスがたまることだと思うのです。

あたなが集めているアーカイブについてお聞きします。特にツアー中に集めているというミリタリーウエアについて。それらとはどのように出会い、向かい合ってっているのですか?

私が美しいと思うものは、時計でも車でも建物でも、特定の機能のためにデザインされたものはすべて私にとって美しいと思えるのです。例えば、ダイビングウォッチは文字どおり潜水するためにデザインされたものです。そしてミリタリーウエアは、ある状況下で使うためにデザインされたものなのです。ポケットの配置は、兵士がさまざまなものを簡単に取り出せるようにすることが重要だったからそこに配されています。このように“形は機能に従う”という原則を私は信じているので、いつもその方向に引き寄せられるのです。

いくつかのアイテムはオランダで作られているようですね。APPLIED ART FORMSはなぜオランダの首都アムステルダムを拠点にしているのですか?

このレーベルの設立の理念は“新しい服を作るなら、品質は最高でなければならない、できる限り最高のものを”と言うことです。だから価格を低く抑えようとすることは一切考えていません。私は、最高の製作チーム、最高の生地、最高の縫製を選ぶことだけに興味があり、それが可能な場所であればどこでも行きます。

そして私はアウターウェアが大好きで、私のアーカイブのほとんどはジャケット、コート類です。アウターウェアはオランダにいるパタンナーと密接に連携しながら進めていく必要があるんです。エルゼという女性で、彼女は普段は注文服、それも特別なクチュールのドレスなど、小ロットのものしか作っていないんです。ですから彼女は我々が求める細かい職人技をとてもよく理解してくれるんです。そういった訳でAPPLIED ART FORMSのアウターウェアは主にオランダで生産されていますが、他の国でもアイテムは作ってますよ。例えば、ニット製品はベルギーで、パンツの多くは日本製です。デニムも日本製で、Tシャツやスウェットなどのカットソー類はすべてポルトガル製です。ポルトガルはこういうアイテムの生産には非常に良い生産地なんです。

日々の生活の中で服作りとどのように関わっているのですか?

かなりハードな仕事です、洋服作りはとても大変な作業の連続です。やらなければならないことがたくさんありますからね。マーケティング、セールス、ウェブサイトの構築、ウェブショップの構築など。もしオンラインで服を売る場合、パッケージングから発送までをやってくれる優れたロジスティックスのパートナーが必要です。私はクリエイティブな仕事をしたかったのでこのブランドを始めましたが、その部分に費やされる時間は、全体から見ればごくわずかなものなのです。それでもプロトタイプやサンプルをこなし、そして製品化して完成品を自分で着た時は、満足感で喜びいっぱいになりますね。

今シーズン制作したウエアのポイントについて教えてください。

例えばこのクラシックなフーデッド・デッキ・ジャケットは、US.Navy(アメリカ海軍)のヴィンテージウエアが基調になっています。そして、これはアメリカンスタイルとカナディアンスタイルのディテールを組み合わせたものですが、生地はイギリス製のVentile(べンタイル)を使用しています。AAFのアウターウェアにはこの生地を多用しているのですが これは1940年代にイギリスで発明された伝統的な生地であり、最初に開発されたテクニカルファブリックです。当時としては革新的な生地で、綿100%なのですが非常に超高密度に織られ、何もコーティングしていないにも関わらず、水を垂らしても染み込まず水玉になって落ちてしまいます。また、時間をかけて着込んでいくとテクスチャーがとても良くなり、そういうわけで私はこの味わい深い生地をとても気に入っていて、他のアイテムにも多用しています。

そしてこのバーボタンも、私たちがよく使うディテールです。最初に目にしたのは昔の軍用レスキューベストでした。水に濡れるとボタンが外れ易くなってしまうので、レスキューベストにはこのボタン留めが使われています。またこのタイプのボタンは、裏からウエビングテープでボタンの内側にテープを通し、固定する必要があるので、かなり複雑な縫製が求められます。でもこのボタンなら糸留めと違い、いつの間にか外れてしまったなんてことはありません。このような小さなディテールを取り入れることで、より洗練されたデザインに仕上げることができるわけです。

なるほど、ミリタリーウエアのディテールを更に昇華させた素晴らしいコレクションですね。最後に、そういったアーカイブのアイテムを探し回るのが好きだと聞きましたが、今回も東京でショッピングは楽しみましたか? 何かいいものありましたか?

もちろんです、もうかなり散財しています(笑)。昨日は原宿のお店を全部回りました。旅先で古いものを見つけるのが好きで、新しい店に行くよりも古着屋やチャリティーストアに行くのが楽しみなんです。また、インターネットのオークションなども僕にとっては素晴らしい場所です。コンピュータで様々な名品のミリタリーウエアを見つけることができるんです。私はいつもヴィンテージの凝った作りやユニークなディテールの服に興味があり、そこからインスピレーションを得て、APPLIED ART FORMSのアイテムが生まれていくわけです。

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テキスト
インタビュアー
Seijiro Eda / Hypebeast
フォトグラファー
Toshiyuki Togashi / Hypebeast
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