Goldwin 0 デザイナー ヌー・アバスが考える“拡張”とは | Interviews

20年以上のキャリアを持ち、ラグジュアリーからスポーツウェアまで網羅するヌー・アバスが、〈Goldwin 0〉にもたらす革新、そして彼が新たにローンチするブランド〈Gnuhr〉について

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〈THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)〉〈HELLY HANSEN(ヘリーハンセン)〉〈ellese(エレッセ)〉などをはじめ、ライセンスブランドを数多く抱える「GOLDWIN(ゴールドウイン)」社は、1950年、自然豊かな富山県西部にて小さなニット工場として始動した。社名を冠したオリジナルブランド〈GOLDWIN〉は、ニット技術を駆使したスキーウェアをルーツに持ち、1964年に、日本のバレーボール女子ナショナルチームにユニフォームを提供。今日にいたるまで、革新的な技術を生み出し続けている。そんな本メーカーが2022年秋冬シーズン、新たな取り組みとして、実験的なプラットフォーム 〈Goldwin 0〉をローンチした。

昨年3月に開催された「Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 A/W」にて突如発表された〈Goldwin 0〉は、“サステナビリティ”を核に、ファッションを通じて循環型社会の実現を目指すプロジェクトだ。ジュリア・ロドヴィッチ(Julia Rodowicz)とジャン=リュック・アンブリッジ(Jean-Luc Ambridge)がデザインを手掛け、日本の〈GOLDWIN〉チームとイギリス・ロンドンを拠点とするデザインスタジオ『OK-RM(オーケー・アールエム)』が密接に関わり合って作り上げたEnquiry #1〜4は、「GOLDWIN」の最先端素材を用いた、ミニマルでありながらも哲学的なデザインにより、すぐさま高い注目を浴びるテックウェアブランドに君臨。さらには、ファッションデザインの枠を超え、視覚表現、音楽、空間など、さまざまなアイデアを構想、制作、確立したことで、アートの分野でも話題を集めている。

そんな〈Goldwin 0〉が、新たなサイクル Enquiry #5に突入するにあたり、イギリス出身のファッションデザイナー ヌー・アバス(Nur Abbas)をデザイナー・イン・レジデンスとして招聘。現在、アメリカ・オレゴン州ポートランドにて『Gnuhr Studio(ヌースタジオ)』を主宰するヌーは、20年以上のデザイン経験を持ち、数々のラクジュアリーのメゾンからライフスタイル、スポーツブランドでデザイナーとして成功を収めてきた。本稿では、彼のデビューコレクションとなるEnquiry #5のローンチに合わせ、独占インタビューを敢行。ラグジュアリーからスポーツウェアまで網羅するヌーが、これまでに築き上げてきたデザイン哲学をどのように〈Goldwin 0〉へと落とし込んだのか、そして彼自身が取り組む新たなプロジェクトについてなど、余すことなく語ってもらった。

だた“拡張する”ことに注力するのではなく、GOLDWINが今まで築いてきたパターンメイキングを、私が実際に見て、そこに対してどのような革新をもたらせるかということに重きを置いています

Hypebeast : Enquiry #5より、Goldwin 0のデザイナーに就任した経緯を教えてください。

ヌー・アバス:そもそも、nanamica(ナナミカ)とのTHE NORTH FACEのコラボラインであるTHE NORTH FACE PURPLE LABEL(ザ・ノース・フェイス パープル レーベル)をはじめ、GOLDWINの展開するブランドがすごく好きだったんです。GOLDWINは、技術や素材、全てにおいて素晴らしいブランドであることを知っていたし、これまで自分が参考にしてきたブランドのうちの1つでもあったので、依頼をいただいてすぐにイエスと答えました。

日本のブランドにも元々精通されていたんでしょうか?

これまで、幸運なことに何度も出張で日本を訪れているので、国内のブランドはよく知っています。最初に日本に来たのは2005年くらいなのですが、それ以降毎年大体訪問していますね。日本という国そのものも、それを象るブランド、アート、カルチャー…。全てが自分の今までのキャリアにおいてインスピレーション源となっています。特に、アウトドアウェアやアウターウェアに関しては、日本のブランドが素晴らしい技術と知見を持っているので、そこに関してはよくリサーチをしてきましたし、実際に手に取って触れてきました。

ジュリア・ロドヴィッチ(Julia Rodowicz)とジャン=リュック・アンブリッジ(Jean-Luc Ambridge)が作り上げたEnquiry #1~4から、どの要素をデザイン面で意識しましたか?

ジャン=リュック・アンブリッジは、アウターウェアやテクニカルウェアという部分で高いスタンダードを構築してくれたと思っています。ジュリア・ロドヴィッチは、私がよく知る友人でもあり、彼女のニットウェアが素晴らしいものであることは承知の上だったので、それらの高いレベルに添えるよう意識しました。

逆に変化させたものはありますか?

Goldwin 0のデザイナーに就任するにあたり、まず最初に“amplifying(拡張する)”という言葉を提案しました。私自身、革新や革命をもたらしていくことをデザインアプローチとして重んじてきましたし、Goldwin 0も、GOLDWINが既に持っている知見や技術を、実験してより良いものにしていくことに注力するプロジェクトだと思っているので、それができるよう常に心掛けています。

Goldwin 0 Enquiry #5において、“拡張する”という言葉は重要なワードとなるのでしょうか?

だた“拡張する”ことに注力するのではなく、GOLDWINというブランドが今まで築いてきたパターンメイキングを、私が実際に見て、そこに対してどのような革新をもたらせるかということに重きを置いています。元々GOLDWINが素晴らしいものを持っているので、完全に違うものを作ろうとしているのではなく、どちらかというとキュレートしているような、既に持っているものを進化させていくような感覚ですね。

加えて、私のデザイン要素をどこに落とし込めるかもすごく考えました。Goldwin 0が“循環”をコンセプトとしていることから、内側の首元に付属する襟吊り(ループ)を2重にすることで、“メビウスの輪”を表現したんです。もちろん、襟吊りとしての機能も果たしますし、今後私が手掛けていくGoldwin 0のシンボルとして取り入れ続けていきたいと思っています。

数々のメゾンブランドから、スポーツブランド、カジュアルブランドにいたるまで、幅広く手掛けてきていらっしゃいますが、それぞれをデザインする上で、全く異なる視点が必要となったかと思います。今回、先進的でサステナブルな印象の強いGoldwin 0を手掛けるにあたり、これまでの経験値はそれぞれどのように活きたと思いますか?

私が数々のメゾンブランドやスポーツブランドで得た知見や技術は、GOLDWINという会社で受け継がれてきた “Dedication to detail(真実は見えないところにある)”というデザイン哲学を通し、Goldwin 0で活かすことができると思っていますし、今回のファーストコレクションでは、それらを集結していくスタートを切れたと思っています。まず、パンツには、100%メリノウールを使用しています。メリノウールは、どちらかというとラグジュアリーブランドが使うような素材ですが、今回は、機能性という点にも焦点を当て、特殊な技術で高密度に織られた生地を採用することで、高い防風性を備えたアイテムに仕上げました。ジャケットは、日本のメーカーが作っているPERTEX®(パーテックス)という素晴らしい素材を使っています。機能性、クオリティを兼ね備えた素材というものは、自分がこれまでデザインを手掛けてきたブランドでもなかなか使うことができなかったのですが、今回のプロジェクトではその素材を思う存分使うことができるのです。

トップスは、ニット工場として始動したGOLDWINのヘリテージを尊重すべく、1964年に開催された東京オリンピックで、同ブランドが製造を担当したバレーボールチームのユニフォームを忠実に再現しています。それでいて、グローバルブランドとしてよりたくさんの方々に着用してもらえるよう、背面のフラッグモチーフはシルエットだけを残しました。また、GOLDWINがこれまでに培ってきたホールガーメントの技術を用いた点も、当時と異なるポイントです。シームがない仕様を取り入れることで、現代的なシルエットに仕上げています。

ベストとダウンジャケットは、すごく興味深いアイテムです。GOLDWINのテクニカルチームが開発し、従来のGOLDWINのジャケットにライニングとして搭載していた最新テクノロジー 3D Box Baffle(スリーディー ボックス バッフル)を採用しています。通常のダウンの場合、シームの凹凸部分によって、冷たい風が貫通する現象が起こってしまうのですが、このスリーデメンショナルパファーは、高低差がなくフラットになっているため、寒さを感じにくくなっています。私は、そのビジュアルを目にした時、視覚的にもとても強いデザインだなと感じました。そのため、今回はライニングではなく、外観に持ってくることにしたのです。また、ジャケットに関しては、アームの部分も立体構造を取り入れ、着用した時にどのようなシルエットになるかどうかもこだわりましたね。

立体的で独特な形状が特徴のダウンパックですが、ライニングとして搭載されていた際も全く同じような形状だったのでしょうか?

同じ技術ではあるのですが、形状に関しては若干異なります。それに関しても、“拡張する”ということを意識しましたね。従来よりさらに深いプリーツを採用するなど、色々なデザインを試し、最終的に1番いいバランスを見つけました。これは全てのアイテムにおいてですが、GOLDWINの有する、身体に自然と沿うユニークなデザインモチーフを、いかに活用するかという点もかなり考慮しました。パンツのサイドには、雪の上をスキー板で滑った痕跡に着想した“シュプールライン”を取り入れていますし、ニットの首元〜肩にかけてのラインもアーカイブから引用しています。

そうなのですね。なかでも特に気に入っているアイテムはありますか?

特にベストは気に入っていますね。全ての技術がうまく融合したと思っていますし、シェイプとしてもまとまっています。さらに、どんなアイテムに合わせても着こなしやすいと思います。

Enquiry #1より、Goldwin 0はアパレルの他、映像や作品集を制作している点でもかなり注目を集めていますね。

そういった点に、Goldwin 0というプロジェクトの魅力を感じています。OK-RMが既に世界観を作ってくれていたので、そこに参加するという意味ではとても光栄に思っていますし、アパレルをデザインする上でも、既にGoldwin 0が持っている“循環”というテーマを含め、さまざまな境界線を超えて、より人々が共感してくれるよう心掛けてデザインしています。

今回の映像では、GOLDWIN本社のホールのドアに焦点を当てていますね。日本ではかなり一般的なドアですが、みなさんはこの無機質なデザインがとても気に入られたと伺いました。

OK-RMのオリバー・ナイト(Oliver Knight)、ローリー・マクグラス(Rory McGrath)と初めて出会い、全てが始まった場所でもあるので、お互いに「Goldwin 0のコンセプトを表現するのに相応しい場所だ」と合意しました。日本人からすると一般的なドアですが、僕らにとっては日本の象徴的なミニマリズムを思わせる、素晴らしいデザインであるのです。それと同じように、GOLDWINが既に“当たり前”だと思っているテクノロジーは、私からするととても画期的で面白いもの。本来、この映像では、ドアに焦点を当てることで新しいステージが開くことを表現しているのですが、違った視点で見てみると、GOLDWINの持つテクノロジーを比喩したシーンとなっているかもしれません。


ご自身の主宰するGnuhr Studio(ヌースタジオ)では、現在どのようなプロジェクトを進行していますか?

Gnuhrというブランドをローンチ予定です。スタジオ同様、スペリングが面白いのですが、自分の名前と異なるアラビックの綴りを採用しています。これは英語で言うlightを指すのですが、“光”と“軽い”の2種類の意味で使えるから、その曖昧さも含めて好きですね。その名前ともリンクしているのですが、コンセプトとしては、“ウルトラライト”に焦点を当て、シンプルで機能性のあるアウトドアウェアを展開します。必要最小限の装備で体力の消耗を抑え、より自然に近い状態でハイキングを楽しむスタイルの1つである“ウルトラライト”のスタイルは、マインドセットとしても素晴らしいと思っているんです。また、私は、デザイナー、建築家、詩人など、あらゆる方面で才能を発揮したR. バックミンスター・フラー(R. Buckminster Fuller)の名言である“To do more and more with less and less until eventually you can do everything with nothing.(最小限の材料で最大の機能を引き出せば、最終的に何もない状態で全てできるようになる)”という言葉をモットーとしていて、まさにそれをGnuhrで表現できたらいいなと思っています。

加えて、Gnuhr Studioが拠点とするアメリカ・ポートランドにも強く影響を受けていますね。私の生まれ育ったヨーロッパとは違って歴史が浅いのですが、自然がごく近くにあり、サステナビリティへの取り組みも盛んなパイオニア精神にインスピレーションを得ています。その上で、機能性やテクノロジーという表面的な部分だけでなく、私たちの作るものに対して、人々がファッションやカルチャーへの関係性を感じてもらえるところまで踏み込んでデザインしたいとも考えています。

Goldwin 0とGnuhrはどちらもアウトドアウェアを展開することとなりますが、その内容はそれぞれ全く異なるものとなるのですね。

Goldwin 0は、自分だけでは絶対に成し遂げられないこと、他のブランドとではできないようなことを実現させてくれる。アプローチは近いのですが、実行していることが全く異なっていますね。Gnuhrでは、ローカルビジネスをサポートしたいと思っているので、ローカルの作り手と共にプロダクトを作り上げています。2ブランドは、結果として全然異なるアウトプットとなりますが、これらのアイテムを組み合わせると、お互い足りない部分が満たされるので、素晴らしい機能を発揮してくれると思います。Gnuhrは、2023年が終わる前にまずはオンラインで、その後私の選んだディーラーで順次販売を開始する予定なので、Goldwin 0 Enquiry #5と共に是非チェックしていただきたいです。


ヌー・アバスのファーストコレクションとなる〈Goldwin 0〉Enquiry #5は、11月17日(金)より日本国内をはじめ、ヨーロッパ、アメリカ、アジアにてグローバルローンチ。詳細は今シーズンから新たに立ち上がるプロジェクトサイトからご確認を。
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テキスト
フォトグラファー
Takaki Iwata
インタビュアー
Satomi Kanno
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