Sole-Searching:Vans Old Skool 特集
ハードコアなスケーターやパンクスをはじめストリートの覇者からモードの帝王にまで愛された名作を深堀り
毎月1足、歴代の名作スニーカーの歴史を紐解く連載企画 “Sole-Searching”。第8回目は、今年創業55周年を迎えた〈Vans(ヴァンズ)〉が誇る永遠のクラシックモデル Old Skool(オールドスクール)を特集する。
Old Skoolについて説明する前に、まずは〈Vans〉の歴史を簡単に振り返りたい。1966年、Paul Van Doren(ポール・ヴァン・ドーレン)が弟のJim Van Doren(ジム・ヴァン・ドーレン)や投資家のSerge D’Elia(サージ・デリア)、旧友のGordy Lee(ゴーディ・リー)と共に、アメリカ・カリフォルニア州アナハイムの704 East Broadwayにブランドの前身となるオーダーメイドのシューズショップ『Van Doren Rubber Company(ヴァン ドーレン ラバー カンパニー)』をオープン。同ショップは当初、お客さんからオーダーを受けたスニーカーを敷地内で製造して販売するというスタイルで営業していた。1970年代前半になると、彼らが生み出すラバーソール(ワッフルソール)を備えた丈夫な作りのスニーカーがスケーターの間で評判となり、“スケートボードシューズブランド”として認知され始めることに。1976年には、現在も使用されている“Off The Wall(型破りな、風変わりな)”のロゴが誕生した。
本稿の主役であるOld Skoolは、耐久性を高めるためにレザーパネルを組み込んだブランド初のスケートシューズとして“Style 36”の名で1977年にデビュー。シューズのアッパーサイドに“ジャズストライプ”が初採用されたのもこのモデル。Paulが思いつきで描いた落書きから生まれたという“ジャズストライプ”は、44年を経た今もなお〈Vans〉を象徴するモチーフとしてさまざまなモデルに使用されている。そのルックスとタフな作りから、Old SkoolはスケーターだけでなくBMXのライダーたちにも支持された。また、〈Vans〉はもともとオーダーメイドのスニーカーから始まったということもあり、当時、購入者は追加料金を払えば自分の好みに合わせて既存のモデルの生地を変更したり、好みのカラーリングにカスタムすることが可能だった。このシステムはスケーターを中心に評判を呼び、1980年代にはスニーカーのカスタマイズが大流行。特にOld Skoolは他のモデルに比べてパーツが多く、素材やカラーの組み合わせ次第では他人と被らない自分独自の1足を作ることができた。フットウェアを通して自らの“個性を表現する”という概念は、〈Vans〉によって確立されたと言っても過言ではない。
過去にOld Skoolを着用したスケーターは数多く存在するが、最も象徴的なのはアメリカ西海岸を代表するスケートカンパニー〈ANTI HERO(アンタイヒーロー)〉を主宰するJulien Stranger(ジュリアン・ストレンジャー)だろう。ハードコアなスケーターにとってカリスマ的な存在である彼は長年Old Skoolを愛用しており、2012年には〈Vans Syndicate(ヴァンズ シンジケート)〉ラインから自身のシグニチャーモデルとしてネイビーカラーのヌバックとパンチングレザーを採用したOld Skool Pro Sをリリースした。また、プロスケーターのAnthony Van Engelen(アンソニー・ヴァン・エンゲレン)もOld Skoolの愛用者の1人。彼はその理由として「僕が初めて尊敬したプロライダーはHenry Sanchez(ヘンリー・サンチェス)とGuy Mariano(ガイ・マリアーノ)で、当時彼らがOld Skoolを履いていたのがクールだったからさ」と語っている。
スケーター以外でも、パンクスに〈Vans〉の愛用者が多いのも承知の事実。その大きなきっかけとなったのは、1980年代にアメリカのハードコアパンクバンド Black Flag(ブラック・フラッグ)で当時ボーカルを務めていたHenry Rollins(ヘンリー・ロリンズ)が、ステージ上でOld Skoolを着用したことだと言われている。彼を真似てOld Skoolや〈Vans〉のスニーカーを履いた多くのキッズたちがライブハウスに集い、モッシュやダイブする現象が全米に拡がっていった。また、SLAYER(スレイヤー)、DESCENDENTS(ディセンデンツ)、Bad Religion(バッド・レリジョン)といったバンドのメンバーやそのグルーピーたちもOld Skoolを着用するなど、1980年代から1990年代にかけて全米のパンクスたちの間で同モデルが大ヒットした。
1990年代には既に多くの人々から支持を得ていたOld Skoolだったが、ファッションシーンからも注目を集めるきっかけになった2つのコラボレーションがある。1つ目は1996年に実現した〈Supreme(シュプリーム)〉とのコラボレーション。これは当時まだ設立から2年しか経っていない新興ブランドであった〈Supreme〉にとって初めてのメジャーブランドとのコラボレーションであり、その記念すべきファーストモデルのベースに選ばれたのがOld Skoolだった。シンプルなオフホワイト/グレーと、2種のカモフラ柄で展開されたコラボモデルのデザインを手掛けたのは、後に〈NOAH(ノア)〉を設立することになるBrendon Babenzien(ブレンドン・バベンジン)。〈Supreme〉の創設者であるJames Jebbia(ジェームス・ジェビア)は、本コラボレーションについて以下のように回想している。「Old Skoolはアイコニックでクラシックなスケートシューズです。1996年当時、Vansが提供していた最高のシューズの1つであり、時の試練に耐えうる魅力を持つ1足だと思います」。これ以降も両ブランドは現在に至るまで定期的にコラボレーションを行なっている。
2つ目は〈Marc Jacobs(マーク ジェイコブス)〉とのコラボレーション。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ランウェイでコレクションを発表するようなデザイナーズブランドがスタイリングにスニーカーを取り入れるようになっていった。自社のファクトリーで製作したオリジナルデザインのスニーカーを発表するブランドや、スポーツメーカーとのコラボレーションによって既存のモデルの素材やカラーをアレンジしたスニーカーをリリースするブランドが徐々に増えていき、モードとストリートの距離はこの時期に急速に縮まっていく。当時〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉のクリエイティブディレクターに就任したばかりのMarc Jacobsはこの流れをいち早く察知し、自身のブランドで〈Vans〉とのコラボスニーカーを発表。ベースモデルにはOld SkoolとSk8-Hiがチョイスされ、高級素材を使用して鮮やかなカラーリングを纏ったモードなスケートシューズが誕生した。これは以降に登場するラグジュアリースニーカーの先駆けの1つと言えるだろう。また、両ブランドはその後も断続的にコラボレーションを行うなど、良好な関係を続けている。
先述の2つをはじめ、これまで発売されたOld Skoolのコラボレーションモデルは星の数ほど存在するが、最後にその中でも特に印象的なモデルをいくつかご紹介したい。まず2017年にリリースされたモードの帝王 Karl Lagerfeld(カール・ラガーフェルド)とのコラボコレクション。当時は既にモードとストリートの融合は常識となっていたものの、この組み合わせには誰もが驚いたはず。Old Skoolをはじめ、SK8-Hi、CLASSIC Slip-Onをモノトーンにアレンジして高級感のあるモデルに仕上げたKarlの手腕には脱帽である。2021年に発売された〈COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)〉のサブライン〈CDG(シーディージー)〉とのコラボモデルも記憶に新しい。ミッドソールに“CDGCDGCDG”のロゴをプリントするというシンプルなアレンジながらも、存在感のある1足に仕上がっている。ストリートブランドでは、2020年にリリースされた〈NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)〉と西海岸のタトゥーアーティスト Mister Cartoon(ミスター・カートゥーン)とのトリプルコラボコレクションも忘れ難い。ブラックのヌバックをアッパーに使用し、トゥボックスにMister Cartoon独自の書体を刺繍することで、〈Vans〉の根底にあるスピリットを表現した完成度の高いモデルに。そのほかにも、同年に発売された〈N.HOOLYWOOD(N.ハリウッド)〉とのコラボモデルや、今夏リリースの〈BEDWIN & THE HEARTBREAKERS(ベドウィン アンド ザ ハートブレイカーズ)〉と〈Vault by Vans(ヴォルト・バイ・ヴァンズ)〉のコラボコレクションなど、数々の名作が生み出されている。
目まぐるしくトレンドが移り変わる現在だからこそ、時を経ても変わらない魅力を持つ〈Vans〉Old Skoolのようなクラシックモデルに、再び注目してみてはいかがだろうか。