英ロンドン拠点の気鋭ブランド Omar Afridi の市森天颯 & 菊田潤が織りなす新概念 “Primitive Mode” について | On The Rise
ロンドン・ファッションウィークにて初のランウェイ形式でのショーを披露した、日本でも視線を集める気鋭ブランドが今異国の地で感じ取るムードとは?
次世代を担うデザイナーやアーティスト、ミュージシャンといった若きクリエイターたちにスポットライトを当てる連載企画 “On The Rise”。記念すべき第10回目となる今回は、市森天颯と菊田潤の2人がデザイナーを務め、英ロンドンを拠点とする気鋭ブランド〈Omar Afridi(オマール・アフリディ)〉にフォーカスする。
〈Omar Afridi〉は、単身ロンドンに渡った市森氏が、ファウンダーのOmar Afridi(オマール・アフリディ)から声をかけられ、2017年に前身ブランド〈Leon Bara(レオン・バラ)〉のデザイナーに就任したことから始まる。その1年後、学生時代からの友人であった菊田氏が、ロンドンの地に合流。かねてから、デザインにおいて意気投合していた彼らが再び顔を合わせたことで、〈Leon Bara〉の服作りプロジェクトに弾みがつき、2018年10月よりファウンダーの名を冠してリブランディング。さらに、わずか2カ月後、ロンドン・ファッションウィークでプレゼンテーションを発表するなど、2019年秋冬シーズンを駆け抜けた。その後も、日本にてポップアップや展示会を勢力的に行うなど、国内での認知を着実に高めつつ、今年2月18日(現地時間)には、4年ぶりにロンドン・ファッションウィークに参加。ブランド初となるランウェイ形式でショーを披露した。
相反する2つの言葉を組み合わせた造語 “Primitive Mode(プリミティブ=原始的、モード=流行)”を概念とする〈Omar Afridi〉のウェアは、モダンでありながらも、どことなく伝統的なクラフトマンシップを感じさせるディテールが特徴。本稿では、そんな2人のデザインアプローチの仕方や、ロンドンという地が生み出すインスピレーション、今後の展望までを余すことなく語ってもらった。
Hypebeast:まず、2人でOmar Afridiのデザイナーを行うことになった経緯を教えてください。
市森(以下、I):僕らがデザイナーとして入る前は、オーナーのOmar Afridiが、Leon Baraというブランドをやっていたんです。僕は、大学を卒業してすぐにロンドンに渡っていたんですけど、ちょうどそのタイミングでLeon Baraが日本人デザイナーを探していて。卒業した大学のイギリス人の教授が、もともとOmarと知り合いだったということもあって、「日本人を探しているなら、この生徒がロンドンに行ったばかりだから」って紹介してくれたんです。当時の僕は、22歳か23歳で、これから大学院に行こうかなと思っていた時だったし、僕が得意とするテイストとはちょっと違ったので、かなり悩みました。ただ、それよりもこの国に長く住んでいたいという思いもあったから、まず試しにLeon Baraのデザイナーを務めてみました。それが、僕がロンドンで過ごした最初の1年でした。そして、その後すぐに菊田も大学を卒業してロンドンに来る予定だったので、声をかけて、一緒に挑戦してみることにしました。
数あるファッション都市の中で、ロンドンに惹かれた理由はなんですか?
菊田(以下、K):ロンドンは、カオス。それこそ僕らのブランドは、ファウンダーがアフガニスタン人だったり、デザインチームは日本人だったり、縫製はバングラディシュ人が担当していたり。このカオスな環境って、どこの国にいてもなかなか生まれないと思うんです。色んな国の人たちが入ってくる街だからこそ、成り立っているものがあって、当時、それが面白そうだと思った。その事実は、ロンドンに惹かれた理由として結構大きいですね。
I:そうだね。ビジネス的なマインドよりも、何かをやってみようという感覚を持っている人たちが多く集まっているのが、ロンドンの面白さだよね。人と繋がるスピードもすごく速い。日本にいるときに人と初めて知り合う感覚と、こっちでの感覚が全然違うというか。
K:それでいうと、僕らのスタジオの上のフロアに、たまたまデザインスタジオのOK-RMが入っていて。(GoldwinとOK-RMのプロジェクトである)Goldwin 0のデザイナーのJean-Luc Ambridge(ジャン=リュック・アンブリッジ)ももちろん上の階にいて、よく飲んだりしているんです。ある時、市森の誕生日に彼と飲んでいたら、(OK-RMの)Oliver Knight(オリバー・ナイト)とRory McGrath(ローリー・マクグラス)も来て。その時初対面だったんですけど、冗談半分で「俺の相方が誕生日だから、みんなでパーティに行こうぜ」って言ってみたんですよ。そしたら「いくぞ」って乗ってくれて、みんなで会場に行きました(笑)。日本で彼らみたいな大御所に同じこと言っても、「だからどうした」みたいになると思うんですけど、彼らは「え、何か楽しそうだね。じゃあみんなで一緒に行こう」って。それって結構“ロンドンあるある”というか、この国の人たちは、年齢とか職業とかを本当に気にしていない。楽しそうだからとか、つながってみたいとか、しゃべってみたいみたいな感覚だけで動いてる感じがありますね。その日以来、彼らとスタジオの近くで会うとものすごくラフに挨拶し合う仲になりましたし。

Omar Afridi
デザイナーのJean-Lucさんをはじめ、そういった方たちが身近にいることで、インスピレーション源になっているところはありますか?
K:もちろん、僕らが影響受けているところもある。イギリスだと、あんまりコミュニティの垣根がないんです。Omar AfridiとJean-Lucのデザインアプローチは全然違うけど、彼らが作るモノをすごくかっこいいと思うし、Jean-Lucも僕たちの服を買ってくれるし、ショーにも来てくれる。だから、OK-RM然り、テンション感や、アプローチの仕方、デザインランゲージとかは、絶対、無意識的に影響を受けていると思っています。
Leon Baraからリブランディングをした意図はなんですか?
I:本格的にデザイナーとして入るタイミングで、菊田が「せっかく俺ら2人が入ってやるならゼロイチでやりたい」という提案をOmarにしてくれて。お互いに2人とも好きじゃないものをずっと続けていくというのは難しいと思っていたので、名前から何から、その時Leon Baraが持っていたお客さんも一掃して、Omar Afridiっていうブランドを新たに作り出したんです。正直に言うと、Leon Baraというブランドはコンセプトがあまりなかったんです。当時、菊田とは同じ家に住んでいたので、毎朝5時くらいまで「もう少し作り手側のエッセンスをちゃんと入れていこう」というようなブランディングの話をずっとしていて。2人ないし(Omarを含めると)3人でやるブランドとしては、1人だけの我をずっと出し続けていくよりも、いかにお互いの好きなものをうまくミックスさせるかっていうところが重要になってくる。それが、今のブランドのコンセプトにつながっていきましたし、Leon Baraからはだいぶ変わったところなのかなと思います。
K:Leon Baraっていうブランドを否定するつもりは全くないんですけど、当時は、ただただシーズンがきたら、Omarが何かを作って発表していて。別に俺らがデザインチームに入ろうが入らまいが、Omar自身が1人でできることだったんです。だから、俺らがデザイナーとして入るのであれば、自分たちの味が出せないとあんまり意味がないというのもあった。それこそ、その時は、こんなにガッツリ自分たちの職業になるとは思っていなかったので、リブランディングした後の名前も、「ファウンダーのOmar Afridiでいいんじゃない」みたいな軽い感じで決まって。

Omar Afridi
今のスタイルを形成するまでの過程で、工夫した点がありましたら教えてください。
K:Omar Afridiのデザインランゲージの1つに“プリミティブモード”っていう概念があるんです。その言葉の通り、相反するものを1つに合体させるというスタイルを取っています。俺が初めて市森に会った時、彼は“プリミティブおじさん”みたいな感じだったんですよね。わかりやすい例で言うと、toogood(トゥーグッド)であったり、CASEY CASEY(ケイシー ケイシー)であったり、そういったバイブスのブランドが好きだったんです。もちろん、僕もそういうブランドが好きだったんですけど、全身それで固めることはしなくて、どちらを着るにしても、どうやってもっとコンテンポラリーに持っていくかとか、どうやって今の自分のムードに落とし込むか、みたいなものを考えながら着ていたんです。それでいて、ELENA DAWSON(エレナドーソン)や、Paul Harnden(ポール ハーデン)など、いわゆるアルチザンというカテゴリーに属されるブランドを着るとしても、もう少しスタイルに幅を出すという意味で、メゾンブランドであったり、テクニカルブランド、もしくは新進気鋭と言われるような若いブランドなどとミックスすることで、違和感を持たせるように意識しています。要するに、市森が“プリミティブ”側だとしたら、俺はどちらかというと“モード”側みたいな感じ。ざっくり分けるとそういう感覚があって、それを1つのスタイルとして提案すればいいんじゃないっていう考えから作った造語が、“プリミティブモード”なんですよ。

Omar Afridi
I:それに、もうすでに確立されているジャンルに、自分たちが飛び込みにいくのは、もはや面白くないと思ったんです。でも、最初の頃は、それをどう表現するかが難しかったですね。お客さんも“プリミティブモード”っていう新しい概念について来れないんじゃないかっていう不安もありましたね。
K:“プリミティブモード”という言葉は本来存在しないものだし、ルックブックとか、作った洋服だけでその概念を表現するのってすごく難しい。説明なしでも、なんとなく刺さる人はいるかもしれないけど、ほとんどの人はなんのことだかわからないと思うんですよ。でも、それでいて、大々的に「自分たちがプリミティブモードです」って言う必要はないとも思っています。聞かれたらもちろん言うんですけど、この概念は、あくまでも自分たちのデザインプロセスにおけるやり方の1つ。ただ、自分たちは、こういった考え方がベースにあって、それを自分たちなりに具現化して、みなさんにかっこいいとか、可愛いって思ってもらえたらいいなって最近は素直に思っていますね。

Omar Afridi
2人の感性を融合させて、1つのブランドとして作り上げていくのは、とても大変なことのように感じますが、どのように1つにまとめ上げてらっしゃるんでしょうか?
K:人によっては、1人でやっている方が面白いと感じる人もいるかもしれないけど、俺らの場合は、2人でミックスしてモノづくりをする方が面白くなっていくことの方がすごく多いんです。例えば、コレクションを作っていく役割においても、僕がこういうテンションでやろうとか、全体のディレクションを担当して、市森がそれを受けてディベロップを始める。その途中過程でも2人で色々デザインを揉んで、それぞれの考えをミックスして、最終的にルックになる。1人で全部を担って、このプロセスを経てなかったら、今までのコレクションも作り上げてこれなかっただろうなって思っています。お互いに、モノの見方が全然違うからこそ、感性をミックスさせていく中で、また新たなアイデアが浮かんでいくので、僕たちからしたら、1人でデザインしている人はすごいなって思いますね。
I:最初は、自分たちがお互いに何を得意としているのかをそんなにわかっていなかったんだと思うんですけど、やっていくうちに、ナチュラルに自分たちの役割が明確になってきたって感じはあります。
まさに今ハマっているものや、大事にしているムードなどがありましたら教えてください。
K:この間、RIMOWA(リモワ)の世界巡回展 “AS SEEN BY”に参加していた家具のアーティストの子たちとミーティング兼遊びに韓国へ行ってきたんですけど、彼らとは、2023年秋冬コレクションでコラボしてネックレスとかバングルとかを作ったりしていて。彼らのように自分たちができないことをやっている子たちの作品から、ここ最近はインスピレーションをもらっていますね。
I:ブランドが始まった時は、学生の時のモノづくりの延長みたいな感じで進めていたんです。もともと、僕はコンセプトをガチガチに固めて作る癖があったんですけど、シーズンを重ねるごとに、もう少し自由にやってみたいなっていう思いが強くなってきて。だから、韓国のアーティストの子たちを含め、生活していくうちにできてきたコミュニティとか、そこで感じたものを、シーズンコンセプトにしてみたり。より柔軟な考え方が、ナチュラルにできるようになってきたなと感じています。
K:8月末に、伊勢丹新宿店ですごく大きなポップアップをやることになっているんですが、それも家具系のアーティストの子たちに一緒に空間を作ろうとお願いしているんです。意外にも、彼らとインスピレーション源が交錯することもあって。以前、韓国のアーティストの子たちに「(アーティストで)誰が好きなの?」って聞いた時に、「Lee Ufan(リ・ウファン)っていう韓国のアーティストが好きで影響を受けている」って言われたんですけど、実は、俺たちも2020年春夏コレクションでLee Ufanを着想源にコレクションを作っていたんです。Lee Ufanの作品が、家具にも洋服にも直結するとは思わないけど、彼の考え方とか、デザインアプローチの仕方を、お互いに違う形で落とし込んでいる。何を作るにしてもアウトプットの仕方がそれぞれあるけど、どこかで通ずるものもあると思うんです。それに、全然違うフィールドにいるのに、同じインスピレーション源を使っていたんだ(!)とか、そういう発見があることが、僕は面白いなって思いますね。
I:違う分野で活躍する人たちとアートの話をすると、意外にも好きなジャンルが同じだったりするんです。でも、人によって、そのアート作品の捉え方が違う。だから、同じアーティストのことを話していても、「そう見えてたんだ」みたいな新しい発見があって、面白かったりするんですよね。「その見方があったか」ってまたインスピレーションを受けたりもするし。
4年ぶりのロンドン・ファッションウィークへの参加、初のランウェイ形式でのショーを行うにあたって、こだわったもの、表現したかったものがあれば教えてください。
K:僕らは日本がバックボーンっていうのもあって、日本での認知は徐々に広がってきたんですけど、やっぱりヨーロッパで名を上げるのはすごく難しい。だからこそ、街のムードはかなり意識しましたね。僕らが思うロンドンって、アンダーグラウンドっぽさとか、若手ならではの勢い。だから、会場もちょっとインダストリアルというか、退廃的な、ダークなところを選んで。
I:ショーを開催するにあたって、それなりにお金はかかるし。「ショーをやるとは言っても、10人くらいしか来なかったらどうしよう」みたいな不安が大きかったんですけど、2人それぞれのコミュニティを辿りつつ、ロンドンを拠点とするスタイリストとか、キャスティングディレクター、最初の頃から手伝ってもらっているヘアスタイリストの方とか、この街に精通する人たちの力も借りて。最終的に、50人~60人くらいの方たちが手伝ってくれて、今までで1番大規模なプロジェクトになりましたね。だから、ムードだけしか伝わらないショーじゃなくて、ちゃんと服そのものが見えるような演出も絶対に大事だと思っていました。
K:1番強く意識したのは、ロンドンでショーをやる意味。自分たちのスタジオがロンドンにあって、この地でコレクションを発表する意味というのをちゃんと伝えないといけないなという思いがあったんです。“ロンドンバイブス”っていうとチープに聞こえちゃうと思うんですけど、今、ここでOmar Afridiを表現するなら、ショーを手伝ってもらうのはこういうチームで、こういうスタイリングで、こういう人たちに見て欲しいっていう、ブランドを象るイメージみたいなものをとくに考えたのかなと思います。
一意見ですが、今季は、とくに素材感が特徴的なアイテムが数多くラインアップしているように感じました。具体的なテーマ、インスピレーションソースはどういったものなのでしょうか?

Omar Afridi
I:2023年秋冬コレクションのテーマでもある“Primitive Tech(プリミティブ・テック)”を表現するために、ファブリックでコントラストを出したのもありますね。今季は、実際の体験をコンセプトにしていて。森の中で開催されたテクノのフェスに行った時に、大抵の人がテクニカルな洋服とか、動きやすいスポーツウェアを着てきている中、オーガニックコットンのドレープが効いたシャツを着て、頭にターバン巻いて、足元はサンダル、みたいなスタイルの女性が、1番後ろでめちゃくちゃ踊っていたんです。そういうシーンを見て、みんなが抱いているイメージの中に、1つ違うものが混ざっている違和感みたいなものに惹かれて。違う素材をぶつけて化学反応を楽しむのも、今の僕らのやり方なのかなって思います。
K:今回は、ヘリンボーンとか、ツイードとか、サージのウールとか、クラシックな生地をベースにしつつ、それを綺麗に作り上げるだけではなくて、テクニカルなディテールを入れたりとか、ゴミ袋みたいな異質な素材を入れたりとか。丁寧に違和感を作り出したコレクションになったなという感じです。
最後に、ブランドとしての今後の展望を教えてください。
K:2024年春夏コレクションのショーはやらないんですけど、2024年秋冬コレクションはまたロンドンで勝負しようかなと考えていて。そうやってクリエイションを続けて行きつつ、僕らはやっぱり家具であったり、空間であったりがすごく好きなので、近いうちにお店をオープンしたいと思っていますね。ただ、時間もお金もかかることだから、今すぐには難しいんですけど、今年か来年の頭くらいまでには動けるように今準備をしているところです。
I:知り合いの建築家の方が、「事務所が空くので、Omar Afridiの空間として使ってみたら」と言ってくださっているので、どのくらいの期間になるかはまだわからないですけど、今後プロジェクトとして詰めて行けたらいいなと思っています。コレクションを作って発表するっていうのは僕たちの1つの軸として大切ですけど、ただ服を作るっていうよりは、それ以上に、今自分たちが持っているコミュニティを表現できるような場所が欲しい。そして、いつかロンドンでも空間を持てたらいいなって思っています。ショーをまたやる時期に差し掛かって、忙しくなってはくるんですけど、それを実現させられたらなというのが今の1番の目標です。

Omar Afridi