Palm Angels フランチェスコ・ラガッツィに訊くパリコレ初参戦の意義やラグジュアリーストリートの行く末について
今季のパリ・ファッションウィークにおけるトピックの1つであった〈Palm Angels〉参加に際しての特別インタビュー
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パリ・ファッションウィーク後半戦の3月5日(現地時間)に開催された〈Palm Angels(パーム・エンジェルス)〉2023年秋冬シーズンのランウェイショー。Francesco Ragazzi(フランチェスコ・ラガッツィ)手掛ける同ブランドは、2013年にアメリカ・ロサンゼルスのスケートカルチャーに焦点を当てた「Rizzoli International Publications Inc.(リッゾーリ インターナショナル パブリケーション社)」出版の同名の写真集を起源とする。その後、2015年にブランドとして始動し、2017年春シーズンからファッションウィークに参加。これまでミラノを中心にコレクションを発表してきたが、本コレクションをもって、満を持してのパリコレデビューを果たした(後述するが厳密にはメンズにて過去にコレクションを発表している)。
同じ「New Guards Group(ニューガーズ グループ)」傘下の〈Off-White™️(オフホワイト)〉と並び、“ラグジュアリーストリート”のパイオニア的存在である〈Palm Angels〉。アートディレクターとして〈Moncler(モンクレール)〉でも長きにわたり手腕を発揮してきたFrancesco Ragazziは、舞台をパリに移した2023年秋冬コレクションにおいて、煌びやかなブラック/ゴールドを基調とした都会的でエレガントなデイウェアを打ち出している。過去コレクションで見せてきた破壊力抜群なグラフィック/ロゴやパターン使いはほぼ封印されているが、ショーを見た筆者の最初の感想は「ブレないな」というものだった。ルックのベースとなるアイテム自体はベーシックなものが多いが、上質さを醸す素材や本コレクションの核となっているハードウェアなどのディテールを追求することで〈Palm Angels〉らしいゴージャスさが随所で香る。誤解を恐れずに言えば、今回のような洗練されたラグジュアリーは、直近のトレンド的にはやや向かい風の状況だ。しかし、このようなスタイルこそ“ラグジュアリーストリート”の本来あるべき形であり、1つの完成形かと考える。
このたび『Hypebeast』では、コレクション準備で多忙を極めるFrancescoに特別に時間を作ってもらい、今季にかける意気込みなどを伺った。
Hypebeast:パリコレに戻ってくるのは久しぶりですよね?なぜミラノから移ってこようと決めたのですか?
前にパリ・ファッションウィークでショーを行った時はメンズ期間で、今回はウィメンズです。これを“カムバック”と捉える人がいますが、僕にとっては“初体験”というべきかなと。ビジネス的な観点からも、私たちにとってウィメンズはますます重要になってきています。それを実行するためにブランドを前進させなければなりません、そのためにパリは最適な場所だと思います。あと、もうすぐパリに旗艦店を出すので、パリこそが今後2、3年は我々がいるべき場所と考えます。
なるほど。パリコレのカレンダーなどにも“初”と記載されていたけど、調べると過去にショーをやっていたので、なぜだろうと思っていたんですよね。意味がわかりました。
ある意味初めてということです(笑)。パリは私にとってはとても重要な場所なんです。Palm Angelsが初めて日の目を見たのがパリでした。今はなくなってしまったColette(コレット)は、Palm Angelsがまだ「Rizzoli」から出版された本だった頃に、初めて展覧会を開いてくれたお店で、彼らのおかげもあって人々から注目されたと思います。なので、パリは仕事的にも個人的にも欠かせない場所なんです。
パリコレでショーをやる意義を教えてください
Palm Angelsというブランドが成長していく過程ということで、大きな意味があります。パリで開催されるにあたって、さまざまな大手ブランドがショーをする中に意味があるのです。ミラノもそうですが、この街では、より多くのものがあり、競争もさまざまだと感じています。私たちは競争を恐れたことはありませんので、ここでベストを尽くします。しかし、私たちのブランドは、創業以来、オーセンティシティーを重要視していて、ラグジュアリーなストリートウェアとして知られています。私たちは、それを最大限に受け入れることを恐れていません。私たちは、ラグジュアリーブランドとして、そしてストリートスタイルとして着てもらいたいのです。
コレクションについて教えてもらえますか?
このコレクションは、パリのブルジュアジー的な視点を、Palm Angelsのフィルターを通して見たものです。最初のアイデアは、ロサンゼルスにある“A cabinet de curiosités(驚異の部屋)”と呼ばれる1950年代から60年代のジュエリーのプライベートコレクションから得たもので、それをどうやってコレクションに落とし込むことか考えました。そのため、コレクションに含まれるすべてのハードウェアがとても重要になります。それを我々らしく、最高レベルのクオリティーで製作しました。私たちにとって、これはオートクチュールのようなもので、作り方や生地選び、コレクションのために製作したアートなど、普段のコレクションではできないような、非常にグレードの高いものになっています。例えば、ワークウェアをルックで多用していますが、それらはカシミアで作られ、ジュエリーにインスパイアされた特別なアートが施されています。このように、普段は一緒にしないようなものを一緒にすることで、コントラストをつけることができるのです。
コロナの影響でコレクションに取り組む際に変化はありましたか?
正直なところ、あまり変わっていません。我々はコレクションを製作する際、360度メディアのようなアプローチを駆使し、頭の中で映画を作るように、キャラクターや服装、行動、食事、音楽などを考えていくのです。コロナの時は困難でしたが、何かを発明するわけでもなく、人々が着るものに焦点を当てるという、私が好きな作り方に戻ってきたのだと思います。
Monclerとは引き続きコラボレーションで協業されていますが、自身のブランドとのバランスをどうやって保っていますか?
Monclerとのコラボレーションでは、Palm Angelsの目を通してMonclerのDNAを利用するようなイメージをしました。また、DNAやその技術に興味を持ち、そこから学ぶことができました。それは、私が物事を行う際に異なるレンズを装着し、異なる視点から物事を見るということです。
あなたはラグジュアリーストリートの先駆者の1人ですよね。あの当時多くのブランドが出現して、数年後にはそれらのほとんどが消えてしまいましたが、ビジネスとクリエティブの両面から、ブランドを長く続ける秘訣を教えていただけますか?
私にとって、リアリティと繋がることは、ブランドを設立し、維持するためだけでなく、ブランドが成長するために、何か大きな1歩を踏み出すプロジェクトを行う上で、非常に重要なことなのです。これは、私たちにとって成長過程です。これはブランドが成長するためのプロセスだよ、留まっていたら何も起こらない。だから、新しいことや新しいプロジェクト、ブランドや会社にとっての大きな目標など、刺激を与えることを心がけています。これが秘訣かもしれませんね。
Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)が亡くなって、Kanye West(カニエ・ウェスト)の現在の状況を考えると、一時代が終わったように感じます。ラグジュアリーストリートはこれからどうなる?どこに向かうべきだと思いますか?
Pharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)がLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)のディレクター就任後、どうなっていくのか?これが私の答えです。Pharrellは昔から僕のアイドルであり、友人です。彼がそのポジションにいるのを見ると、私たちがやっていることが答えであるということです。これが質問に対する回答ですね。私たちがやっていることは、どの様にも変化しません、しかし、進化している。そして、彼に会えるのが本当に待ち遠しいです。私のインスピレーションの多くは彼から得ています。彼はオリジナルな存在ですから。
あなたのブランドでは日本でも好調ですが、日本のオーディエンスについてはどう思いますか?
日本は大好きな国で、国境が開いた瞬間に真っ先に訪れた国のひとつです。去年の9月に東京に行きましたが、日本でストアを開いたり、もっとプロジェクトを行いたいので、今後もっと訪れたいと思います。東京は私にインスピレーションを与えてくれる場所のひとつであり、“繋がり”をとても感じています。
東京で主に何をしていたのですか?
東京を訪れる際には、いろいろと調べました。東京を歩き、溶け込み、気候や食べ物、文化も大好きです。時にはもっと滞在して、京都など東京以外の場所や、島々を訪れたりして、日本を満喫したいですね。
コロナ前と比較して変化を感じましたか?
いやあまり変化を感じませんでしたが、少し人が少なかったようにも思います。もしかしたら僕が行った時はまだ就労ビザ申請が必要な時期だったかもしれませんね。でも東京は変わらず東京でした。
最後に今後の予定を教えてください。
メインは、間違いなくここパリで活動することです。また、5月か6月には、ショップをオープンする予定です。また、Palm AngelsはF1チームのHaas(ハース)とアートとエンターテインメントのコラボレーターとして活動しています。まだ7年目のブランドとしては大きなことで、普通のスポンサーシップとは違いますね。私たちはF1にメディアキュレーターとして参入します。Haasはアメリカのチームであり、イタリア人のエンジニアを擁しており、イタリア人たちでイタリア製でアメリカン・アートを製作している我々とはどこか情熱的に繋がるところがあります。