FREITAG の“循環”が生まれる場所へ ── スイス・チューリッヒの本社でのものづくりの裏側に迫る
クリエイティブ・ディレクター トーマス・ウェイクフォードへのミニインタビューも実施
スイス・チューリッヒを拠点とするバッグメーカー〈FREITAG(フライターグ)〉。同ブランドは、1993年にスイス・チューリッヒでグラフィックデザイナーのダニエルとマーカス・フライターグの兄弟ふたりによって設立された。読者の皆さんも一度は見たことがあろう、アイコニックなブラックカラーのブランドタグが目を引く〈FREITAG〉のアイテムは、バッグやポーチなど、そのボディに使い古された大型トラックのタープを使用しているのが一番の特徴。“WE THINK AND ACT IN CYCLES(循環を考え、行動する)”というコンセプトを掲げており、まさにアップサイクルの先駆けともいえる存在で世界中でも広く知られている。
夏も終わり涼しくなる8月の終わり頃、『Hypebeast Japan』は気になる〈FREITAG〉の本社の全貌を知るべく、チューリッヒに渡航。本稿では、スイスの本社の一部や、クリエイティブ・ディレクターであるトーマス・ウェイクフォード(Thomas Wakeford)へのミニインタビュー、そして本社に併設された工場の様子まで、現地で目撃した瞬間をお届けする。
〈FREITAG〉の本社へは、『チューリッヒ中央駅』から電車で約5分ほどの駅で降車。少し歩いて、工場や大きな公園が並ぶ静かな街のなかに現れたのは、コンクリートの壁面と一面に並ぶ窓、そしてその周りを少しの木々で彩った、シンプルかつスタイリッシュなオフィス兼工場だ。
建物の中に入ると、まずは一般の人も実際に購入可能だというショップ『FREITAG Factory Store Zuerich NOERD』に案内された。ここでは、バッグやウォレットなどの人気プロダクトはもちろん、ここにしか置いていない廃盤アイテム、修理に必要なパーツなども入手可能だそう。
少し店内を見て回った後、一番の見どころであるファクトリーツアーがスタート。〈FREITAG〉のプロダクトの制作はほとんどがチューリッヒの工場で行われており、裁縫のみを別のヨーロッパ国内の工場で行っているという。最初のステップは、使い古された大型トラックのタープの解体から始まる。この日は時期的にも夏休みを取っている人も多かったようで、なんと解体の作業を行っていたのは2人のみ。ストックルームというヨーロッパ各地から集めたタープを保管するこの場所にて、必要のないパーツ部分をセパレートしたり、この後の工程が進行しやすいようにある程度のサイズにカットしていく。
次に足を運んだのは、タープを洗うための水を貯めておく地下の貯水庫。建物の外に突然現れる階段を降りると、広く深いスペースにたっぷりと雨水が保存してある。この貯水庫は、この後の工程で登場するウォッシュマシーンと繋がっており、水は何度も再利用されるそう。すべての工程に〈FREITAG〉の核となる“循環”が組み込まれている。
カットされ、有害物質の検査をクリアしたタープは、バッグのデザインごとに仕分けが行われる。この部屋では、バッグの形やカラー、デザインにあわせてコンパクトに巻かれたタープを分別。ここで素材ごとにある程度のデザインが決められる。そしてその隣には、貯水庫の水を使ってタープを洗う巨大なウォッシュマシーンが併設。このマシーンは60度の水で60分間、最大10枚のタープを洗うことはできるそうで、何台ものマシーンを同時に稼働させているのだとか。洗い終わったタープは天井のレールに吊るされ、自動で壁を隔てた乾燥ルームに運ばれる。
この工場で行われる最後の制作過程は、タープの最終デザインを決定する、プロダクトに合わせてパーツの形ごとに切り取る作業だ。ここでは意外にも手作業でカットすることが主流で、もちろんブランドのマニュアルと切り出しプレートに沿って入るのだが、最終的には担当者の裁量によって1枚のタープが細かく切り取られる。つまり、一点ものが実際にどのようなものになるかを決定する責任は彼らにある、ということである。
また、トラックタープの一部は手作業ではなく、同じ部屋にある裁断機を使ってカットされている。デジタルを導入した工程ではあるものの、どの部分を将来的な〈FREITAG〉の一点ものにするかを最終的に見極めるのは、今なおバッグデザイナーの人の目。裁断機があるおかげで、素材の利用効率をさらに高めることができている。
ここで切り取られたタープは、他の必要パーツとともにブランドが長年付き合いのあるヨーロッパ国内の裁縫工場に送られ、完成したものは公式オンラインストア(チューリッヒオフィスの社内倉庫にて全世界への発送をすべて行っているらしい)や各国のショップなどで販売される。
社内食堂でランチに舌鼓を打った後は、〈FREITAG〉の現クリエイティブ・ディレクターであるトーマス・ウェイクフォードに直接ミニインタビューを実施。スイスの街の魅力から、ブランドのデザインプロセスのなかで意識していること、そして着想源までを伺った。
チューリッヒの魅力について、トーマスは「都市生活と、すぐそばにある豊かな自然環境とのバランス」にあると語る。夏になれば家を出て数分で川に飛び込み、その足で美術館を訪れ、少し足を延ばせば広大な自然に触れられる。「“静かな街だ”と言う人もいますが、面白くてクールな若者がたくさんいます。ただそれを見つけ出せばいいだけなのです」。都市と自然、そして密かに熱を帯びる若者文化の存在が、彼のクリエイティビティを支えている。
2024年にクリエイティブ・ディレクターに就任した際、彼が最優先に掲げたのはブランドの豊かなヘリテージを尊重することだった。〈FREITAG〉が持つ素材のストーリーやアイデンティティを大切にしながらも、創業者であるフライターグ兄弟が持っていた“楽しさ”や“反骨精神あふれるエネルギー”を今一度取り戻そうとしている。彼が“私にとっての聖書”と呼ぶ2001年に出版された〈FREITAG〉の本に描かれているのは、突発的で誠実、そしてコミュニティを第一に考えるリアルな姿勢だ。
プロダクトの進化において、彼は「トラックからバッグへ」という原点のリサイクルストーリーを守りつつ、タープの切り出し方を多様化させ、より現代的なフォルムへと落とし込んでいる。「サーキュラリティと素材の枠組みを“究極の目標”へ向かうための原動力にしたい」と語る通り、彼の視線は単なる復刻にとどまらない。時代の文化的な流れに応える直感的な発信も大切にしながらも、彼が最も重要視しているのは、タイムレスで人々の本当のニーズを解決する優れたデザインだ。
そうしたアプローチを支えているのが、〈FREITAG〉の真骨頂でもある“無骨なインダストリアル素材”と“スイス特有のダダ的なユーモア”の対比だ。ブランドの「既存のものを別の文脈に置き換えて、新しい価値を生み出す」という哲学は、プロダクトだけでなく、日常のステレオタイプに対するウィットに富んだ観察眼としても表現される。ブランドの伝統や哲学を継承しながらも、彼は新たな視点を取り入れ、〈FREITAG〉ならではのユーモアを蘇らせることで、ブランドの新しい可能性を切り拓こうとしている。