“いぶし銀”な2024年秋冬シーズンのパリ・ファッションウィーク・メンズを総括
数年前のようなエンタメ色は薄まり、再びクリエーションにスポットライトが大きく当たった今季
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“ファレル熱”がパリ全体を覆った昨季と比べると、目玉という目玉がなかった印象も否めない2024年秋冬シーズンのパリ・ファッションウィーク・メンズ。その分、個々のブランドにスポットライトが分散され、面白いシーズンだった。本稿では1月16〜21日(現地時間)に実施されたパリコレの特筆ポイントを総括してみよう。
初日のトリという前回と全く同じスケジュールで発表されたファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)の〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉。「ルイ・ヴィトン財団」の美術館『フォンダシオン ルイ・ヴィトン』のある『アクリマタシオン庭園(Jardin d’Acclimatation)』にて開催された同ショーは、良くも悪くもハードルを上げ過ぎた感のある昨季から、どのような形で前進するかに関心が寄せられた。蓋を開けてみれば、前回のお祭りムードは適度に残しつつも、良いシフトチェンジだったように思える。ワークウェアのトレンドをなぞりつつ、カウボーイ要素を全面に打ち出した懐かしくも新しいコレクションは、メゾンを下支えするサヴォアフェールに重きを置いた内容に(詳細はこちらから)。1stシーズンはキャッチーなアイテムが多かった反面、今季はウェスタン特有のシルエットやモチーフから、好みは分かれそうなところだが、後々アーカイブとして人気を博しそうなタイムレスなアイテムが数多く登場した。
スタッズ、ラインストーン、ビーズ、ビジューなどの装飾が多用された〈Louis Vuitton〉。同様の傾向が他ブランドでも散見されたが、これは今季パリコレデビューを飾った〈M A S U(エム エー エス ユー)の十八番でもある。ここで〈M A S U〉について触れておこう。パリでの初陣とは思えないほどの集客具合から、その注目度が窺え、フロントローにはコラボレーションを発表したVERDY(ヴェルディ)をはじめ、シーンのキーパーソンらが日本国内外から出席した。ルック数的にはもう少し見たかったのが正直なところだが、ブランドのシグネチャー要素を昇華させたピースを展開し、我々の期待に十二分に答えてくれた。これを皮切りにドメスティックブランドの新たな道筋を切り拓いてほしい。秋冬といえばアウターが主役と言えるが、全体的にダウンジャケットやテクニカルなピースは少なく、トレンチコート、チェスターコート、ステンカラーコートなどクラシカルなロングコートが主流に。脱ストリートの流れから、シルエットにおいても、近年のメインストリームだった過度なオーバーサイズは激減。中でも〈Junya Watanabe MAN(ジュンヤ ワタナベ マン)〉のパンツを解体しドッキングさせたロングコートや〈COMME des GARÇONS Homme Plus(コム デ ギャルソン・オム プリュス)〉の体に巻き付けるようなテーラードは印象的だった。これまた近年のスニーカーブームの終焉を物語るように、フットウェアもスニーカーからブーツなどのレザーシューズにトレンドが移行。コラボレーションもスポーツブランドのみならず、〈sacai(サカイ)〉と〈J.M. WESTON(ジェイエムウエストン)〉のようなチームアップが目立った。また〈Rick Owens(リック・オウエンス)〉の披露した風船型のラバーブーツは、今シーズン最もバズったアイテムの1つだったであろう。このブーツは、ロンドンのデザイナー Straytukayとのコラボレーションで制作されたという。多くのブランドで見られたレザー使いも今季の特徴の1つ。アウターやパンツはもちろんのこと〈Dries Van Noten(ドリス・ヴァン・ノッテン)〉のレザーインナーはシンプルながら◎
今夏開催のオリンピックの影響もあり、ショー会場が限定されていたようで、普段よりも小規模なスペースで実施したブランドも少なくない。〈LEMAIRE(ルメール)〉は本社で、先述の〈Rick Owens〉はデザイナーの自宅で、それぞれランウェイショー/プレゼンテーションを行ったが、大きく作り込まずとも自然とブランドの世界観とマッチするので、毎回自社スペースで開催している〈Yohji Yamamoto POUR HOMME(ヨウジヤマモト プールオム)〉のように、(ブランド側の意図に関わらず)見せ方としては1つの正解だろう。少し脱線するが〈Yohji Yamamoto〉といえば、映画監督 ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)や俳優 ノーマン・リーダス(Norman Reedus)ら、〈Yohji〉らしいユニークなキャスティングも話題となり、さらにフロントローには、レジェンドサッカー選手のジネディーヌ・ジダン(Zinedine Zidan)の姿も。ジョルジュ・サンク通り3番地の自社サロンで発表された〈Givenchy(ジバンシィ)〉は、マシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)退任後の初コレクションだったが、創業者のユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)にオマージュを捧げる形で原点回帰。ストリートと相性が悪くないブランドではあるが、同じブランドとは思えないぐらい、マシュー色を消し去った再出発に。数年前の主流だった、いわゆるアメリカのエンタメ的なランウェイショーは皆無だったと言っても過言ではない今季。その名残があったのは〈KidSuper(キッドスーパー)〉ぐらいかと思うが、それでも控えめとなっており、それぞれのブランドが歴史や特色を活かした、ある意味“いぶし銀”なコレクションが多かった印象だ。見る側としても再びクリエーションに注力できる点は歓迎すべきだろう。
最後に『Hypebeast』的視点では、〈KENZO(ケンゾー)〉のフィナーレでNIGO®️(ニゴー)が披露した〈Nike(ナイキ)〉コラボの展開が気になるところ……。
個人的ベストショー
Rick Owens、Louis Vuitton個人的ベストコレクション
Dries Van Noten、COMME des GARÇONS Homme Plus個人的ベストコラボレーション
sacai x マーク・ゴンザレス(Mark Gonzales)