イギリス・ロンドンで行われたフォーミュラE第15戦、お膝元のジャガーが優勝
フォーミュラE 第15戦ロンドン E-Prix は、ジャガー所属のミッチ・エバンスが優勝! その場を観戦していたジャーナリストの小川フミオがその熱狂をリポート
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フォーミュラEをロンドンで観戦
2023年7月29日に、ロンドンで開催されたフォーミュラE世界選手権シーズン9の第15戦。すごいレースだった。というのは、アクシデントの連続。エンジンの爆発音がしないので、静かな走行、イコール、静かなレース展開と思っていたら、大間違い。ひとことでいうと、かなりアグレッシブなレースなのだ。
通常のレース場でなく、特設のコースを市街地に作るのが、フォーミュラEの特徴。ゆえに、アクセスしやすいのがメリットである反面、コースにはエスケープゾーンがほぼ皆無。私が現地で観戦したレースでは、カーブを曲がる際に、自車の外側にいるマシンを外に押しだす場面がいくつもあった。押しだされたマシンはカーブを曲がりきれず、コース外に設置されているスポンジバリアに突っ込む。
速度が低いと車体の損傷も少なく、ドライバーは自走してピットに戻って、破損した部品を交換したのち、レースに復帰できる。
でも今回は、最終コーナーに陣取った私の眼の前で多重衝突もあり、レース中断のレッドフラッグが何度か振られる始末だった。かなりエキサイティングだと思うひとも多いだろう。注目していたチームは、ジャガーTCSレーシング(以下ジャガー)、ジャガーがドライブトレインを提供しているエンビジョン・レーシング(同エンビジョン)、それにアバランチ・アンドレッティ・フォーミュラE(同アバランチ)。
ほかにも、ポルシェやマセラティや日産やNIOなど、強豪がたくさんあるけれど、シーズン9では、ジャガーTCSレーシングと、エンビジョン・レーシングが選手権を争っていた。チームではなく、個人のドライバー選手権は、ジャガーのミッチ・エバンス(Mitch Evans)、アバランチのジェイク・デニス(Jake Dennis)、それにエンビジョンのニック・キャシディ(Nick Cassidy)が有力候補。
第15戦の「ロンドンE-Prix(イープリ)」では、チームもドライバーも、選手権を手中に収めるのが誰だかわからない状態だった。ゆえに、観客の盛り上がりかたもひとしお。フォーミュラEのレースでは、先述のとおり、アクシデントが多く、しょっちゅう、ペースダウンを余儀なくされるイエローフラッグや、レース中断のレッドフラッグが振られた。ジャガーのエバンスは、スターティンググリッドでは6位だったが、ラップ9では早くもトップをとる。
アタックモードという仕掛け
フォーミュラEでは、アタックモードという仕掛けがある。コース中に設けられたアクティベーションゾーンを、レース中に最低2回は通過することが義務づけられている。アクティベーションラインは、コーナーの外側に設けられていて、ライバルとしのぎを削っているときに、あえてそのラインを通るのは、かなりむずかしそうだ。じっさいに、エバンスのライバルたちは、何度か失敗した。
いっぽう、ここを通過するときだけ、瞬間的にパワーアップができる。エバンスは、このアクティベーションラインをうまく通過し、後続車を引き離すのに成功していた。アタックモードや、やたら狭いうえに、屈曲の多いコース設定は、ほかの内燃機関のレースにはない特徴。ドライバーには大きな負担だろうけれど、観客としてはこの駆け引きを見るのがおもしろい。
レッドフラッグが2度出たあとも、エバンスは並みいるライバルたちを抑え、首位を守るのに成功。ジャガー・レーシングの連中の声援を聞くのも、臨場感があっておもしろかった。
各マシンのバッテリー残量も、観客にとって手に汗を握る材料になる。このレースでは、上記のとおり、エバンスがリードをとっていたが、追従するマシンは、ジャガーよりバッテリーを残しているなど、最後までジャガーファンをやきもきさせた。
最終局面でジャガーのエバンスに猛追したのは、TAGホイヤー・ポルシェに乗るアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(Antonio Felix da Costa)。しかしなんと、技術的な問題で3分のペナルティとなり、いっきに順位を下げることになってしまったのだ。
勝者は、ジャガーTCSレーシング
はたして、フォーミュラE世界選手権シーズン9の第15戦の勝者は、ジャガーTCSレーシングのミッチ・エバンス。
ジャガーは、電気自動車「I-PACE(アイペイス)」を作り、並行して、電気のレースカーで走るフォーミュラEマシン「I-TYPE 6」を開発してきた。この優勝経験は、きっと市販の電気自動車にもまた生かされるだろう。
技術的なやりとりをしながら、ともに技術を前進させていく。まさに、これからの時代にふさわしいレースが、フォーミュラEなのかもしれない。そう感じさせてくれる第15戦での、ジャガーがチーム一丸となった勝利だった。