ランウェイから東京の夜まで ── Rakuten Fashion Week TOKYO 2027 S/S を巡る5つのトピックス
海外ブランドの存在感が高まる一方、東京発ブランドはそれぞれのルーツや日常に目を向けた今季。〈yoshiokubo〉から〈ORIMI〉、〈KHOKI〉まで、『Hypebeast』の視点で6日間を振り返る
ランウェイから東京の夜まで ── Rakuten Fashion Week TOKYO 2027 S/S を巡る5つのトピックス
海外ブランドの存在感が高まる一方、東京発ブランドはそれぞれのルーツや日常に目を向けた今季。〈yoshiokubo〉から〈ORIMI〉、〈KHOKI〉まで、『Hypebeast』の視点で6日間を振り返る
8月31日(月)から9月5日(土)まで、東京ファッションウィークこと「Rakuten Fashion Week TOKYO 2027 S/S(楽天ファッション・ウィーク東京 2027 S/S)」が開催された。渋谷ヒカリエを中心に、6日間で全27のコレクションが発表された今季。会場を巡りながらまず感じたのは、東京のファッションウィークが、これまで以上に外へと開かれ始めていることだった。
全27組のうち、海外からの参加は9組。スペイン発の〈SONIA CARRASCO(ソニア カラスコ)〉や、2026年のANDAMピエール・ベルジェ賞を受賞したフランス発の〈ANTHONY CALYDON(アンソニー キャリドン)〉をはじめ、台湾、中国、タイ、フィリピンなど、さまざまな国と地域のブランドが東京でコレクションを発表した。単に海外勢の数が増えただけではない。日本のマーケットやカルチャーに関心を持つデザイナーと、東京のバイヤーやメディアが直接顔を合わせる機会が増えたことで、ファッションウィーク全体にこれまでとは異なる熱量が生まれていた。
その一方で、東京を拠点とするブランドのショーは、やや少なく感じられたのも事実だ。メンズの開催時期やパリでの商談に合わせ、公式日程の外で発表するブランドも増えている。若手ブランドにとって一度のショーが大きな転機になることは間違いないが、ファッションは本来、シーズンを重ねながら思想やスタイルを更新していくものでもある。単発のイベントとして終わるのではなく、毎シーズン発表を続けるブランドが東京にさらに根付いていけば、この街のファッションウィークはより厚みを増していくはずだ。
数だけを見れば国内勢の層は薄く映ったかもしれない。しかし、実際に目にしたコレクションには、それを補って余りある強度があった。巨大なゲルをランウェイ中央に据え、“現代のノマド”を描いた〈yoshiokubo(ヨシオクボ)〉。段ボールで構築した海中世界に観客を引き込んだ〈yushokobayashi(ユウショウコバヤシ)〉。都市における「正しい装い」と、その内側に潜む歪みをテーラリングで表現した〈ORIMI(オリミ)〉。そして、デザインチームの実家にあった家具まで持ち込み、個人的な記憶を壮大な空間へと変えた〈KHOKI(コッキ)〉。それぞれ手法は異なるが、服だけでなく、その背景にある物語まで伝えようとする意志が共通していた。
もうひとつ気になったのが、“和”や日本文化を参照する表現の広がりだ。〈SETCHU(セッチュウ)〉が日本的な感覚を現代のワードローブへ翻訳し、世界的な評価を獲得したこととも無関係ではないだろう。今季も、雪駄や着物、ボロ、和傘、『本草図譜』、藍染めといった日本固有の文化や技法が、国内外のデザイナーによってさまざまな角度から取り入れられていた。ただし、重要なのは表層的な“和風”ではない。受け継がれてきた素材や技術、個人的な記憶を、いかに現在の服へと置き換えるか。その解釈の深さこそが、東京から世界へ発信する上で、これまで以上に問われている。
国際色が強まる一方で、ブランド自身のルーツや、ごく身近な日常へと視線が向けられた2027年春夏シーズン。東京らしさとは、ひとつのスタイルに集約されるものではなく、異なる価値観や個性が同時に存在できることなのかもしれない。ここからは、〈yoshiokubo〉のオープニングショー、楽天による「by R」で発表した〈KHOKI〉、会場を行き交った人々のストリートスタイル、そして「Hypebeast Afterhours Tokyo」まで、今季を象徴する5つのトピックスを通して6日間を振り返る。
1.yoshiokubo──“現代のノマド”が刻んだ蛍光色の足跡
前シーズンに続き、「Rakuten Fashion Week TOKYO」のトップを飾ったのは、久保嘉男率いる〈yoshiokubo〉。会場となった渋谷ヒカリエの中央には、モンゴルの遊牧民が使用する伝統的な移動式住居“ゲル”が出現し、開幕早々から観客をブランドの世界へと引き込んだ。
2027年春夏コレクションのテーマは「Natural Born Nomads」。前シーズンから続く“街を走るランナー”という発想をさらに発展させ、ロサンゼルスの海岸沿いで偶然目にした、力むことなく自然に走り出す青年の姿から着想を得たという。誰かに強いられるのではなく、自らの意思で走り出す。その自由な佇まいを、現代を生きるノマドの姿と重ね合わせた。
ランウェイには、風をはらむ軽量素材や技巧的なカッティングを取り入れた、スポーティでありながら鋭さを感じさせるルックが登場。民族的なムードを漂わせるドローコード、ランナーを俯瞰で捉えたグラフィック、テーマの“Born”をもじった“Bone=骨”のモチーフなど、〈yoshiokubo〉らしいウィットと緻密なものづくりが随所に盛り込まれていた。
フィナーレでは、雪原のように真っ白だったランウェイがブラックライトに照らされ、モデルたちが残した蛍光色の足跡が浮かび上がるサプライズも。最後は蛍光色の白塗りメイクを施した久保自身が姿を現し、ショーを締めくくった。トップバッターにふさわしい疾走感と遊び心で、東京の6日間を鮮やかに走り出させた。
2. ORIMI──“正しい装い”をわずかに狂わせる
今季の東京では、メンズに軸足を置き、まとまったコレクションを見せたブランドは決して多くなかった。そんななか、〈yoshiokubo〉、そして次に紹介する〈KHOKI〉とともに、メンズウェアの現在地を強く印象づけたのが、折見健太の手掛ける〈ORIMI〉だ。
2026年春夏シーズン以来となる今回のショーで掲げたテーマは、「PROPERLY DRESSED」。直訳すれば“正しい装い”を意味するが、ここで提示されたのは、いわゆる正装だけではない。テーラードジャケットやシャツといった端正なワードローブから、身体を露出した軽快なルック、日常着やストリートウェアを思わせるスタイリングまで、さまざまな装いがランウェイに登場した。
一見すると見慣れた服でありながら、そのバランスはどこかおかしい。ジャケットの前身頃はドレープへと変化し、ハーフパンツはジャケットの袖を拡張したようなフォルムに。生地の分量や丈、レイヤリング、肌の見せ方を微妙にずらすことで、“きちんと着る”という社会的なルールに小さなノイズを忍ばせている。
〈CA4LA(カシラ)〉と製作したハットも、今季のテーマを象徴するアイテムのひとつ。クラシカルな帽子のリボンをシューレースへと置き換え、周囲に同化するための装いと、そこから逸脱しようとする意志をひとつのプロダクトに共存させた。
不穏な旋律の生演奏が響く会場で描かれたのは、正装と普段着、規律と自由、同調と反抗の間を行き来する人物像だった。ルールを完全に拒絶するのではなく、それを理解したうえで、ほんの少しだけ着崩してみせる。原宿のストリートカルチャーを背景に持つ〈ORIMI〉らしい、静かな反骨心を宿したコレクションであった。
3. KHOKI──個人的な記憶を世界基準のスペクタクルへ
今季の「Rakuten Fashion Week TOKYO」を振り返ったとき、真っ先に思い浮かぶのが、楽天による日本のファッションシーン支援プロジェクト「by R」で発表した〈KHOKI〉のショーだ。会場を後にしたあとも、周囲から称賛の声が相次いでいたのが印象深い。結論から言えば、パリ・ファッションウィークで発表されていたとしても、まったく遜色のない、今季屈指のコレクションだった。
会場となった寺田倉庫に広がっていたのは、山梨にあるデザインチームのメンバーの実家を再現した空間。キッチンやベッド、家具、日用品が並び、その半数ほどは実際に実家から運び込まれたもの ბოლ. 巨大な倉庫の中に、極めて個人的な生活の風景が突如として現れる。そのスケールの対比だけでも、観客を一瞬で〈KHOKI〉の物語へと引き込む力があった。
コレクションの出発点も、幼少期を過ごした実家の部屋。宝箱をひっくり返したような記憶の断片に、趣味で収集してきた舞台衣装や軍服のディテールを重ね、刺しゅう、アップリケ、パッチワーク、異素材の切り替えといった、ブランドならではの手仕事へと昇華した。情報量は多い。それでも決して雑然とは見えず、一着ごとの造形やスタイリングには明確な意志が感じられた。
なかでも目を引いたのは、『ダンボ』を大胆に描いたジャケット。今後発売予定の『DOVER STREET MARKET』と「Disney」によるコレクションの一着であり、ノスタルジックなモチーフと、〈KHOKI〉のクラフト感あふれる表現が鮮やかに重なっていた。「by R」への参加を記念して製作された、お城のモチーフをアップデートしたアップリケシャツなどにも、同ブランドが一貫して描いてきた物語性が宿る。
実家というローカルで私的な記憶を、誰もが自身の原風景と重ねられる普遍的な物語へと変える。そのうえで、服の完成度とショーの演出を世界基準まで引き上げてみせた。東京から生まれたブランドが、その個性を薄めることなく世界へ届く可能性を、はっきりと感じさせるショーだった。
4. ストリートもまた、東京を映すもうひとつのランウェイ
ランウェイの内側だけでなく、やはり面白いのが、ショー会場の外に広がるストリートだ。デザイナーが提示した完成形をそのまま受け取るのではなく、それぞれの感覚で解体し、自分自身のスタイルへと組み直す。そんな自由度の高さにこそ、東京のファッションが持つ本来の強さが表れている。
今シーズンの会場周辺で目立ったのは、鮮やかな色彩というよりも、ブラック、ブラウン、カーキ、オリーブグリーン、ダークバーガンディといった深みのあるカラーパレット。シャープなテーラリングと控えめなテクニカルウェアを合わせたり、構築的なデニムやワイドパンツに流れるようなレイヤードを重ねたりと、色ではなくシルエットや素材感で個性を際立たせる装いが多く見られた。
オーバーサイズやドロップショルダー、意図的に重心をずらしたプロポーションも印象的だった。そこにユーティリティウェアやY2Kのニュアンス、ヴィンテージ、デザイナーズブランドを思い思いにミックスする。目立つロゴや単一のトレンドに頼るのではなく、自分にとってのバランスを探りながら服を着る。その無数のスタイルが交差する光景は、ひとつの方向へ収束しない今季の東京そのものだった。
ランウェイがデザイナーの現在地を示す場所なら、ストリートは、それを受け取る人々の現在地を映す場所。会場の外で生まれる予測不能なスタイリングまで含めて、東京のファッションウィークは完成する。
5. Hypebeast Afterhours Tokyo──ファッションウィークの夜に生まれた新たなつながり
ファッションウィークを形づくるのは、ランウェイやストリートだけではない。ショーを終えたデザイナーやクリエイター、アーティストたちが集まり、肩書や世代を越えて言葉を交わす夜の時間もまた、新しいカルチャーが生まれる重要な場所だ。
東京のファッションウィークがフィナーレへと向かう9月4日(金)、『Hypebeast』はショーン・ウォザースプーン(Sean Wotherspoon)を共同ホストに迎え、招待制パーティー「Hypebeast Afterhours Tokyo with Sean Wotherspoon」を開催。会場となったのは、2026年4月に南青山にオープンした「Soho House Tokyo」だ。
この夜のサウンドは、東京を拠点に活動するミュージックレーベル tokyovitamin(トウキョウビタミン)がキュレーション。Vick Okada、YOSHIHAARAA、COLDIEがDJブースに立ち、重厚なベースラインから疾走感のあるクラブミュージックまでをシームレスにつなぎながら、フロアの熱気を高めていった。
会場には、スタイリストの熊谷隆志、ファッションキュレーターの小木“Poggy”基史、アーティストのTAPPEI、井上ヤマト、デザイナーの小泉智貴、〈PROLETA RE ART(プロレタリアート)〉のProtら、東京のファッション&カルチャーシーンを横断するゲストが集結。当日は「JOHNNIE WALKER BLUE LABEL(ジョニーウォーカー ブルーラベル)」を使ったスペシャルドリンクも振る舞われ、それぞれの場所から集まった人々の間に、次につながる会話が生まれていった。
ランウェイで提示されたアイデアがストリートへと広がり、夜のコミュニティへとつながっていく。ショー、スタイル、そして人と人との出会いまでを含めて、東京のファッションウィークは完成するのだろう。今季は海外勢の存在感が高まる一方、東京発ブランドが継続して発表できる環境の重要性も改めて見えてきた。2027年3月の「Rakuten Fashion Week TOKYO 2027 A/W」では、今季生まれた機運を次のシーズンへとつなぎ、この街からどのような新しい才能とカルチャーが育っていくのかを見届けたい。
