Interviews: 東京ローカルからグリルカルチャーを発信する GRILLZ JEWELZ 秋山哲哉の軌跡
国内外のラッパーから絶大な支持を得る秋山氏が語るグリルカルチャーの魅力
東京の問屋街である上野御徒町に、国内外のラッパーから絶大な支持を得るジュエリーショップがある。そのショップ『GRILLZ JEWELZ(グリルズ ジュエルズ)』は、ヒップホップカルチャーに欠かせない“グリル”のオーダーを受け付ける日本でも数少ないお店の1つ。同店のオーナーである秋山哲哉は、まだ日本でグリルの文化が殆ど浸透していなかった約20年ほど前から独学でグリルを作り始め、現在ではこの分野におけるパイオニアとして世界中のヘッズに認知されている。このたび『Hypebeast』では、秋山氏の軌跡を振り返るインタビューを敢行。これまで数多くのラッパーに提供してきたグリルの写真に囲まれた店内で、これまでの道程やこのカルチャーへの想いを率直に語ってくれた。
Hypebeast:GRILLZ JEWELZはどのようにスタートされたんですか?
秋山(以下、A):最初は自宅でグリルを制作して通販だけで2年半ほどオーダーを受け付けていて、この場所に実店舗を構えたのは2005年ですかね。なのでグリルを作り始めてからは、合計で18年以上になると思います。
はじめはグリルだけを扱っていたんですが、当時はグリルといってもほとんど一般的には知られていないので、全然売り上げが立たなくて(苦笑)ペンダントやネックレス、リングとか他のアクセサリーも作るようになりました。この仕事だけで食べていけるようになったのは、ここ5~6年くらいですかね。それまでは夜にアルバイトもしながら生活を成り立たせていました。
そもそもグリルを作ろうと思ったきっかけは何だったんでしょう?
A:単純に自分がつけたかったんです(笑)。ヒップホップが好きで、Slick Rick(スリック・リック)やWu-Tang Clan(ウータン・クラン)のメンバーがグリルをしているのを見て憧れて。でも、その当時は日本でグリルを扱ってるお店が全くなくて、身に付けたくても買えなかったんですよ。それで『THE SOURCE Magazine』なんかを見ると、裏の広告にグリルを作ってるジュエリーショップが載っていたりして、現地にそういったお店があるのを知りました。だから欲しい人はニューヨークに行って、グリルをオーダーして持ち帰るしか手に入れる方法がなかったんです。それだったら自分で作ってみようかなと思って、制作をはじめました。
グリルって他のジュエリーと違って特殊だと思うのですが、どのように技術を習得されたんですか?
A:元々ジュエリーの工房に勤めていたので、その時に身に付けた技術はありました。ただ、グリルに関しては作り方が全くわからなかったので、海外から実物を取り寄せて、それを参考にしながら独学で作るようになったんです。
なるほど。グリルを作りはじめて、一番最初のお客さんってどんな方だったんでしょう?やはりラッパーの方ですか?
A:いや、一般の方でした(笑)。オンラインから注文してくれましたね。その頃は実店舗がなかったので、オーダーしてくれた方が都内在住だったら実際に自宅まで伺って、色々要望を聞いたりしていました。サンプルが見たいという方がいたら持っていったり、完成したら製品を届けたりしてましたね。当時そこまでしていたのは、やはり自分が作ったグリルをお客さんが実際に着用している姿を見てみたい、というのがありました。なので直にお客さんとコミュニケーションが取れるお店を持ちたいと思い、実店舗をオープンしたんです。
実際に店舗をオープンしてから、多くのラッパーが来店するようになったきっかけは何だったんでしょう?
A:最初に来てくれたラッパーの方は、YOU THE ROCK☆(ユウ・ザ・ロック)さんですね。当時KAMINARI-KAZOKU.(カミナリカゾク)のメンバーは、皆グリルをしていたんです。彼らはグリルをブルックリンに行ってオーダーしていたようなんですが、日本でも作れるというのをどこかから聞いたらしく、まずYOUさんが来店してくださって、注文をいただきました。その流れでTWIGY(ツイギー)さんや他のラッパーの方も来てくれるようになったんです。本当にYOUさんには感謝ですね。
では、海外のラッパーにもGRILLZ JEWELZの事が知られるようになったのは、何がきっかけですか?
A:VLONE(ヴィーローン)のA$AP Bari(エイサップ・バリ)が最初にオーダーしてくれたんです。彼のその時のオーダーは、以前オカモトレイジさんに作ったような錆びた仕様のものと、オパールが埋め込まれたタイプの2つですね。Bariにグリルを作ってから、海外のラッパーにもGRILLZ JEWELZの名前が知れ渡るようになりました。それが2~3年くらい前でしょうか。それ以降、A$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)を筆頭に多くのラッパーにグリルを提供してきました。一番最近だと、ラッパーではないですが、Steve Lacy (スティーブ・レイシー、The Internetのギタリスト)がオーダーしてくれましたね。
これまでオーダーの中で、特に印象に残っているものはありますか?
A:印象的なのはたくさんあるんですけど(笑)。……そうですね、特に奇抜なオーダーでなくても、プレーンでも記憶に残る注文はありますし、その時その時で違いますね。グリルはリングと違って、その人の顔の一部になるわけですから、モノ単体で見た時と、口の中に入った状態を見た時では全然印象が違います。口の中に入るとメチャクチャかっこいい場合と、その逆の場合もあります。ですから、自分が作ったグリルがその人にばっちりハマった時は、本当に嬉しいですし、気分も上がります。グリルはピアスやネックレスよりも、身につけた人にパワーを与えてくれるジュエリーだと思います。
最近グリルをつけている女性も見かけるようになりましたが、実際増えているんでしょうか?
A:うちのお客さんの割合で言うと、女性は全体の一割くらいですかね。男性に比べると、まだまだ少ないです。オーダーもフルで作るのではなくて、1~2本(1~2CAP)がほとんどですね。
ところで、秋山さんご自身はグリル以外で普段どんなジュエリーを愛用されてるんですか?
A:いつもつけてるのは、ネックレスとかピアスくらいですかね。あと滅多につけないんですが、昔作った18KのBling-blingなチェーンも持ってます(笑)。重さは1kgありますね。ちなみに、JAY-Zの私物のチェーンは5kgくらいあるらしいです(笑)。
凄いですね(笑)。なぜこれを作ろうと思ったんですか?
A:やはりこれくらい象徴的なものがあると、お客さんでこういったジュエリーをいつか作りたいという方の見本になるというか。「ここまで作れるんだぞ」っていうのを示すサンプルみたいな1本ですね。
今お店は何人くらいでやられているんですか?
A:自分とカミさんと、アシスタントの3人です。あとうちではできない鋳造とかは、外注したりしています。なので、オーダーをいただいてから納品まで1カ月半~2カ月くらいはかかってしまいますね。もっと早くお渡しできればと思いますが、お客さんには待っている時間も含めて楽しんでいただければと(笑)。
お店を始めた頃に比べて、一般の方にもグリルが浸透していると感じますか?
A:そうですね、当時よりグリルのことを知っている人が増えたので、始めた頃とは全然(状況が)違いますね。もちろん、それにはラッパーの方々のおかげもありますし。最近では若い子が注文してくれることが増えたので、浸透しているのかなとは思います。このカルチャーが自分たちの世代で止まってしまうのではなく、下の世代にも受け継がれていってほしいですね。アメリカなんかを見ると、グリルの文化自体はずっと無くならないで続いていますし。これからは、普通のアクセサリーと同じ感覚でつけられるようになるんじゃないかなと感じています。ただ、一方でグリルは誰にでも似合うジュエリーではないので、そこが良いところでもあるんですけど。あまり一般的に広まってほしくないですけど、広まってほしいみたいな(笑)。ちょっと複雑な気持ちです。
特定のカルチャーの広がり方について、そこは難しいところですよね。
A:グリル自体もいきなり流行ったものではなく、今までの流れがあった上で現在の状況があるので。そうですね、コアな人たちを中心に浸透していくのが理想ですかね。
GRILLZ JEWELZ
住所:東京都台東区上野3-4-1 飯岡ビル1F
営業時間:12:00-19:00
定休日:水曜日
TEL/FAX:03-6883-1762