スケート界のレジェンドたちが語る Vans とスケートボードの過去・現在・未来
ブランド創立者二代目 スティーブ・ヴァン・ドーレン、トニー・アルヴァ、オマー・ハッサンの3名へのインタビューを通して〈Vans〉とスケートボードの関係性を紐解く
世界的なアクションスポーツフットウェア&アパレルブランド〈Vans(ヴァンズ)〉は、2024年3月にローンチしたスケーター “AVE”ことアンソニー・ヴァン・イングレン(Anthony Van Engelen)のシグネチャーモデル第2弾 AVE 2.0のリリースを記念し、世界をまわる大規模なイベントツアー “AVE 2.0: COMMITMENT TO PROGRESSION TOUR”を開催している。去る5月11日(土)に中国・上海で行われたイベント(*レポートはこちら)を大成功で終えた後、〈Vans〉の創立者二代目 スティーブ・ヴァン・ドーレン(Steve Van Doren)、ブランドの創立から深い関わりのあるスケーターのレジェントことトニー・アルヴァ(Tony Alva)、そしてオマー・ハッサン(Omar Hassan)の3名が来日し、東京・原宿の旗艦店『VANS STORE HARAJUKU』を訪問。〈Vans〉の魅力はプロダクトだけでなく、スケートボードと同じ時を歩んできた歴史にもある。この機会にこれまでのVansとスケートボードの関わり、そしてこれからのことを3人に聞いてみた。
Hypebeast:来日前に行われた上海でのイベントはいかがでしたか?
スティーブ・ヴァン・ドーレン(以下、S):上海のイベントにはここにいるトニー・アルヴァやオマー・ハッサンだけでなく、クリスチャン・ホソイ(Christian Hosoi)、ペドロ・バロス(Pedro Barros)、カレン・ケープルス(Curren Caples)、ペドロ・デルフィーノ(Pedro Delfino)、その他にもガールズスケーターや地元のスケーターたちも訪れてくれたんだ。朝から雨が降っていたんだけれど、奇跡的に一時的に雨が止んでデモを行うことができた。その他にもトークショーやVansの歴史を示したミュージアムの展示もあって、とにかく、たくさんのスケーターたちが集まってくれたよ。
オマー・ハッサン(以下、O):特に最近はアジアでのスケートボードの盛り上がりがすごいよね。スケートボードがオリンピックの競技になって、初めての優勝者が日本人(*堀米雄斗)なんだから。
トニー・アルヴァ(以下、T):俺も堀米雄斗には一度だけ会ったことがある。オリンピックであれだけの成績を残したスーパースターなのにとても謙虚。スケートがうまいのはもちろんだけれど、彼は確実にこれからのスケート界を担う存在だと思う。
O:彼は元々バートのスケーター。トランジションもストリートも、これまでにオレがやってきたことを彼もやっているから好きなんだ。トニーも今あるスケートのスタイルを開拓してきたひとり。ストリート、からプール、すべてを滑ってきたね。一つのジャンルに特化していたら、コンテストで優勝することは難しい。
S:我々Vansが所在するカリフォルニアは、朝にサーフィンをして午後にスノーボード、夕方にスケートボードもできて夜はカラオケ(笑)。それを一日で体験することができる素晴らしい場所だね。それに音楽やアートといったカルチャーも集まっているんだ。
T:俺もたくさんのロックスターやスーパースターに会ってきたけれど、そんなセレブリティたちが自分のTシャツを着てくれていて、俺に向かって「スーパースター!」って言ってくれるんだ。(ガンズ・アンド・ローゼズの)アクセル・ローズ(Axl Rose)にもそう言われたよ。俺もDJをやったり、レイ・バービー(Ray Barbee)とバンドを組んでいるしね。これはただのスケートボードだけではなくて、カルチャーなんだ。今ではリル・ウェイン(Lil Wayne)もスケートしているだろ? 昔はパンクロックやハードコアをやっているやつがスケートしていたけど、今ではいろいろな音楽と関係している。
O:Vansがスケートボードの為にやっていることは多いと思っている。そのひとつがスケートパークをオープンさせたこと。それまでもパブリックのスケートパークはあったけれど、Vansのパークがオープンしたことで、もっと多くの人たちにスケートパークというものの存在が認知されるようになった。
S:それに僕たちはスケート、BMX、サーフィン、スノーボード、モトクロスなどの大会「Vans Triple Crown Series」を開催したんだ。それ以外にも「Downtown Showdown」や「Pool Party」いろいろなイベントを開催してきた。
Vansの魅力はプロダクトだけでなく、スケートボードと共に成長してきたカルチャーにもしっかりと貢献しているところですね。そしてVansの魅力はその歴史にもあると思います。
O:映画『ロード・オブ・ドッグタウン(原題:Lords of Dogtown)』(2005年)でもそのことがストーリーになっているね。
T:オープン当時、Vansの店はウィルシャーブルバードと19thストリートの角にあったんだ。当時通っていた学校から3ブロックしか離れていなかったから、頻繁に店に通っていたよ。スケートをしていると右足を地面に引きずるから、右の靴がすぐにボロボロになるんだ。だからスティーブにそのことを伝えて、お父さんとお店で販売していたベティーという女性を説得してくれて、片方の靴を販売してもらえることになったんだ。何色でもいいからオレのサイズにあう右側の靴だったら何でもよかった。当時はお金がないからとても助かったよ。
S:それがVansとスケーターの関係性の始まりだったんだと思う。それから数年間で、Vansのシューズはスケートするのにいい靴だってことが広まっていったんだ。当時Authentic(オーセンティック)は“Style 44(スタイル 44)”って呼ばれていたよ。
T:そのStyle 44の各所に手を加えてスケートしやすくしたのがEra(エラ)。かかとにパッドを入れたり、ステッチを変更したりしてスケートに適したモデルが誕生したんだ。あと思い出すのは、俺が所属していたZephyr(ゼファー)の仲間、ステイシー・ペラルタ(Stacy Peralta)が初めてVansの広告に起用されたことだね。Vansの魅力はなんと言ってもガムラバーのワッフルソール。グリップテープとの相性は最高。スケートシューズに性能を求めたとき、必ずしもファンシーで最先端の技術が必要だとは思わない。「Less is more」、俺がVansを履き続ける理由はこれだよ。手に入れやすい価格、機能性もよくて耐久性もある、そしてなによりクールだから。先日Vansとの再契約にサインをしたところなんだ。誰が66歳のスケーターと契約してくれると思う? Vans以外ではあり得ない。
“Less is more”、俺が Vans を履き続ける理由はこれだよ ── トニー・アルヴァ
ヴェニスビーチのサーファーたちが波のないときにサイドウォークで始めた遊びが、今ではオリンピックの競技になりました。これまで長い間スケートボードの歴史を見てきた皆さんはこのことをどう思いますか?
T:俺はいいことだと思う。今でも成長しているしね。スケートプロダクトの制作に関わる人と、そのイメージを利用したいと思っている人たちの間にはギャップがあるかもしれないけれど、それがポイントではないんだ。業界で競い合うことは成長につながるし、ポジティブな方向へ進もうとするから。俺もそれを第一に考えてやっているよ。今の子どもたちがスケートボードに興奮して、純粋に楽しんでもらいたいって思っている。
O:Vansはスケートボードの歴史が始まった時からこのカルチャーをサポートしているシューカンパニー。この歴史と事実は変えられないね。
S:我々がやっているミュージックフェス「Warped Tour」も1996年から2019年の間に11万人の人たちがフェスを体験してくれたし、バイクのイベント「Bone Free」でもスポンサーをさせてもらっていて、Vansを愛してくれているバイカーもたくさんいるんだ。オレンジカウンティー出身のメジャーリーガー、マイケル・ローレンゼン(Michael Lorenzen)もVansを愛用してくれているよ。Vansは誕生から58年間の間、いろいろなことを経験してきた。スケートシューズを扱うブランドとして、スケートボードも支えてきた。それ以外にもアート、音楽、バイク、さまざまなカルチャーを支援し続けて、彼らからも愛され続けているブランドになった。それが1番嬉しいこと。これからもプロダクトだけではなく、このカルチャーを大切にして続けていきたいと思っているよ。
T:根に水をあげなければ花は咲かないんだ。そのルーツを忘れてはいけない。スケートボードとサーフィンがそれだって俺は信じている。
このインタビューが行われた日の夜、彼らは今回の来日の目的でもあるイベント “STEVE VAN DOREN’S COOKOUT”に参加した。『VANS STORE HARAJUKU』と『UNKOWN HARAJUKU』の2会場で行われた本イベントでは、ハンバーガーの大好きなスティーブがファンに振る舞う恒例企画“COOKOUT”のほか、上海のツアーにも同行したアーティスト ロバート・バルガス(Robert Vargas)のライブペインティング、日本のメロディックパンクバンド LEXTのライブパフォーマンスに加え、3人によるサイン会も実施。会場には幅広い世代のスケーターやファミリーが訪れ、イベントは大盛況に。スティーブは終始笑顔でファンやスタッフに接し、またトニーやハッサンもスケーターたちとの交流を楽しんだ。今回の一連のイベントを通して、長年スケートボード界を支えてきた彼らの人柄に接し、あらためてこのカルチャーが持つ可能性と懐の深さを実感した。そして彼らが〈Vans〉と共に歩んできた歴史は、これからも次世代へと受け継がれていくだろうと思う。