Interviews: 藤原ヒロシに訊く『TINY PANX +1 TOKYO CHRONICLE 1977-1990』の注目ポイント

クラウドファンディング形式なので、買い逃しのないようTINY PANX本の魅力を深堀り

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「TINY PANX(タイニー・パンクス)の本が出る!」と心躍らせた方も多いことだろう。藤原ヒロシ & 高木完によるTINY PANXは、日本のヒップホップ黎明期に活躍したパイオニア中のパイオニア。彼らの存在なくして、我々の掲げる“HYPEBEAST(ハイプビースト)”という言葉が誕生していなかったと考えても決して大袈裟ではない。TINY PANXは、Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)やKim Jones(キム・ジョーンズ)の築いた現代のファッションシーンへと続く裏原宿ムーブメントの礎なのだ。

そんな彼らの書籍『TINY PANX +1 TOKYO CHRONICLE 1977-1990』では、藤原ヒロシと高木完に編集者・デッツ松田を迎え、パンクの誕生から、3者の出会い、TINY PANXの結成、1980年代の東京クラブシーンなどが140ページにわたって語られる。また、雑誌『宝島』での伝説的連載 “LAST ORGY(ラスト・オージー)”や、HFが1980年代初頭に撮影したイギリス・ロンドンのストリート/クラブの写真など、ファン垂涎の貴重なアーカイブを収録。

『TINY PANX +1 TOKYO CHRONICLE 1977-1990』は、クラウドファンディング形式なので、期限を過ぎてしまうと購入ができない。買い逃しのないよう、本書の魅力を掘り下げるべく、藤原氏のインタビューを実施。場所は『HYPEBEAST』でも何度もHFの取材を行ってきた東京・表参道のカフェ『montoak(モントーク)』にて。3月31日(木)をもって閉店してしまうため、『montoak』で藤原ヒロシの話が聞けるのはこれが最後の機会だろう(ということで記念撮影もさせてもらった)。本インタビューを通して、内容が気になった方は下記のリンクから是非とも購入してほしい1冊だ。

『TINY PANX +1 1977-1990 TOKYO CHRONICLE 出版企画』
https://motion-gallery.net/projects/TINYPANX1

HYPEBEAST:では、まず最初の質問を……。

(筆者のラップトップを見て)それよりもパソコンがなんでそんなに汚いのか気になるんだけど。

あっ見られてしまいました、恥ずかしい(笑)。持ってきて開いた瞬間に真っ先に後悔しました……(笑)。失礼しました、改めまして……TINY PANXの書籍をこのタイミング作った経緯を教えていただけますか?

10年ぐらい前なんだけど、僕と完ちゃんとデッツと3人でどこかで会った時に「本を作ろう」って話になり。デッツ松田が編集をメインでやってくれてるんだけども、元々彼も編集畑で雑誌を作ったり、完ちゃんも僕も雑誌の対談とかから始まった人間なので、僕らが東京に出てきて楽しかった頃……と言ったら変だけど、90年代までのことをダイアリー的に書いてみようと。

意図的に寝かせたわけじゃないんですね?

全然そんなことない。みんながダラダラして進まなかった。一気にやるわけじゃなくて、会って2〜3時間やって、また次のスケジュール決めようって言ったっきり3年ぐらい経ったりとか(笑)。そんな感じでした。

それは確かに10年ぐらいかかりそうですね(笑)。

で、いい加減まとめようってなり、ババっと最終的にやって仕上げた感じですね。

クラウドファンディングにした理由は?

最後まできっちり決めてなくて、やり始めた時は普通に出版する予定だったんです。売り方をどうしようかって話してて、クラウドファンディングもどっちかという最近のものじゃないですか。だから「そっちでトライしてみようか」って感じで、今は書籍って出してもそんなに売れるものでもないし。売れる分だけ作る方がもしかしたらいいんじゃないかって。

タイトルの由来をお聞きしたいのですが、1977年はSex Pistols(セックス・ピストルズ)のアルバムの出た年ですよね?

77年ぐらいに僕も完ちゃんも本格的にファッションとかそういうカルチャーに目覚めたというか。パンク以降というか、80年代前半に僕は東京に出てきて、完ちゃんと出会って、そこからTINY PANXを始めたわけだけど、その流れを形にしています。

1990年までとされたのは、80年代にフォーカスされているという意図でしょうか。

そうですね、TINY PANXの活動自体も90年以降はバラバラになっていくので。完ちゃんは、よりヒップホップの方に行って、僕はハウスとか違う音楽が好きなっていったし。その辺りで世代交代的な動きもあったのかな、もしかしたら。ちょうどその頃にNIGO®️(ニゴー)やジョニオ(高橋盾)も出てきて。

90年が一区切りだったんですね。

まあ、そんな感じだったんでしょうね。

TINY PANXは解散という形を取ったことはないんですよね?

それは1回もないですね。元々がそんなにデュオとかグループって縛りがあったわけでもないので。常にダラダラと(笑)。

本の見所や注目ポイントをいくつか教えていただけますでしょうか?

ファッションと音楽がメインだし、偏った本だと思います。だから興味がある人にはとても面白いと思うけど、一般的に面白いかと言われると全く面白くないと思います。正直なところ(笑)。完全に2極化されますね。その分、興味がある人には刺さるんじゃないかな。ふわりと80年代ってどんな感じなんだろうって読んだ人には全然面白くないと思う。本当に(笑)。

初出しの情報や資料なども収録されてますか?

情報というか、対談そのものは書籍のためにやってるけど、資料はどうかな。当時のアーカイブなので初出しではないかもしれないけど、自分たちでも忘れてるものは多々ありましたね。

他媒体のインタビューでLAST ORGYの名前の由来が初めて明かされた?的に記載されていたような……

え、そうなの?そんなつもりもなかったけど。

ヒロシさんのお家にあったビデオのタイトルで、中身は誰も見てないんですよね(笑)?

そうそう(笑)。

基本的には3者のクロストークみたいな進行でしょうか?

そう、どっちかっていうと僕と完ちゃんがメインで。デッツは司会進行で入って、同世代なので、彼の意見も少し入ってます。

ヒロシさんは過去のご自身の活動にあまり興味がないのかと思うのですが、今回、当時を振り返ってみてのご感想をお聞きかせいただけますか。

僕は忘れてることが多くて。逆に完ちゃんは記憶力が良くて、色々覚えてるんですよ。言われてみると「そういえばあの時こういうことがあった」とか思い出してきて。そういったトリガーがあったから話せたんだけど、僕個人では全然覚えてないことが多かったです。忘れちゃってるから、そもそも振り返るのに向いてないは向いてないんだけど(笑)。でも、忘れてたけど面白いってことは結構ありました。だから今回の本が作れて良かった。やっぱり当時は、情報がなかった時代だから、なんでも探り探りでやってたんだよね。対談してみて、「確かにそうだったな」とか、そういう記憶が蘇るような面白さはありましたね。

TINY PANKSのお2人のファッションは、Seditionaries(セディショナリーズ)とadidas(アディダス)を合わせてコーディネイトされたりとユニークなスタイルでしたが、当時誰か参考にした人はいましたか?それともただ好きなものミックスされた形ですか?

好きなものをミックスするという意味では、自分たちのオリジナルでしたが、参考にしてたのはパンクだったりヒップホップだったりとか。

高木完さんから受けた影響で最も大きかったものは何ですか?

物事を違う方向から見ること。ストレートじゃなくて、いくつかの方向から見てる。これが面白いと直球で見るんじゃなくて、こういう視点から面白いのと、他の視点からも面白いとか、多角度的に物事を見ていて。違うところから面白さを追求する。それにすごい影響されて、僕もそういう見方をする。

出会った頃からですか?

うん、なんでも詳しかったし。色々教えてもらいましたね。

Public Enemy(パブリック・エネミー)が出始めたあたりからヒップホップから距離を取るようになったと過去のインタビューで拝見したのですが、ヒロシさんの中で、ヒップホップ的な考え方とか、今でも生きてたりしますか?

いや、ヒップホップ的な考え方はあまりない気がします。先日、違う媒体でTINY PANXの取材をしていて、ミヤザキ君っていうライターが、すごい面白いことを言ってて。パンクは世界からはみ出そうと思って動いてる青春文化で、ヒップホップは世界に認められようと思って動いている運動と。そんなこと思ったことなかったんだけど、確かにその通りだなと思って。僕はパンクで育ったんで。どちらかというと大衆から離れるというか、流行ってるものがあって、そこから離れていくことで別の流行りがあるとか。だからメジャーなものがないと光らないようなものなんですけど。ヒップホップはそうでなくて、もともとアンダーグランドなものが、メジャーの中で輝きを見つけるということなんで。それはそれですごい面白いけど。結構、両極端だなと思って。

結構、混合されがちというか、似たような精神性と思われがちですが。

でも実は真逆。僕はどっちかっていうとパンクの方なのかなと。

ちなみに今でもヒップホップを聴くこともありますか?

ありますよ。昔のもあるし、最近の作品も誰かに薦められたら聴きますし。

ヒロシさんにとって、1980年代象徴するアルバムや楽曲、ブランドなどはありますか?

僕的にはWorlds End(ワールズエンド)とVivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)ですけど、音楽的にはヒップホップなんですかね。RUN DMC(ラン・ディーエムシー)やBeastie Boys(ビースティ・ボーイズ)とかDef Jam(デフ・ジャム)勢とか。80年代はまだギリギリ新しいものがちょっとは出てきて、ぐしゃぐしゃしてた感じはありますね。90年代以降は本当の意味での新しいものは出てなくて。ヒップホップはヒップホップのいいところを追求していき、ハウスはハウスのいいところを追求していきましたね。

またファッションの話に戻るのですが、上京された1980年代初頭は、全身Seditionariesのアイテムを着用していたと聞きます。Seditionariesは既に数年前に出てきたもので、旬のブランドではなかったですよね?

うん、全然違ったと思います。

なぜそれらをよく着ていたのですか?

ノスタルジーじゃないですか。中学生の時からすごい好きで、その時は買いたくても買えなかったから。あとは、情報もなかったので、70年代で自分が見てたパンクの洋服やカルチャーって氷山の一角だったんですよ。80年代になって、僕がロンドンに行ったり、東京でいろんな人に会ったりして、こんなのもあったんだ、こんなこともあったんだとか、カルチャーをちゃんと理解できたのが80年代でした。そういうことって今はないよね。Google(グーグル)先生が教えてくれるし、なんでもわかるから。自分たちでディグしていくっていう習慣がないよね。他人任せのディグで十分わかっちゃうから、

浅く広くが当たり前になってますね。

広く深くがいいですね。

それができれば理想的ですよね。

あまり意識されてないかもしれませんが、当時を資料を見ながら客観的にご自身を振り返って、長年第一線でいる秘訣は何だと思いますか?

うまくメインストリームから少しずらした位置に自分を置いてるなとは思うけど。そういうことかな。

なるほど、先程のパンクのお話にも通じますね。TINY PANXとして今後の活動は……ないですかね?

特にないと思います(笑)。このままお茶を飲むだけの関係ですかね。完ちゃんも面白いし、他に何かできればいいけどね。90年代ももしかしたらそれぞれが書けるかもしれないですけどね。完ちゃんが見た90年代と僕が見た90年代は違うから。この本がうまく軌道に乗ったら、もしかしたら続編も半分ぐらいの薄さでできるかもしれないですね。

ファンディングは既にかなり入ってますよね。

ファンディング自体はもう200%ぐらい。それでも1,500冊とかでしょ。本ってやっぱりそれぐらいのものなのか、どれぐらいの部数が基準になるのかわからないけど。あとはクラウドファンディングをわかってない人もいるから。「出たら買うね」みたいな人も多くて、出ても買えないので(笑)。クラウドファンディングをわかってても、本屋でも売ると思ってる人もいたり。

僕も後者のパターンと思ってました……。

今のところ本屋で売る予定はないです。もしかしたら電子版とかいけるかもしれないけど、この装丁で本屋で出すのは絶対に無理なので。売れるとしてもそこは変わるだろうし。

あとは7インチが付いたり、Tシャツが付いたりですよね。

7インチ付きは1日とかで売り切れちゃったんだけど。まだ現物は見れてないですが、本の装丁もとても面白いものになる予定なんですよ。

本日も貴重なお話ありがとうございました。

ありがとう。

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テキスト
インタビュアー
Yuki Abe / Hypebeast
フォトグラファー
Toshiyuki Togashi / Hypebeast
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