ロイヤル オークとロイヤル オーク オフショアを純粋フォルムに昇華させたマシュー・ウィリアムズにインタビュー
機械式時計ヘッズ驚愕! 〈1017 ALYX 9SM〉とコラボレーションしたロイヤル オークとロイヤル オーク オフショアが登場。デザイナーのマシュー・ウィリアムズ本人に直撃した



先駆同士の、無駄な音符のない協奏腕時計
いま思うとこの公式コラボは必然だったのかもしれない。かたや、ラグジュアリースポーツウォッチの先駆的な腕時計〈Audemars Piguet(オーデマ ピゲ)〉の「Royal Oak(ロイヤル オーク)」。かたや、ラグジュアリーストリートファッションの革命的ブランド〈1017 ALYX 9SM(テンセブンティーン アリクス ナインエスエム)〉を率いるマシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)。
この共鳴は、まずマシュー側の片思いのカスタムからはじまった。カスタムウォッチブランド〈MAD Paris(マッド パリ)〉と、〈1017 ALYX 9SM〉がチームアップし、世にもシャープなロイヤル オークのカスタムモデルを2021年8月にリリースしたのだ。マシューらしいローラーコースターバックルが付き、文字盤はインデックスを排し、ホワイトゴールドで統一したそのデザインは、腕時計デザインのルールに縛られておらず、シンプリシティを極めつつも、アイコンのローラーコースターバックルで大いなる主張が効いていた。制作された40本は即ソールドアウトし、その2カ月後に、イエローゴールドとローズゴールドのカスタムモデルも発売。これまた即ソールドアウト。このミニマムな美学にアーリーアダプターな機械式時計ヘッズは熱狂した。
その様子を、おそらくは雲の上から見ていたであろう〈Audemars Piguet〉が、大きな評判を呼んでいるカスタムモデルに興味を覚え、〈MAD Paris〉を介してマシューにコンタクトを取った。2021年のことである。パリで会ったのは、マシューと〈Audemars Piguet〉のCEOであるフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)だ。初対面からふたりの間には強力なシナジーが存在するとお互いに感じて、友情を築いていく。そんななかで、正式な流れでコラボレーションしようとなった。ちなみに現役のファッション・トップ・デザイナーと、雲上時計ブランドがコラボレーションすることは前代未聞である。
今回、発表された新作は、18Kイエローゴールド、または18Kホワイトゴールドの4モデル。そのうち、ロイヤル オークが2モデル、ロイヤル オーク オフショアが2モデル。また、同じデザインで、ロイヤル オークとロイヤル オーク オフショアが発表されるのは、〈Audemars Piguet〉の145年を越える歴史の中で初のことだ。この4つの新作に加えて、コンビのユニークピースが1本作られている。
発表の場は東京
この世紀のロイヤル オークとロイヤル オーク オフショアの発表の場に選ばれたのが東京だった。実は、〈Audemars Piguet〉にとって、日本は世界第2位のマーケットということもあり、またマシューにとっても、〈ALYX〉を初期にたくさんバイイングしてくれた、つまり最初に愛してくれた国が日本だった。ゆえに、ハネムーンの場所はどこか? と話したとき、答えを見つけるのは簡単だったという。そんなハネムーン中(笑)のマシューに、『Hypebeast』編集部は3つの質問をぶつけてみた。
まず、どうしても聞きたかったのは、なぜにロイヤル オークだったか、だ。〈Patek Philippe(パテック フィリップ)〉の「ノーチラス(Nautilus)」や、〈Vacheron Constantin(ヴァシュロン・コンスタンタン)〉の「オーヴァシーズ(Overseas)」など、他の雲上ブランドにも、ラグスポの超名作腕時計はある。なぜにロイヤル オークだったのか? この問いに対してマシューは、
「フィーリング!」
と一言言い放った。ロイヤル オークは、トップ・デザイナーの感性にビビっと刺さっていたわけである。矢継ぎ早に次の質問に切り替える。ロイヤル オークは、もともとジェラルド・ジェンタ(Gérald Genta)がデザインした腕時計。つまり、他のデザイナーが作った製品を、マシューがリデザインすることになる。普通のコラボレーションとは違い、時空を超えたコラボレーションになるわけだが、そのあたりで意識したことはなんだったのか? 今度は一言ではなく、マシューは長く語り始めた。
「アイコンに関わるわけですから、オリジナルのデザインにリスペクトを置きつつデザインしていくというプロセスになりました。以前、NIKEのエア フォース1をデザインしたときも同様でした。アイコニックなシルエットがありますよね。エッセンスを見極め、それを自分がもっとも純粋だと思うカタチに昇華し、適切だと感じるアプローチをしていきます。フォルムだけ見て何かを足すというのではなく。エア フォース1においても、たとえばある部品を外したり、パネルのオーバーラップの仕方を変えたり……。見えないディテールで言えば、レザーを水を使わず染料だけで染めたりしましたが、アイコンとして深く文化に根ざしている要素には触っていません。私にとって、ロイヤル オークの歴史の系譜に組み込まれるモデルでコラボすることは大きなチャレンジでした。リスペクト、感謝や理解を持って臨むと同時に、タイムレスな新しいものを作るというチャレンジですね。こういった類のアイテムに関わるプロジェクトは、たくさん思考し、入念な注意を払って臨みますし、デザイナー(ジェラルド・ジェンタ)への大きなリスペクトとともに進行しました」
なるほど。確かに、そぎ落としの美学が活きるものの、誰がどうみてもロイヤル オークという姿である。そして、極めてピュアなロイヤル オークだ。では、『Hypebeast』から最後の質問である。今回のロイヤル オークとロイヤルオーク オフショアは、アワーマーカーとデイトはないが、クロノグラフのモデルでは、さらにクロノグラフカウンターがない。3時、6時、9時位置(オフショアでは、6時、9時、12時位置)にある針だけが回転する。ここまで究極のミニマリズムに徹したダイヤルは、クロノグラフの機能の意味を再解釈するものだ。それはずばり、クロノグラフの機能は使わないもので、みなその機能が備わっていることのみに、満足感を得ているからか? とマシューに問うてみた。
「えぇ、私も使わないので(笑)。フランソワも顧客の90%は使わないと言っていたからです」
隣から「クロノグラフの腕時計を持っている人の9割は、一度もその機能を使ったことはありませんよ。そういう人のために、新しいオプションになるモデルですね」と、笑いながらフランソワが付け加えた。そう、ファッション的なクロノグラフの意味のみを抽出している。ジェンタとマシューが時空を超えて生み出した、無駄な音符のないロイヤル オークとロイヤル オーク オフショアはかくして誕生した。