フェラーリ、ル・マンでの優勝は、愛とともに

「フェラーリ」の「ル・マン24時間レース」での優勝を、モータージャーナリストの大谷達也が“愛”から解き明かす。

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100周年の「ル・マン24時間レース(24 Hours of Le Mans)」で、50年ぶりに復帰した「Ferrari(フェラーリ)」が総合優勝するなんて、あまりに“でき過ぎた話”で、アニメの原作にする気にさえならない。でも、その“でき過ぎた話”が本当に起きた。今年の6月10〜11日(現地時間)、フランス西部のサルト・サーキットでの出来事だ。

1923年に始まった「ル・マン24時間」は、今年がちょうど100年目。“だから”というわけではないけれど、今年は例年以上に世界中から強豪メーカーが集まって、激戦を繰り広げた。そのなかには、目下「ル・マン24時間」で5連勝中の「TOYOTA(トヨタ)」や、通算優勝19回で自動車メーカーとして断然トップをゆく「Porsche(ポルシェ)」もいて、一筋縄ではいかない匂いがプンプンと漂っていた。

いっぽうの「Ferrari」はといえば、総合優勝が狙える最高峰クラスにメーカーとして挑戦するのは、これがちょうど50年ぶり。つまり、ブランクが恐ろしく長かったわけだ。しかも、ル・マンを戦うマシン “499P”が完成したのは昨年7月のこと。それから懸命にテストを重ねて熟成に努めたものの、実戦に臨んだのは、世界耐久選手権(WEC)として今年開催された3レースのみ。常勝「TOYOTA」だけでなく、昨年からWECに参戦している地元フランスの「PEUGEOT(プジョー)」などに比べれば、明らかに不利な状況だった。

WEC第4戦として開催された今年の「ル・マン24時間」は、ちょっと異様な雰囲気に包まれていた。なにしろ決勝日の入場券は今年1月の段階で売り切れ。こんなことは100年間の歴史でも初めてのことで、結局、レースウィークを迎えたル・マンには、例年の20万人ほどをはるかに上回る32万5,000人が来場。たった1日のスポーツイベントにこれだけ多くの人が集まるのは、おそらくアメリカで開催される「インディ500」だけが例外で、オリンピックだってサッカー・ワールドカップだってありえない。なにしろ、そんな大きなスタジアムは、世界中のどこを探したってないのだから。

この大舞台で、2台の499Pを走らせる「Ferrari」は予選でいきなりトップ2を独占! これは予選中に「Cadillac(キャデラック)」がアクシデントを起こした“おかげ”でもあったのだけれど、そんなライバルの躓きさえ自分たちのアドバンテージにしてしまうのがスター選手の宿命というもの。ちなみに、最大のライバルである「TOYOTA」は、このアクシデントのあおりをくって予選結果は3位と4位。最多勝記録をもつ「Porsche」は予選5位、地元期待の「PEUGEOT」は10位がそれぞれの最上位と、いまひとつ調子が上がらなかった。

それでも決勝レースは大混戦となって、「Ferrari」「TOYOTA」「Porsche」「PEUGEOT」「Cadillac」の5メーカーは、24時間の間に少なくとも1回はトップに立つという先の読めない展開。レース終盤は地力に優る「TOYOTA」と「Ferrari」の一騎打ちになったものの、最終的には「Ferrari」の51号車が「TOYOTA」の8号車を抑えきり、イタリアに優勝トロフィーを持ち帰ることとなった。

私はおそらくル・マンを20回以上取材しているけれど、サルト・サーキットには魔物が棲んでいるらしく、速いマシン、強いメーカーが必ずしも勝つとは限らない。それは「Porsche」や「TOYOTA」だって例外じゃなくて、「あと少しで優勝」というシーンでマシンが止まるという劇的なエンディングを何度も目の当たりにしてきた。つまり、ル・マンで勝つには、実力以上の“なにか”が必要なのだ。

 それを“運”という人もいれば“巡り合わせ”という人もいるだろう。でも、私は「ル・マンに愛されたか、どうか」の差だと信じている。ル・マンには魔物とともに勝利の女神も棲んでいて、彼女に愛されない限り、栄冠には恵まれない。そして今年、勝利の女神にもっとも深く愛されたメーカーが「Ferrari」だった……。私にはそうとしか思えない。

 でも、「Ferrari」には女神に愛される資格が十分にあった。なにしろ、彼らがル・マンで初優勝を飾ったのは1949年のこと。実は「Ferrari」にとって、これがル・マン初挑戦の年でもあった。そうした“出会い”が劇的だっただけでなく、1950年代、1960年代、1970年代と彼らは綿々とル・マンに挑戦し続け、これまでに通算9回の総合優勝を果たしてきた。これは「Porsche」の19回、「Audi(アウディ)」の13回に続く歴代3位の記録。そして今年、この記録を“10”へと伸ばした。

 つまり「Ferrari」は、50年ぶりに復帰した100年目のル・マンで通算10回目の総合優勝を果たしたことになる。“跳ね馬”がル・マンを見守る勝利の女神に深く愛されていることは、もはや疑う余地がないだろう。

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