Champion とのコラボコレクションをリリースしたアンジェロ・バクの胸の内に迫る | Interviews
〈Awake NY〉では見せない、パーソナルな思いが詰まった〈Champion〉との服作りから伝えたかったこととは
元〈Supreme(シュプリーム)〉のディレクターであり、〈Awake NY(アウェイク ニューヨーク)〉の創始者であるアンジェロ・バク(Angelo Baque)。そんな彼が〈Champion(チャンピオン)〉とコラボコレクション第2弾をリリースした。
日本でのポップアップ会場のひとつになっていた『DOVER STREET MARKET GINZA(ドーバー ストリート マーケット ギンザ / DSMG)』にてアンジェロ本人へインタビューを敢行。普段から〈Awake NY〉などで表現しているクリエイションとはまた違い、自身のルーツやパーソナルな感情をふんだんに詰め込み、洋服に自分の名前を載せたのも今回が初めてだと語る彼のその胸の内に迫った。
Hypebeast : まずは今回のコレクションのコンセプトから教えてください。
アンジェロ・バク : 今回は自分のルーツに根付いたものにしたいと考えていました。アステカやインカ、ケチュアといったさまざまな文明と文化からインスピレーションを受けています。南米の文化はあまり多くの人に知られていません。私たちコロンビアの歴史の多くは、植民地主義により消されてしまいました。だから、これは私が文化に光を当てるチャンスなんです。そういった文化のストーリーテリングを、ここ何年か服を通してやっています。
Awake NYではなく、自分の名前で服を作るときは、いつもまず最初に自分のルーツのことを考えます。そして、エクアドルといえば自分の家族や祖父母、先祖のことを思い浮かべ、彼らを前面に出すにはどうしたらいいかを考えます。だから、ASICSのGEL-KAYANO 14とコラボレートしたときもエクアドルの国旗の色を意図的に取り入れました。
そういった自分のルーツに立ち返ろうと思ったきっかけは?
外見で判断されることが多いアメリカで育った私にとって、アイデンティティは大きなことです。自分が育った1980〜1990年代のニューヨークにいるラテンアメリカの人たちは、プエルトリコ人やドミニカ人が多くて、そうじゃない人たちが引け目を感じることもあった。でも、自分はエクアドル人であることを誇りに思っていました。そういうところから、自分のアイデンティティを表現しようと思うきっかけが生まれたんです。
なるほど。今回のコレクションは、具体的にはどんなものからインスピレーションを受けていますか?
スウェットのモチーフはアステカ文明のモチーフです。ヨーロッパの人たちが南米を貧しい国だと思っているのは、ヨーロッパが当時資源を持って行ってしまっていたから。アステカのモチーフを通して、これは私たちの文化で私たちのものだということをもう一度表現し、彼らに恩返しができるようにしたい。カーディガンに描かれたトカゲは、インカ文明のものです。ジャケットは、Championのクラシカルなベースボールジャケットをウエスタンジャケットのようにすることで、アメリカ南西部のカルチャーであることを改めて表現しています。また、背中にはアステカのアイコンである花を描きました。
従来の〈Champion〉のイメージから外れた、新鮮なコレクションに仕上がっていると感じました。
今回に限らず、コラボレーションをするときは、その相手だけではできないことやブランドのイメージから外れた物作りをすることに意義があると思っています。だから、Championらしいスポーティなアイテムだけでなく、モヘアのカーディガンやヴィーガンレザーのパンツを作りましょうとプッシュしました。あと、服に自分の名前を入れたのは初めてです。
意外な気もしますが、今回が初めてなんですね!
はい。これは非常に個人的なプロジェクトで、自分のルーツや出身地、家族に結びついているからです。服に自分の名前をつけることは、恐ろしくもあります(笑)。でも、今回はアイデンティティがテーマにもなっているので、Ralph Lauren(ラルフ ローレン)やTommy Hilfiger(トミー ヒルフィガー)を思い浮かべるように、服に自分の名前を付けることは私にとっても大きな一歩だと考えたのです。
今回のキャンペーンビジュアルは、アンジェロさん自身がディレクションし撮影したそうですが、モデルをしているのは実際の家族たちでしょうか?
1組は私のいとこの実際の家族で、他は自分のInstagramにてエクアドル人の家族を募集しました。何故なら私にとって家族は全てだからです。家を出るときはニューヨーカーですけど、家に帰ったらエクアドル人なんです。その時期が私を形成したと思っています。
とても素敵なビジュアルでした!
ありがとう! 私たちはみんな単一的な集団ではなく、さまざまな形やサイズ、色をしています。それを示すために家族をモデルにしました。それに、あなたがエクアドル人やラテン系でなくても、様々な家族のポートレイトを見て感情移入させることは重要なことです。今のストリートウェアのファッションには、そういう意図が少し欠けているように思えます。
アンジェロさんは自分のルーツやアイデンティティに関して悩んだ経験はありますか?
昔は自分がどういう人間なのかを、どのように説明すればいいか分かるまで、しばらく時間がかかりました。プエルトリコ人だとか、ドミニカ人だとか、メキシコ人だとか。でも、エクアドル出身だと説明する必要もなかった。僕はニューヨーク出身で、どこから来たのかと聞かれたら、ニューヨークから来たと言う。まずそれが第1なんです。第2のレイヤーが、自分のルーツや出身地によるアイデンティティ。そして、自分自身を理解すること。というのも、僕が子供の頃に自分を認識する方法は、ヒップホップなどの音楽やグラフィティ、アートを通してでした。だから、今はそのすべてをひとつにまとめることができたのだと思います。
また、今回のコレクションのより大きな目標は、私やエクアドル人など以上に次世代のラテン系デザイナーを鼓舞するためのものでもあるんです。アメリカにはまだ多くの固定観念があります。ラテンアメリカ人は、移民や不法就労者、フードデリバリーであり、洋服のデザイナー、クリエイティブディレクター、フォトグラファー、ビデオディレクターというイメージはありません。だから、ラテンアメリカ人とは何かという物語を再構築しているんです。
昨今の日本も格差社会ですし、育った環境や周囲の目を気にしてクリエイティブなことに挑戦し辛いと考える若者も多い様に思えます。そういった日本の若者たちにもアドバイスをいただけますか?
私だって初めて自分の名前をクローズアップするのは怖いし、批評は怖いものです。自分の作品に100%の自信を持つためには、創作プロセスのあらゆる部分に配慮と意図が必要です。それは、絵画や写真の展示をすることや、映像作品を発表することと変わらない。同業者から批評されることになる。でも、やってみなければ分からない。アジア人であれ、ラテン系アメリカ人であれ、アフリカ系アメリカ人であれ、マイノリティである私たちはあるべき姿へと抑圧される。でも、それも自分が何者であるかを主張することの一部。だから、私からのアドバイスとしては「クソくらえだ。とにかくやってみな。恐れることは何もない」ということです。