Interviews:クリス・スタンプが Stampd 設立から5年が経過した“今”を語る

ストリートとラグジュアリーの架け橋となり、現代シーンの礎を築いた米西海岸のパイオニアからクリエイティブの本質や「IKEA」とのコラボレーションの秘話を聞き出す

ファッション 
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Chris Stamp(クリス・スタンプ)が現代ストリートの礎を築いた人物であることに疑いの余地はない。2013年にアメリカ西海岸のアーバンストリートとハイエンドなライフスタイルを体現する〈Stampd(スタンプド)〉を設立して以来、Chrisはストリートとラグジュアリーというかつて水と油の存在だった両カテゴリーの仲介役となり、垣根が取り払われつつある昨今のファッションシーンの基盤を作り上げた。そのクリエイティブなアプローチと一切の妥協がない生産過程を踏んで生み出される洗練されたプロダクトは多方面から評価され、2015年には『GQ』が主催する“GQ Award”のベストデザイナーにも選出。その後、パリでのコレクション披露や奇をてらったスポットプロジェクトで絶えずトピックを提供し、最近では「IKEA(イケア)」との限定コレクション“SPÄNST(スペンスト)”をリリースしたことも記憶に新しい。

〈Stampd〉の設立から早5年が経過した今、激動を乗り越えてきたパイオニアは何を思うのだろうか。『HYPEBEAST(ハイプビースト)』は次期コレクションのプレビューに際して来日していたChrisに胸の内を聞いてみた。

2013年にスタートした〈Stampd〉、もう5周年を迎えたんですね。設立当社と現状を比較して、何か思うところや変化などはありますか?

正直に言うよ。本当にクレイジーで、とにかく忙しかった(笑)。もちろん、それを歓迎してのことだけどね。チームやパートナーたちの助けもあり、その結果、ブランドが今のポジションを確立できたことをすごく嬉しく、光栄に思っているよ。当初はひとつの小さなアイディアをカタチにすることも一苦労だった。でも、今は自分がアプローチしたい場所、僕が拠点とするカリフォルニア以外のマーケットにリーチできている。ここ日本を含むアジア圏はもちろんのこと、ヨーロッパからも良いリアクションをもらえているんだ。

ロサンゼルスには旗艦店やデザインスタジオを構えることができるようになるまで成長して、その中で自分が納得のいくプロセスを踏みながら、“良い”と思えるプロダクトを作れている。今後もこれを継続して、10年後、15年後、20年後も必要とされる恒久的なものを作っていきたいね。

変化についてですが、服作りに関してはいかがでしょう?

今となっての話しだけど、初期の頃はファッション業界の仕組みやビジネスへの理解も乏しく、とにかくスピード感を持って製作し、早くマーケットに展開することばかりに注力していたように思えるかな。でも経験を重ねることで知識が増え、ネットワークやコミュニティも拡大し、今では例えば真の意味でハイクオリティなツイルのキャップはどこで生産できるか、そしてLAで最も良いデニム工場やイタリアのレザークラフターなど、各プロダクト/カテゴリーにおける最良のパートナーを見つけることができた。それにより、総合的にクオリティが向上し、〈Stampd〉として高みを目指せるようになったと思っているよ。

ものづくりやクリエイティブプロセスにおいて、日頃大切にしている思考はありますか?

クリエイティブなプロセスにおける最重要事項か。そうだね、今の時代は常に色々なものが変化している。だから、自分自身が常にフレキシブルでいて、変化を拒まないことが重要なんだ。それでいて、なおかつ自分が誇りに思えるものを作らなければいけない。自分に正直になり、自分が好きなものを作り、納得した上でプロダクトをリリースする。リテールでも展示会場でも、自分のプロダクトを見た時に「素晴らしい」と確信できることはとても大切なんだ。

去年は〈BAPE®️(ベイプ)〉や〈Timberland(ティンバーランド)〉、〈424〉などとのコラボレーションを展開しましたね。

ストリートのビッグネームとコラボレーションできたことは、とても誇りに思っているよ。やっぱりコラボレーションはゴールにマーケットがあるから、緻密なプランニングやストラテジー、そしてストーリー設定を大切にしているんだ。〈BAPE®️〉に関しては水面下で話しを進めて、数年間色々なことを詰めながら昨年ようやく販売できた。〈Timberland〉、〈424〉に関しても、新しい動きができたんじゃないかな。

はじめに伝えたけど、コラボレーションはストーリーと意義があるものでなければいけないんだ。互いにストロングポイントがあって、それが融合し、化学変化やシナジーが生まれてようやく他にはないクリエイションが完成するはずだから、自分たちとパートナーの双方に強みや魅力があって初めて、コラボレーションというひとつのプロジェクトがスタートするんだよ。

そんなコラボレーションの一環ですが、「IKEA」とのコラボレーションはどのように進行したのでしょうか?

「IKEA」に関しては、最初に「IKEA」のクリエイティブ・ディレクターから連絡をもらったことが初期微動だね。そこから色々な話し合いを経て、ニューヨークのショーに「IKEA」のチームを招待し、その後、膝を突き合わせてアイディア交換をする場を設けたんだ。その時に僕が伝えた意見に賛同してもらったことで、本格的なコラボレーションの話しが進んでいった、という流れだよ。

「IKEA」との“SPÄNST”コレクションは、僕、Chris Stampが思うアクティブなライフスタイルというビジョンにフィットするコレクションを展開したんだ。最初に話しをもらってから何年もの時間を費やし、その間にはポーランドやスペインなど世界各国に赴き、イベントやインスターレションにも参加したね。時間をかけて、綿密な計画を基に進行できたから、素晴らしいパートナーシップだったと感じているよ。

今だから言える“IKEAとのコラボレーションの裏話”はありますか?

ファッションの世界だと、デザインを始めて6ヶ月〜8ヶ月ぐらいの期間で準備を行い、リリースというタイムラインを組めるけど、家具の場合はファッションの3倍ぐらい時間がかかるんだ。“SPÄNST”コレクションも2016年の第1期か第2期にはデザインが完成していたにも関わらず、2018年まで実際にプロダクトを見ることができなくてね。だから、その2年の空白を経て、実際にプロダクトを見た時に自分が純粋な気持ちで“良い”と思えるかを意識してデザインを考案したんだ。トレンドなどに左右されない、タイムレスなものをね。その結果、納得のいくコレクションが完成して、販売後は多くの商品が即完売してくれた。ただ、このような背景があるから、僕にも心配や不安があったのは事実だよ。最終的には満足のいく結末になったけどね。

裏話と言えば、もうひとつ。「IKEA」のコラボレーションの時に透明のシューズボックスをリリースしたんだけど、覚えてる? シンプルで非常に僕らしいプロダクトだけど、意外にもこれは「IKEA」では珍しいタイプのプロダクトなんだ。「IKEA」は世界屈指の大企業だから、配送のコストを削減するためにフラットパッキングを採用し、組み立て式の商品が多いよね。でも、あのshoe boxは解体できないし、手元に届いてからすぐ使ってもらいたかったから、「IKEA」を説得した末にリリースできたものなんだよ。

Chrisや〈Stampd〉のことから一転しますが、最近はご自身が拠点とするロサンゼルス、広義にアメリカ西海岸からカルチャーやトピックが誕生することが増えているように感じますが、これについてはどう思いますか?

LAには昔から良いカルチャーが根付いていることは周知の事実だよね。その中でも最近一層注目を集めている理由は、アメリカの西海岸は様々なクリエイターが拠点とする場所、ミュージシャンやアーティスト、デザイナーに至るまで、そういうクリエイティブなジャンルがひとつの地に集約されている希有な場所だからだと思うよ。だから、クリエイティブなものが誕生するのはとても自然なことだし、近頃はニューヨークやロンドン、東京からも仕事に来る人、場合によっては拠点を移す人もいるぐらいだから、その流れがさらに加速しているんだろうね。

質問も残すところ、あと2つです。少し未来のことについてお伺いしたいのですが、激変を続ける現代から約10年後、2030年のシーンはどうなっていると思いますか?

今でもその兆候はあるけど、ラグジュアリーとストリートの融合はさらに進み、2030年には垣根は完全に取り払われ、カテゴリーという概念が消滅してしまうほどフラットで柔軟な世界になるんじゃないかな。〈Off-White™️(オフホワイト)〉のVirgil Abloh(ヴァージル・アブロー)が〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉のデザイナーに招聘されたり、〈SAINT LAURENT(サンローラン)〉がキャンペーンモデルにTravis Scott(トラヴィス・スコット)を起用しているのが最たる例だよ。自分もこの世界に生きる以上、その可能性があるだろうし、楽しみは膨らむ一方だね。

最後に〈Stampd〉の今後のビジョン、そしてChris Stampとして挑戦したいことを教えてください。

〈Stampd〉については冒頭に通ずるところになるけど、ハイクオリティなものづくりを一貫し、コンセプトの設定や企画、素材選びといった初期の段階から最終的なリリースのプラットフォームに至るまで、これからも成長を続けることを忘れず、誇りに思うクリエイションを続けていきたい。個人としては、アートや洋服のデザインにさらに集中して、センスとスキルを磨き、良いものを作れる人間になりたいね。あと、まだ多くは話せないけど、リテールを新しい角度から捉え、通常とは異なるアイディアで展開していくことを計画中だよ。これも楽しみに待っていてほしいトピックのひとつかな。

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