キム・ジョーンズ本人が語る「ディオール デニム」への想いとは?
「ディオール デニム」という名のカプセルコレクションが、2023年秋に登場。『Hypebeast』編集長である森口德昭が、来日中のキム・ジョーンズに話を訊いた

キム・ジョーンズ本人が語る「ディオール デニム」への想いとは?
「ディオール デニム」という名のカプセルコレクションが、2023年秋に登場。『Hypebeast』編集長である森口德昭が、来日中のキム・ジョーンズに話を訊いた
〈DIOR(ディオール)〉のメンズ クリエイティブ ディレクターであるキム・ジョーンズ(Kim Jones)。彼は、セント・マーチンズの卒業コレクションにおいて、古いデニムをカスタマイズ&アップスケールして、新感覚のデニムスタイルとして魅せたことがある。また、日本のヴィンテージストアを巡っていると、「キム・ジョーンズさんが買いに来ましたよ」というのも耳にしたことがある。そしてインタビュー当日、キム・ジョーンズは、ベルトループに加えてサスペンダーボタンも付いた、約100年前のデニムパンツを普段履きして登場した。
ジーンズが生まれて150年。キム・ジョーンズが発表するデニムアイテムからは、常にデニムの歴史を理解した上で、新しさを加える姿勢が伝わる。長いデニム作りの歴史のなかで試行錯誤され、生み出された生地感や染色、縫製技術。いっぽうで、愛用者らによって見出された芸術的な色落ちや収縮などによる絶妙な雰囲気。製作者とユーザーが発見した両面の微細な魅力を、真面目に、そして徹底的に研究した上で作り出されていると、キム・ジョーンズによる〈DIOR〉のデニムを見ていると感じざるを得なかった。数あるメゾンブランドのなかでも、ヴィンテージ通が見ても納得の、デニムの系譜と重みにリスペクトしながらデザインしている……と、そう強く感じさせてくれるデザイナーは、本当に少ない。
そんな知る人ぞ知る、デニムの研究家でもあるキム・ジョーンズ本人に、『Hypebeast』はインタビューする機会を得た。
Hypebeast:まず、今回の肝である「DIOR DENIM(ディオール デニム)」について。デニムを中心としたカプセルコレクションを独立させて展開しようと思った理由を教えてください。
我々は、持続可能な服に非常に着目しています。このサステナビリティをテーマにしたコレクションを作りたい、という思いがずっと前からありました。そこで、デニム素材をメインに展開したら、いろんなライフスタイルにもフィットしながら、その上でサステナブルを軸にしたコレクションを展開できると考えたのです。
なるほど。かつての一般的なデニムは、染色においてかなりの環境負荷がかかっていました。今回、具体的にどのようにサステナブル度を高めたのでしょうか?
まず、ディオールのスタジオとして、“第一に環境により優しく”ということをひとつの理念に掲げています。パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ(海洋環境保護団体)と組んで、海洋プラスチック廃棄物からの再利用素材も取り扱っていました。今回のデニムに関していうと、水ではなくて、レーザーダイとレーザーウォッシュの技術を活用しています。水を使わないことで、地球に優しいデニムコレクションに仕上げています。
環境負荷の少ない生地を採用する意義と、その真の大切さとはなんでしょうか?
世界を見渡しても環境問題は無視することはできず、人間が対処していかなければいけない大きな課題です。そこに、我々は洗練されたヴィジョンを持って環境を守っていかなければならないと考えています。今回の「ディオール デニム」は100%リサイクル可能な素材です。個人的にも、ファッション業界全体においても、自然に対して生命を守っていく、そして未来の世代のために世界を継続して守っていくのが、真に大切で重要だと思っています。
このカプセルコレクションの「ディオール デニム」で、サステナブル以外の点で大きく意識したことは?
デニムは、本当にいろんなライフスタイルに提案ができます。クラシックでありつつも、作業着としての歴史も継承していることが起因しているからでしょうか。そこを踏まえつつ、現代のありとあらゆるライフスタイルになるべくフィットするシンプルなフォルムを心がけました。ある特定の人向けというより、多くの人に馴染むシルエットやデザインに仕上がっていると思います。
アイテムをじっくり見ると、加工やステッチ使いにヴィンテージに通じるオーラを感じます。いっぽうで、デザインは非常にモダンな表情。こういうモダンさがあるにも関わらず、永遠性、定番性のような雰囲気を感じます。こういったデザインは本当に難しいと思うのですが、この秘密はいったんなんなんでしょうか?
まず、私が10代の頃からヴィンテージデニムのコレクターでもあります。今日、穿いているのも、1920年代のジーンズです。もちろん、他の年代も所有しています。こういった、自分が持っているデニムを参考に、なぜこれらヴィンテージデニムが特別なのかを、チームを総動員して徹底的に研究しています。素材だけでなく、プリーツの意味に至るまでです。チーム全員が、1から10までデニムのことを知り尽くした上で手がけており、つまり全員でデニムに対する愛を共有しています。それが秘密かもしれません。
ルックブックを拝見しました。ジーンズを買ったら、裾をどうすればよいの? という話にしばしばなるんですが、キム・ジョーンズさんから着こなし方についてのアドバイスはありますか?
ルックブックに登場するモデルは、実は普段から親しくしている友人ばかりなんです。なので、本当にお任せをして「普段だったらどういう風に着こなす?」と伝えて、彼ら自身もスタイリングに参加した結果の穿き方になっています。すごく自然ですよね? なので、自由に着こなしてもらって大丈夫です。
ブルーデニムだけでなく、ブラックデニムも展開している理由は?
ディオールに実際に来てもらっている顧客のスタイリングを見て、ブラックデニムの要望が高いというのを感じました。個人的にはブルーが好きですが、ディオールのお客様はブラックがお似合いになる方が多い。
最後の質問です。過去のデニムカルチャーからインスピレーションを受けていますでしょうか?
そうですね。インスピレーションは、本当にいろんなところから受けているんですが、この「ディオール デニム」は、『Native Funk & Flash』という本から、特別にインスパイアされた面があります。ヒッピーのデニムを中心としたスタイルの写真が収められています。ただ、もちろん、そのまま採用することは一切ない。ディオールでデニムを作るとなると、我々の共通性が必要。そして、我々の精神性を内包することも必要です。たとえば、ヴィンテージデニムの研究は、なぜ頑丈で長持ちするのか、という疑問の解明でもあります。そこから我々は、永遠に残る服を作る、という精神性を生み出し、そのような意識で物作りを行なっています。