河村康輔に訊く、ショーウィンドウ x アート x 広告の関係性

始動したての〈ARC’TERYX〉との新プロジェクト “ARC‘TERYX UNCOMMON”についてインタビューを敢行

アート 

先日『Hypebeast』の記事でも取り上げた〈ARC’TERYX(アークテリクス)〉の新しいプロジェクト “ARC’TERYX UNCOMMON(アークテリクス アンコモン)”。さまざまなクリエーターを招聘し、プロダクト以外の側面から人々にクリエイティブなインスピレーションを与え、アウトドアフィールドにも還元させていくことが目的の本プロジェクトの第1弾に、日本を代表するコラージュアーティストの河村康輔を迎えた。ストアのショーウィンドウを新たなメディアとして活用する今回の施策は、河村氏によるウィンドウアートを丸の内店と原宿店にディスプレイし、人々とブランドサイドの間における新しいコミュニケーションの可能性を模索した試みと言えるだろう。
今回〈ARC’TERYX〉の新たなチャレンジをグラフィックの力で支えた河村氏に、ウィンドウディスプレイとアートについて、広告とグラフィックの関係性、同氏にとっての〈ARC’TERYX〉など、さまざまなトピックスについての話を訊いた。

Hypebeast:数あるアウトドアブランドの中でもARC’TERYXが一番好きだと断言されていました。河村さんにとってどういうブランドなのでしょうか?

河村:もともとアウトドアと触れ合う機会が少ないタイプだったんですが、BOUNTY HUNTERのヒカルさんがARC’TERYXを凄く好きで、彼と話していた時によく話題に上がっていたんです。それで次第に興味をもつようになりました。当時からARC’TERYXの魅力をすごく力説されていたのを覚えています(笑)。そんなこともあり、初めてARC’TERYXの商品で購入したのがバックパックでした。

アウトドアからではなく、いわゆるファッションだったりカルチャーの文脈から入られたんですね。

最初はまさしくそうですね。それがきっかけで、フェスに行く時とかに着たりするようになったり。あと仕事やプライベートで海外に行くことが今も昔も多いんですけど、昔はスーツケースを持っていったりすることはなくて、手荷物ひとつの中に洋服やパソコンを全部詰め込んで移動する感じでした。なので当時使っていた普通のバックパックだと、約1年ですぐボロボロになっちゃったりして。でもその後に買ったARC’TERYXのバックパックに関しては、そういうことが全くなくて、プロダクトのタフさに驚いたのをよく覚えています。なので僕はアウトドアで酷使していたのではなく、海外に行く時とかにハードに使っていたものがARC’TERYXでしたね。それからもうひとつ惹かれたきっかけが、ブランドロゴのデザイン性です。どこかモダンでグラフィックとして素直に格好良いなと。デザインモチーフが始祖鳥らしいんですが、その背景のストーリーを知った時も良いなと思いました。

そんなARC’TERYXとの今回のプロジェクトでは、ウィンドウディスプレイがテーマだと伺いしました。河村さんが考えるそもそものウィンドウディスプレイの役割はどのようなものなのでしょうか?

僕の中でストアのウィンドウは2パターンあると思っていて、ウィンドウショッピングという言葉がある通りじっくり見てもらえるものと、人々が歩いている街の風景の中で目に入る、ストアにとって一番最初の役割になるものだと思うんです。後者に関しては看板とかも同じことが当てはまるかもしれないですが、基本的に街に馴染んでいるものでスルーされがちですよね。結局それはストアのウィンドウも同じで、ただそこにあるものとして認識されていて、興味がなければ極端な話視界にも入らないというか。でもウィンドウディスプレイって、ストアにとってはロゴと同じくらいブランドの顔的な役割をもっていて、一瞬でも通り過ぎる人々の視界だったり脳に引っかかるものであるべきだと思うんです。言ってしまえばストアウィンドウって無差別に発信できる広告塔なんですよね。しかもテレビCMのようにランダムに発信されるものではなく、期間に決まりはあるものの、基本ずっとそこにあるものです。ビルボード的な役割をもちながらも、気になってもらえたら、そのままダイレクトにお店に誘導することができる役割もあります。なのでブランドやお店にとってのウィンドウディスプレイはすごく重要な役割を果たす広告だと思うんです。

今お話に挙がった“広告”というワードを考えると、インターネットの発達やコロナ禍なども起因となりデジタルシフトが進んで、実店舗の存在意義についてなどの議論もあったかと思います。ただ結局その議論に比例して、フィジカルであることの重要性も同時に再認識されることが並行してあったのかなと感じていますが、河村さんはデジタルとしての広告と、今回のようなフィジカルとしての広告を考えた時に何か意識的に変えていることはありますか?

デジタルシフトとかでいうと、デジタル上のものはあまりゴチャっとさせないようにしていますね。小さいサイズながらも画面上でインパクトを残せるものを意識しています。昔はその逆で、フィジカルの広告って大きいサイズになることが前提なので、ディテールが細かければ細かい程ビジュアルとして破壊力があるなと思っていました。見た時の情報量の多さでインパクトを出していくみたいな。でも今ってSNSとかの広告で考えると、そもそものサイズが小さい上に、更にスクロールしながら流して見られるものなので、密度が濃くて細かいものだと逆に埋もれてしまう気がしていて。なので最近意識していることは、大きいサイズでも小さいサイズでも、ゴチャゴチャ見えないように制作しています。足し算ではなく引き算の考え方ですよね。そうすることで今回のように引き延ばして大きく扱っても、ひとつひとつのパーツのインパクトが強くなるし、小さく使う場合は縮小するので、引き算が悪目立ちすることもないんです。でも引き算をしていく中でも大きくした時に間伸びしないように、視覚的に気持ち悪く感じるバランスや、違和感を感じてもらう仕組みを入れるように手法を少し変えています。

今回の作品で言うとその違和感を作っている要素はどこに設定しているのでしょうか?

丸の内は街を風景として楽しむ人が多いと考えていて、ウィンドウディスプレイをアートとして感じてもらえるような工夫をしています。配置しているパースに違和感をもたせて、アートグラフィック的な印象を作るようにしました。手法としてはシュレッダーにしているんですけど、更にそれに立体感を持たせて視覚的な気持ち悪さを作っています。原宿店は“ワイルドポスティング”という手法を使ったことが大きな要素ですね。ニューヨークとかでよくある街の壁面にゲリラ的に貼られているものが、ワイルドポスティングというものなんですが、昔からあるストリートの広告の手法のひとつなんです。欲しい人は剥がして持っていってもらう感じのコミュニケーションができるのが特徴のひとつではあるのですが、Supremeとかもよくやってますよね。広告の手法の中にフィジカルの体験があることが良いなと思ったので、原宿店の作品もウィンドウの内側ではなく、外側に壁を作って貼っています。貼り方も少し特殊で、アナログで貼っているけれどデジタルテイストなバグが起きているみたいなグラフィックの見え方にしています。今回は外に貼ってあるものと同じポスターを原宿店限定で配布していて、ショップでしか体験できないことをそこでも落とし込んでいます。原宿はストリートの街だと思うので、そのコミュニティにいる人たちにとって面白いと思ってもらえる取り組みかなと。なので、今回は丸の内と原宿という街の特性はかなり考えましたね。

使う素材のセレクトももちろん重要だと思いますが、今回はその素材をそれぞれの街でどう落とし込んで発信するのか、かなり注力されているのかなと感じますね。

その通りですね。事前に丸の内店と原宿店を何度か見に行かせてもらって、今回は平面ではなく空間としてどう見せるのかをテーマにしながら、さらにそのローカルにどうフィットさせていくのかを考えて制作してます。だけど店舗に施工する特性上、自分すらもどういう仕上がりになるのか直前まで分からなくて、それにワクワクするなんてことって滅多にないんです。特に長い間仕事をやっているとある程度想像できてしまうんですが、今回のは自分でいつもやっているコラージュ以外に、フィジカルでどう立体的に見せるかというトリックが混ざっているので、もちろんCGとかではチェックするんですが、実物の距離感とかはやっぱり出来上がったものを見ないと分からなくて。だから素直にどうなっているんだろうって今日までワクワクしていましたね。

今回のプロジェクトは短期的なものではなく長期的なものだと認識していますが、この先のビジョンがあればお話しできる範囲で教えていただけますか?

僕としては今回の仕上がりを見てすごく安心していて、逆に今回が微妙だった場合、当然次は別のやり方を考える必要がありますよね。ですので次がどうなるのか、自分が作ったビジュアルがもう一段階どう変化するのか、お世辞抜きですごく楽しみなんです。だからまず安心してビジュアルだけにフォーカスできるなと感じているのが前提としてあります。

今後、9月と年末であと2回残っているんですが、場所が2箇所から4箇所に増えるので、今回みたいにそれぞれに対してのアプローチが変わると思うんです。それぞれの店舗によってスペースも違えば客層も変わってくる、故に必然的にアプローチが変わるので、プロジェクトを動かしながら常にアップデートし続ける必要があります。自分の中でも想像がつかない変化が起こるプロジェクトですね。また今回の取り組みを踏まえて、次回はもらったお題(素材)だけで判断するのではなく、最終的なアウトプットを想像してより正確に向き合える気がしていて。お客さんが見るほぼ同タイミングで完成して、僕もその時に実物を見て驚くみたいに、いつもとは少し違ったプロジェクトだなという風に感じてます。

今回は僕ら制作チーム側とARC’TERYXチーム、施工チームが完璧なバランスでハマったと思ってます。ビジュアルに関してもいっさいNGがなかったので、ブランドサイドのクリエイティブに対しての寛容さが、この完璧なバランスを支えてくれていると感じていますね。この点は僕も結構驚かされて、普通何かしらの修正指示があるので、それを想定した上で修正対応できるように、ある程度余白を残して作品を作るんですが、最後の最後まで何も修正指示なくて、自分が最初に出したマックス良いと思っていたものがそのまま通ったので、良い意味でびっくりしましたね(笑)。

ブランドのファンに刺さるものということは大前提ですが、僕の作品を面白いと思ってくれたり支持してくれている人にも見てほしいし、その人たちがこういうプロジェクトをきっかけに、お店に足を運んでほしいです。これって少なからず僕が貢献できることのひとつだと思うんです。全体で見たら少ない数かもしれないけど、今まで僕の作品に触れてこなかった人たちもこの取り組みを通じて1人でも知ってくれたり面白いと思ってもらったりするきっかけになったら良いなと。今回は自分的にもそれができるんじゃないのかなと思えるプロジェクトです。

丸の内店 / ARC’TERYX

原宿店 / ARC’TERYX

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Presented by ARC’TERYX
フォトグラファー
Haruki Matsui
エディター
Hiromu Sasaki / Hypebeast
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