真のマニュファクチュール「グランドセイコー」の聖地に潜入
隈研吾設計。〈Grand Seiko〉の機械式腕時計の聖地へ『Hypebeast』編集部は招かれた
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真のマニュファクチュール「グランドセイコー」の聖地に潜入
隈研吾設計。〈Grand Seiko〉の機械式腕時計の聖地へ『Hypebeast』編集部は招かれた
まずマニファクチュールとは?
時計メーカーは数あれど、マニュファクチュールと呼ばれる時計メーカーは少ない。このマニュファクチュールとは、時計業界では一般的にムーブメントの設計から製造までを自社一貫でできるメーカーを指す。
スイスでは17世紀頃から、時計を分業制で製造してきた経緯がある。心臓部であるムーブメントはムーブメント製造メーカーに、顔である文字盤は文字盤製造メーカーに、と“餅は餅屋”で分業して時計を作る方がはるかに効率的だったからだ。しかし、現代では、時計業界のグループ化が進み、あるグループに買収されたムーブメント製造メーカーは、他のグループの時計メーカーに卸しにくくなった。一方で、ブランド力を示す上では「我こそはマニュファクチュール」と謳うことが正義にもなった。ゆえに、一部のモデルのみに自社製ムーブメントを搭載しただけで「我こそもマニュファクチュール」と名乗る時計メーカーも現れた。もちろん、それだけでもすごいこと。だが、本当の本当にムーブメントのパーツすべてを自社一貫製造している、真のマニュファクチュールの時計メーカーは極めて少ない。ちなみに、今回取材した〈Grand Seiko(グランドセイコー)〉は、マニュファクチュールのなかでも極めて少ない、この真のマニュファクチュールである。
マニュファクチュールって何がすごいの?
高級時計メーカーが「我こそはマニュファクチュール」にこだわるのはなぜか? ファッションの世界においては、パリやミラノでコレクションを発表するスーパーブランドであっても、その多くが、生地は生地メーカーに製作を依頼し、染色は染色工場に依頼し、加工はそのアイテムの加工が得意な加工工場に依頼している。縫製のみ、クチュリエを持つブランドは自前でやっているにしても、基本的にファッションブランドは、分業制で成立しており、成功している。なので、時計ブランドが、執拗に自社一貫製造にこだわる決定的な理由がわからなかった。しかし、今回、岩手県にある「グランドセイコースタジオ 雫石」に訪れて、時計業界がマニュファクチュールにこだわる理由が少しわかった気がする。
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隈研吾が設計した「グランドセイコースタジオ 雫石」。ガラス面を多用しながら、この大自然と調和するように存在。屋根を大きく跳ね上げたデザインが特徴的だが、それが水面に映るように広がるコンクリート道のデザインも粋で痺れる。
マニュファクチュール潜入捜査開始
エントランスを抜けると展示コーナーが広がる。1913年に作られた国産初の腕時計“ローレル”から、2023年6月発売の新作に搭載させたばかりのムーブメント「9SC5」まで飾られていた。微細なパーツはとても美しく、〈Grand Seiko〉は内蔵まで綺麗なのかと感心を連発してしまう。機械式時計ヘッズならときめくこと間違いなし。
クリーンルーム(組立工房)の職人は心までクリーン
展示コーナーから続くクリーンルーム(組立工房)。このクリーンルームでは、約30人の専任の時計士たちが、防塵服を着て、衛生帽子を被り、働いている。彼らはガラス越しに取材班がいても、まったく気に留めず、自身の作業に集中している。そこには、四六時中、iPhoneを気にしている現代人のそぶりなんて微塵もない。ただ真っ直ぐに、機械式腕時計制作に打ち込んでいる。邪念なし。ひたむきに機械式腕時計に向き合っている。
「我こそは真のマニファクチュールであること」の魅力
案内してくれた盛岡セイコー工業の山城 陽さんに、話を訊いた。
「たとえば、直径が0.3mmの繊細なネジを作るとします。その場合、部品の耐久性を高めるために、まず800度で加熱する。これだと硬度は増すものの、曲げるとポキっと折れる。なので、低温で再加熱し、硬度にしなやかさを与えるんです。繊細なパーツひとつでも、精度の責任を背負っています」
顕微鏡で見ないとわからない微細な部品にも、そこには真のマニュファクチュール〈Grand Seiko〉のプライドが詰まっている。頼まれたから頼まれたものを納品するわけではない。時計士ひとりひとりが、最終的な完成系の使い心地を頭に描きながら、耐久性も考えてプロの仕事をする。自社一貫だからこそ、それぞれが大きな責任を担い、それぞれが試行錯誤する。マニュファクチュールを名乗る時計ブランドは、時計の繊細なパーツを開発・製造し品質管理ができる高度な技術力を持っているが、意識も非常に高い。
そして、この「グランドセイコースタジオ 雫石」は、空気と水がきれいな自然の中に存在していた。クリーンルームからも大きなガラス越しに覗ける芝生の庭には、ときどき日本カモシカが遊びに来るという。また、工房の2階へ上がると、美しき岩手山が望める。心が洗われるような壮大さだ。今回、「グランドセイコースタジオ 雫石」でそこはかとなく感じた美意識は、時計士ひとりひとりが四季折々の変化とともに、日々感じており、“時計制作においての美意識”も統一されているような気がした。その中で、“より良い機械式腕時計を作りたい”という心のベクトルが、みんなでひとつになっていた。スイスのマニュファクチュールは本当にすごいが、〈Grand Seiko〉は、美意識や想いまでも整えられていて、ひょっとしたらもっとすごい、真心のマニュファクチュールだったかもしれない。
Let’s Go
「グランドセイコースタジオ 雫石」は、誰でも予約できる。我こそは真の機械式時計ヘッズという人は、ぜひとも訪れ、このマニュファクチュールの真髄を感じ取って欲しい。
グランドセイコースタジオ 雫石
住所:岩手県雫石町板橋61-1
電話番号:019-692-5863
見学予約サイト:https://gs-studio-shizukuishi.resv.jp/