国やジャンルを超えて独自のサウンドを探究する Ghost In The Tapes | On The Rise
世界各地のアーティストとコラボレーションで制作したニューアルバムのリリースツアー「TEMPLE EXPANSIONS」の開催に合わせて、メンバー 深谷玄周へのインタビューを敢行

次代を切り拓くデザイナーやアーティスト、ミュージシャンといった若きクリエーターたちにスポットライトを当てる連載企画 “On The Rise”。第12回目となる今回は、英国・ロンドンとフランス・パリを拠点に活動する音楽ユニット Ghost In The Tapes(ゴースト・イン・ザ・テープス)をフィーチャーする。
Ghost In The Tapesは、日本とフランスにルーツを持つプロデューサー/ドラマー/ラッパーの深谷玄周と、フランス・ナンシー出身のバンド M.A BEAT!のリーダー兼プロデューサー サミー・アバウド(Sammy Abboud)を中心とする気鋭の音楽ユニット。彼らはサンプリングを駆使した伝統的なヒップホップの作曲プロセスに生楽器やアナログシンセサイザー、未来的なサウンドデザインを取り込み、さまざまなコラボレーターを招き入れて独自の音楽を追求し続けている。2人のユニットは2017年に結成され、2020年にはデビューアルバムとなる『Happily Confused』を日本の「BINDIVIDUAL Records」とフランスの「BMM Records」の両レーベルからリリース。同アルバムには東京/ロンドン/ニューヨーク/パリといった世界の各都市から多くのゲストが参加し、国籍やジャンルなどのあらゆる“ボーダー(境界)”を超えたサウンドを生み出した。
2人は2021年春より、近年世界が注目するUKジャズシーンの発信地として知られるコミュニティスペース『Total Refreshment Centre(トータル・リフレッシュメント・センター)』に拠点を移し、2ndアルバムを制作。今秋発売を控えている彼らの2ndアルバム『Holidays On Earth』には、UKスピリチュアル・ジャズの雄 アラバスター・デプルーム(Alabaster DePlume)を筆頭に、「Warp Records(ワープ・レコーズ)」からデビューアルバムを発表したUKの若き才能 Wu-Lu(ウー・ルー)、“新世代UKジャズのキング”とも称されるバンド The Comet Is Coming(コメット・イズ・カミング)のDanalogue、エマ・ジーン・サックレイ(Emma-Jean Thackley)のバンドメンバー マット・ゲドリッチ(Matt Gedrych)、Floating Points(フローティング・ポインツ)、“Zongamin(ゾンガミン)”名義の活動で知られるススム・ムカイ、Sampha(サンファ)のサポートを務めるブレイク・カスコー(Blake Cascoe)など20名を超える現地の実力派ミュージシャン/プレイヤーに加え、米東海岸のヒップホップシーンを牽引するArmand Hammer(アーマンド ハマー)のコラボレーター PremRock、日本からはermhoi(エルムホイ)やジュリア・ショートリード(Julia Shortreed)といった多彩なゲストが参加。本アルバムの発売に先駆け、先行シングル “Many Flowers”が9月20日(水)にリリースされたばかり。
そして彼らはニューアルバム『Holidays On Earth』を引っさげ、総勢7名のプレイヤーと最大5名のゲストを迎えた大編成で初の来日ツアー 「TEMPLE EXPANSIONS」を、本日9月22日(金)よりスタート。全7公演が行われる「TEMPLE EXPANSIONS」では、Ghost In The Tapes以外にも今のUKジャズシーンを体現するミュージシャンや、国内の精鋭アーティストが出演する。今回『Hypebeast』では、アルバムのリリースツアーを兼ねた大規模なイベントシリーズを実現させたGhost In The Tapesのメンバー 深谷玄周へのインタビューを敢行。アルバム制作や今回のツアーの事はもちろん、自身のルーツや現地のシーンについても話を訊いた。来るべきニューアルバム『Holidays On Earth』と「TEMPLE EXPANSIONS」への導入として、彼の言葉をお届けしたい。
Hypebeast:まず深谷さんの音楽遍歴について教えていただけますか?
僕の父親が昔ミュージシャンだったので、彼からの影響がまずあります。父は1970年代の終わりから80年代の半ばにかけてニューヨークのマンハッタンに住んでいまして、まあすごい良い時期に滞在していたと思うんですけど、当時バンドを組んで、ゴスペルやジャズ、ニューウェーブといったあらゆるジャンルの音楽を現地のライブハウスやクラブなどで演奏していたそうです。The Velvet Underground(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)とも対バンしたことあるみたいです(笑)。で、自分は幼少期から彼にウェザーリポートとかジミ・ヘンドリックスなど色々な音楽を聞かせてもらってました。
5、6歳くらいからピアノを習っていたんですが、あまり真剣にやっていたわけではなくて。その後母親から勧められて、11歳からドラムを始めたことで、本格的に音楽にのめり込むようになりました。当時はThe POLICE(ポリス)のスチュワート・コープランド(Stewart Copeland)が好きなドラマーでしたね(笑)。中学〜高校時代はご多分に漏れず、仲間とバンドを組んでました。ライブではカバー曲だけでなく、オリジナルの楽曲もプレーしていましたね。
その頃はどういったジャンルの音楽をプレーしていたんですか?
その頃は電子音楽とかには全く興味がなくて、ロックのようなバンドで楽器を演奏する音楽に対してパッションがありました。当時は「電子音にどうやって感情を入れるんだ?」くらいに思ってましたから。でもその後2013〜15年くらいにカナダに住んでいまして、ルームメイトからビョークの音楽を教えてもらったり、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のアルバム『To Pimp a Butterfly』を聴いたことで、以前の認識が覆りましたね。
そのようにして自分の好きな音楽のスタイルが変わっていった時期に、のちにGhost In The Tapesの相方となるサミーと出合ったことがターニングポイントになりました。2015年にサミーが所属しているバンド M.A BEAT!がたまたま日本でツアーを行っていて、ツアー中にバンドメンバーは僕の親友の家に滞在していたんです。M.A BEAT!のことはそれまで全く知らなかったんですが、彼らと仲良くなってライブを観に行ったら感銘を受けて。いわゆるエレクトロニカと括られるようなサウンドが主体なんですが、電子音に生のドラムやギター、ベースといったアナログな楽器を上手く融合させていて、この両方のメディアをミックスするという手法こそが、自分がやりたかったことだなと感じました。幸いなことに、サミーと出合った翌年に僕はフランスに留学する機会に恵まれたので、彼とスタジオに入って一緒に音楽を作るようになりました。
制作のプロセスはどのような感じなんですか?
日本にいる時からトラックメイキングを独学で始めていたんですが、サミーと一緒にやりだしてからは、彼の経験を踏まえて、アコースティックな楽器と電子音を混ぜる手法でビード作りを学んでいきました。それがGhost In The Tapesの始まりです。僕は学生時代に遊びで組んだバンド以降はいわゆるベッドルーム・プロデューサーと言いますか、基本的にひとりで音楽を作っていたので、Ghost In The Tapesが初めて本格的に参加したバンド、というかプロジェクトになります。
では、2020年のファースト・アルバム『Happily Confused』について聞かせてください。これはどれくらいの期間で制作したんですか?
2016年から2020年だから、完成までに約4年くらいかかってますね。その4年間は、僕は1年のうち約半年ずつ日本とヨーロッパに滞在して、どこでもビートを作ってました。サミーもパリだけでなくベルギーのブリュッセルにいたりして、お互い音源を送り合ったり。ファースト・アルバムにはいろんな国のミュージシャンが参加してくれましたが、それぞれ『WeTransfer』やEメールで音源をやり取りして制作していったんです。で、ほぼリモートで制作したアルバムが、皮肉にもコロナ禍の2020年に出るという(苦笑)。全然意図してませんでしたが、パンデミック前からそれを予期していたかのような作り方をしていましたね。
お話しを聞いていると、深谷さんは色んな国/都市を行き来してるようですけど、そういったことも自身の音楽に影響してると思いますか?
そうですね。東京に生まれ育って、ずっと日本で暮らしてたので刺激的な環境を探ってたと言いますか。これまでカナダのモントリオールに1年、パリに1年住んで、また旅行で色んな国/都市を訪れました。2020年からはロンドンを拠点にしていますが、新しい街に住んで最初の1年ぐらいは何をやっても楽しいじゃないですか。僕はその期間を勝手に“ハネムーンの時期”って呼んでるんですけど(笑)、目に入るもの全てが新鮮で、あれもやりたい、これもやりたい、何でもできるぞみたいな。そういった好奇心のある状態に対して中毒なのかもしれないです。
先ほど話題にあがりましたが、ロンドンに移り住んだきっかけを教えてください。
以前パリに住んでた時期に、サミーと一緒にロンドンに行く機会があったんです。彼の友人がロンドン郊外にあるアパートでジャム・セッションをやってると聞いて遊びに行ってみたら、すごい衝撃を受けて。セッションに参加していたミュージシャンは小さいアパートにみんな一緒に住んでいて、そこで5〜6時間ぶっ続けでジャムしたんです。その体験が、もう楽しすぎて……。実はその時にセッションしたミュージシャンの中の2人は1回しか会ってないにも関わらず、その後3年間ビートを送り続けて、できた楽曲が結果的にファーストアルバムに収録されました。また、今度リリースされるニューアルバムにも、彼らはゲストとして参加してくれています。
そのような出会いがあって、ロンドンという街に対しての好奇心が湧いてきました。その後ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)が起きた時に、ビザ取得の最後のチャンスだと思い、ノリでアプライしたら5年間ステイできるビザを奇跡的にゲットできたんです。で、約3年間ロンドンに住んでいます。僕が滞在しているこの場所(*『Total Refreshment Centre(以下、TRC)』)を発見したことも大きいです。
では、コミュニティースペース『TRC』について教えていただけますか?どんな場所なんでしょう。
最初この場所の存在を知った時はまだロンドンに移住する前で、2020年の2月に旅行で現地にいたので、ドアをノックしてみたんです。でもその時は『TRC』のファウンダーのレックス(・ブロンディン、Lex Blondin)が不在で中には入れなかったんですが、彼らがオーガナイズしている「Church of Sound」というイベントが近くの教会でやっていたので、行ってみました。そのイベントにはLevitation Orchestra(レヴィテーション・オーケストラ)という15人編成のバンドが出演していたんですが、美しい教会の中というロケーションで、会場中央にスピーカータワーが設置してあって、まわりにバンドが輪を作り、それを観客が取り囲んでライブを楽しむというコンセプトにやられてしまって。なんというか、“スピリチュアル”という言葉を軽々しく使いたくないですけど、すごい高揚感を覚えて意識が飛ぶくらいでした。あの体験は一生忘れられないです。
そんな事もあって、「Church of Sound」が行われているロンドンや、『TRC』という場所にますます興味が湧きました。ロンドンに移住してから実際にこの場所に来たときは、本当に衝撃でしたね。2020年はコロナ禍だったので、ロンドンでもパブやカフェ、クラブなんかは閉まってて、ひとりでいる時間が多かったんです。でも当時『TRC』では無名の若手から大御所まで世代を問わずさまざまなミュージシャンが集い、毎晩のようにセッションを行っていて、その自由な精神に感銘を受けました。『TRC』のような場所があるからこそ、近年UKのジャズシーンが面白くなっていると思います。
いま深谷さんは『TRC』に滞在されてるんですよね? 割とすんなり、ここに住むのも決まったんですか?
ロンドンに移住した当初は友人の家に居候してたんですが、半年くらい経ってから『TRC』の部屋に空きがでたというのを聞いて、レックスと面談して住めることになりました。このスタジオを利用しているミュージシャンたちは、毎晩一緒に食事を作って食べて、その後ジャムしたり、といった生活をしています。僕みたいにほぼひとりでこもって制作してきた人間からすると、直接色んな人とコラボレーションできるのは、夢のような時間ですね。ちなみに、僕の部屋は、以前カマール・ウィリアムズ(Kamaal Williams)が住んでいたそうです(笑)
出世部屋みたいな(笑)深谷さんがこの場所で出会ったミュージシャンの中で、特に印象深い人物はいますか?
僕らのニューアルバムにも参加してくれてますが、サックス奏者のアラバスター・デプルーム(Alabaster DePlume)ですかね。このスタジオには色々なジャズミュージシャンが出入りしていて、サックスを聴かない日はないというくらいなんですけど、彼のサックスは別次元というか、世界1番のサックスプレイヤーだと思っています。また、詩人としても素晴らしいですし、哲学とか人間性という面でも彼を尊敬しています。そのパフォーマンスに実際に接すると、彼の詩は言葉がわからなくてもオーディエンスは何かを感じ取ることができるはずです。
では、今秋発売のニューアルバム『Holidays On Earth』についてお聞きします。一足先に聴かせてもらいましたが、ファーストアルバムからより色彩豊かなサウンドになったと言いますか、解放感を感じました。生音も前作より増えて、参加ミュージシャンもバラエティに富んでいます。これはやはり『TRC』での経験が大きかったのでしょうか?
そうですね。『TRC』だけでなく、別の場所でプレーを見て気になったら声をかけて、次の日にスタジオに来てもらってレコーディングしたり(笑)。ここ数年そのようなセッションを繰り返して、これまで出会った人たちが参加してくれました。音楽的にも以前より進化してると思います。コロナ禍で制作を始めて、徐々に規制が緩和されていった状況もあって、解放感が感じられるのもそのことに影響されているかもしれないですね。
今回のアルバムのリリースツアーを兼ねたイベントシリーズ「TEMPLE EXPANSIONS」を開催した理由について、また見どころなど教えてください。
Ghost In The Tapesのライブツアーを日本でやろうという話は、実は2〜3年前から計画していました。コロナ禍もあって企画は中断していたんですが、ニューアルバムが完成した事もあって、あらためてプロジェクトを仕切り直しました。多くのゲストとコラボレーションした音楽をやっていることの大きな悩みの一つに、異なる国に住んでいる参加ミュージシャンを集めたライブをやるのは、ほぼ不可能なことです。でも今回のツアー「TEMPLE EXPANSIONS」では、Ghost In The Tapesのコアメンバーである僕とサミーはもちろん、Emma-Jean Thackleyのベーシスト マット(・ゲドリッチ)やLevitation Orchestraのハープ奏者 メリーシア(Marysia Osu)、Samphaのドラマーのブレイク(・カスコー)などを含む7名のプレイヤーを軸に、公演ごとに異なるゲストを迎えた編成でライブを行います。日本にいる時から繋がりのあるermhoiやジュリア(・ショートリード)も参加してくれるので、これまでの集大成的なツアーになると思います。他の出演者も、僕のロンドンの拠点である『TRC』周辺のプレイヤーを中心に、人間性も音楽性もリスペクトできるミュージシャンを集めました。彼らと一緒に今回のツアーが実現できて、感無量ですね。公演ごとに内容や出演者も異なるので、できるだけたくさんの人に足を運んでほしいです。
N.A.S.A. presents TEMPLE EXPANSIONS
開催期間:2023年9月22日(金)〜30日(土)
公式サイト
プログラム一覧:
Temple Expansions at 築地本願寺 Day1
日程:9月22日(金)
会場:築地本願寺(東京)
住所:東京都中央区築地3-15-1
開場 17:00 / 開演 18:00
出演者:Ghost In The Tapes feat. ermhoi,Julia Shortreed,栗原健、ermhoi with The Attention Please、NAGAN SERVER and DANCEMBLE、Donna Leake、石橋英子(DJ Set)
料金:7,500円
チケット:『Peatix』
Temple Expansions at 築地本願寺 Day2
日程:9月23日(土)
会場:築地本願寺(東京)
住所:東京都中央区築地3-15-1
開場 18:00 / 開演 19:00
出演者:Wu-Lu、Allysha Joy、Donna Leake、Dos Monos with 松丸契、Fuzzy73、Rintaro Sekizuka
料金:7,500円
チケット:『Peatix』
Free Jam Session with Temple Expansions All Stars at haremame
日程:9月25日(月)
開場 18:00-
会場:晴れたら空に豆まいて(東京)
住所:東京都渋谷区代官山町20-20 モンシェリー代官山B2
内容:日英出演者らによるフリージャムセッション
料金:ADV 3,500円、Door 4,000円(*共に別途1ドリンク代 600円)
チケット:『晴れたら空に豆まいて』『Peatix』
Temple of Sound at Billboard Live 大阪
日程:9月26日(火)
会場:Billboard Live 大阪(大阪)
住所:大阪府大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT B2
開場 1st 17:00 / 開演 18:00、2nd 開場 20:00 / 開演 21:00
出演者:Soccer96、Ghost In The Tapes with ermhoi、Julia Shortreed
料金:サービスエリア 7,400円、カジュアルエリア 6,900円(*1ドリンク付)
チケット:『Billboard Live』
Temple of Sound at Billboard Live 横浜
日程:9月27日(水)
会場:Billboard Live 横浜(神奈川)
住所:神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
開場 1st 17:00 / 開演 18:00、2nd 開場 20:00 / 開演 21:00
出演者:Soccer96、Ghost In The Tapes、ermhoi、Julia Shortreed
料金:サービスエリア 7,400円、カジュアルエリア 6,900円(*1ドリンク付)
チケット:『Billboard Live』
Free Jam Session with Temple Expansions All Stars at WPU HOTEL
日程:9月29日(金)
開場 18:00-
会場:WPU HOTEL 新宿(東京)
住所:東京都新宿区西新宿7丁目10-5
内容:日英出演者らによるフリージャムセッション
料金:ADV 3,500円、DOOR 4,000円(*共に1ドリンク付)
チケット:『Peatix』
Temple Expansions at WALL & WALL
日程:9月30日(土)
会場:WALL & WALL(東京)
住所:東京都港区南青山3丁目18−19 フェスタ表参道ビルB1
開場・開演 17:00
出演者:Wu-Lu、Soccer96、Allysha Joy、Donna Leake、Fuzzy73、Rintaro Sekizuka
料金:6,900円
チケット:『Peatix』