謎のベールに包まれた新ブランド DDDD の新たな魅せ方 | Interviews
パルクールの世界チャンピオンZENら3人が手掛ける東京発の新鋭ブランドに迫る
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謎のベールに包まれた新ブランド DDDD の新たな魅せ方 | Interviews
パルクールの世界チャンピオンZENら3人が手掛ける東京発の新鋭ブランドに迫る
パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークに並び、5大ファッション都市のひとつとされる東京。いわば“ファッション先進都市”であり、常に新世代が台頭する群雄割拠の様相を呈しているが、またひとつ新たなブランドが誕生した。その名は、〈DDDD(ディフォー)〉だ。
本ブランドを手掛けるのは、コレクションデザイナーや建築家、ブランドコンサルタントなどの顔を持つクリエイティブディレクターのSHINJI、数々のブランドでインハウスのデザイナーとして活躍してきたSHIGEKI、そして日本人初のプロパルクールアスリートであり世界チャンピオンにも輝いたZENの3人。2023年春に〈DDDD〉を立ち上げると、去る9月13日(金)にはファーストコレクションとなる2025年春夏シーズンのファッションショーを開催し、来年には東京・代官山にショップをオープン予定という異例のスピード感を見せるが、「Google(グーグル)」や各SNSで検索しても詳細はヒットしない。果たして〈DDDD〉とは一体何なのか。謎のベールに包まれた彼らがデビューショーを行う前日、『Hypebeast』編集部は3人と接触し、話を聞くことに成功した。
Hypebeast:まずは、ブランド設立の経緯からお伺いできればと思います。
SHINJI:120年以上続くワークウエアの会社から「実験的なブランドを立ち上げたい」と、お話をいただいたのがきっかけですね。僕はもともとパルクールが好きだったのですが、偶然ZENの父親と知り合いだったため紹介してもらい、そこで「アートディレクターとしてブランドを手伝ってほしい」と声を掛けました。これが2年ほど前です。
ZENさんは、ブランドの立ち上げや洋服のデザインを手掛けることに前々から興味があったのでしょうか? それとも、SHINJIさんのお声掛けを機に気持ちが芽生えたのでしょうか?
ZEN:僕は15歳でパルクールと出会い、16歳のときに単身でアメリカへ学びに行きました。それから、世界を転々として文化に触れながら活動し、27歳で目標だった世界チャンピオンを達成したことを機にその活動を一区切りしたんです。そこで次に何を目標に掲げようかと模索していたとき、パルクールの魅力が身体表現だけで完結してしまうのがもったいないと気付いて。そこからは、思想や文化性といった身体とは別のコンセプチュアルな形を目指し、アート制作や写真展示などの活動に取り組んでいたんです。その時期にちょうど、SHINJIからDDDDのお話をいただきました。
僕としては、DDDDと他の活動に差異はなく、根本にあるモノを落とし込んでいく器というか、形にするものが写真や絵画、立体物から洋服になっただけなんです。それに、特別な器具を使わず身体一つで行うパルクールに唯一必要なものといえば、洋服。ファッションについて知らないことも多いのですが、逆に僕らしさを色濃く抽出すれば面白いと思ったし、リンクする部分や親和性を感じてDDDDへの参加を決めました。
ということは、“パルクーラーのためのブランド”とは全く違うと。
ZEN:そうですね。“動きやすい洋服”のような直接的なことではない、全くの別物になります。
SHINJI:“DDDDにZENが関わっている”という情報だけでは、そのように捉えられがちですが、根本的に異なることを理解していただければと思いますね。
そのような中で、SHIGEKIさんはどのような経緯で、いつ頃から参画されたのでしょうか?
SHINJI:もともとSHIGEKIは、僕が服飾学校の講師をしていた時の教え子なんです。
SHIGEKI:20年来の付き合いで、僕がデザイナーという職業に就く前からの知り合いです。一緒に仕事をするのはDDDDが初めてで、僕もZENと同じようにSHINJIからのお誘いがきっかけですね。
SHINJI:ZENとDDDDを始めるにあたって誰がデザイナーとして適任かと考えたとき、真っ先に浮かんできたのがSHIGEKIでした。ファッションに対する考え方や姿勢、人間性の部分は十分に理解していたので、去年の春に声を掛けたら快く応じてくれたんです。
SHIGEKI:当時はフリーランスで仕事を受けていたのに、それから1年半と経たずにショーを開催するなんてスピードが早すぎますよね(笑)。でも、思い立ったが吉日ですから。
SHIGEKIさんは、これまで15年以上にわたってインハウスやフリーランスのデザイナーとして活動されていたそうですが、ご自身でブランドを率いることは構想されていたのでしょうか?
SHIGEKI:常々思っていましたし、実はSHINJIにお誘いいただいた頃に自分で準備もしていたんですけど、“個人でやれることの限界はあるな”と悟っていたタイミングだったので、ご縁ですね。
それでは改めて、DDDDについて深掘りさせてください。ブランド名の由来は?
SHINJI:みんなでブランド名を練っていたとき、「記号を並べて書いたら図形としてカッコいい」みたいな話になり、その流れで4つのDを並べたブランド名になりました。一応、それぞれのDに意味はあるんですが、感覚的に名付けたので後追いですね。
SHIGEKI:記号的に覚えてもらえる印象が強いブランド名だと思っています。
コンセプトは設けていますか?
SHIGEKI:僕が着飾るタイプではなく、どちらかといえば着崩す方が好きなので、崩して着るラフさに潜む些細な所作──“Dress Up Lazy”としています。
どのような人々をターゲット層としているのか、もし決めているのであれば教えてください。
SHINJI:“ターゲットを決めない”を決めていて、僕らの洋服に共感してくれる人に買ってもらえればいいんです。
SHIGEKI:ターゲット設定よりも共感性を大切にしていますし、こちらから決めるのは失礼かな、という部分もありますね。でも、いずれ結果としてターゲット層は明確になると思っています。今はとにかく、認知してもらえるように一生懸命に頑張る。その後に、どういった認知のされ方をしているのか、どこに共感をしてもらえているのか、答えあわせをすればいいんです。
ブランディングはいかがですか?
ZEN:ないわけではないんですが、決め込まないで変容するものとしています。人によって受け取り方が違ってもいいと思いますし、作り手が決めたものを受け手に全く同じように感じてほしいという考えもエゴっぽいし、答えが決まっているとそれ以上に広がっていかないじゃないですか。作り手側も、受け手側も、明確な答えがあった方が気持ちはいいとは分かっているんですけどね。決め込まないことに対するジレンマに耐えて、寝かせて、熟成させたら、後々になって“あの時、無理に答えを出さなくてよかったね”となるはずです。
SHINJI:それがもっとも大事なんですよね。立場的には僕がまとめて進めていかなければいけないんですが、最初から決め込まないと宣言しています。自由にやろう、と。
SHIGEKI:現段階ではブランディングやマーケティングを考えるよりも、“支持してくださる人たちがいる状態”を作ることの方が優先順位が高いと思います。
ありがとうございます。それでは、ファーストコレクションはどのような制作工程を踏んだか教えていただけますか?
SHIGEKI:最初の2〜3カ月は、とにかく方向性をビジュアルで共有することが中心でしたね。
ZEN:ホワイトボードに描き出したり、リファレンスをプリントアウトしたり、古き良きクラシックなアナログスタイルでスタートしました。それからSHIGEKIがデザインする前段階のベースを僕が整えて、現実に落とし込んでもらう作業を行っていただきながら、パルクールというバックボーンを持つ僕なりの提案を織り交ぜていく感じです。
具体的にはどのような提案を?
ZEN:2人と違って服作りとは別のシーンからやってきた人間──逆に言うと、僕だけがパルクールやストリートスポーツの文化で過ごしてきたフィロソフィーやライフスタイルを知っているから、その抽象的な概念や思想を伝えるイメージですね。ただ、僕が提案したものが、そのまま形になっても面白くない。DDDDは、それぞれのエッセンスが加えられて常にアップデートしていく“ナマモノ”だからこそ、3人でやっている意味があるんです。
SHIGEKI:パルクールをどうファッションとリンクさせるかを考えると、洋服を着た身体がどのように認識されるか。そのひとつが、洋服と体の関係性でした。このように、ZENやSHIGEKIがいるおかげで、僕が1人でDDDDを手掛けた場合には見つけられなかったであろう洋服の魅力や課題が分かるんです。そして、共有していたイメージやアイデアを具現化する過程で、どうしても生産背景や生地の関係で実現できないこともありますが、一旦サンプルを僕の方で全て作り、話し合いを重ね、また僕が咀嚼していく流れでしたね。
ZEN:DDDDは単発のコラボレーションプロジェクトではなく、これからも続いていくことが前提なので、今回のSHIGEKIの咀嚼や解釈の仕方は今後の参考にもなりましたね。現段階で、次にやりたいアイデアがどんどん溜まっています。
コレクションテーマは設けていたのでしょうか?
SHINJI:“Dress Up Lazy”というブランドのコンセプトを体現する位置付けなので、そこに色付けするようなテーマは設けていません。
ZEN:過程にはテーマやコンセプトとまではいかない、ニュアンスやフレーズのようなフワフワしたものがいっぱいあったんですけど、最後に振り返った時にあったのが“Dress Up Lazy”でしたね。
SHIGEKI:コレクションの全体の輪郭は、進めていくうちに徐々に見えてきましたね。今までは先に形作ってしまう傾向があり、その決めた枠の中でしか洋服を作れなくなってしまうことが多々ありました。作り上げたものが結果的に何なのか、それを説明するために要約してテーマを付ける、というのも一つの方法論だと感じています。
SHINJI:特に我々は、それぞれの感覚が違う中で走り出したので、枠組みを決めてしまうと自由がなくなり面白いことができませんから。
現在、ランウェイショーを行わなかったり、デジタルで完結させる選択もある中、なぜフィジカルでのランウェイショーの開催を決めたのでしょうか?
SHINJI:おっしゃる通り、今はそういう時代じゃないですか。だからこそ、ブランド立ち上げの段階から逆行したい思いがあり、拘って選んだ素材や実験的な加工などを間近で見せたかったんです。
最後に、それぞれが考えるDDDDの強みを教えてください。
SHINJI:それぞれが持っている抽象的なモノを、変に綺麗にまとめようとせずに具現化していく面白さですかね。
SHIGEKI:変容していきながらDDDDを続けていく意識があること。とはいえ、強みは何度もコレクションを発表して出てくるものだと思います。
5年後、10年後に同じ質問をした時に初めて答えが出る、と。
SHIGEKI:だといいんですけど……。
ZEN:まだモヤモヤしてるかもしれないですね(笑)。
SHIGEKI:変わらない部分と変わる部分を自分たちで見定め、どう支持されていくか。そこと答え合わせをした時、初めてDDDDの強みが分かるはずです。
DDDD
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