孤高の天才 UNDERCOVER 高橋盾の見る“目のない”世界 | Interviews

エキシビション開催までの道のりや盟友・MADSAKIとのエピソードなど、『Hypebeast』読者が気になるであろうポイントを中心に伺った

アート 
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メゾンブランドを率いる現在30代後半〜40代のデザイナーやアーティスティックディレクターが、これまでに影響を受けた人物として、たびたび名前を挙げる高橋盾。ジョニオの愛称でも知られる高橋盾は、文化服装学院在学中の1990年に〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉をスタート。1994年4月に最初のコレクションを東京で発表し、2002年10月に満を持してパリ・ファッションウィークに初参加を果たす。2009年と2018年には「Pitti Immagine Uomo(ピッティ・イマージネ・ウオモ)」にゲストデザイナーとして招聘され、2010年10月には〈Nike(ナイキ)〉との協業によるパフォーマンス・ランニング・コレクション〈GYAKUSOU(ギャクソウ)〉を、2012年には〈UNIQLO(ユニクロ)〉との期間限定コラボライン “UU”をローンチ。2019年には〈Valentino(ヴァレンティノ)〉にグラフィックを提供し、両ブランドのショーでカプセルコレクションを発表するなど、高橋盾は30年以上にわたる〈UNDERCOVER〉の歩みにおいて、さまざまなチャレンジを形にしてきた。そして、そんな高橋氏の新たなチャプターが幕を開ける。

THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE”。直訳すれば「彼らはあなたが見ているより多くのものが見える」と題した自信初の個展を8月19日にキックオフ。本エキシビションは、去る4月に移転オープンした東京・表参道の『GALLERY TARGET(ギャラリー ターゲット)』にて、9月9日(土)まで開催されている。後述のインタビューで述べているが、高橋盾は、長年抱いていた油絵への憧れ・衝動から〈UNDERCOVER〉年表でいうところの〈JohnUNDERCOVER(ジョンアンダーカバー)〉〈SueUNDERCOVER(スーアンダーカバー)〉が生まれた2013年に筆を握ったという。そして、試行錯誤を繰り返す中でたどり着いた“目の無い肖像画”という自身のスタイル。“THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE”では、複数のブランドやプロジェクトを同時進行する合間に描き溜めた肖像画27点、さらにはブロンズ数点を加えた約30点の作品がお披露目された。本稿では、そんなアーティスト・高橋盾への単独インタビューをお届け。エキシビション開催までの道のりや盟友・MADSAKI(マッドサキ)とのエピソードなど、『Hypebeast』読者が気になるであろうポイントを中心に伺った。

Hypebeast:油絵を始めたきっかけを教えてください。

2013年くらいから始めたのですが、その前からずっと油絵に対する憧れみたいなものはありました。習ったこともありませんでしたが、とりあえずトライしたいと思って。特にきっかけがあったわけではなかったと記憶しています。そこから画材などをいろいろ調べて、いきなり始めるみたいな。完全な独学です。

当初は趣味だったということですが、今回、個展を開くことになった経緯を伺えますか?

最初の頃に描いたポートレートで、「何か違う」と目を思い切って塗り潰したのですが、この“目のないポートレート”の雰囲気が自分の世界観にすごい合うなと思って。そこから連作で少しずつ描き出したのがスタートで、ある程度の枚数になった時に「発表してみてもいいのかな」と考えるようになりました。GALLERY TARGETの水野さんに相談したところ「是非やりましょう」と言っていただいたのがきっかけですね。それから、自分らしさを求めて、さらに深いところに行ってみたいと思い、描き進めているうちに、今回の個展に並んでいる作品が徐々にできあがっていった形ですね。

10年前から描き始めて、目のない肖像画にたどり着いたのはいつ頃なのでしょうか?

描き始めて、割とすぐの段階だったはずです。そこから(その作品は)しばらく放っておいたんですが、他の人をモチーフに描いても面白いなって思って。暇な時に描いてた程度だったのですが、小さいサイズからスタートして、ある程度溜まってきたら、大きいものも描いてみたいなと思うようになりました。ただ同時に、自分らしさやオリジナリティについて悩んだりしてて、そのあたりはマサキ(MADSAKI)に相談しました。「自分のスタイルはそのうち見つかるし、描き続けていればわかるよ」とアドバイスされて。言われた通り描き続けてたら「これか、見つかったぞ」という感覚になり。でも、どういうものかはマサキには見せてなくて。だから今回の個展はすごい楽しみにしてるはずです。

個展のタイトル “THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE”に込められたメッセージを教えていただけますか?

説明が難しいですが、視覚的な部分よりも、もっと感覚的で深いところから見ているみたいな意味合いです。目のないポートレートは、自分が影響を受けた人を題材としたシリーズですが、目で見たものではなく、心の奥底で捉えたものから影響を受けていて、「見えてないけど、もっとよく見えてるぞ」という感じですかね。

これまでのキャリアに通じる美的感性を油絵の中に見出したとのことですが、油絵を始めたことで、洋服のデザインへの影響はありましたか?

ないですね。手法が全く違います。洋服も油絵もできあがる作品は、両方とも自分の感性で作られていますが、絵の場合はもっとストレートな表現というか、最初から最後まで1人なので、完全に自分の頭の中とテクニックだけで創作しています。そういう点で、自分にとっては、洋服よりももっと純粋なアートかもしれませんね。

今後も同様のテーマで肖像画を描き続けるのですか?

特に決めてはないのですが、描いてみたい人はまだたくさんいますし、まあ、やりながらですかね。

周りにアーティストの方も多いと思いますが、影響を受けたアーティストいますか?

たくさんいますよ。例えば、マサキでいえば、作っているものは全然違いますが、彼のアートに対するアプローチの仕方など、すごく面白いと思いますし、ピカソにしても、その人にしか表現できない手法とか感覚を持って挑んでいる人には刺激を受ける。影響というか刺激ですね。「なるほど、この人はこうやってるのか」みたいな。でも、他人の真似は嫌なので、自分は自分なりの表現の仕方を模索します。今はその自分自身の表現方法が発見できている途中の段階で、まだ何も掴めてないといえば掴めてないかもしれません。

作品ごとに完成させてから、次の作品に取り掛かるのですか?

基本的にはそうしてるのですが、終わってから次の作品をやってる時に「あれ」って思って描き足していくパターンはあります。でも同時進行はないですね。

作品1つを仕上げるのに、どれぐらい時間がかかるのですか?

ものにやりますが、早いですよ。小さいものは大体1日。大きいものは、回数でいうと5〜6回かな。長い時で1回8時間ぐらい描いてるけど。あとは、自分で描き終わりをどこにするかを決めるのがポイントですね。そこがすごく難しくて面白いところ。最初に紙にスケッチしたものは、必然的に終わりが決まっています。しかし、何も考えずに描き始めたものに関しては、バランスを見て描き終わりを決める感じですかね。絵の中の情報量とか色のバランスとか。そういう意味では洋服に近い仕上げ方かも。

ブロンズの作品についてご説明いただけますか。

ブロンズもずっとやってみたくて。実はとても大変だったんです。最初、自分たちでワイヤーを石膏で固めてベースを作って、そこに粘土を盛ってたんですが、重さで崩れてしまって……。そこで、青森に中の骨組みを唯一作れる溶接工場があったので、急いでそこに持って行きました。上がってきた骨組みに粘土を加えて、鋳造出して(会期前日の)一昨日ぐらいにやっと仕上がりました。(UNDERCOVERのモチーフの1つである)Grace(グレース)の立体はやったことがあったのですが、Pinkman(ピンクマン)を作ってみたいなと思って。粘土の立体造形は、やったことなかったけど、なぜかすごい自信があったんです。ちなみに粘土いじったのは中学生ぶりぐらい(笑)。

では、肖像画の中で最後にできた作品は?

これ(下記参照)が3日前ぐらいにできた作品です。1回全部飾った時に、2枚だと物足りないなと思って、じゃあもう1枚描こうと思って。描き始めたのはいいんですが、何も考えずに始めちゃって……。失敗したかなと思って、身体の部分を削り出したら「この感じヤバい」と“何かが見えた”気がしました。近くで見てもらうとわかると思うのですが、この作品レイヤーがすごいんですよ。

一番思い入れのある作品はどちらでしょうか?

それ難しい質問ですね(笑)。強いて挙げるなら、フライヤーなどにもなっている一番最初のものですかね。そこからスタートしてますし、自分の魂が完全に入ってる作品だと思うので。でも、1つ1つものすごい想いを入れ込んで描いているので、1つに絞るのは難しいですね。

今後のご予定は?

エキシビションをやってほしいという話はいくつか来てはいますが、まずは内容などを確認してからですね。でも絵は描き続けたいなと。幼い頃は暇さえあれば絵を描いてるぐらいだったので、今でも描いてると落ち着くんです。描き続けることには間違いなのですが、それがどのくらいのタイミングで、どう発表してくかは未定です。逆に何か決まっていれば、それに向かって描いていくかもしれないし。絵を描くことが純粋にとても楽しいので。

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テキスト
インタビュアー
Yuki Abe
フォトグラファー
Genya
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