Alpine のスポーツカー A110 の限定車 Tour de Corse 75 が登場
A110の歴史を語る上で欠かせない「WRC」のカラーリングをモチーフにした限定車
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フランスの自動車メーカー「Alpine(アルピーヌ)」の限定車 A110 Tour de Corse 75(A110ツール・ド・コルス75)は、1975年の「Tour de Corse(ツール・ド・コルス)」に参戦したRenault A110をイメージしたもの。「Tour de Corse」もこの黄色も「Alpine」にとっては特別なものだ。
「Alpine」にとってラリー、中でも「WRC」は特別だ。「WRC」がスタートした1973年に初代ワールドチャンピオンを獲得したのは、他ならぬ「Alpine」Renault A110だったからだ。中でも1956年から開催され、1973年にWRCの1戦にも組み込まれた「Tour de Corse」は、フランス人にとって特別な場所でもある。南仏に面する地中海にあるコルシカ(コルス)島は、ナポレオン生誕の地であり、最も美しい島と呼ばれるフランス人憧れの地。そんな“地元フランス”を舞台に繰り広げられるのが、1万のコーナーを持つといわれるほどツイスティなターマック(舗装路)ラリーである「Tour de Corse」。そこでRenault A110は、1968、1970、1972、1973年の4回、優勝を飾っているのだ。
この度デビューしたA110 Tour de Corse 75は、1975年の「Tour de Corse」を走ったRenault A110をイメージした限定車となる。そう、1975年は優勝を飾っていないのだが、(ジャン・ピエール・ニコラ)のRenault A110とBernard Darniche(ベルナール・ダルニッシュ)のLANCIA STRATO’S(ランチア・ストラトス)というフランス人同士の争いは語り草で、50馬力多いストラトス有利な状況の中でRenault A110は驚異的な追い上げを見せ、最後は32秒差の2位となる“記憶に残る”レースになったのだ。
Renault A110を試乗したことのある方なら、この結果も納得かもしれない。というのも、Renault A110はRRというレイアウトではあるが、エンジンという重量物が最後方にあるとは思えないバランスと回頭性のよさを持っており、慣性重量を全く感じさせない走りを見せる。これはハイパワーかつ超クイックなハンドリングを持つストラトスよりも圧倒的に扱いやすく、ツイスティな「Tour de Corse」で、しかも途中雨に見舞われた1975年のレースで互角に戦ったのは(ロードカーとラリーカーの違いはもちろんあるにせよ)、必然の結果と言えよう。
そして、限定車に採用された黄色のボディカラーもまた重要だ。これについては「Alpine」のチーフデザイナーを務めるAntony Villain(アントニー・ヴィラン)がこう語っている。「1975年はAlpine Renaultとして初めて、イエローとブラック&ホワイトのボディカラーで参戦しました。黄色はご存知のようにRenaultの代表的な色です。1946年、Renaultのロゴに初めて黄色が採用され、以降、この色はRenaultを代表してきました。実は1946年に最初のRenault 4CVが発売開始された時、終戦直後で黄色の塗料しか手に入らなかったため、当時の4CVは全て黄色で生産されました。ロゴの黄色は、その影響を受けているそうです」。
そんな黄色を今回の限定車に採用したことについて、Antony Villainはこうも語っている。「今回発表した限定車は単純なカラーリングというよりも、Alpineの歴史をオマージュすることが目的です。Alpineと言うとモータースポーツを思い浮かべますが、ラリーのイメージも強いと思います。まずは多くのAlpineファンのお客様に喜んで頂くこと、そしてAlpineの豊富なモータースポーツの歴史を世界に発信することが目的なのです」。「Alpine」が完全に「Renault」グループの一員となった1976年からは、「Le Mans(ル・マン)」のマシンも黄色を基調としたカラーリングになり、1978年にはA442Bでついに優勝。前後して1977年からは同カラーを纏ったRS01でF1参戦開始と、現在「Renault」グループの中でスポーツ部門が集約されている「Alpine」にとって、歴史的に重要なカラーリングと言えるのだ。
そういった経緯を理解すると、ジョン・トゥルヌソルとノワールブロフォン Mの専用2トーンカラーや、1975年を思わせる“75”の専用デカール、ブリリアントホワイトのグランプリ・ホイールなど、限定車に採用されたディテールの輝きが増してくるというもの。またどうしても書いておきたいのは、300psのハイパワー版エンジンに、ベースグレードの“Alpine シャシー”が組み合わされていることだ。これはドライブがいかにも楽しそうではないか。どうやら、「Tour de Corse」に思いを馳せながらツイスティなワインディングを駆け抜ける行為こそ、この限定車における最大の楽しみ方と言えそうだ。